プラネタリウム映像作家、井内 雅倫が作る迫力の映像世界、濱田龍臣主演『流れ星を待つ夜に』

Vol.200
プラネタリウム映像作家/脚本家/演出家
Masanori Iuchi
井内 雅倫
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星空を疑似体験できるプラネタリウムは、時代を問わず老若男女に人気のコンテンツです。
現在、コニカミノルタプラネタリウムが運営する都内3館で上映中の『流れ星を待つ夜に』は、ロマン溢れる星空の映像と、濱田龍臣(はまだ たつおみ)さんと駒井蓮(こまい れん)さんによる純愛ストーリーを組み合わせた意欲作。

ゆったりとしたリクライニングシートを倒し、あおぎ見られるのは360度を見渡せるドーム型の大きなスクリーン。日本では見ることの難しい南十字星や大地の神秘を感じられるオーロラなどに魅了されるのも、本作ならでは。そこに重なる濱田さんと駒井さんの純愛ストーリーがさらに心を揺さぶります。

本作を手がけたのは、プラネタリウム映像作家、脚本家、演出家とさまざまな肩書きで活躍されているクリエイター・井内雅倫(いうち まさのり)さん。

学生時代にショートフィルムを作っていた井内さんは、大学卒業後に映像業界へ入り、2007年よりプラネタリウム作品の制作に関わりはじめました。今回は『流れ星を待つ夜に』と、プラネタリウムの魅力、映像クリエイターを目指す方へのアドバイスまでたっぷりと伺いました。

ドラマ仕立ての意欲作。撮影ではプラネタリウム作品ならではの苦労も

『流れ星を待つ夜に』 ©️ Konica Minolta Planetarium Co., Ltd.

本作は純愛ストーリーと共に、都会や南半球の美しい星空をスクリーン越しに見ることができます。観客のみなさんにはどういった部分を楽しんでもらいたいですか?

『流れ星を待つ夜に』は、プラネタリウムでは珍しい実写ドラマ作品です。「プラネタリウムドラマ」ということで、映画やテレビとは違う、プラネタリウムならではの没入感のある体験をしてもらえると思います。

ストーリーはシンプルで、主人公が大切な人に見せたい空を探して世界を旅する、という話です。見てくださる人それぞれ、写し鏡のようにいろいろな感じ方ができる作品だと思っています。鑑賞後、一緒に見に来た人を「もっと大切にしたい」と想う人もいるでしょうし、「星やオーロラがキレイだった」「音楽が良かった」と感じてくださる方もいるのではないかと。

特に見どころをあげるとしたら、オーロラブレイクアップ(オーロラ爆発)でしょうか。CGではなく、アラスカで数年かけて撮影した本物のオーロラです。高感度カメラを使ってリアルタイム撮影した映像で、まるで現地にいるような迫力を感じていただけるはずです。

ドラマパートの撮影では、主演の濱田さんやヒロインの駒井さんに何を求めましたか?

求めるというよりも、私が頼ったと言った方が良いかもしれません。お二人とも優れた才能と技量を持つ役者さんであることは分かっていたので、演技面では解釈を委ねた場面も多かったです。私の方から「ここ、どうしたらいいと思いますか?」と意見を聞くこともありました。

実は、濱田さんと駒井さんの出演が決まってから、初めに書いた脚本の大部分を書き直しました。あくまで私の中でのイメージではありますが、もっとこの二人に合う物語にしたいなと思ったんです。結果的に“あてがき”に近い形となったこともあり、役名もそれぞれのお名前をなぞり「タツオミ」と「レン」にさせてもらいました。

主演の濱田さんはすごく自然に役に入り込んでくれたと思います。NGもほとんどなかったんですが、タツオミがうたた寝から起き上がる冒頭のシーン、本番で濱田さんが起きず、声をかけたら本当に寝ていて現場で大爆笑が起きたことがありました。これもNGというよりは、それだけ役に入り込んでいるからこそのハプニングかもしれないですね。

いい雰囲気で作り上げたのが伝わってきます。シナリオ以外の面で、苦労した点はありますか?

ドラマパートで言うと、やはり撮影日数が限られていたことでしょうか。且つプラネタリウム映像ならでの大変さもあります。普通の映像作品ではあまり使わないような超広角レンズを使って撮影するのですが、かなり広範囲が映り込むため、絵づくりには苦労します。例えばロケ地のひとつである横浜の大さん橋では、一般の方が映ってしまわないよう、一帯を貸し切る必要がありました。限られた時間で撮り終えないといけないので、それは結構スリリングでしたね。

プラネタリウムで人物が登場するドラマと聞いて「どんな映像なの?」と思う方がいるかもしれません。でもきっと、いい意味で裏切られるのではないかと思います。

ふとしたきっかけでプラネタリウムの世界に。脚本家と演出家の役割

3Dドーム映像作品 『バースデイ ~宇宙とわたしをつなぐもの~』
© Miraikan, 4D2U Project, NAOJ

井内さんはそもそも、どういった経緯で映像業界へ入ったのでしょうか?

