WEB・モバイル2023.01.11

滋賀の魅力、伝えます。SNS総フォロワー数10万人の「しがトコ」に見るWebメディアの可能性

滋賀
株式会社しがトコ 代表取締役
Masataka Hayashi
林 正隆

大阪、京都に比べて、存在感が薄くなりがちな滋賀……いえいえ、そんなことありません!「この夏は琵琶湖で“湖水浴”デビュー!」「思わず目を奪われる滋賀の絶景!『リフレクション写真』特集」など、今週末にでも滋賀に行きたくなる記事がWebメディア「しがトコ」には満載です。Instagram、Twitter、Facebookの総フォロワー数は約10万人(2022年11月現在)と、2012年の立ち上げから10年が経った今、滋賀を代表するメディアに育ちつつあります。
今回お話を聞いたのは、「しがトコ」生みの親、株式会社しがトコ代表の林正隆(はやし まさたか)さん。前職でITマーケティングの仕事をしていた林さんは、ご自身のスキルを活かし、「しがトコ」を成長させてきました。Webメディア運営に必要な視点、そして、Webメディアが持ちうる可能性を、林さんに伺いました。

「滋賀のいいところ」を伝えたい!「しがトコ」の始まり

御社の事業内容を教えてください。

私たちは、「しがトコ」というWebメディアを運営しています。「しがトコ」とは、「滋賀のええトコ」の略。県内のお出かけスポットや、イベント情報など、滋賀の魅力をさまざまな角度から取り上げた記事を掲載しています。
また、メディア運営と連動して、行政や企業のプロモーション案件も手がけています。例えば、滋賀県が運営する「滋賀ぐらし」というポータルサイト。滋賀県に移住してきた方のインタビュー記事を制作したり、SNSでPRしたり、といった広報活動のお手伝いをしています。

Webメディア「しがトコ」が、御社の事業の軸となっているのですね。そもそも、「しがトコ」を始めようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

私は滋賀の出身ですが、ITマーケティングの会社に就職し、東京や大阪で働いていました。その後、結婚して子どもが生まれたタイミングで、「子育てをするなら滋賀の環境がいいだろう」と、独立して滋賀に移り住むことを決めたんです。
でも、周りの人たちにそのことを伝えると、「滋賀に帰るってことは、もう最前線では仕事をしないんだね」と返されて。「何で?!」と思いました。滋賀に魅力を感じるからこそ移り住むのに、“都落ち”のようなネガティブな印象に受け取られることに、違和感が生まれたんです。

確かに、滋賀は大阪や京都と比べて「田舎」と受け取られがちな印象があります。

そうなんです。京都や大阪と比較してネタにされることもあるんですけど(笑)。滋賀には良いところがたくさんあるのに、世間にはぜんぜん伝わっていないんだな、と実感しました。だとしたら、誰かが滋賀の良さを発信していくべきではないか、と考えたんです。

そこで、「しがトコ」を立ち上げた訳ですね。

はい。今からちょうど10年前、2012年のことです。当時はSNSが急速に広まっていた頃だったので、まずはFacebookから始めてみようと。Facebookに「しがトコ」のアカウントを作り、滋賀のおすすめスポットや、イベントなどを記事で投稿していきました。
ITマーケティングの仕事をしていてSNSに馴染みがあった自分と、編集の仕事をしていた妻、当時、滋賀で出会った写真家さん。最初はこの3人で記事を作っていました。

その後は、どのように広めていったのですか?

最初の目標は、「Facebookのフォロワー数を1000人にする」ことでした。当時のFacebookでは、Facebook上の友だちが多い人に「いいね」してもらうことが、拡散されやすい一つの方法でした。だから、友だちが何百人もいる人、今で言うインフルエンサーのような人に狙いを定めて、直接メッセージを送りました。「滋賀の魅力を紹介する記事を書いているんですが、読んでもらえませんか」と。滋賀県内にいる方なら、直接会いに行ってお願いしたこともありましたよ。職業がITマーケティングとか言っておきながら、すごくアナログな方法ですけど(笑)。最初のうちは、そうした地道な努力で少しずつ認知を広めていきました。
数カ月後くらいには投稿もたまり始めたので、Webサイトを立ち上げました。最初に作ったのは、写真と簡単な文字だけの、Facebookの投稿をそのまま貼り付けたページです。その後、TwitterとInstagramも開設し、Webサイトも充実させて、10年間かけて今の「しがトコ」の形を作ってきました。

ひとつのメディアを10年運用するというのは、簡単にできることではないと思います。継続のモチベーションは何だったのでしょうか?

