職種その他2019.04.10

VRを、教育の領域へ。

名古屋
イクスアール株式会社 代表 CEO 蟹江 真 氏  COO 小池 健輔 氏
ヘッドマウントディスプレイの装着によってこれまでにない体験を人々にもたらす「VR」。そのVR技術を教育や訓練の領域に活用するプロジェクトで業界に新風を吹かせるのがイクスアール株式会社です。この春に自社サービスをリリースする同社CEOの蟹江真(かにえまこと)氏とCOOの小池健輔(こいけけんすけ)氏に、VRの可能性やVRの世界に“新たな感覚”を付加する試み、クリエイターへのメッセージなどを伺いました。

世界が変わるほどの衝撃を受けたVRの初体験。

小池さん

VRに出会うまでのビジネスキャリアを教えてください。

蟹江さん:私は高校を1年で中退し、IT系のベンチャーで社会人としてのキャリアをスタートさせました。今で言うフィールドエンジニアのようにお客様企業に出向いてITインフラの構築やプログラミングの経験を積みました。そこで3年ほど勤めた後に、フリーランスとして独立。さらに数年後には自分の会社も設立したのですが、リーマンショックによって事業の継続が難しくなって会社を譲渡。フリーランスに戻った頃にVRと出会い、それがイクスアール立ち上げにつながりました。

小池さん:私は美術系の大学を出て、デザイン事務所に就職しました。もともとは平面のデザイナーなのですがウェブ部門の責任者に抜擢されたため、試行錯誤しながらウェブサイトの制作ノウハウを学んでいきました。その後にウェブ制作会社やマーケティング会社への転職を経験し、培ってきたノウハウをもとに独立。マーケティングディレクターとしてお客様の売り上げ向上支援を行っている頃にVRと出会いました。

VRを初めて体験した時の印象はいかがでしたか?

蟹江さん:私は豊橋で開催されたオキュフェス(現在のJapanVR Fest)でVRを初めて体験。「世界が変わる!」ほどの衝撃を受けたのをよく憶えています。視界が別のものに変わり、その世界に入り込む感覚。ありとあらゆることに驚きました。それからはVRのことしか考えられない状態になり、誰かと会うたびに「これを自分の仕事にしたいんです!」と話すようになりました。

小池さん:私は国内初のVRゲームソフトが発売されたのを機にVRを観るための機材を購入しました。しかし、正直「期待はずれ」という印象だったんです。数十万円もの費用をかけたものの「これではいけない」という部分が山積みで、もはやネタにするしかないと感じていろんな方にVR体験をしてもらうようになりました。そうしていくうちに、「これではいけない」が「こうしたらもっと良くなるのに」にシフトしていきました。最初の失望感が、結果として自分を突き動かすモチベーションになったんです。

2人が出会い、会社を立ち上げることになったいきさつをお聞かせください。

蟹江さん:名古屋でVRの開発を行っている共通の知人から紹介を受け、そこから相談し合う間柄になりました。私は映像プロデューサーや人材広告のプロデューサーと「BOX VR」というユニットを立ち上げてVRコンテンツの受託開発を行っていたのですが、2017年11月に東京ビッグサイトで行われた国際ロボット展への出展を機に「仕事としてもっと大きくしていきたい!」と小池に相談をもちかけました。

小池さん:蟹江から相談を受けて私が感じたのは「下請けのVRコンテンツ制作会社に甘んじては意味がない」ということでした。私たちがVRのことを一番よく知っていて、VRの未来を誰よりも思い描いている。それなら、自分たちがプロジェクト自体を立ち上げ、取り仕切り、日本のVRを前進させる立場になるべきだと蟹江に伝え、ともに起業することになりました。

「トレーニングVR」の技術でVRの世界に『触覚』をプラスする。

小池さん

社名「EXR(イクスアール)」の由来を教えてください。

蟹江さん:この業界にはVR(バーチャル・リアリティ)、AR(オーグメンテッド・リアリティ)、MR(ミクスド・リアリティ)などの技術があるのですが、総称して「XR」と呼んだりします。Xとは「未知なるもの」という意味合いです。この「XR」に拡張性を意味する「EX」を付加したのがイクスアールの由来です。

小池さん:私たちは特に経験(EXPERIENCE)を大切にしているため、XRの領域と経験を掛け合わせた存在であるという意味も託しています。

起業からもうすぐ1年。この1年はどのような動きをされていたのでしょうか?

