作画から撮影まで自社で完結し「映像をデザインする」、アニメーション業界の異端児ポイント・ピクチャーズの挑戦
アニメ・ゲームのショート映像制作に特化し、動画広告に独自の市場を切り拓くポイント・ピクチャーズ。業界では珍しく「全員正社員化」や丁寧な人材育成を掲げ、クリエイターが安心して長く働ける環境づくりにいち早く取り組んできました。「人財がすべて」と語る代表取締役・吉野広教さんに、クリエイティブと組織マネジメントを両立させる秘訣や、プロを育てる教育方針、そして同社が目指すものづくりの未来についてお話を伺いました。
撮影部からプロデューサーへ、起業までの歩み
会社立ち上げまでのキャリアついてお聞かせいただけますでしょうか。
株式会社東京ムービー新社(現在のトムス・エンタテインメント)に入社しまして、撮影部に配属されました。そこでアニメーション制作の知識や現場の構造、人間関係を学びました。
次に、たくみ映画株式会社(現在は解散)に入社しました。当時の社長によると「日本で6番目にできた映像制作会社」という歴史のある会社だったそうです。
その会社は主に公共事業の記録やシミュレーション映像、企業のPR映像などをつくる会社だったのですが、アニメ部もありました。私は撮影として入ったのですが、業務の中で制作管理・営業・編集も兼任することになり、最後の10年間はプロデューサー的な立ち位置で活動していました。このときに新設されたCG部でデジタル制作の知識も得られたことが、ポイント・ピクチャーズを設立するにあたって大きな下地となりました。
東京ムービー新社時代にたずさわった作品にはどのようなものがありますか?
劇場版『AKIRA』や、TVアニメの「ルパン三世」シリーズ、「それいけ!アンパンマン」などにも関わっていました。一番印象に残っているのは劇場版『NEMO/ニモ』ですね。当時の予算としては社運を賭けたと言っても過言ではない規模のプロジェクトで、撮影をやり切った感覚がありました。その経験を経て、アニメーション以外の会社も見てみたいという気持ちに繋がりました。
廃業した前職の案件から始まった会社設立
その後、ポイント・ピクチャーズを設立されて現在に至るわけですね。起業のきっかけは何だったのでしょうか?
最後に勤めていた、たくみ映画が廃業になった後も、担当していた2〜3件の案件を継続して受けていました。最後まで全うしようと動いているうちに、再就職のタイミングを逃してしまいました。
納品して支払いの段階になった際、クライアントから「個人への支払いは少しやりづらいので、会社を設立してくれないか」と言われたのが、会社を立ち上げた直接のきっかけです。まったく起業する気はなかったのですが、流れに身を任せていたら創業していました。
「ポイント・ピクチャーズ」という社名の由来は何ですか?
本当は「フォーカス(焦点)」という言葉を使いたかったのですが、当時あった同名の雑誌の印象が強かったので見送りました。「ポイント(集中・一点)」という言葉に、映像的な印象を加えるために「ピクチャーズ」を付けて「ポイント・ピクチャーズ」と命名しました。
音楽と映像を融合させたショートアニメの強み

これまでの実績を拝見すると、ストーリー性そのものよりも、音楽に合わせた表現(ミュージックビデオのような映像表現)を多く手がけられている印象を受けます。そのきっかけは何でしょうか?
もともと、映像よりも音楽が好きで執着がありました。1970年代にプログレッシブ・ロックに目覚めて以来、レコードやCDの収集が一番の趣味だったのです。80年代にMTVが始まり、音に合わせたカット割りやトリッキーな映像表現がシンクロする瞬間に非常にかっこよさと刺激を感じました。
また、90年代に映画やテレビのオープニング演出で革新を起こした*カイル・クーパーとの出会いも大きいです。デヴィッド・フィンチャー監督の映画『セブン』のオープニングを劇場で見た時の衝撃は忘れられません。ノイズやブレなどのエフェクトを駆使し、クレジットを動くアートへと昇華させ、本編の本質を表現していたことに感銘を受けました。「将来的にこういう表現ができたら」と思ったのが原点です。
*モーショングラフィック・デザイナー
それを事業として展開しようと思った転換点はどこだったのでしょうか?
当時のアニメーション業界は非常に多忙な上、低賃金(ブラックな環境)だったこともあり、アニメ本編の制作だけで社員にまともな給料を払い続けられるのか、大きな懸念がありました。
そこで会社を設立して他社との差別化を考えた際、カイル・クーパーのような「デザイン的な映像表現」をアニメーションに取り入れればいけるのではないかと考えました。ターゲット層もアニメ本編ではなく、MTV、オープニング・エンディング、PRやCMに特化して事業を展開しようと決めました。
現在の主な事業内容について教えてください。
イラストやアニメーションを駆使した映像制作を手がける弊社では、「ゲーム・TVアニメのOP・ED・PV・CM制作」、「遊技機用アニメーション制作」、「版権イラスト制作」、そして「その他企業のイベント・Web・デジタルサイネージに使用するショートアニメーション制作」という四つの主要事業を展開しています。
これまでの実績で、特に印象に残っている作品はありますか?
ゲームでは「ペルソナ3」や「ペルソナ3 フェス」のオープニングムービーおよびゲーム内アニメーションですね。会社としては予算的に赤字だったのですが、作品の知名度が高かったので、これをクオリティサンプルとして営業に活かすため、予算を度外視して当時の会社の総力をあげて作り込みました。おかげさまで非常に好評で、印象深い作品です。
また、TVアニメでは「化物語」シリーズ(『偽物語』など)のオープニングでしょうか。弊社の特徴である〝映像をデザインする〟のコンセプトを明確に打ち出して制作した最初のTVアニメのオープニング作品です。絶対に見た方の反響を呼ぶ映像にしようと気合いを入れて制作しました。
コンテ・作画から撮影まで社内で担う制作体制

