プロダクト2021.05.12

ドッツアンドラインズが駅から始める、ものづくりへの関心と関係人口を増やす挑戦

新潟
株式会社ドッツアンドラインズ 代表取締役
Kazuya Saito
齋藤 和也
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2020年3月に、世界に点として散らばっているものづくりのニーズを線として結ぶ企業を目指し設立

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ラボの中には、さまざまなものづくりの一例がずらり

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ドアオープナー

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飛沫感染防止用パーテーション

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マスクケース

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三条市内のEkiLabサテライトでもあるファブラボ燕三条では3Dプリンターなども使えます

「世界有数の高度な技術集積地」「金属加工技術で世界トップクラス」ともいわれる、新潟県燕三条市に今新たなものづくりの風が吹き始めています。その風の名前は「EkiLab帯織」(えきらぼおびおり)。無人駅に作られたものづくり支援施設です。

その運営に携わっているのが株式会社ドッツアンドラインズ。同社は場の運営に留まらず、人と工場、企業と工場をつなぎ、商品開発やセミナーの開催もするなど、ものづくりの関係人口を増やす事業を展開しています。代表取締役の齋藤和也(さいとう かずや)さんにお話を伺いました。

 

燕三条はものづくりが当たり前。でもそこに関わりを持てる人は限られていた。

ドッツアンドラインズは、約1年前の2020年3月に設立と伺っています。「EkiLab帯織」の開設がきっかけということでしょうか?

そうですね。志を共有する仲間とEkiLab帯織の立ち上げが進んでいく中で、ボランティアでの運営では慣れ合いになってしまうと考え、きちんと収益を生み出せる会社設立の必要性を感じました。

燕三条の若手経営者たち10人で立ち上げましたが、一人一人自分の会社があります。僕は有限会社ストカというプレス・機械加工の会社で専務をしています。

それぞれの会社の社員から「EkiLab帯織で自分の会社の経営者(社長や役員)が何やっているかわからない」と思われてはまずいかなという思いもあり、連結はしていませんがEkiLab帯織での取り組みから、各社の利益につながる道筋を作ることも考えています。

<EkiLab帯織とは>

無人駅(JR帯織駅)を利用したものづくりのHUBシステムであり、ものづくりの交流拠点。会員になると作業工具や3Dプリンターなどの機器を使える他、ワークショップへの参加やものづくりの相談などもできます。

日頃から燕三条の経営者の方とお話をしていると、つながりの太さを感じます。立ち上げの10人はどのような方々ですか?

根っからの職人の地域なので、誰かが困っていれば助ける、助け合い精神は人一倍強いですね。青年会議所のメンバーで、損得抜きで地域と自社のために考えて率先して一緒に行動できる人たちです。そこにベンチャー企業や上場企業の立ち上げ経験が豊富なエンジェル投資家の加藤順彦(かとうよりひこ)も取締役として参加しています。加藤はシンガポール在住ですが、EkiLab帯織の取り組みをクラウドファンディングで見つけて、わざわざ燕三条まで話をしにきてくれたんです。

改めてEkiLab帯織の立ち上げ経緯を教えてください。

燕三条はものづくりの地域として知られています。そこをもっと発信しようという取り組みもありますが、僕の場合は逆なんです。このエリアのものづくりがすごいということは周知の事実だと思っています。だからこそ、その発信よりも「ものづくり」と関われることのメッセージの方が大事だと考えました。きっと「ものづくり」との関わり方を知らない人はたくさんいると思うんです。「ユーザー目線になって関わり方を教える場所が必要だ」とずっと考えを温めてきました。燕三条にはオープンファクトリーといって見学できる工場もいくつかありますが、核心のところは一般の方はお断りであったり、機密契約で見学自体ができないところがほとんどです。ものづくりの秘密が気になったとしてもそこから先に踏み込めない。EkiLab帯織は「ものづくりの始発駅」というキャッチコピーを掲げて、ここに来た人や企業を工場とつなげていくことで、幅広いニーズを取り込むことを目指しています。

