WEB・モバイル2023.09.13

立地をハンデにしない強みを持とう。システム開発のカギは最新サービスを生かす発想力

滋賀
株式会社AIoT(エーアイオーティー)代表
Kenichi Nakabayashi
中林 賢一

京都駅からJR琵琶湖線に揺られて約20分……滋賀県草津駅から徒歩5分ほどの場所にあるログハウスが、今回の取材先、株式会社AIoT(エーアイオーティー)の本社です。AIoTは、近年のDX化でさらに需要が高まるシステム開発やアプリケーション開発において「短期間かつ低コスト」を実現しています。その秘訣とは?首都圏に依存せず仕事をすることの意義、そしてこの地で感じた意外なメリットについて、代表の中林 賢一(なかばやし けんいち)さんにお話を伺いました。

自分だけの“武器”を求め、転職しながらITの最前線を学んだ会社員時代。仲間とともに起業

ご自身のキャリアについてお聞かせください。

大学で物理学を学んだ私が就職したのは、今から20年以上前。世の中に「インターネット」という言葉が出回り始めた頃でした。卒業後は、インターネットを活用したシステム開発関係の会社に就職して数年間働きました。その後は幾度かの転職を経て、フィンテックやアグリテクノロジーなどのIT技術を学んできました。

近年は脚光を浴びているIT技術ですが、当時はまだそういったサービスが世間に浸透していなかったかと思います。

そうですね。さまざまなサービスが登場し始めていた頃で、成功するかどうかはまだ誰もわからなかった時代でした。転職の折には将来性よりも「最新のテクノロジーに触れてみたい」という好奇心が勝っていたように思います。当時は起業の具体的なイメージはありませんでしたが、今振り返ると、自分のキャリアにとっての“武器”となるものを探していたようにも思います。
会社の立ち上げを決意したのは、大阪のベンチャー企業で働くのと並行して個人事業主としてもシステム関係の仕事をしていた頃です。起業仲間となるメンバーとの出会いとお客さまからの大きなシステム開発の依頼が重なったことが理由でした。2017年2月、私を含めた3人が創立メンバーとなり、AIoTを創業しました。

 

右の3人が創業時メンバー
今は別々の道を歩んでいます

企業への業務システム納品で、人的コスト50%カットを実現。納品後も頻繁なヒアリングで機能性向上

創業のきっかけともなった、初めての案件はどのようなものだったのでしょうか?

お客さまのスケジュール管理システムです。紙の上の付箋(ふせん)のように、パソコン上で予定をドラッグアンドドロップして動かせるシステムを開発しました。また、それを売り上げなどの情報と紐付けることで、契約先からの入金確認や個人の営業実績など、さまざまな情報を一元化して管理できるようになりました。システムの導入によって管理の手間が大幅に削減され、必要な人員を20人から9人にまで減らせたそうです。

お客さまの満足度も高かったことでしょう。

このお客さまとは創業時からずっとお付き合いを続けさせていただいており、今現在も新規機能の追加、他部署のシステムとの連携、統合を続けています。毎週、システムにどんな機能を追加したら良いかをお客さまからヒアリングしており、「こんな機能が求められているんだ」と発見がありますよ。お客さまが「開発するのはすごく難しいんじゃないか」と思っていたシステムや機能も、私たちエンジニアからしたら非常に簡単な場合もあります。

システム開発のカギは、最新のテクノロジーを活用する知識と発想力

専門知識がない者としては、システム業界での起業は、非常に難しいように思えますが。

そうですね。実際、私も最初はそう思っていたんです。「すごい技術を持っていないと、システム業界で起業なんてできないんじゃないか」って。でも、その考えは間違いでした。 ブレイクスルーのカギになったのは、Facebook社(現Meta社)が提供していたJavaScriptライブラリ「React(リアクト)」です。簡単に言うと、“Facebookのユーザ体験を実現するパーツ”でしょうか。このReactをうまく利用すれば、インターネットB2Cサービスで蓄積されたユーザインターフェース技術を、B2B開発に効果的に取り入れることができ、お客様の社内業務システムに新たなユーザ体験を提供することができます。
創業当時、日本でこのライブラリを使えるシステム会社はまだ少なく、私たちはいち早く取り入れて使いこなし、短期間かつ高性能のシステム開発に成功したんです。

最新のテクノロジーを積極的に取り入れることで、他社から一歩抜きんでた存在となったわけですね。

Reactに関しては、使いこなせる国内のエンジニアはいまだ多くありません。その点で、私たちは他社と比べてかなりの優位性があると自負しています。そのほかにも、海外大手企業が提供するクラウドサービス「Microsoft Azure」「Google Cloud Platform」「Amazon Web Service(AWS)」などを積極的に活用したシステム構築を行っています。

そのような既存のサービスを利用するメリットは?

何千万円も投資しないと開発できないと思われていたシステムを私たちのような少人数のスタートアップが提供できる。これが最大の特徴です。本質的な理解と「今手に入るテクノロジーをどう工夫して使うか」というアイデアさえあればいいんです。
同じゴールを目指すのでも、いかに早く、コストを抑えて開発できるか。最新のテクノロジーに関する知識と発想力が、技術者としての腕の見せどころだと思います。

 

サービス業界のDX化で「仕事をもっと楽に」

御社が得意とするシステム開発の技術を、今後どのように事業展開させていきたいですか?

