「伝える」前に大切なこと。映像づくりに欠かせない視点とは
「自分たちは人の生活に踏み込む仕事である。その自覚を忘れてはいけない」――。師匠から受け継いだこの教えを今も大切にしているのが、札幌で放送番組などの企画・制作を手がける株式会社スクランブルの代表取締役・羽二生 潤(はにう じゅん)さんです。報道や情報番組の現場を長年経験してきたなかで培ったのは、情報を届ける責任と、取材対象者への敬意を両立する仕事観。その思いは同社の人材育成や会社づくりにも息づいています。そんな羽二生さんに番組制作にかける思いや自身の仕事観、そしてこの先の展望などについてお話を伺いました。
現場を知る人たちが働きやすい会社を目指して
立ち上げまでのキャリアを教えてください。
北海道での学生時代は映像よりも音声の仕事に興味があり、ラジオ報道に関わる仕事をしたいという思いがありました。しかし当時は募集がなかったんです。それで何か近いことができないかと探したところ、もともと工業高校で技術的な知識が多少あったため、高校3年生の夏休みと冬休みにアルバイトとしてテレビ制作会社の現場を経験させてもらいました。卒業後は、スタッフが足りなかったこともあり、そのままその会社で3年間働きました。
その後、「やはり報道に携わりたい」という思いから上京。知人の紹介や出会いを経て、テレビ東京の報道局にお世話になりました。さまざまな現場に取材に行かせてもらったり、企画や制作に携わる経験をさせてもらいました。
そうして経験を積んでいくなかで、「地域に根ざした報道・情報番組を作りたい」と思うようになり、北海道へ戻ることを決意しました。ちょうど、STV(札幌テレビ放送)の夕方の地域情報番組「どさんこワイド」がスタートするタイミングで、番組の立ち上げからディレクターとして現場を担当しました。
会社設立の経緯をお聞かせください。
当時所属していた会社が望まない形で体制変更という転機を迎えたことが、会社設立の始まりです。「現場の仲間たちと変わらずにものづくりを続けていきたい」という周囲の思いに背中を押されて、2001年に同僚と会社を立ち上げました。制作スタッフ一人ひとりの声を大切にし、働きやすい環境を整えながら、自分たちの手で情報や思いを発信できる会社を目指しています。
スタッフの専門性を磨き、信頼されるプロフェッショナルへ

事業内容について教えてください。御社が大切にしていることを教えてください。
放送番組の企画から制作、イベントの企画や進行、ロケーションのコーディネート・スケジュール管理など幅広く行っています。
現在のスタッフは約20人で、そのうち半数はSTVの制作現場に派遣されています。残りの半数は、いろいろな番組の撮影や企画などを請け負っています。日常的に全員が顔を合わせる機会は多くないため、定期的に勉強会や交流の場を設け、会社としての考え方や技術を共有する機会を作っています。
御社が大切にしていることを教えてください。
会社として大切にしているのは、スタッフ一人ひとりが専門性を持ち、現場で信頼される存在になることです。
指示待ちの姿勢ではなく、「こうすればもっと良くなるのではないか」「こういうこともできます」と積極的に提案していくことで、「スクランブルに任せてみよう」と思ってもらえる。そんなプロフェッショナルとしての価値を発揮し、信頼関係を築いていくことが、会社として目指している姿です。
一方で、特定の人にしかできない仕事では組織として継続できません。そのため、個人の技術や経験をチーム全体で共有し、「自分にしかできない仕事」を「自分たちだからできる仕事」へ変えていきたいと考えています。
スタッフ一人ひとりが専門性を持ち、現場で信頼される存在になるために、具体的にどのような工夫をされていますか?
制作現場ではチーフディレクター、ディレクター、アシスタントディレクター(AD)というように役割や階層が分けられていますが、単なる上下関係を生む構造にならないようにしています。具体的には、それぞれの役割を「番組全体を支える専門職」と考えています。それぞれが番組全体を理解し、必要な準備を先回りして行い、演出に集中できる環境をみんなで作り上げる。
例えば、ADはディレクターの下にいる単なる「アシスタント」ではなく、「“アシスト”という仕事をするディレクター」であるという意識を持ってもらっています。
映像制作は「人の生活に踏み込む仕事」。“伝える責任”と向き合い、事実を発信する
若手スタッフを育てるために心がけていることは何ですか?
