グラフィック2023.01.25

絶滅危惧種の若い芽を大切に育みたい。クライアントも巻き込み、広島のデザイン業界に新しい風を

広島
有限会社カグラ 代表
Yoshinori Imamura
今村 嘉紀

誰がこの家に住み、その先にどんな生活があるのか—。分譲マンションを中心とした不動産広告を主に手がけ、細部までこだわり抜かれた作品を展開してきた広島の有限会社カグラ。代表の今村 嘉紀(いまむら よしのり)さんは専門学校時代の講師のもとで修業を積み、地元広告代理店の制作部門を経て2005年に独立しました。デザイン業界の労働環境や高齢化に課題感を持ち、「絶滅危惧種の若手デザイナーたちを守りたい」と話す今村さんに、カグラの持つビジョンをお聞きしました。

事業の柱は「かっこいいグラフィックデザイン=KAGRA」

まず、事業内容について教えてください。

弊社は創業以来、主に分譲マンションの不動産広告を手がけてきました。ショッピング施設やガス会社、JAなど、比較的大手の企業様からも広告のご依頼をいただいております。
そのほかにもロゴやWebサイト、フリーペーパーなどの冊子、パッケージなど、グラフィックデザインを中心に事業を展開しています。総合的なPR戦略を行う上で、店頭ディスプレイや絵コンテから携わるCM制作、マンションギャラリーのプロデュースなどを手がけることもあります。

不動産広告を手がけるようになったきっかけはありますか?

独立前に勤めていた広告代理店の制作部門で、不動産広告を担当していたことです。そこでノウハウを身に着け、今の基盤となる人脈も築きました。
私は30歳を機に同僚と独立したのですが、当時の社長がとても親身になって私の独立を応援してくれました。1年間は前職の職場内に事務所を構えてもいい、既存のお客様からのご依頼を受けても構わないとまで言ってくれたんです。破格の条件ですよね。
そこで、当時のお客様からカグラとしてお仕事をいただくようになりました。さらに私が辞めて間もなく、その会社が残念ながら廃業されたため、依頼先をなくしたクライアントからもご依頼をいただくようになりました。
「カグラ」という社名は、同僚と相談して響きがかっこいい言葉から選びました。「神様が楽しむ」って、いい言葉だと思いませんか?私の実家のすぐそばでもお祭りで神楽を奉納します。「かっこいいグラフィックデザイン」の略でもあって、アルファベット表記では「U」を入れず「KAGRA」と書きます。

ゼロベースから築き上げていく不動産広告特有のやりがい。作り手だからできる仕事で

作り手側から見た不動産広告の特徴はありますか?

不動産広告は、ものすごくクリエイティブな仕事だと思うんです。私たちデザイナーの裁量に任される部分が大きく、結果が目に見えるのでやりがいを感じますね。
実は分譲マンションって、最初に広告を作る時点ではあまり形がないんですよ。決まっているのは建設予定地と計画図と予算だけ。ほぼゼロベースで始まります。
その土地が持つ特性や予算感から、例えば年齢や年収、家族構成などをイメージしてターゲット層を設定し、その人たちに刺さるコンセプトやビジュアルをイメージしていきます。郊外の広めのマンションなら子供のいるアットホームなイメージで、都心の高級マンションならスタイリッシュまたはラグジュアリーなテイストでといった形です。
今でも前職でお付き合いのあった広告代理店からご依頼が入るほか、企画や土地開発を手がけるデベロッパーから直接お話をいただくこともありますね。

創業から17年経って、カグラが選ばれ続けるのはなぜだと思われますか?

クライアントとの打ち合わせを担当する私が、デザイナー出身ということが大きいかもしれません。打ち合わせの内容を反映したデザインの方向性をラフでスタッフに指示したり、その場でイメージを描き起こしたりできます。制作フローを理解していることから、クライアントとスムーズな意思疎通ができるため、クオリティの高いデザインを提供できているのではないでしょうか。
チームワークの良さも自慢で、弊社では全員がすべての案件情報を共有し、意見を出し合いながら制作します。
弊社のお客様はこれまでの作品を見た方、口コミを聞いた方、既存クライアントのご紹介といった方ばかりです。実は独立以来、1度も新規営業をしたことがないんですよ。過去の作品や実績から、ご信頼をいただいているのだと思います。
あまり知られていませんが、不動産広告には決まりごとがとても多いんです。ビジュアルにしていいもの、ダメなもの、広告を投下するタイミングにも細かな決まりがあります。さらに「『実際とは異なる可能性があります』などの注意書きが必要」といったものです。「最高級」などの最上表現も使えません。
マンションは大変高価な買い物なので、誤解がないように作ることがとても大切なんですね。前職でそうした決まり事を理解していたので、「都度説明しなくてもいい」というアドバンテージもあります。

