熊本からAI時代を生き抜く力を!独自のプログラミング教育で「情報伝達力」を育む
「プログラミング教育の最大の目的は、理系を育てることではなく『情報伝達の力』を育てること」ーー。そう語るのは、熊本を拠点にプログラミングスクールやITリテラシー教育を展開する有限会社マリオネットの代表取締役・村上 奈美(むらかみ なみ)さんです。父親が創業した会社を子ども向けプログラミング教室へと転換し、今では自治体や教育委員会からも数多くの講演依頼を受けるIT教育のエキスパートです。ネットの匿名性がもたらすリアルな危険性への警鐘から、これからの時代を生き抜くために不可欠なコミュニケーション能力まで、常に現場の最前線で子どもたちと向き合う村上さんに、教育への熱い思いと未来への展望を伺いました。
家業を引き継ぎ、子ども向けプログラミング教育へ転換

家業である会社を引き継ぎ、現在のような事業を展開するまでの経緯を教えてください。
もともと弊社は1990年に私の父が創業した会社で、当時は大人を対象としたパソコン教室や職業訓練の運営が主軸でした。その頃の私は、京都造形芸術大学の情報デザイン科でグラフィックデザインや仕組みのデザインについて学んでいました。
いざ就職という時期を迎えたのですが、当時は世に言う就職氷河期の真っただ中。進路について悩んでいたところ、父から「うちの会社を継がないか」と打診されたのです。私も当時はあまり深く捉えず、「やってみよう」と決意して熊本へ帰郷しました。
しかし、いざ業務に入ってみると、現実は想像していたものとはまったく異なっていました(笑)。厳しい就職氷河期の影響をまともに受けており、会社の経営状態は非常に悪化していたのです。当時は8つの職業訓練コースを運営していたのですが、そのうち5コースが突如として閉鎖に追い込まれました。一瞬にして1500万円もの売上が消失し、まさに「明日をも知れぬ」という過酷な経営環境からのスタートとなりました。
そこから「子ども向けプログラミング教室」へと大きく舵を切った理由は何だったのでしょうか?
転機となったきっかけは2つあります。一つは、父から常々「これからはもう、WordやExcelだけで食っていく時代じゃないぞ」と言われていたこと。もう一つは、私自身が出産を経験し、大人相手の職業訓練よりも子どもに向けた教育に関心が高まっていたことです。
ちょうどその頃、2010年代に入って「STEM教育(科学・技術・工学・数学の教育分野)」という言葉が海外で流行り始めていました。日本ではまだプログラミング教育の「プ」の字もない時期でしたが、「絶対に日本にもこの波が来る」と確信したんです。
すでに大人向けの市場は縮小していましたし、ほかと同じことをやっていては生き残れません。だからこそ、まだ誰も本格的に手をつけていなかった「子ども向けのプログラミング教育」にいち早く先手を打ち、会社を完全にシフトさせる決断をしました。
5歳でBASICに触れた原点と、「情報伝達力」を育てる独自の教育方針
幼少期から、すでにパソコンに触れる環境があったのでしょうか?
実は5歳の時から英才教育を受けていました。まだWindowsもない時代で、画面は真っ暗。そこにBASIC(ベーシック)というプログラミング言語で指示を打ち込むんです。父に「『PRINT 10』って入れてごらん」と言われ、その通りに打つと画面に数字が出る。「じゃあ次は20、30と足してみろ」と。自分が打ち込んだコマンドでコンピューターが動くことが面白くて夢中になりました。
それに、うちは母親の教育方針が極端で、「ファミコンやスーパーファミコンは頭が悪くなるから絶対にダメ!」とゲーム機を買ってもらえなかったんです。でも、なぜか「パソコンはOK」でした。だから私は、どれだけパソコンで遊んでいても怒られなかったんです。結果的に、ゲーム機がない代わりに5インチのフロッピーディスクを何枚も読み込ませて、暇さえあれば父のパソコンを触る子どもに育ちました。
そうした原点があり、現在の教室の「独自の教育方針」につながっているのですね。教室ではどのような指導をされていますか?