一番のやりがいは、一番のやりがいは、SNSでの反応ですね。いいね数や、コメントなどから「応援してもらえてる!」「共感が広がってる!」ということが実感できました。あとは対面での感想ですね。「この間の記事、読んだよ。面白かったよ」と直接声をかけてもらい、読者の反応を見ることで、自分たちのやっていることに自信が持てました。
続けていくうちに、「こんなイベントあるけどどう?」とか「面白い場所見つけたで!」とか、口コミが次々に入ってくるようになって。地元ならではの情報が集まり、ますます面白い記事が書けるようになりました。

記事制作のポイントは、ターゲットとなる読者像をいかに明確に描くか

「しがトコ」ではグルメや絶景スポット、豆知識など、幅広いジャンルの記事を扱っています。扱うテーマはどのように決めているのでしょうか?

読者について明確なターゲット設定をしています。「こんな人に読んでもらいたい」という人物像を、できるだけ具体的に描くんです。私たちが想定している読者像は、東京都内に住む30代の独身女性。田舎暮らしに憧れがあって、休みにはプチ旅行に出かける、離島が好き……という設定。実は、実在する知人がモデルになっているんです。「やぶちゃん」っていうんですけど(笑)。編集会議で特集の案をふるいにかける時には、「やぶちゃんだったら、この記事を面白がって読むかな?」という目線で考えるようにしています。
ですから、「スーパーで週末特売!」や「安くてボリューム満点のラーメン10選」など、ある程度アクセスが望めそうな記事であっても、ターゲットの目線からずれるものは掲載しません。目線を定めてテーマを決めることで、“「しがトコ」らしさ”を作りたいと思っています。

反響があるならどんなテーマでもいい、という訳ではないのですね。

“「しがトコ」らしさ”という点で言うと、もうひとつ意識しているのが、“広める系の記事”と“深める系の記事”、2つの視点から考えることです。広める系は、観光情報やグルメ情報など、読者受けを重視した比較的カジュアルな記事。一方で、深める系は、読者の反響はさておき、自分たちが面白いと思ったものだけを追求した記事です。
アクセス数を増やすための記事はもちろん必要ですが、それだけでは、自分たちの個性が出しにくくなってしまう。読者の目線と、自分たち独自の目線。両方をバランスよく持っていたいと思っています。

何をテーマにして記事を書くか、自分たちの判断基準を持つことが大切ですね。

美味しいパン屋さん、お洒落なカフェ、というだけなら、東京や大阪にいくらでもあるでしょう。むしろ、滋賀よりもたくさんある。それよりも、「琵琶湖を一望するテラス席のカフェ」が載っていたほうが、「いいな」って思いませんか?
ロケーション、そして、古民家などの歴史的な文化や伝統。「滋賀にしかない」を取り上げることが、「しがトコ」の軸を作っていると思います。

読者の傾向は変化している?今好まれる記事テーマとは

アクセスが増えやすい記事の傾向について、教えていただけますか?

人気記事の傾向は、この10年間でも変化してきています。少し前までの主流は、ロケーション重視の記事。「眺めのいいカフェ」や、「映える写真が撮れる絶景スポット」などが人気コンテンツでした。でも近ごろは、少し傾向が変わってきている気がします。
例えば、最近ヒットしたのは「大雨のとき、琵琶湖はどんな役割を果たしているか?」をテーマにした専門家のインタビュー記事。先ほどの話で言う、“深める系の記事”です。わりと真面目な内容だったので、アクセスはさほど伸びないだろうと思っていたのですが、Twitterで拡散され、たくさんの人に読まれました。ここ数年は、観光情報だけではなく、知識や学びを得られる読み物にも注目が集まるようになってきている印象があります。

