「AIだと気づかずにAIを使ってもらえる」社会へ。多言語対応AIで地方や企業の課題を解決
「AIサービスをAIとして理解しないまま使ってもらえるようにしたい」。そう話すのは、2025年1月に「Smart Talk AI」を開発した東京のDSC開発株式会社の取締役副代表の落合 正和(おちあい まさかず)さん。そこでは、AIを通じて、より多くの人たちに「情報」を届ける、DSC開発として目指すべき未来に関してお話をお伺いしました。
魅力的な観光地を発信するには「IT・DX化」を進めなければならない
創業までの経緯を教えてください。
「日本のIT・DX化を進めていかなければならない」という想いで、2016年に一般財団法人モバイルスマートタウン推進財団(現:デジタルスマートシティ推進財団)を立ち上げ、副理事長として、多言語観光情報サイト「Guidoor Media(ガイドアメディア)」を運営していました。
インバウンド需要などにより日本の観光産業は右肩あがりで伸びているのですが、16年当時は、看板やパンフレットなどの多言語対応は全然できていませんでした。“成長産業である観光産業をIT・DXという分野から支えていかなければ”と思い、「Guidoor Media」を使って8言語で観光情報を発信したり、現地ではスマートフォンをQRコードにかざせばWeb上で翻訳できるサービスを展開したりしていました。
そんな中、2022年11月に「ChatGPT」が世の中に出てきたことをきっかけに、われわれの財団としてもAIを取り入れ、社会実装していこうと、24年10月にDSC開発株式会社を設立しました。
特に地方の観光地で取り組みを進められているそうですが、どのようなきっかけで「地方」に興味を抱いたのでしょうか?
初めは伊豆半島です。弊社代表の志太 勤の出身が伊豆半島なんですが、伊豆半島は非常に有名な観光地ではありますが、人口減少が激しく、特に若い人たちの流出が多くなっています。それにより、外部から新しいものを取り入れることが難しくなってしまう課題がありました。
しかし今の時代、ITやデジタルなどの対応をやっていかないと観光地として、あらゆる国からくる観光客に対応できない状態になってしまいます。そこでわれわれがWeb発信などをお手伝いすれば、そこをきっかけに伊豆の観光が変わっていくんじゃないかということから、伊豆で事業をスタートさせました。
実際にやられた中で、大変だったことを教えてください。
難しかったことは交通手段で、伊豆半島に行くには東海道新幹線の三島駅で下車する必要があるのですが、東海道新幹線には「東京・京都・大阪」という観光名所が多数ある路線なので、伊豆半島を目指して三島駅で下車するという人があまりいませんでした。
ただ、海もあり、山もあり、食べ物もおいしい伊豆は、観光地としてはものすごく魅力的なエリアだと思っていたので「しっかりと案内さえすればインバウンドの方々も来てもらえるのでは」と考えました。
少しずつ伊豆の魅力を発信することより、知ってもらうことができ、今になって見ると、三島駅でもかなりインバウンドの外国人の方々を見かけることも多くなってきましたし、伊豆の魅力が浸透していったのかなと思っています。
「都会に比べて地方はインフラや情報が不十分」だからこそA Iを活用してほしい
2025年1月に開発された「Smart Talk AI」について教えてください。
企業などの受付窓口サービスをAIアバターが担うことで、業務効率化、人手不足の解消、コスト削減などを実現するサービスです。最先端のAI技術を駆使し、人と会話しているかのような、自然でスムーズな受け答えができる対話型窓口AIサービスです。
「Guidoor Media」を運営していたこともあり、われわれの強みである「多言語化」を生かして第一段階は8言語でやっていこうと考えています。将来的に言語数を増やしていく予定です。
他社にはない、「Smart Talk AI」の強みを教えてください。
「リップシンク機能」といって、会話をした際に「あ」と言えば口を開いて、「う」と言えば口をすぼめるといった人間らしい口の動きができるので、本当の人間と会話をしているような違和感のないやりとりができます。AIと会話をする経験は世の中的にも少ないと思うので、どこよりも早くこういったものをリリースできたことは、一つの強みだと思っています。
また、「伝えてほしい固有の情報、喋ってほしい内容」をインプットして、8言語で話せることが強みだと思っています。例えば、特定のビルの中を指して「トイレはどこにありますか?」と質問すれば、分かりやすく場所を教えてくれます。
「Smart Talk AI」をどんな人にどんな場所で使っていただきたいですか?
インバウンド観光客の方々はもちろんですが、地方に住んでいる方々にも使っていただきたいです。都会に比べて地方では特に、「情報」の不足が課題だと強く感じます。
「Smart Talk AI」1台あれば、AIとの会話によってあらゆるまちの情報が取得できるようになります。自治体と協力することにより、コンビニやスーパーなど人が必ず訪れる場所に設置すれば、住民にとって必要な情報やニュースを伝えられるようになると思っています。
「AIをAIだと分からない」ような仕組みを社会に実装していきたい
AIは今後、どのように世の中に浸透していくと思いますか?
AIはまだまだ、日本において浸透していないと思っています。2024年総務省が出した日本でAIを使っている個人の割合は、9.1%。海外は約40~50%近く利用している国もあるとのデータもあり、海外に比べて日本は低い数値となっています。この要因としてAIを活用する時にハードルが高いことが理由だと考えているので、誰でも使えるようにしていく必要があると考えています。
AIを使おうとなると、「ブラウザを立ち上げて、IDとパスワードを入力してログインして」とヨーロッパやアメリカなどでは、昔からタイプライターなどが普及していたのでキーボードなどに年配の人でも抵抗がない方々多いですが、日本の方々はキーボードに対して抵抗感がある人も多いので、声だけで人間と会話しているような違和感のないAIが今後、浸透していくのではないかと思っています。
会社としてどんな社会にしていきたいと考えていますか?
最高の状態は何かって考えた時に、「AIだと気づかずにAIを使ってもらえるように」なるのがベストな状況だと思っています。当たり前にそこにサービスが存在していて、その裏でAIが動いていることを考えずに「誰でも簡単に使ってもらえるサービス」が増えてほしいです。
現状、「AIって難しい・怖い」って思われていることが多いです。その時に、「AI怖いからどっかいけ」ではなく、怖いのであれば相手を理解する姿勢をもつことが大切だと思っています。その姿勢をみんなが持てるようにするには、ハードルを徹底的に下げて、まず触ってもらうようにしたうえで、AIだと思わせないサービスを社会に展開していく必要があります。私たちは、そんな社会づくりに貢献していきたいです。
取材日:2025年3月12日 ライター:三芳 洋瑛
DSC開発株式会社
- 代表者名:志太 勤
- 設立年月:2024年10月
- 資本金:10,000万円
- 事業内容:広告代理店事業、コンサルティング事業
- 所在地:〒100-0013 東京都千代田区霞が関3-3-1 尚友会館6階
- URL:https://dsc-dev.co.jp/・デジタルスマートシティ推進財団:https://mobilesmarttown.jp/
- お問い合わせ先:03-5797-7034