「企画書」に取りつかれたコピーライター・阿部 広太郎から学ぶ心のつかみ方

Vol.183
(株)電通 コンテンツビジネス・デザイン・センター コピーライター/プロデューサー
Kotaro Abe
阿部 広太郎

コピーライター・阿部広太郎さんが今年、2020年3月に発売した自身2冊目となる書籍『コピーライターじゃなくても知っておきたい心をつかむ超言葉術』が、重版となり人気を呼んでいます。阿部さんはnoteやTwitterなどで積極的に発信されていますが、書籍に関する取材は重版後、今回が初めてだそうです。

そんな阿部さんに執筆の裏話や、普段のお仕事について、そして「心をつかむ企画書」の作り方まで、たっぷり伺ってきました。

装丁までこだわりを込めた新著には「メシを食っていくための企画書」の作り方も収録

まずは「コピーライターじゃなくても知っておきたい心をつかむ超言葉術」の発売に至るまでの経緯を聞かせてください。

出版社の方と最初に打ち合わせしたのは2018年の秋頃です。ちょうど夏頃、「キャリアハック」というWebメディアが、僕が主宰している連続講座「企画でメシを食っていく」の講義を記事にしてくださって、結構な数シェアされたんですね。それをダイヤモンド社の方が見つけてくれたのと、僕は2014年頃からずっとnoteで近況報告を中心に書き続けていて、note編集部の方が僕の存在を見つけてくれて、ダイヤモンド社の方につないでくださったことも決定打になりました

その後、なかなか本を執筆する時間がとれなかったんですけど、本に取り組む前に「言葉の企画2019」という連続講座を開催する中で、少しずつ、少しずつ自分が伝えたいことを再構築していきました。2019年の冬から2020年の初めにかけて土日も含めて空き時間はずっと喫茶店にこもって、執筆の時間にかけていた感じですね。

特に思い入れのあることは何ですか?

内容はもちろんですけど、装丁に関してすごく思い入れがあります。僕がこだわったのは、カバーを外した表紙と裏表紙にもイラストを入れてもらったことです。タイトルにちなんで「つかむ」ということで、カバーでは手を握手するときのように差し出していますが、カバーを外すと手が鉛筆を差し出しています。表紙裏には消しゴム。「バトンを託す」意味合いと、本文を読んでいただくとわかるのですが、消しゴムで「僕なりのI LOVE YOUの訳し方」を表しています

ここまで見てくれる方はきっと少ないですよね。でも、僕は本のカバーを外して隅々までデザインを見るのが好きなので、この部分に少しでもメッセージを感じてほしかったんです。だから校了間近の本当にギリギリまで粘ってイラストを入れてもらいましたね。装丁を依頼した寄藤文平(よりふじ ぶんぺい)さんは、4年前にお仕事をしたことがあり、ご縁を感じてて、いつか装丁を寄藤さんにお願いできたらなと思っていました。

そういったこだわりがあったんですね。内容に関してはどれもすごく勉強になりましたが、特に企画書の書き方が参考になりました。阿部さんが「心をつかむ企画書」を作るために気を付けていることは何ですか?

企画書は、自分1人では完結せずに、人との共同作業が生まれるときに必要になると思うんです。自分自身がやりたいことを書くのはもちろん重要なんですけど、相手が読みたいと思うものが含まれてないと、自分と相手の橋渡しにならなくて。なので、自分と相手が重なること、相手の聞きたいことや知りたいことを想像し、ちゃんと言葉に含めることが大切です。

仕事で、あいさつの場面でいきなり手を差し出されて困惑することもありませんか?読んでもらった後に、お互いに自然と握手できるような、そんな感覚の企画書を目指していきたいですね。

人事時代を経てコピーライターを志望、企画が通るようになるまで

書籍やご自身のnoteにも書かれていましたが、阿部さんは人事からコピーライターになられたんですよね。そもそも広告業界を志望した理由を教えてください。

大学3年生の時に広告会社のインターシップに参加したんです。CMを企画する課題があって、「何?君は営業希望?」って全然相手にすらしてもらえなくて(笑)。でも、そこで「心を動かす仕事」があるということを初めて知ることができたんですね。

インターン後、自分がどんな仕事をしたいか真剣に考えたんですけど、僕は学生時代ずっとアメリカンフットボールをやっていて、気持ちのつながりを感じる一体感がすごく好きなんだと気付いたんですよ。社会人になっても、そんな瞬間を味わえたら幸せだなと。それで、広告の仕事をすれば世の中に一体感を作ることができるんじゃないか、そう思って志望しました。

最初に人事に配属されたのはご自身で希望したからですか?

