アニメ制作現場をDXで改革!現役大学院生が率いるTOONIQ 目指すのは「新たな業界標準」
東京理科大学で量子コンピューターや物理学を専攻する現役の大学院生でありながら、合同会社TOONIQを創業した大木 天翔(おおき たかと)さん。大木さんが目指したのは、人手不足や制作進行の過酷な労働環境が叫ばれて久しいアニメ業界の改革でした。アニメへの純粋な「好き」を原動力に、制作支援ツールの業界標準を目指す取り組みと今後の展望を伺いました。
2人で再建したサークルが学生ベンチャーへ

まずは、大学公認サークル・動画研究同好会の立ち上げから、会社設立に至るまでのキャリアについて教えてください。
すべての始まりは高校時代、アニメ「映像研には手を出すな!」を見たことでした。女子高校生3人がアニメーション制作を通して創造に向き合っていく物語なのですが、それを見て「私も大学に入ったら絶対にアニメを作りたい!」と思ったのです。その後、東京理科大学に進学し、アニメが作れそうなサークルに入ろうとしたのですが、いざ入学してみると、お目当てだった動画研究同好会というサークルが潰れてしまっていたんです。
でも諦めきれなかったので、大学1年目はサークルの再建と大学公認を得るための手続きに奔走しました。同じ学科でたまたま隣の席になった友達を誘って、たった2人でスタートしました。
最初は先輩方が残してくれたわずかなノウハウを頼りにしながら手探りでやっていましたが、自分たちだけでは知識が足りなかったので、千葉大学のアニメーションサークルにこっそりお邪魔して、実際の制作を手伝わせてもらいながらアニメ作りのノウハウを蓄積していきました。そうやって少しずつ、サークルを大きくしていったんです。
サークル活動から、なぜ会社設立に至ったのでしょうか。
大学で3年、4年と活動を続けるうちに、ありがたいことにアニメ制作会社や、他大学のアニメサークルと共同でアニメを制作するような規模になっていきました。学園祭では、TVアニメのIPをお借りして、一般の方が「セル画」の体験をできるワークショップを企画したのです。撮影工程の機材(撮影台)を自分たちで作成し、セルに関しては画材屋さんから協賛をいただいて提供していただきました。
そのとき、アニメ会社と画材屋さんと本格的な契約を結ぶ必要が出てきました。しかし、学生サークルという任意団体では、NDA(秘密保持契約)の締結や、万が一のときの法的責任を負うことができません。そこで、学園祭の契約をクリアするためだけに作ったのが、会社の始まりです。大学4年の10月でした。
大学側には法人化することは伝えたのでしょうか?
いえ、伝えていなかったですし、最初は大学に学生の起業を支援する制度があることも知らないまま進めました。後から制度を調べてすぐに応募し、今ではサークル発の学生ベンチャーとして、東京理科大学発学生スタートアップ企業に認定されました。
理系院生が目撃した、アニメ制作現場の「深刻なボトルネック」

大学では物理学や量子コンピューターを専攻されているそうですね。自社でツール開発を始めようと思ったきっかけは何でしたか?
サークル活動を通じてアニメ制作会社と深く関わる中で、現場の課題が思った以上に深刻で、複雑だということを肌で感じました。デジタル化が進んでいると言われながらも、現場で使われている管理ソフトや制作ツールが、10年以上もアップデートされていないものもあります。
サークルでアニメを作るときも、現場とまったく同じソフトやワークフローを使っていたので、自分たち自身もめちゃくちゃ苦労していました。「現場の制作進行の人たちも、まったく同じところでつまずいて、疲弊しているんだ」と気づいたのです。
その気づきを経て、具体的にどのようにアプローチしていったのでしょう?
制作進行の方々は、日々の業務に追われているため、システム全体を効率化する仕組みについて、考えていても実行に移す余裕がありません。それならば、どこかのアニメ会社に就職してその会社の中だけを効率化するよりも、外部のテクノロジー企業として、業界全体へ横断的にアプローチした方が、インパクトも大きいのではないかと考えたのが、本格的な事業展開へのきっかけでした。
われわれはプログラミングの専門家集団ではないからこそ、逆に「アニメを実際に作ってきた人間」としての視点や、他分野からのフラットな視点をシステムに組み込める。それが強みになると確信していました。
SNSで話題沸騰の「制作進行シミュレーター」現場からは「リアルすぎる」の声も
制作進行の仕事が疑似体験できるゲーム「制作進行シミュレーター」の画面
SNSで大変な話題となった「制作進行シミュレーター」があります。これを作った意図は何だったのでしょうか。
最初はただの飲み会のノリで作った身内向けのジョークツールだったんです。まさか、ここまで業界内外で取り沙汰されるとは思っていませんでした。公開後、アニメ業界の飲み会に行ったら「あのゲームを作った本人ですか!?」と驚かれることも増えました。
このシミュレーターを作った一番の目的は、アニメ業界の外にいる人たちに、「制作進行という仕事がどれだけ大変で、何に困っているのか」を、手軽にブラウザで疑似体験してもらうことです。
パラメータも細かく調整した力作で、現在累計アクセス数は4万を超え、実際にプレイしてくれた人は5,000人近くにのぼります。
アニメ業界の方々がプレイされた際の反応は、いかがでしたか?
現役の制作進行の方々からは、「リアルすぎて、やっていて心が辛くなった」「身に覚えのあるトラウマがよみがえるから、最後までプレイしたくない」という切実な声をたくさんいただきました。逆に、アニメーターさんや背景さんなど、進行以外のセクションの方々からは「めちゃくちゃ面白い!進行ってこんなこと考えて動いてるんだ」と大好評でしたね。また、業界外の方からも好評価いただいています。
「AnimaTime」で発注管理を自動化「二重発注」を防ぐ
「AnimaTime」管理画面
シミュレーターによる問題提起を経て、実務ツールとして開発されているのが「AnimaTime」ですね。このツールの強みや、現場で評価されているポイントを教えてください。
今一番、制作会社からの評判が良く、引き合いが多いのが「発注書関係の自動化・管理機能」です。これまでの現場では、Excelやスプレッドシート、あるいは手書きの進行表で「どこまで終わったか」をチェックしていました。しかし、これだとヒューマンエラーが多発する恐れがあります。
「AnimaTime」では、システム上で発注書を正しく作成して相手に送付しない限り、次の工程に進むためのボタンが押せない仕様になっています。
さらに、「進行の誰が、どのアニメーターさんに、いつ発注書を送ったのか」というログがすべてタイムスタンプ付きで残ります。
その機能は、現場のどういった課題を解決しているのでしょうか。
アニメの現場で本当に頻発しているのが、発注書の「送った・送ってない論争」なんです。これが原因でカットの進行がうやむやになったり、最悪の場合は同じカットを別の人に頼んでしまう「二重発注」が起きて、無駄な制作費が発生したりします。
現場の制作進行の方から「こういうミスが本当に多いから、仕組みで防げるツールが欲しい」と言われて開発した機能なのですが、今では導入した企業さんから「これがないと怖くて発注できない」と言われるほど重宝されています。
複数の商業スタジオで導入 現場起点で業界標準を目指す

