是枝裕和/最新のドキュメンタリー映画を語る『大丈夫であるように―Cocco 終らない旅―』

vol.44
『大丈夫であるように-Cocco 終らない旅-』 監督 是枝裕和さま
とてもいい映画に出会ったので、紹介します。 是枝裕和監督の『大丈夫であるように-Cocco 終らない旅-』、ドキュメンタリーです。ミュージシャンCoccoのライブツアーに密着して、彼女の素顔をひたすら撮り続けた作品です。 曲は知っていたけど素顔は知らなかったCoccoという人物の、純粋さ、ストイックさ、かわいさなどがあふれ出る映画になっています。演奏&歌唱シーンも、すごく良くできています。なにより、取材する側とされる側の距離が、絶妙でした。聞いてみると、Coccoと是枝さんは、以前からの知り合いで、明らかに制作者としてのシンパシーも共有している関係。なるほど。だから、こう撮れるんだ。こういうコメントを撮れるんだと、合点いった次第です。 知っている人も多いと思うけど、是枝さんはもともとドキュメンタリーのディレクター。劇映画で脚光を浴びたけど、やっぱり、密着取材もやらせるとすごい。そんな感心しきりでもありました。とにかく、お話聞いてきました。

大丈夫であるように -Cocco 終らない旅-


2008年12月13日より 「シネマライズ」「シネマライズX」ほか全国ロードショー! 配給:クロックワークス

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この映画は、プレゼントされた曲への 「お返し」がことの発端。

なんか意外ですが、是枝さんの劇場公開用ドキュメンタリー映画って、実は初めてですね。

そうですね。

急遽決まったプロジェクトなんですか?制作の時期が、『歩いても 歩いても』と微妙にかぶるような気がするんですが?

はは、鋭い質問ですね(笑)。実は、自主制作なんですよ、もともとは。昨年11月末から今年1月まで、『歩いても 歩いても』の方は仕上げで大変な時期だったんですが、合間を縫って、主に「きらきらLive Tour」(Coccoのデビュー10周年ツアー)に帯同して撮影してました。

動機は?Cocco の熱烈なファンだから?

直接的な動機は、昨年7月の「LIVE EARTH 地球温暖化防止を訴える世界規模コンサート」で彼女が『ジュゴンの見える丘』を歌う姿に感動したから。 Coccoさんとは、以前、プロモーションビデオでご一緒したことがあって以来、交流があったので、「撮らせてください」とお願いして撮り始めました。

そうか、お知り合いだったんですね。でも、自主制作で撮り始めるってのもすごいですね。是枝さんって、衝動で動くタイプでしたっけ。

テレビでドキュメンタリーやっていた頃は、衝動とは言いませんが、興味を持った対象をまず撮り始めるケースはよくありましたよ。 ただ、今回は、「借りを返す」という側面もあるのです、実は。僕、以前、彼女から曲をプレゼントされているんですよ。この作品中も、亡くなった友人のために曲を作り、棺にテープ入れたエピソードが紹介されていますが、そんな感じ。『誰も知らない』を観て気に入ってくれて、「あげる」って。そのお返しができたらいいなと、ずっと思っていたので、とにかく撮って編集して、彼女に観てもらいたかったというのが本当に本当の動機です。

なるほど。曲をプレゼントってのも素敵だけど、それをドキュメンタリー作品で「お返し」ってのもまたいいですね。ものづくりする人たちならではの、素敵な交流だな。

すごくいい曲でね。しかも、世界で僕しか聴いたことのない曲。宝物です。だから、この映画がそのお返しになっているかどうか――あまり自信はないんだけど。

是枝裕和が撮影・編集した1時間47分の映画ですよ。十分になっていると思うけど。

結果的に1時間47分になりましたね。撮り始めた当初は、いつ、「もう撮らないで」と言われてもいいようにと覚悟しながらの撮影でした。とにかく撮れるだけ撮って、つなげて、手渡しできればいいなと思っていた。