蟹江さん:この春に自社サービスをリリースするため、その開発や準備を進めてきました。そのサービスは「トレーニングVR」というもので、第1弾は魚を捌く映像をVRコンテンツ化しました。このトレーニングVRを観ることで、今まで魚を扱ったことのない人が魚を捌く作業手順を的確に覚えることができます。

小池さん:当社のトレーニングVRが他と大きく異なる点が『触覚』にあります。実際に作業する際の指の感覚を記録し、それを再生する技術によって「まるで自分自身が作業を行っているようなリアルな体験」をすることができます。この技術により、作業を覚えるスピードや精度が劇的に高まると考えています。

トレーニングVRの普及によって、世の中にどのような変化が生まれるのでしょうか?

蟹江さん:トレーニングVRによって、人から人への教育や訓練が大きく変わると考えています。現在に比べ、時間や場所の制約を圧倒的に小さくできるからです。今回は第1弾として魚を捌く映像のVRコンテンツ化を行いましたが、これはありとあらゆる教育や訓練に応用できます。たとえば、熟練工の手仕事をVRコンテンツ化することでその技術をアーカイブし、若者に伝えることも可能です。

仕事を覚えるための時間や負担を劇的に減らすことができれば、それは「仕事の流動化」にもつながります。技術を次々に身につけることで次の仕事に就きやすくなるため、職場の人間関係の悩みや転職の悩みの軽減にも貢献できると考えています。

何もない。だから、可能性や喜びに満ちている。

御社の強みを教えていただけますか?

小池さん:イクスアールの強みはさきほど話した教育・訓練の分野にあるのですが、それ以外に「ロボティクスにも強い」という一面もあります。蟹江が国際ロボット展で手がけた「マルチモーダルAIロボット」のプロジェクトは人間の動きをロボットにトレースさせるというものなのですが、教育・訓練の分野で得られた知見をもとに、身体機能の拡張、たとえば「3本目の腕」の開発なども可能だと考えています。

蟹江さん:また、以前は産業用ロボットと人が一緒に作業を行うことは危険が伴うため避けられてきましたが、ロボット市場も変化して「協業ロボット」の開発も進んでいます。その分野にもイクスアールの知見や技術を活かすことができます。

2人が仕事で心がけていることを教えてください。

小池さん:「この課題解決には、VRが本当に必要なのだろうか?」ということを常に考えるようにしています。課題解決のためにVR以外の方法の方が適切だと感じる場面も実際にあるため、VRにする意味や意義がある仕事だけに注力することを心がけています。
あと、VRはこれから急激な発展期を迎えます。すごく面白い時期ではあるのですが、その波に乗るためにはビジョンと数字のバランスが大切だと考えています。夢を大きく語って熱を伝播し、それをきちんと数字に落とし込むことで説得力に変えることを意識してビジネスを行っています。

蟹江さん:私は働き始めた頃からずっと「自分自身が楽しまなければ、そもそも仕事をやる意味がない」と考えてきました。そして「仕事を楽しむためには周りを大切にしなければいけない」ことを学んできました。楽しい環境をどうやって生み出し、それをどう維持していくのかを日々考えていますし、身近な人はもちろん「世の中全体をどう楽しませるか」という部分もとても大切にしています。

最後に、クリエイターへのメッセージをお願いします。

小池さん:自分の中の「好き」や「楽しい」という感情に正直になってほしいと思います。子どもの頃はきっと、自分が好きで絵を描いたり積み木をしたりとクリエイティブなことを行っていたと思います。しかし、社会に出たとたんに「目標」も「やるべきこと」もすべて会社から与えられ、それをベースに動くことに疑問を感じない人がとても多いのが残念です。ある美術大学の広告に「かつて天才だった自分をとりもどそう。」というキャッチフレーズがあるのですが、クリエイターはその想いで仕事に取り組んでほしいなと感じます。自分の根幹たる「好きなもの」「楽しいもの」を見つけ、同じものを共有できる仲間と出会うことで、苦難があっても乗り越えられるクリエイターになれると信じています。

蟹江さん:私たちが熱中するVRは、触覚はもちろん空気や重力すらない「何もない」ところから何かを生み出していく世界です。何もないからこそ、自分たちが思い描いたイメージを具現化する喜びや可能性に満ちています。「VRを体験してみたい!」「VRを作る側になりたい!」そんなクリエイター仲間がこれからどんどん増えていくことを、とても楽みにしています。

取材日:2019年2月14日

イクスアール株式会社

  • 代表者名:蟹江 真(CEO)/ 小池 健輔(COO)
  • 設立年月:2018年3月
  • 資本金:50万円
  • 事業内容:VR及びAR技術を用いたコンテンツの企画・設計・開発・運用
  • 所在地:〒453-0002 愛知県名古屋市中区名駅4丁目3番10号 東海ビル307
  • URL:http://exr.co.jp
  • お問い合わせ先:上記HP「お問い合わせ」より
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