「自分が作りたいもの」ではなく「顧客がほしいもの」を。地域密着で成長するIT企業の経営哲学
2004年、高知県出身の髙橋 庸正(たかはし ようせい)さんは、沖縄でIT通信株式会社を設立。人脈ゼロからのスタートだったものの、地域とのつながりを大切にしながら、Web制作、システム開発、DTPと事業を拡大し、20年以上にわたり沖縄のIT業界を牽引してきました。その成功の鍵は「自分が作りたいもの」ではなく「顧客がほしいもの」を追求する姿勢にありました。
大阪から沖縄へ、人脈ゼロからの挑戦
どのような経緯で沖縄に会社を作ることになったのでしょうか?
高知県出身で、高校卒業まで高知におり、大学生になる時に、大阪へ進学しました。私は、中学生の頃からコンピューターが好きで、高校生の時には惑星の軌道計算ができるプログラムを作るなど、かなりマニアックな学生だったと思います。大学生の頃は学業よりもプログラミングに夢中で、知人から時折仕事をもらっていたのですが、あくまで趣味の延長でした。本腰を入れるわけでもなく、楽しみながら好きなことだけをしていました。
しっかり仕事として取り組むようになったのは、沖縄に来てからです。その頃お付き合いしていた女性がいて、「沖縄に来てくれなければ別れる」といわれ、何の計画も持たないまま彼女を追って沖縄に移住することになりました。「プログラミングさえできればなんとかなる」と思い込んでいたのですが、営業も経営も未経験でしたし、何のコネクションもない沖縄では、当然、簡単に仕事には結びつきません。そこで、沖縄産業支援センター内で働いていた大学の先輩を訪ね、産業振興社のサポートを受けながら起業することにしたのです。
積極的な人脈構築が事業の転機に
それから、どのように事業を軌道に乗せていかれたのでしょうか?
沖縄産業支援センターという施設で机一つから始めたのですが、最初の数カ月はまったく仕事が取れませんでした。センター内の本部があった沖縄県中小企業家同友会の方から「まず『中小企業家同友会』に入って経営を学び、人付き合いをしなさい」とアドバイスをいただき、若手経営者の集いに参加したり、研修を受けたりしながら、経営に必要なことを一から学びました。
同友会に入ったことで知人も少しずつ増え、県内のさまざまな企業を訪問していくうちに「ホームページを作ってほしい」「システムを一緒に開発したい」とご依頼をいただけるようになりました。また、沖縄では「酒席」というものが、仕事をする上でとても大事なのだと教わり、頻繁に顔を出すようにもなりました。いずれにせよ、沖縄では人とのつながりが何より重要だと痛感しました。

顧客ニーズに応える経営で事業を拡大
今ではWeb制作はもちろん、システム開発からデザイン、DTP(印刷物のデータ作成)まで幅広く手がけられています。どのように事業の幅を広げていったのでしょうか?
お客さまからの要望に応える形で事業を広げてきました。こちらから積極的に提案するというより、「これをやってほしい」と言われ、未経験の分野でも挑戦してきた結果です。逆に、「こんなものがほしいだろう」とか「こんなものを作りたい」と、自分の頭で考えた製品はまったく売れませんでした。
例えば、Webをシステマチックに作る仕組みや、クラウドPBX(内線、外線、転送などの電話システム)の前身のようなものを自発的に開発しましたが、時代が早すぎたのか不安定だったのか、市場に受け入れられませんでした。このような失敗から、「人がほしがるものを作る」という方針に転換し、顧客のニーズに応えることで、普遍的な需要が見えてくると気づいたんです。

