子育て中でも、思い切り働ける世界を。テレワークで拓く“ママたちの可能性”
新潟県三条市で「働きたくても働けない」女性たちの声に耳を傾け、在宅テレワークの仕組みを築いたのが、株式会社マドンナ・ワークスの代表・石本 史子(いしもと ふみこ)さん。自身の原体験と失敗を糧に、働き方の選択肢を広げ続ける石本さんの歩みには、これからの“地域と女性の働き方”のヒントが詰まっていました。
ママたちの力を生かしたい。そう思ったきっかけとは
会社立ち上げの経緯を教えてください。
大学卒業後に就職し、その後イタリアへ留学。帰国後、新潟に帰郷しました。2012年ごろから、三条市の「みんなのまち交流拠点 みんくる」でマネージャーとして施設運営を担当するようになりました。それまでにダブルワークを含めて14回の転職経験がありましたが、会計業務はこのときが初めて。さらには物件探しや消防法を学んで建物の構造まで勉強して……。会計に関しては、商店街の方が担当してくれたところもあるのですが、人を雇うとなると自分でも分かっていないといけない。すべてが手探り状態で始めてみたところ、労務や経理の仕事が自分にとても合っていると感じたんです。
その経験を経て、起業を決意されたのですか?
少し違いますね。施設の運営経験ももちろんありますが、実際には「出会い」が大きかったです。この施設は日中に開いていたため、利用者は主にご年配の方や子育て中のママが中心でした。そこで気づいたのが、「子育て中のママにはとても優秀な方が多い」ということ。でも、子育てをしているというだけで企業にはなかなか採用されにくく、結果的に子育てしかない環境になってしまっている。それがとてももったいないと感じたことが、起業のきっかけです。
挑戦と挫折、そして再スタートへ
そこから具体的にどう動き出したのですか?
もったいないと気づいたのが2015年ごろでした。どうすれば彼女たちの力を生かせるかを考えた結果、テレワークなら子育て中のママでも働けるのではと思ったんです。15分でも1時間でも、毎月少しずつ積み重ねていけるのではないかと。
そして、2016年に一般社団法人を立ち上げました。ただ、当時はテレワークという概念がまだ一般的ではなく、仕事を取ってくることも難しかった。そのため、市からの支援も打ち切られてしまって……。
そこで諦めることになったのですか?
いえいえ、逆です。先ほどもお話しした通り、私は14回も転職しているような人間です。チャレンジ精神、好奇心が旺盛というか……。「誰にも縛られず、自分の思う働き方をゼロから始めよう」と思い立ったんです。
そして、約1年の準備期間を経て、株式会社マドンナ・ワークスを立ち上げました。
自身のスキル向上を図った起業準備期間
準備期間中はどのようなことをされていたのですか?
テレワークを中心とした会社を立ち上げるための準備です。まずは自分自身がテレワークを実践してみたり、東京の会社で個人情報保護のセキュリティーについて教える講師をしたりしました。また、テクノロジー業界における女性の地位向上と多様性の促進を目的とした「マイクロソフト・ウィメンズ・エンパワメント・ジャパン2018」に参加したほか、オフィスで働く女性が日常業務を自動化するためのRPA(Robotic Process Automation)ツールを学び、働き方改革やIT人材としての成長をサポートする「RPA女子プロジェクト」に参画したりもしました。当時1歳になる子どもを連れて、いろいろな場所へ学びに行きましたね。
時間はかかりましたが、なんとか立ち上げることができました。
今お話しされた準備期間の中で最も印象に残っていることは?
「マイクロソフト・ウィメンズ・エンパワメント・ジャパン」や「RPA女子プロジェクト」は私にとって大きかったと思います。ここで出会った方々の中には、今も一緒にお仕事をしている方がいますし、現在の仕事のベースになることを数多く学べた機会だと思っています。
直感と信頼で作るチーム。働くハードルを下げることが働きやすさにつながる
現在の事業内容を教えてください。
主に情報セキュリティー関連のリモートワークが多いです。それに加えて、ライティング業務や企業のバックオフィス全般の請負なども行っています。
クライアントはどのようなところが多いのですか?
