WEB・モバイル2022.02.16

「先生をヒーローに」ナスピアの技術が教育を変える

大阪
株式会社ナスピア 代表取締役
Shinichi Seki
関 進一

eラーニング教材を始めとした教育系コンテンツで高い評価を得る、株式会社ナスピア。コロナ禍においては小中高大すべての学校でオンライン授業が行われ、教育におけるデジタル技術の必要性が一気に高まりました。

ナスピアの技術はコンテンツ制作だけではなく、生徒の学習状況を管理するシステム開発、回答のAI採点、そして採点結果の分析まで、教育に関するあらゆる分野に活かされています。

「先生をヒーローにしたい」と語る代表取締役の関進一(せき しんいち)さんに、教育におけるAI技術のいまを聞きました。

メディアコンテンツの学校立ち上げに参加

関さんは、ナスピアの2代目社長とお伺いしました。社長に就任されるまでのご自身のキャリアをお聞かせください。

京都の大学を卒業して最初の就職先は、音楽や映像配信をしている有線ブロードネットワークの会社でした。業務内容は、当時登場したばかりの「通信カラオケ」の営業です。その仕事に就いて3年くらい経った頃、大学時代の先輩から「自分がいる会社に来ないか」と誘われて転職しました。転職先は、東京・お茶の水にあるデジタルハリウッド株式会社。「デジハリ」の通称で知られる、メディアコンテンツの学校を運営する会社です。当時は映画やゲームにやっとCG映像が登場し始めた頃で、それらの技術を学べる学校はほとんどありませんでした。そんな中、いち早くコンピューターグラフィックスを教えていたのがデジハリです。

そのお仕事がきっかけで、メディアコンテンツ業界との関わりができたのですね。

とはいえ、ほとんどは学内の事務仕事でした。入社して6年が経った2004年、大きな事業に関わることになりました。大学院の立ち上げです。デジハリは映像・グラフィック分野のクリエイターを養成する学校でしたが、卒業したクリエイターが活躍するためには、獲得した技術を活かせるフィールドが必要。そこで、クリエイターたちの仕事を作る「プロデューサー」や「ディレクター」を養成する大学院を作ろう、という話が持ち上がりました。まずは東京に設立され、続けて大阪にも進出が決定。私は、その大阪での立ち上げを任されたんです。私が担当していたのは、大学院の教員の採用です。これにはかなり苦労しました。プロデューサーやディレクターを育てる学校にふさわしいのは、研究者ではなく、現場の第一線でバリバリ活躍している人材。しかし、そのような方はほとんど東京で活動していましたので、関西には少なかったんです。教員探し、文科省とのやり取りなどのハードルを越え、丸1年かけてようやく大阪校が設立に至りました。

その後はどんなお仕事を?

設立後も、関西のプロデューサーの会合にはこまめに顔を出していました。就職課のような仕事もしていたので、卒業生を雇ってもらえるようにコネクションを作るためです。業界の方々と接する時間が多くなるにつれ、ふと、「自分がこの業界に行ったらどうなるんだろう?」と考えた瞬間がありました。意外と面白いんじゃないか、いや、楽しそうだぞ、となって。当時の私は30代後半。そろそろ職を変えてみようかと思っていた頃でした。そこでプロデューサーたちが集まる場で「フリーエージェント宣言します!どなたか雇ってください!」と発言しました(笑)。

それは思い切った行動に出ましたね!(笑)

そこで「うちに来い」と言ってくれたのが、ナスピアの創業者である先代の社長だったんです。関西の実力派プロデューサーのひとりで、大学院設立の際に真っ先にご挨拶に伺った方でもありました。こんないきさつで、あっさりと転職が決まってしまいました。

アルバイトから社長へ、突然の抜擢

ナスピアに入社してみていかがでしたか?

勢いにまかせて入社したものですから、条件面をまったく確認していませんでした。進んで採用してくれたのだから、ヘッドハンティング級の扱いだろう、と思っていたんです。しかし、これが大きな間違い!1回目の給与明細を開けてみたら「時給」と書いてありました。何と、私はアルバイトの身分だったんです(笑)。妻にはアルバイトになったとはとても言えず、貯金で補って体面を保っていました。このままではまずいと思って、社長に早く社員にしてくれるよう直訴し、入社3か月目にやっと社員になれました。

それは安心しました(笑)。

当時の勤務地は東京で、営業の仕事をしていました。ナスピアはテレビ局とコネクションがあり、教育番組などのコンテンツ制作を手がけていたため、各局のプロデューサーとのお付き合いが主な仕事でした。しかし、ここで思わぬ事態が起きます。やっと社員になれた、と思って間もないうちに、先代に「社長になれ」と指名されてしまったんです。

聞いているこちらも追いつかないスピード感ですね……。

先代はご高齢だったので、体力的にもそろそろ社長の座をバトンタッチしたいと考えていたようです。予算とクオリティの折り合いをつけ、デザイナーやエンジニアをうまく取りまとめるには、誰かが責任をかぶる必要があります。時には泥水をすするような思いもしなくてはいけない。社長が誰に引き継ごうかと社内を見回したとき「こいつならタフそうだ、泥水を飲んでも大丈夫だ」と判断されたんでしょう(笑)。こうして、ついこの間までアルバイトだった人間が社長の座に就くことになりました。

気になるのですが、入社時に関さまは、社長になる事態を想定していましたか?

