制作事業だけでなくIP活用も強みに。クリエイティブの「正当な価値」を提供すべく事業展開に注力

東京
株式会社Pinto! 代表取締役
Nanao Kobayashi
小林 七穂

映像制作事業、IP(知的財産)活用のコンサルティング事業を主軸とする東京の株式会社Pinto!。代表取締役の小林 七穂(こばやし ななお)さんは、クリエイティブの「正当な価値」を真に提供するべく、新規事業も意欲的に展開します。インタビューを通して伝わったのは、クリエイターファーストの意思でした。青春時代には留学先で、現地での費用を失うという挫折も。自身にずっとあった「独立」という目標を実現したキャリア、クリエイティブへの想いなどを聞きました。

青春時代のカナダ留学で味わった苦労が「独立」の背景に。学んだ“舵取りの大切さ”

15歳からの3年間、カナダ留学の経験が「独立」につながったと会社のサイトで拝見しました。

はい。留学して3年目の当時、現地での学費や生活費を預けていた留学エージェントが倒産したんです。ある日、学校で呼び出されて「今期の学費が振り込まれていない」と知り、ホームステイ先のホストからも「お金が振り込まれていない」と聞いて、絶望しました。
ただ実は、カナダでの留学中、家族で意思決定権を持っていた父に「留学エージェントに託すのはやめたい」と相談していたんです。しかし父は私を心配し、「この会社は大手だから安心だし、カナダでの生活も心配だから使い続けてほしい」とその時は継続する判断をしました。
その後、留学エージェントとはいっさい連絡が取れなくなってしまい、結果的に私はカナダでの大学進学は断念し、帰国することになりました。その後悔から、意思決定の大切さを学んだんです。
判断を誤れば、周囲も不幸になりかねない。そう、身を持って学んだ経験から「人に頼るのではなく、いずれは独立を」と考えました。

「独立」を考えるきっかけとなったカナダ留学から帰国後は、中央大学に進学されたんですね。

留学エージェントの倒産でカナダでの大学進学や就職の夢も消え、当時は「人生のすべてを失った」と思うほどに落ち込んでいたのですが、「大学は卒業してほしい」という両親の願いもあり、大学入学まで残り半年と限られた時間のなかで私でも受験できる「帰国子女枠」で入学しました。

知的財産活用の経験も糧に自分のアイデアで「起業」へ。スキルを生かし稼いだ3000円が前へ進む原動力に

大学卒業後は、総合エンターテインメント会社へ就職し、商品企画や知的財産管理、ライセンスに関わるプロデュース業務に関わっていらっしゃったと伺いました。

最初に配属されたのはライセンス商品を扱う「マーチャンダイジング事業部」で、著作権管理も含めた業務を担当していたんです。企業が有する著作権を活用した商品を作り、プロモーションチームとも連携して、アニメコンテンツのイベント事業なども手がけるなど、いわば「総合的な調整役」として働いていました。多岐にわたるクリエイターさんとも関わり、進行管理も任されていました。

現在の主力事業である映像制作やクリエイティブ事業の立案・制作・ディレクションにも、当時の経験が生きていそうです。

そうですね。実は、起業した当初は私が映像制作をしていましたが、営業やプロデュースの方が向いていると思って切り替えたんです。今は、業務委託のクリエイターさんを中心に、制作業務をお任せしています。

総合エンターテインメント会社に続き、「食関係の外資系企業」にも就職されたそうですね。

私が入社したのはその企業がちょうど20周年のタイミングで「記念イベントのノウハウがなく、手伝ってほしい」と声をかけていただいたのが、転職のきっかけだったんです。ただ、当時すでに起業を決めていたので「起業しますけど、大丈夫ですか?」と聞いたんですけど「そうした思いも応援したいので、ぜひ」と念押しされて、働きはじめました。当時は広報、新規事業開拓、業務改善などを手がけており、前職の総合エンターテインメント会社と内容もわりと近かったです。

お話にありましたが、その当時すでに起業は考えていらっしゃったんですね。

はい。ただ、漠然としていて「何で」起業するかは決まっておらず、24歳で考えてから実際に起業するまでは5年ほどかかりました。思っているだけで行動しない自分にも正直イライラはしていて、ちょうどその時期、経営者の知人に「月に100円でもいいから、自分のアイデアで売り上げを立ててみれば」と、アドバイスをいただいたのが転機でした。
英会話スキルを生かしたマンツーマンの英会話塾を思いつき、知人に「英会話塾をやっているんです」とひたすら声をかけて、3000円を稼ぎました。微々たる金額ですけど「やりたいことより、できることで売り上げを立てられる」と実感できた成功体験で、そこから「月10万円を稼ぐにはどうするべきか」と考えられるようになりました。のちにボランティア団体で手がけた映像制作の経験が、起業へとつながりました。

自社の「イニシアティブ」を取るために事業を拡張

2024年2月時点では、設立から5期目。現在、主な事業内容は?