EkiLab帯織は、ドッツアンドラインズとJR東日本との連携事業と伺っています。

EkiLab帯織は、JR東日本グループ(※)の「地域にチカラを!プロジェクト」による無人駅の新規活用事業案に応募して選定いただいたことで、行った事業でもあります。もともとプランニングしていた段階で、特別ものづくりに思い入れがない人でも、毎日目に入ることで、気になったりファンになったりすることを狙って、たくさんの人が集まる場所でやりたいというアイデアをずっと温めていました。その延長線で駅という施設を活用させていただけることは大きなチャンスだと考えました。設立にあたりクラウドファンディングを使ったところ、目標金額を超える350万円が集まりました。調べてみると新潟県外からの支援が過半数で、改めて燕三条の知名度と、取り組みに対するニーズを感じました。

※JR東日本グループとは、JR東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)、JR東日本スタートアップ株式会社(JR東日本の子会社であるベンチャーキャピタル)、株式会社CAMPFIRE(クラウドファンディングを行う企業)の3社。

駅ラボでできること

 

経験や人脈があるからこそできる、ニーズ×技術による新しい価値の創造

 

 

御社の経営理念と事業内容を教えてください。

会社の理念は点と点を線でつないでより一体的な面、つまり価値に変換していくことです。ホームページにも記載しています( https://dotsandlines.co.jp/service/ )。事業としては、まず一つ目がものづくり技術の集結による新商品開発。僕たちは燕三条の工場は当然ながらかなり知っているので、自社だけでは完結できない製品づくりも、僕たちに相談していただき、横のつながりを作らせてもらえれば活用して連携していけば完成させられます。一般のユーザーさんの「こんなもの作って欲しい」というニーズは、多少具体的でない入り口であっても、出口まで一貫して対応していくことができます。二つ目が商業施設や工場、店舗のVRソリューション提供です。例えば、より立体的に工場を案内することのできるサービスです。燕三条には立ち入り禁止の工場も多いので、VRを使うことで工場見学を疑似体験し、より工場を知っていただく機会となり、認知や集客につながるのではないかと。実際に(専務を務める)ストカで利用していますが、分かりやすいと好評です。三つ目は地場企業商品の取り扱いとECサイトの運営です。自社サイトとJR東日本さんが運営する「JRE MALL」(https://www.jreastmall.com/shop/default.aspx)で販売しています。売り先がなくて困っている地元企業の商品の販路にしたり、お世話になっているJR東日本さんへ恩返しするためにも、サイトがどうしたら盛り上がるかも一緒に考えながら運営サポートをしています。

今まで開発した商品の一例を教えてください。

もともと包丁や鎌の刃を保護するビニールケースを作っている会社で、技術の転用をして、ビニールのマスクケースを開発しました。一つの製品の一部のパーツを作っている工場ではなかなかその技術PRは難しいですが、潜在的な可能性を表に出して商品化し、付加価値を作って発信しています。ヒット商品としては、新型コロナウイルス感染防止グッズとして開発した「飛沫防止サイドパーテーション」です。最初は自分たちでいいと思うものを作ってみましたが、飲食店の店長のところに持っていったら、「いや違う」と。でもどこが違うかは具体的に言ってくれない(笑)。改善と「いや違う」を何回も何回も繰り返して完成させた商品が、アスクルやAmazonでもランキングに上がるくらい現在売れています。他にもYouTuberのはじめしゃちょー様からの依頼で「巨大ねずみ捕り機」を作ったり(※下記動画)、様々なオーダーに対応しています。

 

 

「困っている人を助けたい」ヒーローになりたかった夢を叶える

実際EkiLab帯織を運営していかがでしょうか。

実際にものを作る場所、さらにセミナーやスタートアップスクールの会場というのがEkiLab帯織です。CADのソフトが入ったパソコンや3次元(3D)プリンターがありますが、ここにある機器は、あくまでも燕三条の一部を知ってもらうための入り口。若い子がアクセサリーを作ったりと気軽に利用しています。

セミナーは、僕たち自身が企業経営やSNS発信などをやってきているので、事業計画書の作り方や補助金の申請の仕方、動画の作り方など。起業を考えている大学生もきます。子供へ向けた定期的なIoTの導入部分のワークショップを開催したりもしています。

会員登録が必要ですが、利用者は若い人から主婦の方、お年寄りまで幅広いです。他にも、EkiLab帯織をハブにして作りたいものがある企業と燕三条の工場をつなげる取り組みもしています。秘密保持契約で具体的な企業名はあげられませんが、工場(企業)間の連携力が高いことによるスピーディーな対応を評価していただいています。

専務を務められているストカとドッツアンドラインズの経営、両立は大変ではありませんか?