いえ、完全に想定外の出来事です。むしろ、社長に指名されたときは「やばい」と思いました。雇われる側にいた自分が、急に雇う側になった訳ですから。経営や労働基準法、人事評価など、組織の運営をゼロから学ばなくてはいけません。また言うまでもなく、責任も段違いに重くなります。会社の命運を左右する決断をしていかなくてはいけないんです。幸い、先代社長がアドバイスをしてくれたり、経理のスタッフが専門的な知識を教えてくれたりしたので、少しずつ勉強して覚えていきました。でも、決断する難しさは10年経った今でも感じています。

eラーニング事業を会社の軸に

Webサイト:https://www.knospear.jp/

現在の事業内容についてお聞かせください。

教育関係のコンテンツ制作とシステム構築が主な事業です。eラーニング教材や、塾向けの学習状況の共有システムなどを開発しています。eラーニング教材をメインの商材にしようと決めたのは、社長に就任したときです。それまではテレビ局のコンテンツ制作が最大の収益源でしたが、テレビ局の予算も減りつつあり、これだけでは生き残っていけないと思いました。何かもうひとつ、柱となる事業を作らなくては、と考えたんです。

そこで思いついたのが教育系コンテンツ事業だったのですね。

当時、ナスピアがコンテンツ制作を請け負っていたクライアントは、テレビ局や新聞社、大学、研究機関などで、そのリストを眺めていて気づいたんです。共通点は「教育」だ、と。そこで、教育系コンテンツの制作に舵を切りました。たまたま弊社には教員免許を持っている人がけっこういたんです。彼らの能力も活かせるのではないかと考えました。

教育の現場にAIを導入

これからはどのような事業展開を考えていらっしゃいますか?

いま力を入れているのは、eラーニング教材へのAIの導入です。当社ではすでに、AIの採点ソフトを販売しています。その名も「採点師匠」。日本語で自由に入力した文章をAIが採点してくれるんです。このソフトを使えば、採点者による採点のムラがなくなり、かかる時間も大幅に短縮できます。自社で開発しているeラーニング教材に「採点師匠」を取り入れることで、選択問題も自由記述問題もすべて採点できるようになりました。生徒の学習状況を把握するシステム、出題、採点、そして採点結果の分析まで、学びに関わる一連の流れを、すべて自社サービスで提供できるようになったんです。

採点結果の分析とは、どのような?

分析機能を搭載したeラーニング教材を導入すれば、生徒が「本当にその問題を理解しているかどうか」が判定できます。例えば「テストで適当に選んだ答えがたまたま合っていた、ラッキー!」ということがありますよね。理解しているか否かは、テストの点数とは必ずしも一致しないのです。ラッキーでは解けない出題形式や、例えラッキーだったとしても分析により理解していないことをあぶりだす仕組みが必要だと考えています。

データをもとに自分の弱点を教えてくれる訳ですね。

わからないことをスルーして先延ばしにしていたら、いずれどこかで行き詰まり、復習しなければならないですよね。でも、わかっていないと見抜けたら将来つまづかないように、今の時点でしっかりと対策できます。私はこの機能で、先生を“ヒーロー”にしたいと思っているんです。

“ヒーロー”とはどのような存在を指すのでしょう?

生徒がまぐれで当たった答えに対して、「実はこの問題、わかってないんじゃないの?」とズバリ言い当てたら、「先生すごい!なんでわかったの?」となりますよね。その瞬間、先生はヒーローになれます。上手に指摘して理解させるのが先生の役割ですから。分析はAIにまかせ、先生は子どもたちとの熱のこもったコミュニケーションにたっぷり時間を割いてほしい。塾向けのサービスにおいては、志望校に合格させるのが第一条件です。でも私は、そこに何かひとつ“気づき”を与えられる教材を作りたいと思っていて。ただの詰め込み学習ではなく、「今の勉強は将来につながっているんだ」と思ってもらえる教材を作りたいですね。

これから叶えたいことや目標はありますか?

そうですね、私は「テストのない世界」を作ってみたい。テストをしなくても、その人に関するありとあらゆる情報から学力や性格が分析され、可視化されている世界です。これを実現するためには、情報リテラシーの知識を国民一人ひとりがしっかり持たなくてはいけません。自分の情報を自分で管理し、誰にどこまで開示するかを自分自身で選ぶのです。この世界が現実になれば、例えば採用の場面において、企業と人のマッチングはより幅が広がるでしょう。必ずしも、学力が高い人のほうがいい、という訳ではありません。同じ80点でも、一発であっさりとれる天才肌の人もいれば、何回も何回も間違え、努力してとった人もいるからです。どちらのほうが社風に合っていて、長く仕事を続けてくれると考えるかは、企業によって異なるでしょう。その人の長所や資質を見極め、より評価してくれるフィールドに身をおけるようになれたらいいですよね。簡単には辿り着けないかもしれませんが、少しずつでもゴールに近づきたいですね。

取材日:2021年12月3日 ライター:土谷 真咲

株式会社ナスピア

  • 代表者名:関 進一
  • 設立年月:2003年7月
  • 事業内容:下記分野におけるデジタルコンテンツのプロデュース企画・制作、システム・ネットワークの設計・開発・運営 スマートフォン・PC・タブレット向けwebサイト 小・中・高・大学・各種学校向けデジタル教材・eラーニング教材 幼児教育向けデジタルコンテンツ等
  • 所在地:〒530-0015 大阪市北区中崎西3-1-2 開成梅田ビル
  • URL:https://www.knospear.jp/
  • お問い合わせ先:06-6131-6307

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