映像制作事業、IP関連事業です。当初、映像制作事業を主力に受託業務を引き受けてきましたが、コロナ禍では撮影ができないことに加え、映像制作の受託業務だけを軸にすると「自転車操業になりかねない」と危機感をおぼえて、かつて経験のあったIP関連事業にも注力するようになりました。受託業務は、クオリティへの対価を決めるのはやはり顧客側になりますし、クオリティなどを加味して交渉するのもナンセンスだと悟ったんです。
例えば、ピカソの絵であれば1億円を出す人もいるし、まったく価値を見出さない人もいます。そのように価値観がまばらな環境で交渉する仕組みから抜け出し、「自身でイニシアティブを取って、クリエイターさんがより力を発揮できる環境」を作るために、映像制作事業とも並行できる新たな選択肢を考えました。
そのほか、ドローン撮影、イベント企画、翻訳事業なども行なっています。

事業として、映像制作事業とIP事業は双方の親和性も高そうです。

IP関連事業では、企業が有する知的財産コンテンツを生かすためのコンサルティングが中心ですが、その一環で映像に限らずWebサイトなども含めたクリエイティブのご相談もあります。私は相手先企業とクリエイターさんの調整役を務めて、映像制作事業では、ディレクターさんやカメラマンさんなど、現場を任せられるスタッフの方々と連携していますね。

昨今、キャラクターIPの活用を課題とする企業が多い印象もあり、今後の需要もますます伸びそうです。

より広がると思っています。コンテンツといっても著作権の種類はバラバラで、例えば、アニメの場合は「原作版権」と「アニメ版権」の違いもありますし、CG化されたときに「CGクリエイターさんの権利はどうか?」と、議論されるケースもあるんです。私自身には過去の経験もふまえた知見があるので、協力し合えるチームとしてクリエイターさんともより深く連携していきたいと考えています。

クリエイターの活躍を広げるべく新規事業にも注力。すべての人が挑戦できる場づくりで「クリエイティブ業界に変化を」

カナダ留学時代からの一連の経験は現在、クリエイティブ企業の経営者として掲げる「クリエイターに正当な価値を」のモットーにも繋がっていそうです。

おっしゃるとおりです。クリエイティブにおける「正当な価値」とは、総合エンターテインメント会社で各分野のクリエイターさんと接していた時代から感じていたことで、実際の作業量、報酬の金額や価値が「比例していない」という状況に疑問を抱いていたんです。海外の友人から「日本のクリエイターは、同等レベルの作業であっても報酬が見合っていない」という意見も聞きますし、クリエイティブに打ち込みたくとも「今の収入だけでは暮らせないため、アルバイトもしなければ」といった方もいらっしゃるので、すべてのクリエイターさんが抱えうる課題を解決したいと考えています。
ただ、会社を設立してからは「クリエイターさんの頑張りも必要」と考え方が少し変化しました。過去には残念ながら、報酬に甘んじて手を抜いてしまう方もいたんです。クリエイティブの完成には双方の協力が不可欠ですし、もちろん、頑張ってくださる方には相応の対価を支払います。日本の状況を憂いて海外へ人材が流出するのも寂しいですし、日本を拠点に「輝きたい」とするクリエイターさんを弊社としてもサポートしたいです。

そうした思いも胸に、企業理念にある「クリエイター自身が才能を100%発揮できる活動の場」は実現できていますか?

今なお、模索中です。しかし、「クリエイティブへの対価に関係なく、クリエイターさんが自分を出せる場」を目指せば、理想に近づきそうです。スポンサーがいる状況で作品を披露して対価の決まる場所があれば、クリエイターさんの知名度にも関わらず、全員が同じ土俵で競い合える環境が構築できるのではと考えています。

今ある、クリエイティブ企業としての目標も伺いたいです。

クリエイターさんが活躍しやすくするための新規事業のベータ版が走り出していて、クリエイティブの「正当な価値」を真に提供できるサービスの展開に力を入れています。動画制作事業などで、才能はありながらも活躍の場が得られないクリエイターさんがチャレンジできるような場所を作りたいですし、簡単ではありませんが、クリエイティブ業界に変化をもたらせればと思います。

最後に、ともにクリエイティブ業界を盛り上げるクリエイターさんの理想像も教えてください。

頭の中で「こうでなければならない」と凝り固まるのではなく、発注者もいる場での柔軟性がある方と一緒に仕事をしたいです。頑固さはいい面もありますけど、自分を貫くだけではお互いのいいところが交わらず、高みにたどり着けないと思います。私も「クリエイティブ業界を盛り上げたい」という考えを抱いていますし、自分自身のクリエイティブを「相手のために発揮したい」と考える方々と一緒に、チームとして動けるのであれば私自身もうれしいです。

取材日:2024年1月16日 ライター:カネコ シュウヘイ

株式会社Pinto

  • 代表者名:小林 七穂
  • 設立年月:令和元年7月2日
  • 資本金:100万円
  • 事業内容:企画 / プロデュース / 映像撮影・編集 / デザイン / ライセンス / 商品企画 /イベント企画 等
  • 所在地:〒135-0064 東京都渋谷区神泉町18-8
  • URL:https://pintokita.com/
  • お問い合わせ先:上記サイト内「会社概要」の「Contact」欄より

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