WEB・モバイル2025.06.04

地方でも、女性が“自分らしく働く”を叶える会社へ  ——震災を機にUターン、地方発ブランディングカンパニーの軌跡

愛媛
株式会社ミシェル 代表取締役
Kurumi Yokota
横田クルミ

株式会社ミシェルは、企業のブランディング戦略の策定から、施策の実行領域までを一貫して支援する愛媛のブランディング企業です。代表の横田クルミさんは、香川銀行や株式会社リクルートでのキャリアを経た後、四国に戻り起業。女性中心の柔軟なチーム作りを推進しながら、国内外での事業展開に挑むその軌跡と、ビジョンについてお話を伺いました。

成長を信じて“挑戦できる道”を選び続けた20代と、ブランディングとの出会い

まず会社立ち上げまでのキャリアについて教えてください。

新卒で社会に出たときに考えていたのは、「あえて、自分が選ばなさそうな環境に身を置いてみよう」ということでした。自分の可能性を広げるには、得意なことや好きなことよりも、“不似合い”なことに飛び込む方が成長につながると信じていたからです。

そうした考えのもと、最初に選んだのは銀行。正直、金融業界や銀行は自分にとって未知の世界でしたが、だからこそ人生経験として飛び込む価値があると思いました。

その後は、自分が「苦手そう」と思っていた“営業”に挑戦するためにリクルートへ。四国・北関東・東京と拠点を移しながら、営業活動だけでなくチームマネジメントや人材育成にも携わることができました。おかげさまで、個人・組織ともにMVPを受賞し、最年少で営業所長に就任するなど、貴重な経験を積むことができました。

この時期、多くの企業と向き合うなかで、「魅せ方や伝え方を工夫するだけで、いい商品やサービスはもっと多くの人に届き、企業の価値も高まる。」と強く感じるようになり、ブランディングという分野に関心を持つようになったんです。


「このままでいいのか?」——震災で見つめ直した働き方と暮らしの

 

東日本大震災は横田さんにとって転機だったのだとか。

はい。当時は東京本社に勤務していて、あの日はビルの37階にいました。ものすごい横揺れで、「このまま崩れるんじゃないか」と本気で思うほどの揺れでした。咄嗟に母に電話をかけたのですが、香川にいる母は地震のことをまだ知らず、「今忙しいから」と電話を切ってしまって……。私は「もしかしたらこれが最後の会話になるかもしれない」と思っていたので、そのギャップに衝撃を受けました。

離れて暮らしていると、見えている世界も、感じている危機感も、こんなに違うんだと気づかされました。あの出来事をきっかけに、それまで疑いなく“全力で働くことが当たり前”だった私が、「この働き方をこのままずっと続けるのか?」と、30代以降の生き方を初めて真剣に考えるようになったんです。

同時に、現場の部下たちが混乱や不安から体調を崩したり、顧客の多くも資金繰りに苦しんでいたりと、仕事における“人の支え方”の難しさにも直面しました。そういったさまざまな出来事を経て、「自分が本当に大切にしたい暮らしとは何か」を考えた結果、家族の近くで働く道を模索しようと思うようになりました。

都会と地元、どちらかを選ぶのではなく、両方を活かす“二拠点生活”というスタイルも視野に入れつつ、キャリアもプライベートもどちらかを諦めない働き方があるのではと考えるようになったんです。

「ないなら、自分でつくる」——理想の働き方をかたちにするための起業という選択

その後四国に戻り、起業をしようと思われた理由について教えてください。

地元に戻ることを決めてからは、「これまでのキャリアを活かして働ける道があるはず」と、転職も視野に入れていろんな人に相談しました。でも、理想とする働き方に出会えなかったんです。

私が目指したかったのは、“誰かに決められた時間”で働くのではなく、“自分で選ぶ”働き方。結婚や出産、介護など、女性には人生のなかでさまざまなライフイベントが訪れます。そうした変化にも柔軟に対応できるように、働く時間も暮らしのリズムも、自分でコントロールできる環境をつくりたかった。

東京で築いたキャリアがあるにも関わらず、地元に帰るとそのキャリアを発揮できずにいる女性たちも多く見てきました。それがすごくもったいないと思って。だったら、自分がそのロールモデルになれるような会社をつくろう。そう考えて、起業という道を選びました。「どこにいても、誰といても、自分らしくキャリアを築ける環境はつくれる」。そんな思いで、株式会社ミシェルを立ち上げました。


「誰かの課題を解決し、そこに価値を生み出す」—— ブランディングを軸に広がる事業とチームのかた

現在の会社の取り組みについて、あらためて教えてください。

当社は、企業や地域、個人のブランディングを一気通貫で支援しています。理念やミッションの設計から始まり、ロゴ、Webサイト、映像制作、SNS運用など、伝えるためのすべてのプロセスを一体として設計・実行しています。