御社の強みや制作におけるこだわりは何でしょうか?
組織的な強みとしては、《アニメーション制作の全セクション》と《モーショングラフィックス課》が社内にあることです。弊社には「グラフィックデザイン」「モーショングラフィックス」「2Dアニメーション」「3D・CG」「制作管理」といった制作セクションが存在し、これらを融合させた独創的な映像表現を追求しています。
いわゆるアニメーション制作の大手を除けば、コンテ・作画からコンポジット(撮影・編集)まで一元化して丸請けできる点は他社との大きな違いです。単なる紙のコンテでは再現できない「映像コンテ」によりスタイリッシュな複合的表現を得意としています。
御社が正社員雇用にこだわっている理由は何ですか?
シンプルに会社にとって「人財がすべて」だからです。人財(良い人材)が安心して長く働ける環境を作るには、正社員雇用が必須だと考えています。
設立10年目頃を目処に全社的に正社員化を進めました。アニメ業界はフリーランスや契約社員が多いですが、社員が将来、結婚、子育てなど安心して生活設計ができる基盤を作ることが会社の責任だと思っています。
教育制度や採用についてはいかがですか?
各セクションの責任者には「育成できなければ会社に未来はない」と伝えています。部署ごとに考案したカリキュラムを実践を交えたPDCAサイクルで検証しながら教育を行っています。
採用は365日通年で募集しています。作画アニメーターやグラフィックデザイナーなどの職種では、光るものを感じられれば未経験からでも育成しています。
一緒に働くクリエイターに対して、会社としてどのようなことを求めますか?
礼儀や協調性は当然ですが、一人一人が「リピート依頼につながる納品クオリティ」を常に意識することです。そのためにはクライアントが何を求めているのか理解して、すべての部署が協力して作品づくりに向き合う意識と体制が大切だと思っています。
この業界で生きていくために必要なものは何でしょうか。
大きくは二つあります。一つ目は信用、二つ目はオリジナルコンテンツの開発です。
一つ目の信用については、どの業界でも同じだと思うのですが、信用の維持には「高品質な映像と対応」を提供し続けるしかありません。
今後はAIによる変革が避けられず、どのように転ぶかも推測できませんが、ハイエンドの要求に応えるには、最終的に人が調整しないと難しいと思っています。
そのために技術や表現を日々学ぶ努力が最も重要です。
そして二つ目はオリジナルコンテンツの開発です。受注のみでの安定が理想ですが、著作権を持って発信できる作品があれば、展開次第で大化けの可能性もあります。ブランディングを強化して顧客層を地道に増やすのも大切ですが、攻め手をもって夢を見られることが、会社や社員の未来により必要だと考えています。
AI時代を見据えた信用とオリジナル作品への挑戦

将来に向けて、どのような会社にしていきたいですか?
会社は社員の生活を安定させるための基盤です。社員が安心して働き続けられる給与を支払い続けられる会社でありたいですね。そのために他社と差別化できる強みをさらに磨き、国内の未開拓のクライアントや分野を開拓して経営基盤をより強固にしていきたいです。
また、受託制作だけでなく、自社オリジナルのコンテンツ開発にも挑戦していきたいです。個人としては死ぬまでの目標(夢)として、会社の総力を挙げて「劇場アニメーション作品を1本つくること」ですね。形として残る作品を最後にできれば嬉しいです。
取材日:2026年8月4日 ライター:徳永 卓司
株式会社ポイント・ピクチャーズ
- 代表者名:吉野 広教
- 設立年月:2002年3月
- 資本金:1,000万円
- 事業内容:アニメーション、3DCG、各種デザインの企画/制作
- 所在地:〒169-0051 東京都新宿区西早稲田2-20-9 小杉ビル西早稲田4F
- URL:https://www.point-p.jp/
- お問い合わせ先:https://www.point-p.jp/inquiry