成功例としてどのようなものがありますか?
CTIシステム(Computer Telephony Integration 電話機能とコンピュータシステムを連携させる技術)が挙げられます。きっかけは、中小企業家同友会の飲み会の場で、沖縄の建設機械レンタル業を営む企業の方から「電話がかかってきた時に、顧客情報がポップアップする仕組みがほしい」という話を聞きました。
すぐに着手し、2週間でテスト版、1カ月で実用レベルのシステムを完成させると、その噂を聞きつけて複数の企業から問い合わせがきたのです。導入した企業からは「コストカットや効率化にとても役立った」と喜ばれています。
20年継続の秘訣は「地域貢献」への強い想い
沖縄のIT業界で20年以上事業を運営されていますが、長く継続できた秘訣を教えてください。
「地域やお客さまの役に立つものを提案し続けること」を大切にしてきた結果だと感じています。利益を追求するだけではなく、地域や人々の暮らしに役に立って喜んでもらえる事業であることを、何より重んじています。
例えば、弊社の所在地である沖縄県南風原町(はえばるちょう)でふるさと納税の運営管理を行っていますが、事業者さんを訪問した際に「注文が多く入って売上が伸びた」と伺うことなどが、大きなやりがいにつながっています。
そのほか、会社運営において特に心がけていることはありますか?
とにかくお客さまの話を聞くことを徹底しています。経営者の考えと現場の実情が異なることも多々あるため、開発時には経営者だけでなく、現場の方々からも根掘り葉掘り話を聞く必要があります。以前、クライアントの多忙を理由に、十分にヒアリングの時間が取れず、満足のいくシステムが作れなかったという痛い経験があるので、無理をしてでも必ず聞き取りを行うよう努めています。
社員の成長を促す「任せる」マネジメント
社員のマネジメントなど、社内で何か大切にしていることはありますか?
さまざまなサービスを同時進行させていますので、それぞれを得意とする社員が分担しています。どれも私から指示を出さずに、社員の主体性に任せており、むしろほったらかしに近いかもしれません。
この社風は、かつての失敗から学んでいます。会社設立当初は細かく指示していたのですが、ある時私が社外の用事で忙しくしていたため、Web制作を任せざるを得ない状況になってしまいました。その結果、社員が自力で制作した部分は最適解とはいえないものの、申し分ない出来栄えでした。もし私が手を出してしまっていたら、社員の成長はなかったと気づいたんです。今では私よりはるかに上手に作れるようになりました。
経営者の枠を超えた、多様な社会活動の原動力とは?
沖縄の中小企業のIT経営を支援するNPO法人・ITコーディネータ沖縄の代表や、南風原町観光協会の会長など、会社事業以外でも幅広く活動されていますね。その原動力を教えてください。
基本的には頼まれて引き受けることが多いですが、「私なら改善できるかもしれない」と少しでも思える案件であれば、喜んでお手伝いしています。
例えば、南風原町観光協会の活動として、商品開発をしたことがあります。南風原町は絣(かすり)の産地なのですが、ウルトラマンの生みの親の一人といわれる金城哲夫さんの出身地でもあります。この二つの大きな観光資源を組み合わせ地域の誇りを形にしたいという思いから私が実行委員長となり、南風原町観光協会と琉球絣事業協同組合が連携し、円谷プロダクション監修のもと、3年かけて開発を進めました。完成すると、新聞やテレビでも取り上げられ、大きな反響を呼びました。

もう一つの大きなモチベーションが、「沖縄のために何かしたい」ということです。学生時代の友人には偶然にも沖縄出身者が多く、彼らを通して、沖縄がたどってきた大変な歴史や、本土と沖縄の間にあった歴史的な経緯を知り、ある種の贖罪(しょくざい)意識を抱くようになりました。
沖縄で会社を経営していると、本土出身者だからと叩かれることもありますが、それは仕方のないことだと受け入れています。だからこそ、ITという、自分が最も力を発揮できる分野で役に立ちたいと強く思います。
生成AI活用で沖縄企業の競争力向上を目指す
今後の事業展開についてお聞かせください。
これまでお客さまからアイデアをいただく形で事業を展開してきましたが、長くお付き合いのある企業に限定され、どんどん幅を狭めてしまっていたと反省しています。そのためにも、代表を務めている「ITコーディネータ沖縄」での活動などを通じて、DX計画策定の支援を含めて、より多くの企業の課題解決に関わっていきたいですね。

沖縄のIT業界を長年牽引してこられた企業として、今後目指すことはありますか?
生成AIの活用が大きな分岐点になると考えています。使いこなせるかどうかで、企業の競争力が大きく変わってきます。次年度は、内閣府の中核人材育成事業の受託に挑戦し、中小企業が生成AIを社内で実践的に使用できる研修プログラムを提案する予定です。このような新しい技術は、沖縄の中小企業が本土の大企業と対等に戦える武器になり得るはずです。
最後に、御社で働きたいという方にどのような人材を求めますか?
人格、知識、スキル、すべてを兼ね備えた人は滅多にいません。だからこそ、いろいろなでこぼこがある人たちが、それぞれの力を発揮し合える会社でありたいんです。「自分がナンバーワンだ」と思える得意分野を持っていて、自律的に動けるような方と協力しながら、いろいろな人が働きやすい環境を作っていきたいですね。
取材日:2025年12月15日 ライター:仲濱 淳
IT通信株式会社
- 代表者名:髙橋 庸正
- 設立年月:2004年7月
- 資本金:300万円
- 事業内容:コンピュータシステム及びソフトウェアの開発、販売、保守・Webサイトの企画、制作、運営・広告宣伝及び販売促進並びに印刷物に関する企画、制作、実施
- 所在地:〒901-1111 沖縄県島尻郡南風原町字兼城123 POPビル4F
- URL:https://www.it-tusin.com/
- お問い合わせ先:098-882-6103