芸術系の大学ではなかったのですが、たまたま大学の授業でやった映像制作が面白かったのがきっかけです。その後、友人と一緒にショートフィルムをつくって映画祭に応募したり、テレビ番組の制作会社でアルバイトしたりしていました。卒業後は広告制作会社に就職して、CMなどの制作に携わっていました。

そこから、どういった経緯でプラネタリウム作品に関わりはじめたんですか?

広告制作会社はわりとすぐ辞めてしまったんですが、元上司やご縁のあったプロデューサーさんからいろいろ仕事を紹介してもらえたこともあって、フリーランスのディレクターとして映像業界に関わるようになりました。当時はテレビ番組や広告関連の仕事がメインでした。

そんな中、日本科学未来館が製作する全天周映画の企画会議に、たまたま参加する機会がありました。ちなみに全天周映画というのは、プラネタリウム映像の仲間みたいなものです。で、その企画会議で私の出したアイデアを気に入ってもらえて、統括プロデューサーからふと「脚本書いてみる?」と言われたんです。それが『宇宙エレベーター 〜科学者の夢みる未来〜』(2007年)というアニメーション作品で、宇宙で働くお父さんにサプライズでお弁当を届ける女の子の物語です。脚本家としてのデビュー作でもあるのですが、この仕事で初めて全天周映画やプラネタリウムの世界を知りました。全く未知の分野で、すごくワクワクしたことを今でもよく覚えています。

脚本に加え、監督として初めて演出したプラネタリウム作品は、俳優の井浦新(いうら あらた)さんにナレーションを担当していただいた『バースデイ 〜宇宙とわたしをつなぐもの〜』(2009年)です。公開から10年以上経った今も日本科学未来館で上映されています。宇宙138億年の歴史をたどる内容で、当時はまだ天文に詳しくなかったので、宇宙や星についてかなり勉強しました。自分にとっての起点であり、映像業界で生きていく上での転機となった作品です。

普通の映像作品と比べてプラネタリウム作品では、監督や演出家、脚本家の役割は変わりますか?

プラネタリウムと言っても、脚本家や監督の役割は一般的な映像制作と大差ありません。

例えば『流れ星を待つ夜に』の脚本制作で言うと、企画の段階では「流れ星」がテーマということだけ決まっていて、且つプロデューサーから「一本筋の通った作品にしてほしい」という要望がありました。それで、ドラマ仕立てにしたらどうかと私から提案させてもらい、挑戦してみようということになりました。本編では、あるギリシャ神話の物語が重要な役割を担っています。そこは最初に浮かんだアイデアで、それを軸にして全体の構成とシナリオを練っていきました。

一方監督は、指示を出したり、意思決定をしたりする立場になります。クリエイター陣とクライアント側をつなぐ“管理職”みたいなところもあるので、作家性だけでなく、ある種のバランス感覚が求められると思います。

技術面で言うと、やはりプラネタリウム作品の制作は一般的な映像作品と違うことがたくさんあります。星を見せるのも、光学式投影機を使った昔ながらの見せ方だけでなく、撮影した星空の映像を使ったりCGで作ったりもします。また音響もマルチチャンネルがスタンダードなので、音の演出も非常に大切です。もちろん一人で全部やる必要はなく、各分野のスタッフと連携しながら制作していきます。

いまだ黎明期の分野だからこそ面白い。新たな分野に飛び込むススメ

プラネタリウム映像作家として、星空を楽しめるプラネタリウムの魅力をどう感じていらっしゃいますか?

一言で言えば、“非日常体験”だと思います。

星を見ると、「キレイだなあ」とか「癒される」と感じる方も多いのではないでしょうか。そう感じる理由って、究極的なことを言えば、私たち人が星から生まれた存在だからじゃないかなと思います。星が死に、その星のカケラが宇宙に散らばり、それが集まってまた別の星が生まれ…というのを繰り返してこの地球が生まれ、やがて私たち生命が生まれました。と言っても、ほとんどの人は普段そんなこと考えないと思います。でもきっとそういう繋がりがあるからこそ、人は星空に惹かれるんじゃないかなと。遠く離れた非日常の世界に、気軽に触れられるのがプラネタリウムの魅力のような気がします。

また、プラネタリウムは星空を楽しむだけでなく、新しい映像体験をしてもらえる場所でもあると思います。昔はプラネタリウムで映像を流すと言っても、プロジェクタで一部分に映像を写すことしかできませんでした。けれど十数年くらい前から、プラネタリウムのドーム全体を使って映像を見せるということが普通にできるようになってきました。そして今も技術が進化しています。コニカミノルタプラネタリウムさんの名古屋や横浜の最新施設ではLEDドームシステムが採用されていて、さらに美しい映像表現ができるようになっています。

