グラフィック2026.07.22

「われわれは便利屋ではない」。広告業界の常識を問い直す、創る人が主役の組織づくり

東京
株式会社SEKAI 代表取締役/クリエイティブディレクター
Koutaro Ishigaki
石垣 光太郎

「『広告代理店です』と名乗ることが、時代遅れになる時代は、もうすぐそこに来ています」──そう語るのは、全国6拠点で広告事業を展開する株式会社SEKAI・代表取締役/クリエイティブディレクターの石垣 光太郎(いしがき こうたろう)さんです。デザイナーとして20年のキャリアを歩み、2017年に同社を設立。石垣さんが目指すのは、クリエイターが「歯車」ではなく「発信源」として活躍できる社会です。「われわれは奴隷でも便利屋でもない」と語る背景には、広告業界への強い問題意識と未来へのビジョンがありました。

「帰らない、休まない、眠らない」が普通だった、デザイナー20年

石垣さんが学生時代から現在にかけて、熱中してきたことは何ですか?

ひと言でいえば「働くこと」です。高校生のころはクリエイティブとは無縁の地元・北海道のスーパーで働いていました。お金をいただくこと、大人の社会のなかに身を置けることに、私はずっと惹かれていたのだと思います。
デザインの専門学校に進んだのも、実は積極的な選択ではありません。就職を希望していたところ、親に「大人の時期は長いから、すぐに働きはじめなくてもいい」と諭されて作文一つで入れると条件を絞った結果、残ったのがデザインの専門学校だった、というだけのことです。「デザイナーになりたい」と夢見たことは、今に至るまで一日もありません。

その後のデザイナー時代に、もっとも印象に残っている経験を教えてください。

約25年前の広告業界は、「帰らない、休まない、眠らない」が、当たり前でした。一週間連続で泊まり込み、家に帰れない期間が2〜3週間続くこともありました。年間休日10日で、それが3年間続いたんです。20歳そこそこのときに4つの学校の入学案内書、それぞれ100ページを超える冊子を、取材から撮影ディレクション、デザインまで、ほぼ一人で回していました。今思えば、かなり無茶な働き方だったと思います。

札幌でゼロから年商2億円を達成。35歳の決断と「維新」の覚悟

2017年にSEKAIを立ち上げられました。起業のきっかけは何でしたか?

「責任を誰かに取ってもらう」のが、若いころからずっと嫌いだったんです。会社員でいる限り、最終的な責任は会社が負ってくれます。自分の身銭が減るわけではない。それが私にはどうも合わなかった。自分で意思決定できるポジションは社長しかない、と起業は意識していました。
35歳まで誰かのため、会社のため、部下のために働き続け、札幌でゼロから年商2億円の支社をつくり上げたところで、自分のために生きてみようと決めたんです。本当は一人で始めるつもりでしたが、前職の社長に退職の相談をしたところ、分社することになり、私の管轄だった営業拠点と全国のデザイナーの3拠点・30人を引き連れての創業になりました。

SEKAIの「もっとデザインでセカイに維新を」というポリシーには、どんな原体験がありますか?

札幌の支社をゼロから2億円まで引き上げる過程で痛感したのは、新規受注の最大の障壁が「政治」だったこと。昔からの付き合い、社長の鶴の一声。そういう癒着構造を「くだらない」と感じていました。
だからこそ、そんな政治を壊すだけの魅力がある制作物をつくりたい。「昔からの付き合いはあるけれど、このデザインが素敵だから一度使ってみたい」と言わせる水準を目指したい。常識やルールに縛られず、意表を突かなければ政治は壊せませんので、社員には、「自分に維新を」と何度も説いています。自分から好んで過酷な環境にいく私は、戦闘民族なのかもしれませんね(笑)。

「広告代理店ではなく、クリエイティブファーム」と名乗る理由

事業内容を教えてください。

印刷物やグラフィックの企画・デザイン、TV・ラジオ・新聞・雑誌のマスメディア広告、Web制作・Web広告、市場調査・新商品開発、ブランディングなど幅広いです。
具体的には、学校案内のパンフレット、アウトドアショップや不動産関連企業の広告など、さまざまな業界の制作物を手掛けています。

「広告代理店機能を持ったクリエイティブファーム」と同社を位置づけている理由を教えてください。

私は、近い将来「広告代理店」という業態は機能しなくなると考えています。10年ほど前から言っていますが、いまや印刷はラクスル(ネットで簡単に印刷物を注文できる印刷通販サービス
)に個人で直接発注できますし、Web広告はGoogleに自分でかけられます。JRの応援広告でさえ、個人の有志を集めて出せる時代です。
さらにAIです。「予算100万円、最適な広告媒体は」とChatGPTに問えば、それなりの提案が返ってきます。それは、これまでわれわれがやってきた仕事そのもの。価値が消えていく業種なんですよ。だから単に媒体を仲介するだけの存在には、もう留まりたくなかった。
私たちが残せる価値は、クリエイティブを軸に「作って、育てて、安心安全に届ける」こと。まさに農場(ファーム)の役割と重なります。そこで「クリエイティブファーム」という言葉をつくりました。広告代理店だと名乗りたくない、という意思表示でもあります。

「ザ 会社」を壊し、「個の集団(ホーム)」をつくる

「ザ 会社という概念をなくし、ホームであるべき」というメッセージを掲げていますが、具体的に何を実践していますか?

