“社内完結”の体制で、企画からデザインまで
グラフィックデザインを軸に、ブランディングからWebやオンラインショップ構築まで幅広く手掛ける京都の有限会社コイズミデザインファクトリー。代表取締役・小泉 達治(こいずみ たつじ)さんは、24歳で独立して以来、バブル期の追い風やデジタル化の波を力に変え、BtoB・BtoC双方のプロジェクトを展開。すべてを社内で完結できる体制を確立し、常に新たな挑戦を続けています。これまでの歩みと、未来へのビジョンをうかがいました。
週末アルバイトから広がったデザインの世界。若くして独立し、バブル期に仕事を拡大
会社立ち上げまでのキャリアを教えてください。
嵯峨美術短期大学でインテリアデザインを学んだ後、アパレル向けのグラフィックデザインを手掛ける会社に就職しました。当時は京都や大阪、神戸にアパレル企業が多かった時代。そこで3年半ほど勤務し、ブランディングや商品づくりなどさまざまなことを勉強させてもらいました。Tシャツのイラストやニットの刺繍、タグや下げ札といった洋服まわりのデザインを担当したことが、後の仕事の土台となっています。
有限会社コイズミデザインファクトリーを設立したきっかけを教えてください。
社会人になって2年半ほど経った頃、大学時代の友人に誘われて、週末にデザイン会社でアルバイトを始めました。そこで幅広い仕事に携わり、やがて外注の依頼をいただくように。広告やパッケージをはじめとするグラフィックデザインの案件が増え、1年後には会社の仕事と両立できなくなってしまい、独立に踏み切りました。
アパレルに限定されていた会社勤めとは違い、アルバイト先のデザイン会社では多様な業種の仕事に携わることができ、大きな刺激になりました。もちろん当時はまだ若く、「お小遣いがほしい」という気持ちもありましたが(笑)、それ以上に世界が広がった感覚がありました。まだデジタル化が進む前の話です。
独立後の仕事は順調でしたか?
以前の会社で、アパレルメーカー「WORLD」を担当していたんですが、そこから直接、私に仕事の依頼がありました。
当時は、同業他社さんも外注先に困っていたようで、気がつけば私のところに依頼が集まるようになっていました。ちょうどバブルに向かっていく時期でもあったので、仕事はいくらでもありましたね。
デジタル化も他社と比べてとても早かったそうですね。
はい。24歳で独立して、26歳くらいの時にマッキントッシュが登場してきたんです。当時は日本語対応が十分でなく、多くの会社が見向きもしませんでしたが、うちは英語(アルファベット)のデザインが中心だったので、マックは相性がよく、「これは使える」と思いました。
当初は1セット300万円程度ととても高価でしたが、価格が下がって50万円を切った頃、思い切って1人1台の体制に。デジタル化の波に乗り遅れたデザイナーは淘汰され、それがまた追い風になりました。デジタル化で仕事のスピードが一気に上がり、どんどん案件をこなせるようになりましたね。とはいえ、当時の社員はまだ4~5人。毎日めちゃくちゃ忙しかったです。それでも「仕事を確保しておかないと、いつ途切れるか分からない」という不安が常にあったので、依頼があればすべて受けるスタンスでした。
当時、苦労した点を教えてください。
バブルで景気が良かったこともあって、仕事はどんどん入ってきました。ただ、社員は4人ほどしかいなかったので、量をこなしながら納期を守るのが本当に大変で。外注したこともあったんですが、クオリティーやコストの面でなかなかうまくいきませんでした。それならいっそ「全部うちでやろう」と考えるようになり、撮影やイラスト制作まで社内で完結させる体制をつくりました。外注管理の煩わしさもなくなり、その頃から「何でも社内でやってしまおう」というスタイルが定着していったんです。
モノづくりから販促まで一気通貫。企業のブランディングを支えるパートナーに

