プロダクト2023.08.09

「作りたい」が叶う場所。1000超の商品を扱う色とりどりの”糸”の世界へようこそ

京都
株式会社アヴリル 代表
Jiro Fukui
福井 二郎

株式会社アヴリルが直営店と本社を構えるのは、個性的な雑貨屋や本屋が並ぶ京都・一乗寺。お店の中には壁一面、色とりどりのドーナツのような物体が並んでいます。これらは実は、一つ一つが筒に巻かれた“糸”。アヴリルは、編み物やクラフト向けの「糸の専門店」なんです。ひらひら、ポコポコ、ふわふわ。そんな言葉で表したくなるカラフルで個性的な糸たちは、私たちが普段目にする大量生産の糸とはまったく違います。今回は、アヴリルが創業からこだわってきた唯一無二の糸づくりについて、代表の福井 二郎(ふくい じろう)さんにお伺いします。さあ、めくるめく“糸”の世界へようこそ。

「遊び心のある糸を作ろう」。先代社長の意思からアヴリルは始まった

御社について教えてください。

アヴリルは、1992年に私の父・福井雅己(ふくい まさみ)が創業した「糸の専門店」です。父は京都で生まれ、愛知県名古屋市の糸の商社に働きに出ていました。近隣の一宮市は、日本を代表する繊維の産地。世界的に名が知られる糸メーカーも存在していました。父は仕事を通して職人さんたちと交流し、糸作りに惹かれていったそうです。

先代はどのような糸を作ろうとされたのでしょう?

父が作ろうと決めたのは、大量生産の画一的な糸ではありませんでした。ところどころからフワフワとした毛が飛び出ていたり、ポコポコと結び玉があったり、太さがまちまちであったり。色も一つではなく、いくつもの染料を使って染め分けられ、虹のようにカラフル。これまでに見たことがないような、ユニークで遊び心のある糸を作ろうとしていたのです。はじめは数種類だったオリジナルの糸は、どんどんとバリエーションを増やし、手芸作家やデザイナーに知られていくようになりました。
その後、父は独立し、京都でアヴリルを設立しました。現在は叡山(えいざん)電鉄一乗寺駅から徒歩3分ほどの場所に本社と直営店を構え、私が亡くなった父の跡を継いで2代目を務めています。

素材、製法、色の組み合わせで可能性は無限大。染色で光る職人技

アヴリルで扱っている糸について、詳しく教えてください。

素材と製造方法、そして色。それらの組み合わせを自由自在に変えることで、オリジナルの糸作りをしています。まずは素材。一般的な綿、麻、シルク、羊毛、カシミアなどに加え、竹や和紙、ステンレスといった糸としては考えられないような個性的な素材を使用することもあります。
これらの素材を「撚り合わせ」て1本の糸にしていきます。丸くチューブ状に編み上げる「リリヤーン」、数本の糸を芯糸にして細い糸で束ねるように巻きつけて作る「カバーリング」など、撚り方によって、使う機械が変わってきますね。1本の糸を作るのに、何本の糸を撚り合わせるかで、糸の太さも変えられます。

1本の糸を作るのに、そんなにたくさんの製法があるとは知りませんでした。色の染め方には、何かこだわりがあるのでしょうか。

アヴリルの糸は単一の色でないものが多く、さまざまな染料を使って染め分けられています。中には染料を刷毛でランダムに飛ばしたり、何色もの染料をひしゃくですくってかけたりする、特殊な染め方をしている糸もあります。このような染め方は絶妙なテクニックが必要なため、全国にあるいくつかの工場で、長年お付き合いのある職人さんの手にお任せしています。

製法も色も、多種多様。どれだけの種類の商品があるのでしょうか?

創業から今までで、多い時には約300種類、1500色以上の糸を扱っていたようです。それらが定番商品で、加えて限定商品も作っていたそうですから。商品数としては一体いくつあったんでしょう。数えきれませんね。

スタッフやお客さまの「こんな糸があったら」が企画のヒントに。「ほんのちょっと」で変わる糸の表情

今でも常に新しい糸が生まれているのですか?

はい。商品企画部と販売部のスタッフがアイデアを出し合いながら、常時いくつかの新しい糸の企画を進めています。「素材にはイングランド産ブルーフェイス種の羊毛を何パーセント入れようか」とか、「ピッチ(間隔)をもっと空けたほうがいいんじゃないか」とか。マニアックですよね(笑)。でも、ほんのちょっとした素材や製法の違いで、糸の表情や製品の仕上がりが全然違ってくるんです。

新しい糸を企画する時には、どんな観点で考えるのでしょう?トレンドのようなものがあるのでしょうか。

業界の動向や製造費は考慮します。でも、最も大切にしているのは、「こんな糸があったらいいな」というスタッフの感性とお客さまの声。ものづくりが好きなスタッフが多いので、「自分たちがどんな糸を使いたいか」、「お客さまがどんな糸を探しているか」というところにヒントがあるんです。
新しい糸ができるまでの期間は、最短で1カ月。撚り方や素材を変えて、新商品を作る時にはさらに時間がかかります。今は6月ですが、そろそろ春に出す糸の色を決めないといけない、という感じですね。遅いくらいなんですが。