各オフィスに一人だけリーダー的なポジションを置いていますが、それ以外の役職はほぼありません。肩書きによる上下関係や壁をつくりたくないからです。
私が目指しているのは、それぞれが主体的に活躍する「個の集団」です。会社という枠にぶら下がるのではなく、一人ひとりが自分のフィールドを持ち、自ら仕事をつくっていく。やらされている仕事より、自分で考え、挑戦する仕事のほうが、楽しさも成長も大きいですから。

47都道府県、47通りの「セカイ」へ。AI時代、クリエイターは「発信源」となれ

これからSEKAIをどのような会社にしていきたいですか?

社員には、「47都道府県すべてに拠点をつくりたい」と話しています。社員のお子さんが「お父さん、お母さんはどこで働いているの?」と聞かれたときに、胸を張って答えられる会社にしたいんです。ソフトバンクやニトリと言えば、誰でも一発でわかるじゃないですか。
そのためには、広告という枠にとどまらず、事業の幅を広げる必要があります。社名「SEKAI」には、社員一人ひとりが自分の“世界(セカイ)”を大切にしてほしいという意味を込めました。だから、デザイナーとして働きながら社内で別の事業を立ち上げてもいい。ネイルサロンでも、ラーメン屋でも構いません。事業計画は一緒に組みますが、責任は自分で取ってもらう。「やってみたらいい」が私のスタンスです。

一緒に働くクリエイターに、どのような人物像を求めますか?

目の前の仕事に120%の力を出せる人。何事も他責にせず、自分にできることを考えられる人。また、どこかに変わった視点や発想を持っている人には魅力を感じます。
私自身、仕事は単に時間を過ごすものではなく、成果や価値を生み出すものだと考えています。そのため、「生活のために最低限働ければいい」と考える人より、「いまに納得していない」「働きたいのに働けない」「自分の力がいまどこにあるのか試したい」という方々と一緒に挑戦したいです。

最後に、この記事を読んでいる全国のクリエイター・経営者の方々へ、メッセージをお願いします。

クリエイターのみなさん、価値あるデザイナーやアートディレクターはもちろん存在しますが、ほとんどは「言われた仕事をこなしているだけの会社の歯車」になりがちです。あなたが「やった」と思っている仕事は、本当はあなたではなく、会社に依頼が来ているだけ。その会社から離れたとき、自分の価値が残るかどうか。ぜひ一度、立ち止まって考えてみてください。
そして、AIが台頭する時代では、案件を待っているだけのクリエイターは確実に淘汰されます。コミュニケーション能力を磨き、自分の足で仕事を取りに行って、成果をつくる「発信源」の側に立ってほしいのです。われわれは「奴隷」でも「便利屋」でもなく、「営業の黒子」でもありません。
また、経営者のみなさんにも、クリエイターを対等な発信源のパートナーとして扱っていただけたら、彼らのアウトプットは確実に変わります。改めて、SEKAIは、「発信源」を一人でも多く育てたい。社員をフロントに立たせて「現場主義」を貫いているのも、そのためです。

※掲載の社名、商品名、サービス名ほか各種名称は、各社の商標または登録商標です。

取材日:2026年5月28日 ライター:宮澤 剛史

株式会社SEKAI

  • 代表者名:石垣 光太郎
  • 設立年月:2017年10月
  • 資本金:1,000万円
  • 事業内容:広告代理業務(広告代理店機能を持ったクリエイティブファーム)。各種印刷物・グラフィックの企画・デザイン、TV・ラジオ・新聞・雑誌のマスメディア広告、Web制作・Web広告、市場調査・新商品開発、イベント・プロモーションの企画・制作・運営、ブランディング、動画制作・編集 など
  • 所在地:〒108-0073 東京都港区三田3丁目7-18 ザ・イトヤマタワー10F(東京本社)
  • URL:https://sekai.co.jp/
  • お問い合わせ先:東京本社 TEL 03-5443-2270
  • お問い合わせフォーム:https://sekai.co.jp/contact/

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