働き方改革によって長時間労働は見直されましたが、若いスタッフが十分な経験を積む機会が以前より減ったという側面があります。私自身、若い頃に多くの現場を経験できたことが現在の土台になっていますので、限られた時間や環境、予算のなかで、彼らにどれだけ質の高い経験を積んでもらえるかを常に考えています。
例えば、若手が実際に撮影や編集を経験できるよう、ネットを活用して高額な機材を安く入手するなど、少しでも彼らが挑戦する機会を増やせる方法を探しています。
仕事をする際に意識されていることを教えてください。
映像制作の現場では、時として一般社会とは異なる感覚が求められる場面があります。特に報道の世界では、情報を得るために人の生活や感情に深く入り込まなければならないことがあります。そこで決して忘れてはならないのが、取材対象者や関係者への敬意です。
私がかつて師匠から教わったのは、「自分たちは人の生活に踏み込む仕事である」「非常識だということを自覚しろ」ということです。情報を届ける責任がある一方で、相手への敬意を忘れず、その人との関係性を大切にすることが、結果として良い仕事へとつながります。ですからスタッフにも「自分たちの常識が世の中の常識とは限らない」という意識を持ってほしいと伝えています。
番組制作を通じて得た学びはありますか?
一番大きな学びは、「その場所で起きていることをどう伝えるか」という視点を持つことです。
例えばライブ会場から中継する場合でも、放送時間に合わせてイベントを止めてもらうのではなく、リハーサルや待機時間、その舞台裏まで含めて一つの演出として見せることができます。単に映像を届けるだけではなく、人が集まり、体験し、その場で生まれる価値をどう伝えるか。その視点を、私は「どさんこワイド」の立ち上げ当時に身をもって学びました。この経験は、今でも仕事をするうえでの土台になっています。
映像づくりで大切なのは、「やりたい」という思い。力を発揮できる場所を探して

今後の取り組みについて教えてください。
映像によって人に情報や体験を届けることは変わりません。テレビ放送だけにとどまらず、配信、SNS、イベント、企業向け映像など、映像の活用方法は広がっていますので、時代に合わせた価値を提供していくことが、今後の会社の役割だと考えています。
どのような人材がこの業界に向いていると思いますか?
中途採用の面接でも、「何でもやります」という方より、「こういうことがしたい」「これならできる」という明確な思いを持っている方のほうが成長の可能性を感じます。たとえ、会社の中にその仕事がなくても、その思いをもとに新しい仕事や事業をつくっていくことはできます。
また、この業界では技術や経験だけではなく、相手や社会への影響を考える姿勢も大切です。情報をどう伝えるべきなのか、それによって誰にどんな影響を与えるのか。そうした視点を持ちながら仕事に向き合える人がプロとして成長していけるのだと思います。
これから映像や表現の仕事を目指す人にメッセージをお願いします。どのような人材がこの業界に向いていると思いますか?
よく「専門学校に行かなければこの仕事はできないのか」と聞かれますが、結局一番大事なのは、経験や経歴よりも、「やりたい」という気持ちです。
私自身、40年以上この仕事に携わっていますが、今でも「こんな考え方があるのか」「こんな表現ができるのか」と新しい発見があります。入社して数カ月で「向いていない」と判断するのではなく、さまざまな経験を積みながら、仕事の奥深さを知っていってほしいと思います。
日々の経験の中で感じたことや学んだことを、どう仕事に生かしていくか。その姿勢を大事に、ぜひ挑戦していってほしいです。
取材日:2026年7月23日 ライター:八幡 智子
株式会社スクランブル
- 代表者名:羽二生 潤
- 設立年月:2001年4月
- 資本金:1,000万円
- 事業内容:放送番組の企画・制作、マルチメディアソフトなどの企画・制作、イベントの企画・進行、ロケーションのコーディネート・スケジュール管理など
- 所在地:〒060-0001 北海道札幌市中央区北1条西7丁目1-15 札幌あおいビル9F
- URL:https://www.scr-tv.co.jp/web/
- お問い合わせ先:011-209-2277