今は働き手がどんどん減っています。DXが進んでいない業界に積極的に参入し、現場の状況を少しでも改善できたらと考えています。例えば介護業界ですが、患者さんの体調管理やスタッフのスケジュール管理など、介護の現場にはデジタル化されていない業務がたくさんあります。患者さんの体温や体調などをタブレットで入力したら報告書が作成される、やるべきことが自動でリスト化されてひと目でわかる、といったことがスマートにできれば、仕事をもっと楽にできるはず。
DXが進んでいない業界はそもそも、デジタル化が難しい上に、システムの開発費用を確保しにくい現状もあるので、今手に入るテクノロジーを上手に利用してコストを抑えることが重要になってきます。
例として、マイクロソフトExcelをデータベース代わりに使って、Excelでスマホアプリの内容を書き換えたり、逆にスマホアプリから入力したものをExcelに書き出したりすることを実現しました。これにより、データベースサーバは要らなくなり、運用コストも抑えることができます。 

 


Excelでスマホアプリの内容を書き換え、スマホからExcelに書き込むサービス
訪問介護事業者様から好評いただいています

お客様と一緒に作った共同出資会社
運送業界向けDXサービス「トラクルGO®️」の販売をしています

 

「働きたい会社がないなら、自分で作ろう」と滋賀で創業。そこには思わぬメリットがあった

御社は滋賀県草津市に本社を置いていらっしゃいますね。なぜ大阪や京都ではなく、滋賀に拠点を置こうと考えたのですか?

草津駅からさらにローカル線で行ったところに自宅があるのですが、会社に勤めていた頃は、滋賀ではやりたい仕事が見つからないのでは、と考えていました。大阪まで出ないとクリエイティブな仕事はできないと思っていたんです。
しかし、ある時気づきました。「働きたい会社がないなら、自分で作ればいいじゃないか」と。私たちの仕事は、インターネットにさえ接続されていれば場所を選ばずにできます。現に社内の8人のスタッフも、ほぼリモートで仕事をしています。東京で兼業しながら働いているスタッフもいます。給与面では首都圏には勝てないかもしれませんが、社員みんながワークライフバランスを実現させているのではないでしょうか。来週から2週間夏休みを取って自転車で海外を回る、というスタッフもいますよ。そういえば、うちの会社には自転車乗りが多いかもしれない(笑)。

 


社内の雰囲気
もともとは住居用だったログハウスを借り、事務所として利用しているそうです

 

青空会議室
滋賀ならではの趣味と仕事の両立を応援します

草津に本社を置いていて良かったなと思うことはありますか?

思いがけない収穫は、立命館大学のびわこ・くさつキャンパスが近くにあり、学生さんのインターンが多く来てくれることでした。毎年必ず応募があり、これまでに6人ほどがインターンを経験しています。「いつかは自分も起業したい」「確かな技術を身に付けたい」という意思を持った方が多く、「京都では見つからないような独自のインターンをやっているので」と言っていた学生さんもいました。
インターンの学生さんには、Reactなどのサービスの知識を身に付けてもらい、新しいシステムの開発を任せています。直近では、「ラーメン屋を回る最適ルートを教えてくれるアプリ」を作ってもらいました。1日5軒のラーメン屋を回ろうとする時、どの順番でどの道を使うと一番効率的に回れるか、というものです。

「いい仕事に立地は関係ない」を体現できる会社へ。「吸収しよう」という意欲、大切に

学生さんや若い方々に伝えたいメッセージはありますか?

何かを身に付けようと思ったら、一生懸命に手を動かしてほしいと思っています。私も黎明期のインターネットを理解しようと、会社に勤めながら仕事終わりに自分で勉強していました。ただ口を開けて待っているだけでは駄目です。「何か吸収しよう」という意欲を持って行動すれば、チャンスは必ず巡ってきます。

今後の展望についてお聞かせください。

先ほどもお話ししたように、DXがまだ届いていない分野でのシステム・アプリケーション開発に取り組んでいきたいです。新規サービス用に子会社を作って運営を社員に任せることも考えていますが、このAIoTという会社は、これからも自身の手でやっていきたいと思っています。インターンに来てくれている学生さんたちを受け入れたいですし、滋賀県のシステム会社としての成功事例を作りたい。この会社を通して、いい仕事に立地は関係ない、ということを証明したいですね。

取材日:2023年7月25日 ライター:土谷 真咲

株式会社AIoT

  • 代表者名:中林 賢一
  • 設立年月:2017年2月
  • 資本金:100万円
  • 事業内容:システム設計・開発・導入・保守、クラウド業務システム設計・開発・移行・保守、アプリケーション開発、ITコンサルティング
  • 所在地:〒525-0026滋賀県草津市渋川2丁目1-14
  • URL:http://www.ai-ot.com/
  • お問い合わせ先:上記サイトのお問い合わせフォームより

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