実は僕の昔からの夢は「ヒーローになる」こと。ワンピースのルフィやドラゴンボールの悟空とかですね。「困っている人を助ける存在」でありたいんです。ものづくりに対して課題を持っている人を手助けして喜んでもらえたら、僕にとってはルフィや悟空たちと同じこと。そんな自分自身の信念を軸に、周りの人のサポートもいただきながら取り組んでいる形なので辛さはありませんね。

 

学歴よりも技術。やる気のある若者が活躍できる土地にしたい。

以前、齋藤さんは「地元で働きたいと思う子供が出てくれれば嬉しい」とメディアで語られていました。

地元から若者がどんどんいなくなっていっているのは周知の事実です。実際僕自身、工場に勤めるまで工場がかっこいいと思ったことはなかったし、働きたいとも思っていませんでした。同世代がいない、おじさんばっかりの工場に入っても話が合わないし楽しくないですよね。しかも「昔からこうやってきたんだ」と押さえつけられたらたまらない。

そこでどのような変革を考え、実践されているのでしょうか?

これからを“創っていく”のは若者です。僕が考えているターゲットは高校生。学歴よりも熱心さや自分の意見、反骨精神を持っている人。そして仕事を最後までやり抜ける人が、ものづくりには大切です。僕自身あまり高校には行きませんでしたが、それでも今は会社を経営している。ものづくりの現場なので金髪だっていいんです。しっかりと仕事に向き合い、人として信用されれば何にも問題ないことを僕が証明しています。変革というか、まずそういう堅苦しさや昔気質なだけでない自由さや柔軟性、理解があることもちゃんと伝える。でないと若い子は、この世界に入ってこないんじゃないかなと思っています。ネットワークはたくさんあるので、やる気がある若者が後継者のいない工場に入って、いつかその工場や技術を継承する道筋も作れるかもしれない。いくらでも未来を変えるアイデアはあると思っています。

 

10年前の自分がカッコいいと思える自分になるために。

モチベーションの源泉はどこにあるんですか?

「自分が死んだ時にどれだけ葬式に人が来てくれるか」というゴールから逆算して行動しています。家族に対してお金を残してもそれは有限です。それよりも人脈を残すことが財産なんじゃないか、葬式の時に娘たちに自分の父親はすごかったと思ってもらえたらいいなと。だからモチベーションというなら、どんな人と触れ合い、どれだけのバトンを渡し、つながりを大事にしていけるか、ですかね。それはお金だけを追っていては手に入らないと思います。そう思えるのは、自分の人生が仲間や恩人によって支えてもらいながら生きているという実感があるからでしょうね。

クリエイターを志す若者にメッセージをお願いします。

僕はよく、道を歩いている時に10年前の自分に突然出会うことを考えるんです。その時に10年前の自分が今の自分を見てカッコいいと感じるか?それを基準にしています。例えば起業しても最初の2~3年はバタバタしていて先がどうなるかはわからない。立ち上がりは勢いもあるかもしれない。でも10年後には結果が出ています。だから長期の目標を立てて、そこに近付いているのか、超えているか意識することが大切だと考えています。いかに自分の未来像を確立してそれを歩めるか。先を見据えた上で動かないと、ゴールを見失います。ぜひ理想の将来像を描いてそこに向かって頑張ってください。

取材日:2021年3月17日 ライター:丸山 智子

株式会社ドッツアンドラインズ

  • 代表者名:齋藤 和也
  • 設立年月:2020年3月
  • 資本金:800万円
  • 事業内容:ものづくり技術の集結による新商品開発/商業施設・工場・店舗のVRソリューション提供/ファブリケーション機器やソフトウェア支援に関するEkiLabの運営/地場企業商品の取り扱い、ECサイト運営
  • 所在地:〒959-1117新潟県三条市帯織2342番2
  • URL:https://dotsandlines.co.jp
  • お問い合わせ先:050-1744-3814(電話受付時間:平日10:00~17:30)
  • https://dotsandlines.co.jp/contact/

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