「AnimaTime」の強みはどこだとお考えですか?
もっとも重視しているのは、制作進行の方が一目見て操作方法と結果を直感的に理解できるUI(ユーザーインターフェース)です。主要な操作を1クリックで完了できるよう設計し、現場の作業負担を軽減しています。
現在は中小規模のアニメ制作会社を中心に、複数社で実際の商業アニメのラインに導入いただいています。下請けから元請けにステップアップするタイミングで、「管理システムを一新したい」という会社に刺さっていますね。
アニメ業界へのアプローチとして、プロデューサーや制作委員会ではなく、あえて「現場の制作進行」からアプローチしているのはなぜですか?
よくあるITベンチャーだと、経営陣に「このツールを使えば全体でこれだけコストカットできます」とアピールして、上から現場にツールを押し付けがちです。でも、それだと現場が使いこなせず、結局現場が混乱して、最終的にExcelに戻ってしまうという失敗が至る所で起きています。
徹底的に現場の制作進行の方の声を聞いて、「これがあると、今夜の自分の仕事が楽になる」と思えるものだけを作っています。当社のエンジニアである山口が作った機能でも、現場で使わないよと言われたら、その日のうちに機能を落とす。そういう現場ファーストの素早い決断ができるのは、私たちが小さなスタートアップだからこそですし、何よりもこだわりたいと思っているポイントです。
今後、「AnimaTime」をどのように成長させたいですか?
現場の進行さんが「AnimaTime」を気に入ってくれて、自発的に使ってくれるようになるのが目標です。現場がハッピーにならないDXは、アニメ業界では絶対に成功しないと思っています。
だからこそ、若い学生やサークルにもツールをすべて無料で提供しています。これから業界に入ってくる若い世代に、最初から効率的なデジタルツールに触れてもらい、業界全体の標準を「ボトムアップ」で引き上げていきたいんです。
いつかは自社で最高効率のスタジオを――TOONIQが描く未来

将来のビジョンについて教えてください。
良くも悪くも、時代に柔軟でいたいですね。テクノロジーのトレンドが変わったら、まずは何でも自社で試してみる。使えそうなら現場に最適化して組み込んでいく。そんな柔軟さを失いたくないです。
そして、将来的には、自分たちでアニメスタジオを持ちたいという野望を持っています。
私も山口も、もともとはアニメが大好きで、自分たちの手でアニメを作りたいと思ってこの世界に入った人間です。だからこそ、開発した最先端のデジタルツールや効率的なワークフローをフル活用して、最初から「最高効率で回るアニメスタジオ」を自分たちで設立してみたいです。
今の多くのアニメスタジオは、アナログからデジタルへの過渡期で、古い慣習と新しいシステムがバッティングして苦しんでいます。制作進行さんもアニメーターさんも一切無駄な事務作業に追われず、クリエイティブな作業に100%集中できるスタジオを作ったら、どれだけクオリティの高い作品を健全な労働環境で作れるか。それを「AnimaTime」で証明して、業界の新しい「手本」になりたいんです。
まずは今、導入してくださっているクライアントと一緒に、このツールを使って商業アニメを1本、無事に完成させること。それが直近の大きなマイルストーンです。エンドロールに私たちのツール名や会社名が載る日を、今から楽しみにしています。
取材日:2026年6月2日 ライター:徳永 卓司
合同会社TOONIQ
- 代表者名:大木 天翔
- 設立年月:2025年10月
- 事業内容:アニメ制作支援ソフトウェアの開発・提供、技術コンサルティング、カスタム開発
- 所在地:〒162-0823 東京都新宿区神楽河岸1-1飯田橋セントラルプラザ インキュベーション施設 ルーム4
- URL:https://tooniq.co.jp/






