北海道のリアルを、映像に刻む。地域を知る元行政職員が作る、地方創生のための映像発信
公務員という安定したキャリアを手放し、映像クリエイターとして独立・起業した岡内 翔吾(おかうち しょうご)さん。合同会社O-JYOの代表として、観光プロモーションや企業ブランディングなど幅広い映像制作を手がけながら、北海道の人・もの・文化にスポットを当てる自社メディア「AN-RU(アンル)」も展開しています。「北海道のためになるクリエイティブをしたい」——その一本の軸に貫かれた活動と展望を伺いました。
ケガが生んだ転機。元行政マンが歩み始めた映像クリエイターの道
映像制作を始めたきっかけを教えてください。
大学卒業後に新卒で市役所に入庁したのですが、映像との出会いは社会人1年目に買ったGoPro HERO5です。北海道ニセコ町出身ということもあってフリースタイルスキーをしていたので、仲間と滑りながら撮影し合うところから始まりました。
ところがそのシーズン終わりに前十字靭帯を切ってしまって、全治1年と診断されたんです。次のシーズンは滑れない。それでも映像を撮ること自体がとても楽しくて、友人から「GoProのオフィシャルファミリーを目指してみたらどうか」と勧められたことをきっかけに、北海道のさまざまな場所を巡りながら撮影・編集して動画をSNSにアップするようになりました。
当時はまだそうしたコンテンツを発信するクリエイターがほとんどいなかったこともあり、一気に注目されるようになりました。SNSを見た方から映像制作の依頼が来るようになり、それが今の仕事の原点になっています。

公務員として働きながら映像活動を続けていたというのはどういう状況だったのですか?
あくまで趣味の延長として、0円で制作するという形で活動していました。それでも実績として積み重なり、そこから活動の幅が広がって、大きなフェスのメインステージを撮影するような案件にも関わるようになりました。
本業の市役所では観光部門に異動したタイミングで「自分はこういうことができます」とプレゼンをしたところ、市役所のSNSコンテンツ制作やイベント撮影を任せてもらえるようになりました。役所にいながらMacBookを開いて編集作業をしている、そんな状態でしたね。
独立を決めたきっかけを教えてください。
公務員として働いて6年ほど経った頃には、休日に取り組んでいた映像制作の活動が、片手間では対応できないほど広がっていて、自分も「この世界で生きていきたい」という思いが強くなっていました。
ちょうどそのタイミングで、北海道を盛り上げる活動をしているノースアンビシャスという会社とご縁がありまして。それをきっかけに、市役所を退職してフリーランスとして独立。4年目の2025年に法人化しました。「公務員を辞めることに不安はなかった」とは言い切れませんが、それよりワクワクの方が勝っていましたね。周りからは「いつかそうすると思っていたよ」と言われました。それだけ、自分の熱量は周りにも伝わっていたのだと思います。
“自分らしい映像”を求められるクリエイターであるために。仕事のこだわりと流儀
現在の事業内容を教えてください。
動画制作がメインです。ジャンルは観光プロモーション、シティプロモーション、企業プロモーション、リクルート系などさまざまで、SNS向けコンテンツのほか、店頭サイネージ用の短尺動画なども手がけています。スチール撮影にも対応しますが、より高いクオリティが求められる場合は周りの得意な人に振ることもあります。案件ごとに最適なメンバーを集め、チームを組んで制作するスタイルです。
チームを組む仲間はそれぞれ独立して活動するプロなので責任感があり、いいものを作ることに妥協のない信頼できる方々です。ただ、全員が個々に活動しているためスケジュール調整が難しいこともあり、もっと一緒に取り組める仲間を増やしていくことが今の課題でもあります。

映像制作の上でのこだわりを教えてください。
最終的に「O-JYOらしい映像だね」と言われないと意味がないと思っていて、色味やカット割り、アングルに一貫した“自分らしさ”を宿すことにこだわっています。
SNSの映像を見て「こういう映像を作ってほしい」と連絡をくださる方が多いのも、そのこだわりが伝わっているからだと思います。
クライアントとのコミュニケーションで特に意識していることはありますか?
映像制作に慣れていない方からの依頼の場合、具体的な要望があっても、そのまま形にすると本人が最初に求めていたクオリティや課題解決から離れてしまうことがあります。そのギャップをなくすために、最初の打ち合わせで最終ゴールをしっかり話し合うようにしています。撮影前のこの段階で、作品の出来がほぼ決まると言ってもいいくらいです。
また、予算や納期について安請け合いをすることもありません。そこをきちんと整理することで制作中のトラブルが減り、チーム全体が前向きな状態で仕事に向かえます。一緒にやっているメンバーを守るためにも、たとえクライアントと意見がぶつかることがあっても必要なことは最初にしっかり伝えるようにしています。