今はスマホやタブレットで気軽に映像コンテンツを見られる時代ですが、視界全体を覆うドーム映像体験はその場でしか味わえない魅力があると思います。作り手側としても、もっといろいろな可能性を模索していきたいですね。

最後に映像業界で活躍される井内さんから、脚本家や演出家としての活躍を夢みるクリエイターのみなさんへアドバイスをお願いします。

私は学生の時に自主映画を作っていましたが、だからと言って「将来は映画監督になりたい!」みたいな気持ちはありませんでした。広告やテレビ番組の制作に携わる中で、偶然プラネタリウムの世界を知り、はまっていきました。具体的なビジョンがあったわけではなく、気が付いたら今のようになっていたという感じです。

例えば脚本だと、シナリオライターの学校に通ったり、賞を取ったりしてデビューする人もいれば、私のように思いがけず書くようになった人もいます。映像演出も似たようなものだと思います。こうすれば正解、みたいなものがないので、そこは自分なりの道を模索して、他の人にない“強み”を見つけるしかないと思います。自分で試行錯誤できないようであれば、そもそも向いていないと言えるかもしれません。

ただ逆に言うと、努力していれば、いずれどこかで必ずチャンスが巡ってくるはずです。特に若いときは、あまり深く考え過ぎずに新しい分野に飛び込んでみるのも大事ではないでしょうか。私が言うまでもなく、映像って様々な可能性があります。自分に何が向いているか、実際にやってみないと分からないことも多いと思います。失敗したっていいじゃないですか。私も失敗ばかりしていましたよ。

ちなみにプラネタリウムの分野は、クリエイターの数が足りていないです。天体に詳しくなくても大丈夫です。やりながら覚えていけばいいですし、知らないからこその視点も生かせると思います。特にCGやモーショングラフィックスなどは常に人が足りない状態です。興味のある方と、ぜひ一緒にお仕事できればと思います!

取材日:2022年1月14日 ライター:カネコ シュウヘイ

 

『流れ星を待つ夜に』

プラネタリウム×ドラマの新感覚作品

大切な人に見せたい景色を探して、主人公(タツオミ)は世界を旅します。 赤道直下の夜空、南十字星をはじめとする日本では見ることの難しい星座たち。極寒の大地・アラスカで出会う神秘のオーロラ。本当はたくさんあるはずなのに見ることができない、都会の流れ星。そして、ギリシャ神話に導かれ、長い旅路の末に主人公が見つけたものは……。 きっとまた、めぐり逢う。流れ星がつなぐ、切なくも温かい物語です。

■キャスト・スタッフ
出演:濱田龍臣/駒井 蓮/藤崎卓也
主題歌:羊文学「ワンダー」(F.C.L.S.)
脚本・監督:井内雅倫
撮影:桑沢俊靖 オーロラ撮影:河内牧栄 照明:田島 慎
劇中画:吉田誠治 プラネタリウム演出:大竹 宏 CG:中村 啓/岡本崇志
音楽:石田多朗 演奏:影山敏彦(tico moon)/吉野友加(tico moon)、他
録音・サラウンド音響:Studio-ARM タイトル・広報デザイン:久野正喜
スタイリスト:工藤祐司 ヘアメイク:齋藤美幸 撮影協力:マツオ計画
企画・制作協力:井内雅倫個人事務所/フェローズ
プロデューサー:若井太志(コニカミノルタプラネタリウム株式会社)

■『プラネタリウム×ドラマの新感覚作品「流れ星を待つ夜に」』作品概要
・上映時間:約38分
・上映館:プラネタリアTOKYO(有楽町)
    プラネタリウム満天(池袋)
    プラネタリウム天空(押上)
詳細は、Webサイトよりご確認ください。
https://planetarium.konicaminolta.jp/program/nagareboshi/

プロフィール
プラネタリウム映像作家/脚本家/演出家
井内 雅倫
徳島県出身。大学卒業後、広告制作会社勤務を経てフリーランスに。日本科学未来館の全天周映画作品に脚本参加したことがきっかけとなり、プラネタリウムの世界へ。主なプラネタリウム作品に、日本科学未来館『バースデイ 〜宇宙とわたしをつなぐもの〜』『夜はやさしい』『9次元からきた男』、神戸市立青少年科学館ほか『10000光年双眼鏡』、コニカミノルタプラネタリウム『キロボとミラタ』『Night Flower 〜星ふる島の一夜花〜』など。プラネタリウム以外にも広告やテレビ番組、学校教育用コンテンツといった多様なジャンルで制作活動している。アニメ『動物かんきょう会議』(脚本担当、NHK Eテレで放送)など多数。

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