ブランディングを軸にしながらも、「これがあったら世の中がちょっと良くなるかも」と思えるものには、積極的に挑戦してきました。たとえば英語教育事業は、そうした取り組みの一つで、立ち上げから10年が経った今も、高い満足度で支持をいただいています。

こうした多様なプロジェクトに取り組めるのは、しなやかなチーム体制があるからこそ。社内にはデザイナー、プログラマー、映像編集者など多様なスキルを持つ女性メンバーが在籍しており、案件ごとに最適な外部クリエイターとも連携しながら、プロジェクト単位でチームを編成しています。

私はブランディングプロデューサーとして全体を統括しながら、常に心がけているのは「誰もが主役になれる現場をつくること」。年齢や職種に関係なく、メンバーそれぞれが自分の得意分野で輝けるように、自由と責任のバランスを大事にした環境づくりをしています。

ベンチャーの強みは、スピードと柔軟性。だからこそ、思いついたらまずはやってみる。うまくいかなければやめればいい。そんなトライ&エラーを重ねながら、私たちは常に「今、世の中に必要とされる価値」をかたちにし続けています。

女性によるチーム編成は、御社の一つの特徴でもあると思いますが、そのことで発揮される強みとはなんでしょうか?

私たちのチームは、全員が女性で構成されています。それぞれが専門性を持ち、案件ごとに柔軟に役割を組み替えながらプロジェクトを進めています。

共通しているのは、“自分のスキルで価値を出す”という意識があること。年功序列ではなく、自分の強みを活かして貢献するという文化があるので、技術的にも人間的にも成長スピードが早いと感じています。

そして、働き方の柔軟さは私たちの最大の強みです。育児や介護といったライフイベントがあっても、自分のリズムで働けるように、設立当初からフルフレックスとリモートワークを基本にしています。チーム内で連携できる仕組みがあるからこそ、誰かが休んでも無理なくカバーできるし、誰かが挑戦したいときには自然と応援し合える。そんな空気が根付いています。

私自身がフルタイムワンオペ育児の経験者ということもあり、「女性が無理せず、でも諦めずに働ける環境」をつくることはずっと意識してきました。働き方を柔軟にすることは、甘やかすことではなく、“可能性を広げること”。それを証明できるチームでありたいと思っています。


「地方でも、やりたいことは実現できる」—— 女性たちの自己実現を後押しする存在

今後の構想について教えてください。

今後も、地域に暮らす女性たちが「自分らしく働きたい」「挑戦してみたい」と思ったときに、それを“当たり前”に実現できる環境を広げていきたいと考えています。

地方には本当に多くの可能性があるのに、自信を持てずに一歩を踏み出せない女性がまだまだ多くいます。でも実際には、仕事や暮らしを通して地域をより良くしていきたいという意欲やスキルを持っている方ばかりなんです。

だからこそ私たちは、これまで企業に向けて培ってきたブランディングのノウハウを、今後は少しずつ“個人”にも還元していきたいと思っています。具体的には、自己理解を深め、自分の価値を言語化し、社会とつながる——そんな個人ブランディングのサポートや、ブランディング・マーケティングの基礎を学べる機会づくりにも力を入れていきたいと考えています。

無理に大きなことを目指さなくてもいい。「私にもできる」と思えるきっかけを届けられる存在でありたい。そう願っています。


「まだ知られていない価値を、伝わるカタチに」 観光×ブランディングの
可能性

最後に、株式会社ミシェルの現在の目標について教えてください。

本業であるブランディング事業として、これから注力していきたいのが、観光・インバウンド領域です。特に、地域の魅力を“ブランド”として再定義し、国内外に伝えていくための戦略づくりと発信の部分を強化していきたいと考えています。

四国や瀬戸内エリアには、まだ全国に、世界に知られていない素晴らしい文化、自然、技術、人が数えきれないほどあります。ですが、その価値をどう見せるか、どう伝えるかによって、届き方は大きく変わります。

だからこそ私たちは、地域の可能性に光を当て、その魅力を伝わるかたちに変えていく。そんな“橋渡し”の役割を担っていきたいと思っています。

四国・瀬戸内のポテンシャルは、間違いなく無限大です。私たちはその価値を、ブランディングという手法を通じて日本中、そして世界中へと届ける。地方発のブランドが世界の舞台に立つ瞬間を、これからもっとつくっていきたいと思っています。

 

取材日:2025年3月10日 ライター:木場晏門

株式会社ミシェル

  • 代表者名:株式会社ミシェル
  • 設立年月:2012年8月
  • 事業内容:ブランディング事業/英語教育事業
  • 所在地:愛媛県松山市湊町4-11-4
  • URL:https://michel-oc.jp/#
  • お問い合わせ先:090-2894-4262(会社直通)

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