人の想いを掘り起こしてデザインに。AIにはできない納品物以上の価値とは?
京都を拠点に、ロゴやパンフレット、Webサイト制作からブランディングまで幅広く手がける株式会社ねき。代表・グラフィックデザイナーの坂田 佐武郎(さかた さぶろう)さんは、徹底したヒアリングを大切にし、人や場所、その背景にある想いまで丁寧に掘り起こしながら、デザイン制作を行っています。その独自の制作スタイルや、会社づくりへの想いについて伺いました。
宇治の自然の中で育ち、“考えること”を学んだ学生時代
幼少期から学生時代はどのようなことを学ばれていましたか?
京都・宇治市の炭山という地域で育ちました。炭山は陶芸家が多い地域で、父も陶器に関わる仕事をしていたんです。子どもの頃から、ものづくりをする人が身近にいる環境でした。大学は京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)の情報デザイン学科へ進学しました。
大学では、いわゆるグラフィックデザインだけではなく、アニメーションや写真、現代美術など、さまざまな表現を学びました。特に印象に残っているのは、“もっと考えろ”と徹底的に鍛えられたことです。企画の芯をどう作るのか、人の想いをどう編集するのかという部分をかなり厳しく教えていただきました。当時は大変でしたが、今振り返ると、その経験が現在の仕事の土台になっています。
面白い仕事と働く環境の両立を目指す
会社立ち上げまでのキャリアを教えてください。
大学卒業後は東京の制作会社に就職し、広告代理店系の仕事に携わりました。その後、大阪・中之島にあるクリエイティブ会社「graf(グラフ)」へ転職。家具や展覧会、グラフィック、飲食など幅広い分野の仕事を経験しました。
grafで修行した後、イタリアのデザインスクールへの留学を考え、一度会社を退職し、語学の勉強や助成金への応募など、留学の準備をしていました。ただ、東日本大震災をきっかけに、周囲のクリエイターたちの働き方や環境が大きく変化していく中で、美術館関連の仕事などを依頼される機会が増え、独立することにしました。その後、しばらくフリーランスとして活動していたのですが、一緒に働いてくれていたスタッフの存在にも背中を押される形で、2018年に法人化しました。
一緒に働いてくれていたスタッフの存在はどのような形で後押しになったのでしょうか?
それまで働いてきたデザイン業界の中で、「やりがいはあるけれど、長く働き続けるのが難しい」という職場環境をたくさん見てきました。だからこそ、“面白い仕事をしながら、ちゃんと働き続けられる会社”を作りたいという想いで創業を決意しました。
想いの実現にあたり、苦労した点を教えてください。
やはり一番難しいのは、仕事量と制作体制のバランスですね。デザインの仕事は締め切りも多く、どうしても忙しい時期が重なることがあります。自分自身、以前勤めていた会社でかなりハードな働き方を経験してきました。だからこそ、「楽しいけれど、無理をしている」という状態にはしたくなかったんです。もちろん今でも大変な時はありますが、できるだけスタッフが安心して長く働けて、プライベートも大切にできる。そんな環境をつくっていきたいと思っています。
会社名の由来、込めた意味を教えてください。
「ねき」は、関西の古い言葉で「近く」「そば」といった意味があります。お客さまに近い存在でありたいという想いもありますし、人や場所、その背景にある想いに近づきながら仕事をしたい、という気持ちも込めています。
納品物以上に価値を生む。AIにはできない仕事

現在の事業内容について教えてください。
ロゴやパンフレット、Webサイト制作をはじめ、ブランディングや企画・編集など幅広く手がけています。最近では、顧客の視認性を高めて入店・購買を促し、店内での快適な移動をサポートしてブランドイメージを伝える設計をする店舗のサイン計画や空間に関わるグラフィック、展覧会関連の仕事なども増えてきました。案件によっては、建築や内装のチームと一緒に、トータルで関わることもあります。
今まで手がけてきた中で印象的な事例を教えてください。
印象に残っている仕事はたくさんありますが、福祉施設や保育園のパンフレット制作の仕事は特に印象深いですね。実際に現場へ何日も通って、職員さんにインタビューしたり、写真を撮ったりしながら、少しずつ制作を進めていきました。僕たちは、担当者の方だけではなく、現場の職員さんたちにも積極的に話を聞いたり、アンケートをお願いしたりしながら、現場全体を巻き込むような形で制作を進めていくんです。もちろん、納品物はパンフレットなんですが、つくること自体が目的ではありません。
「あなたたちは、こんなに素敵な姿で働いていますよ」ということを、デザインを通して伝えたいという想いがあります。完成したパンフレットを見た現場で働く人たちが「元気になった」「自分たちの仕事に自信が持てた」と言っていただいたことがありました。そういう瞬間は、本当にうれしいですね。
“制作物”以上の価値を生む仕事は、たぶんAIにはまだできないと思うんです。
“現場の温度”と“人との関わり”で相手の想いを掘り起こす

