「No!」と言わずに街一丸となってロケ支援!北九州にあふれる情熱が「映画の街」を生んだ

Vol.202
北九州フィルム・コミッション 事務局次長
Kentaro Katayama
片山 健太郎

映像業界では「北九州市には、映画撮影に必要なすべてのものがある」と言われています。爆破も、公道封鎖も、実機を使ったハイジャックシーンも、「No」と言わない姿勢で、前例のないロケに果敢にチャレンジし、映像作品の誘致・支援に取り組んでいるのが北九州フィルム・コミッション(KFC)。
長年にわたる精力的な活動は、今や多くの市民を巻き込み、街一丸となって撮影を支える「映画の街」として知られるほどに。活動の功績が称えられ、KFCは「東京ドラマアウォード2014・特別賞」や「第23回福岡県文化賞」などを受賞しています。
北九州にはそもそも、のどかな田園風景と雄大な自然、明治・大正時代にできた重厚な煉瓦造りの建築物やモダンな木造洋館、広大な工場群、港町の風情、近代的な都市景観などがそろっており、懐かしさを感じる風景から近未来的な空間まで、多彩なロケーションに対応できる地の利があります。
「撮影支援を通じて市民に、スクリーンを通して大勢の方に、北九州っていいね、と思っていただきたい」と語る片山さんに、活動内容、撮影を支える現場での出来事、関わってきた人たちへの思い、今後に向けての構想などをうかがいました。

「NO」と言わない姿勢で、前例のないロケに果敢にチャレンジ

北九州フィルム・コミッション(以下KFC)設立の背景を聞かせてください。

「北九州のイメージアップを図る」目的で、1989年に北九州市広報室が取り組みを始めたのが活動の原点です。
市の職員が、映画やドラマなどの撮影誘致と支援に取り組むなかで、2000年には、北九州活性化協議会、北九州商工会議所、北九州青年会議所、西日本産業貿易コンベンション協会、北九州観光協会とともに、北九州市が「北九州フィルム・コミッション」(以下KFC)を設立しました。

フィルム・コミッション(以下FC)は、今や国内各地に存在していますが、組織としてほかのFCとの違いは?

NPO法人の形態をとっているところもありますが、FCの多くは地方行政機関の職員が、広報業務の一環としてFCの活動を行っています。
KFCの場合、北九州市の「市民文化スポーツ局文化部文化企画課」の所属ですが、メンバーはKFCの活動専業です。現在は7名の職員が活動に従事しています。多い年で年間に、大小合わせて100本近い映画、ドラマ、CMなどの映像作品の撮影誘致と支援を行っています。7名体制はFCのなかでは多いほうだと思いますが、「必ず撮影に付き添ってサポートする」という活動スタイルをとっておりますので、どうしてもそれぐらいのマンパワーが必要となります。

片山さん自身のKFCでの活動は、どのぐらい前から?

今年で6年目になります。市の職員なので、異動の前は「子ども家庭局」という部署にいました。映画やドラマは人並みには観ていましたが、くわしいほうではなかったので、KFCへ来た当初は、撮影の現場で使われる専門用語がわからずに困ることがよくありました。
気づけば、メンバーのなかではどちらかというと、「経験者」の立場になってきています。市の職員ですから、いつまた異動になるかわかりません。後任者への業務の引き継ぎが円滑に進められるように、業務マニュアルやロケ地のデータベースなどが作成されています。但し、KFCの仕事は「人とのつながり」の部分が大きいので、ロケ先との交渉や撮影現場での立ち会いといった、ある意味特殊な実務経験を重ねないと、やるべきことが見えてこない仕事でもあります。

 

映画『交渉人THE MOVIE』北九州空港ロケ現場

 