世界にたった一つだけの糸が作れる。直販店ならではのサービス「引き揃え」

京都・一乗寺と東京・吉祥寺にあるアヴリルのお店、オンラインショップでは、糸の購入のほか、オリジナルの糸を作れるサービスも行っているそうですね。

はい、「引き揃え」というサービスを行っています。これは、お客さまのお好きな糸を数本束にして巻きあげることで、1本の糸に仕上げさせていただくサービスです。アヴリルの糸はもちろん1本でもご使用いただけますが、数本組み合わせることで色のニュアンスが変わったり、太さが変わったりして、世界で一つの糸を作ることができます。また、細い糸を何本か撚り合わせることで、編み物の初心者の方にも扱いやすい太い糸を作ることができますよ。
特に実店舗に在籍するスタッフは、糸の性質や色の合わせ方の教育を受けています。お客さまの作りたいものやイメージをお伺いし、ぴったりの組み合わせをおすすめするためです。

自分だけの糸を“コーディネート”してもらえるのですね。

はい、ぜひ何でも相談してください。実店舗では、ほとんどの商品を10g単位で購入でき、好きな糸を少しずつ試すこともできます。作りたいアイテムにどれだけの長さが必要かも、スタッフに気軽に聞いてみてくださいね。

販売のほか、教室も開催されていると伺いました。

「ワークショップ」「講習」「講座」の3つのスタイルで展開しています。ワークショップは1回完結で、各回のテーマに沿ったものを制作します。「かぎ針編で作るポーチのワークショップ」みたいな感じです。講習はお好きなものをそれぞれ制作いただき、わからないところをスタッフが教える、というものです。講座は、複数回でじっくり一つのことを習得します。現在は手織り講座を開講していて、織りの構造や織組織などの座学も交えながら、手織りの技術を本格的に学んでいきます。
最近、京都のお店では「ゆうぐれニッティング」と「いつでも手織り」を始めました。コロナも落ち着いてきたので、仕事帰りに習い事をしたい方も増えてきています。ふらっと立ち寄って好きなように織って帰る、みたいないつでもものづくりが身近に感じられるような自由なスタイルも試しているところです。

私たちは、店舗は単なる販売の場ではなく、交流の場でもあると考えています。毎週決まった時間に通ってくださる常連さんも多く、お話しされながら和気あいあいと過ごされていますね。皆さんに「楽しかった」「また行きたい」と思ってもらえる店舗づくりを心がけています。

2.5万人のフォロワーを失うトラブルを糧に。SNS運用の見直しを図る

YouTube、InstagramなどSNSの情報発信で心がけていることはありますか?

SNS運用については、試行錯誤と反省がありました。実は、約1年前、2.5万人のフォロワーがついていたInstagramのアカウントが手違いで凍結されてしまう、というトラブルが起きたんです。
アカウント認証に失敗したことが原因だったのですが、手を尽くしても復旧できず、最終的には「新しいアカウントを作り直そう」と決断しました。これまで見ていてくださった国内外の2.5万人のフォロワーの皆さんとの関係が終わってしまう訳ですから、本当につらい出来事でした。しかし、このことは逆に、ゼロから新しいスタートを切るきっかけにもなりました。

どういった変化があったのでしょう?

これまでは商品のブランド力を高めることに重きを置いていましたが、今一度、「素材屋=糸屋」の原点に立ち返ろう、と考えました。お客さまの中には、遠方からはるばる足を運んでくださる方や、「ずっと来たかったんです」と強い憧れを持ってくださる方もいらっしゃいます。そうしてブランドの価値を感じてもらえるのは大変ありがたいことですが、ものづくりの主役はお客さま。私たちは作る側の気持ちに寄り添った情報発信をしなくてはいけない、と考えたんです。そこで、SNSでは、糸の結び方や収納方法、糸処理のコツなど、糸屋ならではの知識も発信するようになりました。
直営店では、夏であっても冬物の糸を販売しています。これも、新しい糸や季節ものの糸といったワクワクする商品を提供する一方で、「1年を通して欲しいものが手に入る」素材屋の姿勢を崩してはいけない、という方針からです。

年齢、性別を問わず「糸あそび」を楽しめる。創業から変わらないアヴリルの志

会社としての目標をお聞かせください。

「私たちの糸を使って、たくさんの方にものづくりを楽しんでもらいたい」というのが、先代社長からずっと引き継がれてきたアヴリルの方針です。これからもその方針のもと、多くの方にものづくりの世界に親しんでいただいて、生活を豊かにする「糸あそび」を提案し続けたいと思っています。
日本では「編み物は女性の手仕事」というイメージが強くあります。しかし、ヨーロッパでは男性も編み物をしている風景が普通にあったりして、世界に目を向けると男女の隔てのない手仕事なんです。
最近では『ニッターズハイ!』で編み物をする男性の話が漫画になって話題になったりしています。
年齢、性別を問わず、「やってみたい」と思った時に何かを提供できる、そんな存在になりたいですね。

スタッフの皆さんとともに、その目標を実現されていくのですね。

父が創り上げてくれたアヴリルの土台を大切に、ものづくりをより多くの方に楽しんでもらえる製品を生み出せたら、と考えています。製品づくりやスタッフの教育に関しては、長年アヴリルに勤めてくれているスタッフたちを信頼して任せています。この会社のスタッフは皆、ものづくりが大好きなんです。好きなことを仕事にし、苦しいこともたくさんある中で、喜びを感じてほしい。そのために仕事をしやすい環境作りをするのが、私の仕事だと思っています。

取材日:2023年6月20日 ライター:土谷 真咲

株式会社アヴリル

  • 代表者名:福井 二郎
  • 設立年月:1992年4月
  • 資本金:1000万円
  • 事業内容:手芸糸の企画・製造・販売、出版
  • 所在地:〒606-8185 京都府京都市左京区一乗寺高槻町20番地1
  • URL:https://www.avril-kyoto.com/
  • お問い合わせ先:075-724-3550

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