じゃあこの長さになって、一般公開もするとなって、かえっていろいろ大変になったとも言えるわけですね。

そうですね。編集しながら、「これ、Cocco さんに差し上げるだけじゃなく、たくさんの人に観てもらいたいよな」と思うようになった。仮編集した映像を映画館の支配人に観てもらったら、とても気に入ってくれ、トントン拍子で公開できることになりました。

音楽ものの編集が、こんなに 難しいとは思わなかった(笑)。

演奏&歌唱シーンは音も良かったし、編集のバランスも絶妙でしたね。音楽家を追ったドキュメンタリーは、そこが難しいと思うのですが。

そう言ってもらえると、嬉しいです。編集には、正直苦悩しましたから。音楽ものをまとめるのが、こんなに難しいとは思わなかった(笑)。この臨場感は伝わるのか、劇場にかかったときにどう聞こえるのか、かなり悩みました。解決がつかなくて、一旦やめて、3ヵ月寝かせたくらいですから。

やはり、劇映画の編集とドキュメンタリーの編集は違う?

基本的に、違うとは思いません。むしろ、僕は、劇映画の編集では、いかにドキュメンタリーのような「発見」があるかを楽しみにしているんです。ドキュメンタリーは撮りためた素材の中に潜む何かを発見しながら編集するもので、劇映画でもそういう「発見」があるといい作品に仕上がる。これからも、そこは大切にしていきたいと思っています。

これが、「これはドキュメンタリーでは ないかもしれない」の意味。

<取材協力者> 是枝 裕和 監督 1962年、東京生まれ。早稲田大学卒業後、テレビマンユニオンに参加。主にドキュメンタリー番組を演出、現在に至る。2004年監督4作目の『誰も知らない』がカンヌ国際映画祭にて映画祭史上最年少の最優秀男優賞(柳楽優弥)を受賞、国内外で大きな話題を呼んだ。2008年公開の「歩いても 歩いても」のDVDは1/23発売。

<取材協力者>
是枝 裕和 監督
1962年、東京生まれ。早稲田大学卒業後、テレビマンユニオンに参加。主にドキュメンタリー番組を演出、現在に至る。2004年監督4作目の『誰も知らない』がカンヌ国際映画祭にて映画祭史上最年少の最優秀男優賞(柳楽優弥)を受賞、国内外で大きな話題を呼んだ。2008年公開の「歩いても 歩いても」のDVDは1/23発売。

今回は、「発見」はあった?

もちろん、ありました。ただ、それ以上に撮影している時間が「幸福な時間」だったのだと再認識することの方が多かったかな。プレス用資料に「これは、ドキュメンタリーではないかもしれない」と書きましたが、ドキュメンタリーに求められる対象への批評の視点がないんです、この撮影には(笑)。 だから、「これは、ドキュメンタリーではない」という批判があったら、その通りだと思うし、すみませんと謝るしかない。でも、それでも面白ければかまわないと、今回は開き直りました。

はは、是枝さんにそんなに素直に謝られたら、誰も文句言えませんて。 ところで、Coccoさんて、すごいですね。彼女の、ミュージッククリップだけでは決してわからない素顔が見られたということだけでも十分にこの作品は「いい」。

そうですね。彼女の歌っているときと素顔のギャップが、うまく出せたとは思っています。

特に、彼女の会話やステージでの語り口、言葉の感覚は独特ですね。

彼女はすごいですよ。彼女のコメントには、無駄がない、繰り返しがない、言葉選びのセンスもすごい。とてもクレバーな頭を持った人物です。だから、彼女のコメントシーンには、ほとんど編集がいりませんでした。 作品終盤で、『もののけ姫』について語るシーンがありますが、あそこも1ヵ所つないだのみで、あとはしゃべったまんまの数分間です。なのに十分、感動的な物語になっているんですよね。撮りながら感動してるって、あんまり自慢できないですけど、今回は本当なので仕方ないか、と(笑)。

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