AN-RU(アンル)——“存在する道”を映像に残す、北海道発ショートドキュメンタリー
インスタグラムやYouTubeで発信する自社メディア「AN-RU」について教えてください。
クライアントワークが増えると、ありがたい反面、自分が撮りたいものを自由に作る時間はどうしても少なくなります。北海道各地を撮り歩き、自分の表現を追求できる場所を作りたいと思い、立ち上げたのが「AN-RU」です。独立前から前身となる活動はありましたが、それが誰かの喜びや幸せになれば一石二鳥だと考え、2024年から本格的に動かし始めました。
北海道には知られていない面白い文化や人がたくさんいます。そういう人・もの・文化にスポットを当てることで、結果的にその土地を知るきっかけになる。「AN-RU」はそうした「きっかけ」を届けるプロジェクトです。

「AN-RU」という名前の由来を教えてください。
アイヌ語で、「アン」がそこに存在する・あるという意味、「ル」が道や軌跡という意味があります。ショートドキュメンタリーで映像に残すということは、その人の過去・現在・未来の物語を伝えることでもあります。それもあってこのネーミングがいいんじゃないかと、一緒にやっているメンバーと話して決めました。
AN-RUの世界観を気に入って映像制作を依頼してくれる方もいて、通常のクライアントワークとは少し質が違う仕事につながっています。ゆくゆくは外部の方に掲載を申し込んでもらえるメディアにまで育てたいと考えています。
行政・地域の内側を知るからこそ、外から映像で地域を動かす
今後の展望を教えてください。
突き詰めると、北海道の地域課題や魅力に向き合うクリエイティブをしていきたい、という思いに行き着きます。
行政職員として内側から地域に関わってきた経験から、組織の中からのクリエイティブに限界があることもわかっています。だからこそ、外部のクリエイターとして自由な立場で関わり続けることに意味があると思っています。東京で活動する選択肢もありましたが、ワクワクするかといったらそうでもなくて。インバウンドや観光コンテンツは北海道の方がむしろ仕事の可能性が広がっていると感じていますし、何より北海道でやることへのワクワクがあります。
自分が北海道出身、かつ行政で働いていたというバックグラウンドが“ここでこそ生きる”と感じています。観光プロモーションにとどまらず、北海道の暮らしや一次産業のリアルを映像で表現する仕事——そこに自分がいる意味があると思っています。

AIの進化で映像制作の仕事はどう変わると思いますか?
AIの台頭で制作の一部が代替されていくのは確かです。でも、実在する人の顔やその場にしかないリアルを映像で届けることはAIにはできない。AIの価値が高まれば高まるほど、実写の持つ固有の価値もまた際立っていくはずです。
例えば、農家の収穫シーンをAIで再現することはできても、その生産者の表情に宿るリアルまでは再現できません。だからこそドキュメンタリーや文化・人を記録する映像は今後も揺るぎなく人間が強い領域です。自分が北海道の行政に携わり、北海道の風景や人に向き合い続けてきた時間は、どんな技術でも置き換えられない。それが映像に宿ると信じて、これからも北海道で作り続けていきます。
最後に、映像の仕事を目指す方へメッセージをお願いします。
どんな状況にいてもまずできることは絶対にあります。拠点を考えるときにも、その場所でやる意味はあるはずで、その意味を自分なりに持てているかどうかが大事だと思っています。北海道で映像ディレクターや映像クリエイターとして活躍する若い世代が増えてくれたらうれしいですね。
取材日:2026年3月9日 ライター:小山 佐知子
合同会社O-JYO
- 代表者名:岡内 翔吾
- 設立年月:2025年3月
- 事業内容:映像制作及びクリエイティブ事業
- 所在地:〒069-0847 北海道江別市大麻ひかり町8番地19号
- URL:https://www.instagram.com/ojyo.inc/
- お問い合わせ先:






