プロダクト2023.08.16

「美しく光る靴を守りたい」靴の小売店オーナーが救った国産ハイヒールブランド

福岡
株式会社コメックス 代表取締役
Hideki Tsuyama
津山 英樹

足を長く細く見せ、美しいシルエットをつくるファッションアイテムの一つであるハイヒール。国産のハイヒールブランド「コメックス」は、1979年の誕生以来ヒールを愛する多くの女性から根強い人気を得てきました。しかし今から16年前、コメックスブランドは事業が傾いたことで一時危機に晒されることに。その状況を救ったのが当時福岡の繁華街・中洲で靴の小売店を営んでいた津山 英樹(つやま ひでき)さんです。津山さんはブランドを守るため、製造の工場と卸の事業を一手に引き受け、2007年に株式会社コメックスを設立しました。今回は設立までの経緯やコメックスブランドの魅力、今後の展望などを語っていただきました。

“美しく光るきれいな靴を守るため”一念発起。危機に陥ったブランドを後継

会社立ち上げまでの経緯を教えてください。

私は今から約30年前、30歳から福岡の中洲で婦人靴の小売店を開いていました。そこでコメックスというハイヒールブランドを仕入れて販売していたんですね。しかし店を始めて15年くらい経った頃、コメックスの企画と卸をしていた会社の経営が厳しい状態になってしまったんです。その絡みで、そこが製造委託をしていた靴の工場も経営が立ち行かなくなってしまった。うちにとってはコメックスブランドが販売できなくなるのは非常に困ったな、ということになって。その時にいろんなやり取りの中でコメックスの商標をうちが持つことになりました。そして工場を守らない限りは卸も小売りもできませんので、工場も引き取って、新会社・株式会社コメックスを立ち上げました。
元々コメックスを扱っていた会社のスタッフを新会社に迎えて、東京営業所としてスタートしました。

現在の事業形態についてお聞かせください。

自社ブランドコメックスと他3ブランドの企画と卸、そして自社通販サイトを含めた四つのECサイトでネット販売をしています。そして直営の実店舗が福岡、大阪に4店舗、ブランド取り扱い販売店が全国に数十店舗あり、そのほかにも関連会社として大阪に工場があります。

小売店のオーナーから、靴のメーカーを一手に引き受けるようになったことは大きな転換ですよね。不安はありませんでしたか?

不安はなかったですね。わたしは販売する商材の中にどうしてもコメックスブランドの商品が欲しかったんです。似たような商品はあるんですが、これだけ綺麗なハイヒールを作る製造業者はいなかったので、それを無くしたくありませんでした。「美しく光るきれいな靴を作る工場、それ卸す人」その流れを消したくはなかった。

日本人の足に最適なメイドインジャパンのハイヒール。芸能人も御用達

コメックスの靴に惚れ込んでいたんですね。

一番高くて14㎝のハイヒールを作っていますが、ここまでヒールが高くて国産で本革のものはまずほかにありません。デパートにも、ヒールが高いものはありますが、中国やヨーロッパ、ブラジル製です。
製造の段階で14センチヒールは、まっすぐ立てるというセッティングが 一番難しくて、この高さのハイヒールを作れる職人は今、日本には1人しかいないと言っていいくらい少ないと思います。職人を募集しても14センチヒールを見せたら、どなたも「作れません」と言って帰ります。20年前なら作れる職人は数人いたんですが、職人の高齢化とハイヒールの市場が少なくなって、職人が減ってしまいました。コメックスの一番の肝は、職人が1足、1足丁寧に作り上げているということです。

海外製と比較すると、どのような違いがありますか。

外国人の足、特にヨーロッパの人は細いので幅が狭いんです。コメックスは、幅が広くて甲が高い日本人の足にあった木型を使っていますし、できるだけ履いたときに痛くならないよう、中のライナー、裏地を工夫しています。また、厳選された革を使っているのですごく足になじみやすくて。そういうところが海外製と違うと思います。
履き心地だけではなくて、足をきれいに見せる設計にもこだわりがあります。例えば同じ10㎝のヒールでも、海外製のものと傾斜の違いがあって、そのちょっとした傾斜の違いで、ものすごく足がきれいに見えるんです。履き比べてみると、断然足が長くほっそり見えるというところがうれしい、一度履いてしまうと止められないという声を多くいただきます。

多くの芸能人の御用達だそうですね。

平成を代表する歌姫として知られる某女性アーティストのライブ用ブーツは、すべてうちで作りました。ライブで走っても壊れないということで、ステージ用に毎回オーダーをいただいて。これまで数種類それを製品化したこともあるので、彼女のファンの皆さんの中ではコメックスは知られた存在になっています。東京のプレスルームには芸能人のスタイリストの方が多くいらっしゃいますね。貸し出しもたくさんしているので、芸能人の方たちに結構履いていただいています。

1足のオーダーでも引き受ける。昔からの定番、今も色褪せず

コロナ禍でハイヒールが活躍するようなドレスアップの場面が減ってしまいましたが影響は受けましたか?

ハイヒールの需要が高い繁華街を中心に卸していますが、繁華街はコロナの影響で時短営業だったり、人の流れが減ったりしたので影響はありました。結婚式や通勤用の需要も減ってその辺りの販売数も結構少なくなりましたね。でもECサイトのほうは影響はほぼありませんでしたので、どうにか頑張った感じです。

靴をオンラインで購入する場合、試着できないことがネックになると思いますがその点のフォローはありますか?

靴選びが不安な方からお問い合わせをいただきますが、足の形や肉付きによって履き心地は全然変わってくるので、こと細かにお客さまの足についてお尋ねしてアドバイスさせていただくことで、少しでもお客さまの不安を取り除けるよう対応しています。おかげさまで「アドバイスもらってよかったです、ぴったりでした」というようなお声をたくさんいただきます。

新製品を考える際にどのようにしてアイデアを得ていらっしゃいますか?

私は実店舗に立っていますが、オンラインショップの担当者と、卸のお客さまと接している東京の営業とではそれぞれ意見が違うんですよね。三者で話し合って、意見を集約して商品開発につなげています。
トレンドは変化していると思うんですが、うちはトレンドを追うというよりも、リピーターのためにあえてデザインをほとんど変えていないほうだと思います。 ほかの靴のメーカーからしたら「いつまでこれ作っているの?」って思われるぐらい商品は変わっていないでしょうね(笑)。今の時代、先が尖ったクールな感じやピンヒールはなかなかないんですよね。なので、そういうものが好きな方が同じ系の靴を注文されたり、色違いを注文されたりしています。私たちもできるだけスタンダードな革だけではなく、個性的な柄や珍しい素材を厳選して使うなどして、靴を楽しんでもらう工夫をしていますよ。
廃盤商品やWebサイトから消した商品を「作ってほしい」と問い合わせをいただくことも多くて、工場に確認して作れるとなったら特注オーダーでお受けすることが結構あります。1足のオーダーを受けるメーカーはなかなかないと思いますが、うちは工場を持っていますのでそれが可能です。1足だけでは正直儲からないですけど、今後につながっていきますので。顧客を大事にするということではないでしょうかね。

今後、コメックスをどのように変化させていきたいですか?

今コメックスは「ハイヒールの会社」で知られていますが、ハイヒール以外の商品も欲しいですね。ローヒールやスニーカーではなく、中ヒールといわれる7cm前後のヒールパンプスです。将来的には商品の幅を拡げて「中ヒールからハイヒールの会社」にしたいですね。

「継続は力なり」続けることが一番。チャレンジできる環境づくりを心がけて

東京にある、コメックスショールームの様子

社員の皆さんとの関係性についてお尋ねします。心がけていることなどはありますか?

お菓子の差し入れはよくしています。あとは、やりたいと思ったことやいろんなことにチャレンジしてもらえるような環境づくりを心がけています。みんな入ったら本当に長いんです。だから平均年齢がだんだん上がっていますね(笑)。

働きやすい職場なのですね。一緒に働くクリエイターにはどんなことを求めますか?

うちはデザインだけやっていればいいという会社ではないので、セールスのライティングやキャッチコピー、レイアウト、撮影どれを考えるにしても、この靴がいかに綺麗に見えるか、いかに良さを伝えられるかという点を意識してもらうことが必要なんです。Webデザイナーになりたい方はたくさんいらっしゃるんですが、こんなのかっこいいでしょ?みたいにデザイン重視で作られると、言葉足らずだったり内容が薄かったりするんですよね。オンラインショップに限らずブランドの良さを理解し、商品に興味を持って、どうすれば売れるかという目線とプラスアルファでブランドのイメージを考えて仕事をしてくださるような方だったらいいなと思います。

社長の経験から若いビジネスパーソンに向けてアドバイスをお願いします。

よく「時代の先を読むことが大事」と言われますけど、読める人はなかなかいないと思うんですね。だから、適応能力というか時代にあわせて考えを微調整できるよう、常にアンテナを張ることが必要だと思います。あとは「継続は力なり」ですね。まじめにコツコツ続けることが一番だと思います。

取材日:2023年6月30日 ライター:中島敬子

株式会社コメックス

  • 代表者名:津山 英樹
  • 設立年月:2007年9月
  • 資本金:1000万円
  • 事業内容:婦人靴卸・企画・製造・販売・OEM
  • 所在地:〒812-0025 福岡市博多区店屋町6-25オクターブ店屋町ビル4階
  • URL:https://comex.jp/
  • 連絡先:092-263-1027

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