特殊な活動という意味では、「KFCは、どんな要望もかなえてくれる」と映像業界で評判だと聞きますが。

もちろん、どうしてもできないことはあります。但し、「無理難題」と思われる要望も、どうしたら実現できるかを、撮影スタッフと一緒になって考え、工夫する姿勢を持ち続けなければならないという思いはあります。長年の活動で、他の都市では前例のない大規模なロケに挑戦して、成功させてきた諸先輩が積み重ねてきた実績と信頼があり、新たなロケを呼び込む結果につながっています。
たとえば、米倉涼子さん主演の映画『交渉人 THE MOVIE』(2010年公開)では、ハイジャックシーンの撮影が北九州空港で行われました。テロ対策などセキュリティ面に関する制約が多い空港での撮影は、それまで国内では不可能とされてきました。KFCで国交省と地元航空会社に足繁く通って許可を取ったと聞いていますが、空港および航空会社の全面協力がなければ、実機を使った撮影はできなかったでしょう。

 

『劇場版MOZU』地元小倉の百貨店の井筒屋前で行われたロケ現場

 

『劇場版MOZU』(2015年公開)は、北九州市がロケ地として「MOZU市宣言」を行い話題になりました。地元小倉の百貨店の井筒屋(株式会社 井筒屋)前で撮影された爆破シーンも、迫力がありましたね。

井筒屋さんの営業中に撮影されたため、安全対策および百貨店を利用されるお客様の動線について、何度も打ち合わせと検討を繰り返して入念な準備が行われました。
数日間にわたって百貨店の前に瓦礫を積み上げての撮影でしたから、井筒屋さんが終始不安なご様子でいらっしゃったのが印象に残っています。「お客様にご不便やご負担をおかけしたくない」というお気持ちだったのでしょう。私たちも、地元のためとはいえ「どこまでやっていいのか」の境界を探りながらの日々でした。
無事に撮影が終わって映画が公開され、井筒屋さんから「『映画観たよ』と、お客様の方からうれしそうに声をかけていただいています」とうかがった時、「やってよかった」という手応えをようやく感じることができました。そういった意味で、思い出深い作品です。
前例のないことに挑戦するのは、想像していた以上に困難なものです。それでもできあがった作品を目にすると、観る者をワクワクさせたりドキドキさせたりしながら惹きつけるエンターテインメントの魅力というか、「映像の力」の素晴らしさと凄さを実感します。それはチャレンジした結果として、歓んでくださる人、協力してくださる人が、作品を通じて増えていくからです。

大規模ロケでは、小倉の目抜き通りである「小文字通り」を全面封鎖して撮影を行った『相棒 —劇場版IV—』(2017年公開)も、話題になりました。

6車線道路300メートルを12時間にわたって封鎖して銀座の大通りに見立て、約3000人の市民エキストラとボランティアスタッフが参加しての大掛かりなロケでした。この映画にも井筒屋さんが登場します。商業施設や地元企業の工場など、市内全域30か所で撮影が行われました。
小文字通りの沿道には、多くの企業や店舗が並んでいますから、一軒ずつ撮影スタッフと訪ね、ロケの協力を取り付けることは大変でした。だからこそKFCの長年の活動を知って、協力的な態度で接してくださる方が多かったのはありがたいかぎりです。また、1万人近い市民がエキストラ登録してくださっていて、数千人規模におよぶダイナミックな群衆シーンのロケが実現できることも、KFCの強みといえますね。

撮影隊に寄り添う活動の根底にあるのは「おもてなしの心」

映画「相棒―劇場版IV―」公開時にJR小倉駅で開かれた「凱旋イベント」で主演の水谷豊さんが「北九州市がなかったら、この映画はできていなかった」と言われたそうですが、このロケでは、撮影で忙しい俳優さんのために、KFCの方が俳優さんの好物を宿泊先へ届けたという話があるとか。

ロケで当地へやって来られる俳優さんのなかには、「10年前に北九州へ来た時に、あの店で食べたあの味が忘れられない」などとおっしゃる方もいます。KFCは「北九州のイメージアップ」のために設けられた組織ですから、撮影スタッフ、出演者の方に「もっともっと北九州のファンになっていただく」ことも、活動の大事な目的です。
ご存じのように、日本の映画やドラマの多くは、東京を中心とする首都圏で撮影されます。時間やお金をかけてでもロケ隊にわざわざ足を運んでいただくために、私たちにできるのが、大規模な道路封鎖、撮影での使用が難しいとされる施設の許可取り、大勢のエキストラを必要とする撮影など、ほかではできないロケ撮影の実現であり、それが「私たちなりのおもてなし」なのです。
そういったKFCの活動は、ロケ場所の提供や、エキストラで協力してくださる方はもとより、道路や施設の使用を制限して行うロケに対して温かく見守ってくださる市民の皆さんの寛容さによって成り立っています。