自分が働きやすい環境で、絶滅危惧種の若手を守り育てたい

仕事内容は独立前と変わらないということですが、あえて独立された理由は?

デザイン業界では若手のデザイナーが「絶滅危惧種」などと呼ばれ、40代から50代のデザイナーが中心となるなど、業界全体の高齢化が問題視されていることをご存じですか?自分が「働きたい」と思える環境の会社を作り、若手デザイナーを守り育てたいと思いました。
今は盛んに「働き方改革」という言葉を聞くようになりましたが、私が勤めていた当時のデザイン業界は、それはもう酷い労働環境が当たり前でした。毎日夜中まで働いて、例え自分の仕事が終わっていても、先輩が残っていれば先には帰れません。ずっと働ける環境ではなかったので、同僚や後輩が次々と辞めていきました。
私自身はその時代に厳しく鍛えられましたが、厳しく時間をかけて教えれば教えるほど、いいデザイナーになるとは限らない。一定レベル以上の作品を創造するには、生まれ持ったセンスも必要です。そういうセンスがある人を逃がさず、育てていける業界にしたいんです。

では、会社の勤務体制はどのようにされていますか?

弊社の社是は「明日できることは今日しない」。無理せず心に余裕を持って仕事を進めようと呼びかけています。
デザイン業界には「人生の9割が仕事」という人も珍しくありませんが、私はプライベートが充実していないと、いい広告はできないと思っているんです。社員が帰りやすいよう、私自身も率先して早めに帰宅します。19時まで残っている日はあまりありませんね。
余裕があるときには前倒しで仕事をするなど、メリハリのある働き方をしてほしいです。自分の果たすべき役割を終えたら自由にしてもらって構いません。できれば週休3日にしたいくらいです。
自宅でも会社でも好きな場所で働けるよう、希望者には自宅に作業用モニターを設置してもらいました。その点では、新型コロナウイルスの流行が変化のきっかけになりましたね。

社員の方には何を求められますか?

何より仕事で手を抜かないことです。スタッフが作るものは、すべて「カグラの作品」として世に出ていきます。そのときに恥ずかしくないクオリティの作品を作ってくれるかどうか。それが最も重要です。

自分たちが変わればクライアントも変わる!広島のデザイン業界に新しい風

クオリティの高い作品を生み出し続けている御社ですが、今後は会社として何を目指していかれますか?

弊社が率先して働きやすい環境を整えることで、広島のデザイン業界の勤務体制を一新していきたいですね。若手のデザイナーが辛くて業界から離脱しなくてもいいような体制を作ってあげたいです。
クライアントにも、「カグラのスタッフは定時で帰る」と時間をかけて周知してきました。おかげさまで現在は、遅い時間に急ぎの修正指示を受けるようなことはありません。つまりお客様にもご協力いただくことで、勤務環境は改善できるんです。クオリティの高い作品をご提供しながら周知を続ければ、お客様の理解は得られます。
先日長年勤めてくれた社員が退職したので、年明けからは新卒者と経験者の2人を採用する予定です。彼らも今の時代に合った教育方法で、大切に育てていきたいです。

取材日:2022年11月30日 ライター:進藤 真由美

有限会社カグラ

  • 代表者名:今村 嘉紀
  • 設立年月:2005年7月
  • 資本金:300万円
  • 事業内容:チラシ、新聞広告等のデザイン、ロゴ制作、Webデザイン、フリーペーパーなどの冊子制作、パッケージデザインなどのグラフィックデザインを中心に、店頭ディスプレイやCM制作、マンションギャラリーのプロデュースなどを含む総合デザイン事業
  • 所在地:〒730-0037 広島県広島市中区中町2-2 末広ビル301
  • URL:http://kagra.co.jp/
  • お問い合わせ先: 082-248-0022

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