地元・三条市の企業もありますが、基本的には全国各地です。私は「100万円の仕事が1件あるより、5万円の仕事が20件あるほうがいい」と考えています。売上が同じでも、5万円の仕事のほうが内容的にハードルの低いことが多い。そうすれば、子育て中のママにも仕事を紹介しやすく、みんなでシェアしやすい。働くハードルを下げることが、働きやすさにつながると考えています。
現在のスタッフ構成は?
正社員が3人、業務委託が4人。時期によって変動しますが、そのほかに5人ほどです。当初は子育てママが中心でしたが、現在は男性スタッフにもお仕事をお願いしています。「今までの職場や」や「準備期間中」に出会った方、仕事を通じて知り合った方など、私が「この人に仕事をお願いしたい」とビビッと感じた方にお声がけしています。
経験と柔軟性が武器になる。強みは「専門家としてスタートしていないこと」
御社の強みはどのような点ですか?
ブルドーザーのように物事を強引にでも推し進められるスタッフが、私以外にも2人います。やったことのないジャンルでもものおじせずに取り組める。そして、その後を整えてやり方を構築していけるスタッフもいる。このバランスがあるからこそ、企業からどんな相談をいただいても対応できるのが強みです。
あとは、良い意味で専門家としてスタートしていないこと、でしょうか。
それはどういうことですか?
私が労務や会計を始めたときは素人でした。うちのスタッフも専門的知識を持ちながら、新しい仕事に取り組むたびに新たな知識を吸収しています。常に学びながら、技術やツールを使って自分なりの取扱説明書を作っていくんですね。そうして積み上げた経験をもとに、「この場合はこのソフトがおすすめ」「御社の規模なら有料プランは不要です」といった実践的なアドバイスができるんです。
何事も実践を通して学んでいるのですね。
そうですね。だから、サラリーマンは向かないんだと思います。仕事のやり方が合わない上司の下に付けば不満を感じてしまいますし、一方で感覚が合う方ならとことん尽くすというか。一に対して十で返したくなる。私自身、実践を通して学んできたからこそ、自分なりのスタイルが構築されてきたんでしょうね。
「効率の良い働き方ができるママたちを増やしていきたい」。“楽しい”を一番に
これまでのお仕事で印象に残っているものはどんなものですか?
すべてのお仕事が印象に残っていますが、クリエイティビティーという点でいえば、会社の基盤を作るお仕事ですね。例えば、ベンチャー企業のバックオフィスを任せていただいたときを例に話をしますね。
その会社は経理がずさんで、給与計算すら間違っているような始末。そのため、今後会社をより大きくすることを見据え、規則から見直したり、税理士さんと連携して多角的にアドバイスをしたりしていきました。根本の仕組みづくりから関わったことで無事、その会社は好転し、売上を伸ばしていきました。
こういった大本から携われる機会はなかなかないので貴重な体験となりましたね。
今後の目標を教えてください。
会社としては、本来であれば中長期的な目標を立てたほうがいいのかもしれませんが、私は計画を立てるのがあまり得意ではなくて……。それよりも、自分自身や関わってくれている人たちが「楽しい」と思えることを大事にしています。抽象的な言い方になりますが、「1日中働いている人と同じ金額を、私たちは4時間の業務で得ています」というような、効率の良い働き方ができるママたちを増やしていきたいですね。
取材日:2025年4月30日 ライター:コジマ タケヒロ
株式会社マドンナ・ワークス
- 代表者名:石本 史子
- 設立年月:2018年10月
- 資本金:50万円
- 事業内容:情報機器、システムを媒体とする業務代行/テレワークに関するコンサルタント業/ライフワーク支援のための情報提供サービス
- 所在地:〒951-8068 新潟県新潟市中央区上大川前通7番町1230−7 ストークビル鏡橋 7F
- URL:https://www.madonna-works.net/
- お問い合わせ先:info@madonnaworks.com
- 電話番号:050-1720-6626