貴社の強み、他社と差別化しているポイントを教えてください。
やはり、ヒアリングや現場でのコミュニケーションを大切にしているところでしょうか。もちろん、イメージ、色味や字体といったデザインに必要な直接的な聞き取りもあります。しかし、それだけではなく、何気ない会話や現場で過ごす時間の中から、その人らしさや、その場所の空気感みたいなものが少しずつ見えてくることがあるんです。ただデザインをつくるというより、クライアント自身もまだ気づいていない想いや魅力を一緒に掘り起こしていく感覚に近いのかもしれません。そういう“現場の温度”を大事にしています。
AIが進化する時代に、“人との関わり”を大切にする理由を教えてください。
僕たちの仕事は、基本的にフルオーダーなんです。フルオーダーで作ろうと思った時、大事になってくる要素が3つあると感じています。一つはクライアントのユニークさをどれだけ丁寧にひも解けるか。二つ目は時代やタイミング、その時の世の中の空気感をどれだけ掴めるか。そして三つ目が、デザイナーとしての自分がどれだけ機能するかだと思うんです。分析したり整理することはAIでもできると思います。しかし、AIで制作するとなると、たぶん最後の一つのピースが埋まらない。信頼感や、一緒に悩みながら進めていく部分は、AIではなく、人と人との関係性の中で生まれるものだと思います。
“ドキドキ”できる瞬間をチームで。いい世界観をつくりたい

社内の雰囲気や、制作体制を教えてください。
現在は6人体制で、案件によっては外部のクリエイターともチームを組んでいます。
意見を出し合いながら、一つのものをつくっていく形が多いですね。最初にアイデアが採用された人もそうでない人でも関われるようにして、経験を積み重ねられる環境にしています。
株式会社ねきをどのような会社にしたいとお考えですか?また、スタッフの皆さんに求めていることを教えてください。
クライアントの皆さんと一緒に、世の中へ良いストーリーや想像力、世界観を届けていける会社になれたらと思っています。
スタッフには、いろんなことに“ドキドキ”していてほしいと思っています。お客さんの話を聞いてワクワクしたり、「これ、いいのできそうだな」と思ったり、「やばいアイデア思いついたかも」みたいな瞬間を、楽しんでほしい。ロゴ制作の仕事でも、「このアイデア、良すぎる。自分でも好きすぎる」という瞬間があるんです。もちろん、そこにたどり着くまではすごく苦しいんですけど、その達成感を味わうと、やっぱりやめられないんですよね。
結局、ものづくりって、そういう気持ちが一番大事だと思うんです。自分たちが面白がりながらつくっているものって、不思議と相手にも伝わるもの。だから、スタッフに求めることをひとつあげるなら、“ドキドキしてください”ですね。
今後、手がけてみたいお仕事はありますか?
最近は、美術館の展覧会や店舗ブランディングなど、空間全体に関わる仕事が増えてきました。ロゴやパンフレットだけではなく、その場所でどんな体験をしてもらうのかまで含めて考える仕事は、とても面白いですね。今後は、旅館やホテル、美術館など、世界観の全体をデザインできるような仕事にも、もっと関わっていきたいと思っています。
取材日:2026年4月27日 ライター:上野 典子
株式会社ねき
- 代表者名:坂田 佐武郎
- 設立年月:2018年6月
- 資本金:200万円
- 事業内容:グラフィックデザイン業務(ロゴマーク・書籍・商品パッケージ・パンフレット・ポスター・リーフレット・ショップカード、名刺・会場、店舗内のサイン・POP・ウェブサイトなど)、写真撮影(人物撮影・雑誌等の店舗取材撮影・イベントや展覧会等の空間の撮影・商品撮影など)、出張撮影(家族写真の出張撮影・ポートレートの出張撮影)
- 所在地:〒606-0862 京都府京都市左京区下鴨本町12 カワミビル301
- URL:https://www.neki.co.jp/
- お問い合わせ先:075-708-3691