スマートフォンの普及やSNSの浸透など、社会の変化に応じて、読まれる記事の傾向も変わっているのでしょうね。

そうですね。色々と試行錯誤しながらやってみるしかないと思っています。アクセス数を増やすために、記事を量産しようか、それとも、数は少なくてもクオリティを追求しようか、方針で迷ったこともあります。一時期は頑張って更新回数を増やしたこともありましたが、アクセス数には大きな変化がありませんでした。最終的には、更新頻度は落ちても、しっかりと中身の濃い記事を作ったほうが広まりやすい、という結論に至ったんです。
そして今では、SNSからのアクセスは欠かせませんね。Facebook、Twitter、Instagramとやっていますが、安定してアクセスを呼びこんでいるのはInstagramです。一方、Twitterには、瞬発力がありますね。紹介した記事が一気に拡散されて、アクセス数が跳ねることがあります。今はYouTubeやTikTokなど動画分野のニーズも高まっているので、これから力を入れて取り組んでいこうと思っています。

「滋賀を代表するメディアになる」という責任感を背負って

「しがトコ」を立ち上げた当時は、個人事業主としてお仕事をされていたとのこと。その後、2018年に、株式会社しがトコを設立されたと聞いています。なぜこのタイミングで会社を作ろうと考えたのでしょう?

2018年にはメディア運営も7年目に入り、滋賀県をはじめとした行政機関や企業からの案件増加が、ひとつのきっかけとなりました。しかし、何よりも重視したのは、「しがトコ」を継続可能な事業として成り立たせることです。
実は、滋賀県は47都道府県で唯一、地元の新聞がないんです。配布されているのは、京都新聞か中日新聞の滋賀版。雑誌の出版社もない。ローカルのテレビ局はありますが、他の地域に比べると存在感が弱い。新聞やテレビ局など、地域情報を発信するメディアの力が弱いように感じていました。地域を代表するメディアがないということは、地域の魅力をその地元の人たちが感じにくい、ということです。自分たちの住んでいる場所がどれだけ魅力的な場所なのかに気づいてもらいたい。そのためには、「「しがトコ」が、滋賀の情報を発信する役割を担わないといけない」と思ったんです。
そう考えた時、私が個人事業主として、ひとりで「しがトコ」を運営し続けているのは、形として不安定でしょう。個人の趣味としてやっていたのでは、一人前のメディアとして成長できない。そこで、会社を作り、自分以外の社員を雇って、長く継続できる体制を作ろう、と決めたんです。

会社として、責任を引き受けることを決断されたのですね。

「しがトコ」を始めた当初は、「飽きたらいつでもやめればいいや」と思っていました。しかし、「しがトコ」を通じて地域の方々と密接に関わっているうちに、メディアとしての責任を感じるようになっていったんです。

林さんが描く、会社の未来像を教えてください。

クリエイティブ分野でやりがいのある仕事をしようと思うと、滋賀よりも、東京や大阪の会社に目が行くことが多いですよね。昔は私自身も「滋賀では、やりがいのある仕事が見つけられないんじゃないか」と思っていました。
でも、「それは違うよ」って言いたい。滋賀でも、いや、滋賀だからこそ、こんなに面白い仕事ができるんだ、と言いたいです。そのためには、株式会社しがトコを、滋賀でクオリティの高い仕事ができるモデルとして成功させなくては。「滋賀でもできる」ではなく、「滋賀だからできる」。そんな価値を、この会社で創っていきたいと考えています。

取材日:2022年11月21日 ライター:土谷真咲 写真:若林美智子

株式会社しがトコ

  • 代表者名:林 正隆
  • 設立年月:2018年4月
  • 資本金:100万円
  • 事業内容:ローカルメディア「しがトコ」の運営。および、「つたえる・つなぐ・つくりだす」をコンセプトにした3事業
  • 所在地:〒524-0037 守山市梅田町2-1 セルバ守山地下1F
  • URL:https://shigatoco.com
  • お問い合わせ先:https://shigatoco.com/shigatoco/

※掲載の社名、商品名、サービス名ほか各種名称は、各社の商標または登録商標です。

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