2019年に東京オフィスを設立されていますね。東京に進出されたいきさつを教えてください。
さまざまな仕事を通じて、“東京だからこその仕事の多さ”を実感しました。さらに長男が東京の写真スタジオに就職し、毎日芸能人が出入りする現場に立ち会う姿を見て、東京だというだけで経験できる仕事の違いを強く感じたんです。
京都で仕事を続けることが“井の中の蛙”のように思えてきて、「一度は東京に出てみよう」と決断し、東京オフィスを設立しました。
スタッフは全員女性とのことですが、何か理由はありますか。
これまで男性スタッフを雇ったことがないんです。独立当初は時代的にも男女平等の意識が今ほどなく、家族の生活を支える立場にある男性を雇うことに勇気が持てませんでした。ただ続けていくうちに、デザインという仕事は女性の感性に合っていると感じるようになったんです。コンペで他社と並ぶと、よそのデザインとは明らかに違う。美大や専門学校でも女性が圧倒的に多いですし、女性ならではの美的感覚から生まれる“何か惹かれるデザイン”こそ、うちの強みだと思います。
長年手掛けている印象的な事例を教えてください。
“手芸”と“ゴルフ”は30年以上続けているテーマです。手芸用品の販売などを手掛けている京都の株式会社ハマナカさんとは35年来のお付き合いで、月刊誌や商品企画、ステンシル・羊毛フェルトのキットデザイン、パッケージ、販促物まで幅広く手掛けてきました。
一方ゴルフは、ファッションブランドの仕事をきっかけに京都のゴルフクラブメーカーとつながり、クラブやキャディバッグ、小物、販促物、ネットショップまでトータルでデザインを任されました。
手掛けた多様な仕事がリンクし、すべてが自社のオウンドメディアへ

「他社には真似できない」御社の強みは何でしょうか?
デザインには2種類あって、例えばゴルフクラブのように“モノ自体をつくるデザイン”と、それを売るためのWebページやカタログのような“販促のデザイン”があります。うちはその両方を手掛けていますが、これはなかなか他社にはない特徴だと思います。
すべて社内で完結できるので、お客さまにとっては手間もコストも抑えられるし、企画段階のイメージがエンドユーザーに届くまでブレない。外注するとパッケージ、ロゴ、Web……と6〜7人ものデザイナーが関わることもあり、一気通貫は難しいんです。その点が、うちならではの強みですね。
自社のオリジナルサービスとして、柄の販売サイトやトートバッグのブランドも展開されていますね。
もともとテキスタイルデザインをしていたので、依頼に応じて描きすぎたあまりの柄がたくさんありました。それを商品化しようと始めたのが、メーカーやアパレル向けの柄販売サイト「garafactory.com」です。さらに「その柄を実際の商品に落とし込んだら面白いのでは」と立ち上げたのが、トートバッグを扱う「tote×tote」。こちらは一般ユーザー向けのBtoCです。
この二つのサイトで、ひとつの柄をBtoBとBtoC両方に展開できるモデルを実現。オンラインショップのデザインやSNS運用まで自社で担っているので、取り組み自体がうちでできる仕事の“ショールーム”となり、クライアントに強みを示せるようになりました。現在は、オンラインショップ構築や柄を使った商品デザインに加え、トートバッグの卸売まで依頼が広がっています。
AIという第3の波を味方にして、未来のデザインを切り拓く

これからやっていきたいこと、将来のビジョンなどをお教えください。
デジタルコンテンツの増加にともない、広告を出して商売をしたいと考える企業が、かえって迷ってしまう時代になりました。助成金が出ると聞いては効果の薄い施策にお金を使ってしまったり、インフルエンサーやYouTuberを起用しても成果につながらなかったり……。実際、大半がうまくいっていないのが現状です。
だからこそ、そうした企業に最適な方法論を示せる存在になりたい。お客さまの課題や思いに耳を傾け、的確な広告をご提案できるよう、さらに力を入れていきたいと思っています。
一緒に働くクリエイターに対して、会社としてどのようなことを求めますか?
うちで働く人には、“デザインという仕事で一生食べていきたい”という強い思いを持ってほしいですね。事務所としてバックアップやサポートはしますが、自分の人生をこの仕事で成り立たせる覚悟がなければ、向上心も生まれないし勉強もしなくなる。常に学び続けなければ、この仕事を続けることはできないと思っています。
そして今はAIの時代。デジタルやインターネットが広がった時と同じように、AIは“第3の波”だと考えています。排除するのではなく、より良いものをつくるために使いこなすことが大事。AIをどう武器にできるかで、5年先、10年先の未来は大きく変わってくるはずです。
取材日:2025年9月22日 ライター:上野 典子
有限会社コイズミデザインファクトリー
- 代表者名:小泉 達治
- 設立年月:1990年7月
- 資本金:300万円
- 事業内容:ロゴやシンボルマーク、パンフレット、ポスター、パッケージ、会社案内や学校案内、週刊誌や月刊誌、機関誌、広報誌などの編集・デザイン、ホームページ制作、オンラインショップ構築・運営、SNSやブログの発信、企業やプロジェクト、商品のブランディング、新商品や新ブランドの企画、製品自体のプロダクトデザイン、ビジネスにあわせたデザイン戦略やコンサルティングほか。
- 所在地:
<京都オフィス>
〒600-8898 京都府京都市下京区西七条東御前田町7-1 ソレアード西大路五条1F
TEL:075-874-5062
<東京オフィス> 〒151-0051 東京都渋谷区千駄ヶ谷3-55-12 ヴィラパルテノン2A
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