そういった意味では、撮影支援だけでなく、北九州に暮らす市民が「映画の街」の一員であることに誇りをもてるような関連イベントにも力を入れていますね。

『相棒 —劇場版IV—』公開時には、小倉駅構内に敷き詰められたレッドカーペットに、水谷豊さんと反町隆史さんが登場するという演出のプレミアイベントが開催されました。マスコミ向けのイベントとしてだけでなく、ロケに協力してくださった市民の皆さんへのサービスの意味も込められています。
映画のタイアップ企画や関連イベントは、ロケ地である街の一体感につながっています。KFCに登録してくださったエキストラの間では交流会も行われています。
また、映画を観て「ロケ地巡りをしたい」という方からのお問い合わせも多く、資料が用意できる作品に関してはロケ地マップをお配りしています。ロケ地となった施設の方から、「ロケ地巡りの人たちが来られるたびに、北九州はがんばっとうね、という気持ちになる」と言っていただいたこともあります。

—市民だけでなく他の地域からもファンが訪れてくれているとしたら、対外的に「北九州の観光資源としてのポテンシャル」を高める活動にもつながっていると言えるのでは?

そうですね。これまでにも、地元観光会社の企画でロケ地巡りツアーが開催されて、コース設定やロケ地解説などに関して情報提供のお手伝いをさせていただいた経緯があります。
2021年年末から2022年2月にかけて、市内の勝山タクシー(勝山自動車株式会社)さんがタクシーによるロケ地巡りサービスの実証事業を試みられました。検証を経て事業が本格化されることになれば、映像作品が人を街に呼び込むきっかけがまたひとつ増えると思います。

近年では、海外の映像業界からの引き合いも増えているそうですね。

2007年ころからタイを中心に、おもに東南アジア圏の映像作品に協力しています。
現在はコロナ禍で海外の撮影隊によるロケはできない状況ですが、脚本段階から関わった映像作品で主人公を北九州市出身の設定にしていただいたり、タイの人気アーティストの楽曲歌詞に北九州の地名を入れて、その曲のミュージックビデオに北九州の実景を使っていただいたりと、海外に北九州市の存在を伝え、魅力を広めるよう取り組んでいます。

撮影支援の先に拡がる「映画の街」のさらなる可能性

今後は、KFCの活動においてどのような展開を考えておられますか?

映画やドラマなど映像作品制作のロケ誘致と撮影支援という活動については、ひとまず土台は出来上がったものと考えています。これからは「KFCの活動における第2章」の段階へ移ることになるでしょう。
KFCの活動に協力してくださる市民の皆さんのネットワークが形になっていますので、身近な協力者に地元の事業者なども交えてさまざまな意見に耳を傾けながら、土台の上に何を積んでいくのか、これからの方向性を探っていきます。
「子どもたちに向けた活動」「映画ビジネスに携わる市民を増やす活動」「全国で一番映画を観る街にする活動」など、多様なアイデアが寄せられていますので、それぞれの可能性を検討しながら進めていきたいと思います。

最後に、日々制作活動に励むクリエイターに向けてメッセージをお願いします。

KFCでは、映画、ドラマだけでなくCMやミュージックビデオなど、幅広いジャンル、さまざまな規模の映像作品に対する撮影支援に取り組んでいます。北九州はきっと、クリエイターの皆さんの創造意欲を刺激し、思わぬ「化学反応」をもたらす場になると思います。急なお願い、ハードルの高いご希望にも全力で対応しますので、お困りのことがあればぜひご相談ください。

取材日:2022年3月9日 ライター:堀 雅俊

北九州フィルム・コミッション事務局

  • 発足:1989年
  • 設立:2000年
  • 所在地:〒803-8501 福岡県北九州市小倉北区城内1-1(北九州市市民文化スポーツ局内)
  • URL: https://www.kitakyu-fc.com

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