弊社のプログラミング教室は、購入した既存の教材ではなく、独自に作成したカリキュラムによる「自主学習形式」をとっています。マインクラフトを使ったり、タイピングやロボコンをしたりと、お子さま自身がやりたいことを選んで進めます。
ただし、教室運営において一つだけ禁止していることがあります。それは、「わからないことがあるのに、何も言わずに座ったままでいること」です。
また、プログラミングの本質というのは「情報伝達」です。コンピューターに正しい指示を出さなければ動かないのと同じで、人間社会でも自分の意思を正確に言語化して伝えなければ、相手には伝わりません。
一例を挙げると、子どもが「先生、水」とだけ伝えてきた場合、一般的な大人であれば気を利かせて「お水がほしいのね」と差し出してしまうかもしれません。しかし私はあえて、「お水をどうしたいのかな? 飲みたいのかな? それとも床にこぼしてしまったから拭きたいのかな?」と本人に問いかけるようにしています。
うちの目的は「理系を育てる」ことではなく、「自分の考えを正確に相手に伝えるコミュニケーション能力を育てる」こと。社会に出た時に挫折しないための「生きる力」を身につけてもらうために、日々子どもたちと向き合っています。
教科書なきリテラシー教育。本当に危機感を持つべきは「親世代」

自社スクールでの指導にとどまらず、教育機関や自治体からの依頼で情報リテラシーの講演も多数行われているそうですね。
はい。資格取得などを目指す若者や社会人が通う大原学園での講師のほか、鹿児島や福岡の公立高校での授業、そして熊本県の人権同和政策室などからのご依頼で、SNSの安全な使い方や情報リテラシーに関する講演を幅広く行っています。
現場を回っていて一番深刻だと感じるのは、子どもたちよりも「子育て世代である親のリテラシー不足」なんです。子どもたちは学校のカリキュラムで多少なりとも学んでいますが、親世代はそれを習わずに大人になっています。だから、幼稚園の入園式で撮った子どもの写真を、何も考えずに全世界に公開される可能性のあるSNSにアップしてしまう。その写真一枚から住所や生活圏が特定される危険性を想像できていないケースが多いのです。
子どもたちを取り巻くネットの危険性について、具体的にどのようなお話をされているのでしょうか?
最初に「もし透明人間になったら何をしたい?」と尋ねます。そうするとストーカーや無賃乗車など、だいたい「悪いことをしたい!」という答えが返ってきます。
なぜネットで平気で誹謗中傷や悪いことをしてしまうのかというと、画面の向こうであれば「匿名だからバレないだろう」と、まるで自分が透明人間になったかのような心理が働き、芸能人に暴言を吐いたり、軽い気持ちで他人の情報をさらしたりしてしまう。
なので私は、講演で「個人情報の特定」を実際にやったものをお見せすることもあります。例えば高校生向けの講演では、事前に許可を取った上で、その学校の生徒たちのSNSの投稿を徹底的に拾い上げ、資料にしてスクリーンに映し出します。「鍵をかけていたつもりでも、少し調べれば君たちの行動なんてこれだけ筒抜けなんだぞ」と。悲鳴が上がりますが、そこまでやって初めて「自分ごと」として危機感を持ってくれるんです。性善説だけではネットの世界を生き抜くことはできないというリアルを、大人にも子どもにも伝えています。
最強のチームで挑む未来。熊本から全国へ「ITリテラシー」の底上げを
幅広い事業を同時進行で展開される中で、共に働くスタッフや採用において重視していることはありますか?
採用に関しても、明確な基準があります。「WordとExcelが使えます」と言って応募してくる方は、基本的にはお断りしています。私たちが求めているのは、パソコンの基礎スキル以上に「人と接することが好き」で、「新しい技術への好奇心」を持っている人です。
たとえば「動画編集が好きです」とか「音楽のミックスができるようになりました」といった、うちの会社がまだやっていない技術を持ち込んでくれるような人がいいですね。常に新しいものにワクワクして、変化を楽しめるような熱量を持っている方と一緒に働きたいと思っています。
最後に、クリエイティブ業界での活躍を目指す読者へメッセージをお願いします。
教室の生徒たちは本当に優秀で、熊本県御船町などで開催されている小・中学生を対象としたプログラミングコンテスト「恐竜ロボコン」といった大会で優勝・準優勝・3位を独占するほどの成果を出しています。5年、6年と長く通ってくれる子も多く、彼らの成長を見るのが何よりのやりがいです。
今後の大きな目標は、熊本をはじめとする地域の「ITリテラシーの底上げ」です。正しい知識を持った人材を育てて、地域全体がテクノロジーをポジティブに活用できる土壌を作っていきたい。東京の真似をするのではなく、地方から独自の教育モデルを発信していくことが重要だと思っています。
私自身、人生100年時代と言われる中で、長生きして健康でさえいれば、これからAIがさらに進化したり、アニメ『攻殻機動隊』のように電脳化が進んだりと、見たこともない新しい技術にどんどん出会えるはずです。それが楽しみで仕方ありません。
スマートな知識だけでなく、「これ面白い!」「やってみたい!」という自分自身の好奇心や純粋なワクワクこそが、新しい未来を切り拓く原動力になります。ぜひ、皆さんのそのワクワクを大切にして、一緒に面白い未来を創り上げていきましょう。
取材日:2026年7月23日 ライター:酒見 夕貴
有限会社マリオネット
- 代表者名:村上奈美
- 設立年月:1998年1月
- 資本金:1,000万円
- 事業内容:子ども向けのロボット・プログラミング教室の運営、パソコンスクール事業、および職業訓練・人材育成
- 所在地:〒861-8001 熊本県熊本市北区武蔵ケ丘8丁目6-95
- URL:https://pc-mario.com
- お問い合わせ先:096-202-5700