いや、最初はメディアにまつわる仕事をしようと思いました。最初はキツイかもしれないけど、後々その経験は役に立つぞ、と先輩からアドバイスを頂いて。

希望の部署を3つ書けるんですけど、第1希望は新聞局、第2希望はテレビ局、他に希望する部署がなくて、何か書いて埋めないといけない。その時、絶対に選ばれなさそうな「人事局」を書いたら配属されたんです。

当時はまさか自分自身がクリエイティブにまつわる仕事をできると思ってなくて。選ばれた特別な人がやるものだろうと、思い込んでいたんです。なので、何かと何かをつなぎ、プロデュースする営業のような仕事をするのかなと思ってました。

いざ人事に配属されて、僕自身が学生インターンシップのアテンドをしていた時に、年の近い学生のみんなに触発されて「つくること」をどうしようもなくやってみたくなったんです。あ、何も挑戦もせずに、自分は勝手に諦めていたなと。コピーライターになるための試験に向けて本気で勉強していって、結果はどうなるかわからないけど、話はそれからだなと。言葉に真剣に向き合いはじめたのは、その時からですね。

人事に配属されなかったら今の仕事をやりたいと思わなかったかもしれないんですね。コピーライターになってからも、自分がやりたいことや得意分野と違うものを依頼される場合があると思いますが、そういった案件に対してどのように熱量を保ってますか?

20代の頃は上司から声を掛けてもらった洗剤や醤油の広告をつくる仕事を担当していました。どちらも最初から強く興味がある訳ではないんです。でも、洗剤や醤油に情熱を傾けている人がいるから新製品が生まれる。「人が惹きつけられる産業や、人気のあるサービスには必ず何か理由がある。何が面白いところなのか、それを知りたい」というマインドに切り替えて、探す姿勢で向き合うことをずっと心がけていました。

あと、今はSNSで気軽に発信できるようになってますよね。自分のやっている仕事や興味があることをコツコツ発信して、積み上げていく。そしたら、まわりの人も「あの人はこのことに興味あるかも?」と声を掛けてくれて、仕事のミスマッチが少なくなってきました。自分の気持ちを発信していくことは、自分を守る防波堤にもなります

そういった意味でもSNSは重要なんですね。では阿部さんが企画書を出すようになって、それが通るようになったきっかけは何でしょうか?

「企画書は出してからが始まり」ということに気付けたことが大きいですね。結局、企画書ってお互いの関係性を作るために書くもので、プレゼンした後に相手からフィードバック、ときにはダメ出しをもらって、そこから対話を繰り返していけば自ずと完成に近付いていくと思うんですよ。「0か100か」と思うのは違う。一緒に点数を上げていく。話し合うことによってより良くしていくという考え方が非常に重要だと思います。

なるほど。現在では作詞や映画のプロデュースなど活動の幅も広げられてますが、エンタメ関連の仕事を手掛けるおもしろさや大変さを教えてください。

もともとテレビや映画、イベントなどが好きなので、エンタメに取り組めるのは心が弾む時間がものすごく多くていい側面もあるし、逆にコンテンツビジネスしていくうえでヒットを生まないといけない。その難しさを感じる部分はあります。

でもバットを振らないとヒットもホームランも出ないように、日々「トライアンドエラー」で学んできたことを次に生かし続けないといけません。正直、まだまだ自分も模索中です。機会をつくり続けるためにも、自分がおもしろいと思うものを、自分の言葉でちゃんと語れることを徹底したいと思っています。

ではこれまで手掛けてきた作品の中で、特に結果が出たなと思うものは何ですか?

悔しいですけど、自分がイチから携わらせてもらったコンテンツで国民的と呼ばれるような作品は、まだ作れてないですね。映画『カメラを止めるな!』とか、テレビドラマ『半沢直樹』とか、みんなの共通の話題をつくること。そこに至れてないもどかしさと、なんとかそこに達したいという強い思いがあります。

今回の書籍に関しては、今3刷なんですよ(2020年10月時点)。初版の発行部数は出版社の方が掛ける期待の大きさだと思うんですけど、相手からの期待を超えていけるものを、いくつもつくっていけたら幸せですね。

「誰かに見つけてもらえる」コピーライターを目指してほしい

今までこの仕事を辞めようと思ったことはありませんか?

ないですね。仕事と言うより最早、自分の生き方なので。最近、「自己肯定感」という言葉でよく聞きますよね。僕は、まず自分で自分を大事にするために「心の声」を聞くようにしてて。自分の心をちゃんとつかんであげる。つらさを溜め込まないで自分なりに解消してモチベーションを保ち続けたり、困ったらすぐに上司に相談したり、辞めてしまいたいと思ったことはありません。

自分を孤立させてしまってはいけません。自分の考えを相手と分かち合うことを忘れなければ、救いが生まれていくはずなので、そういう意味でも自分の気持ちを相手につなぐコピーライターという仕事をやっててよかったなと思います。

確かにそうですね。ではもし阿部さんがフリーのコピーライターだったら、まず何から始めますか?

結局、会社にいたとしてもフリーだとしても、僕という人間が存在することを知られてないと仕事は始まらないので、知ってもらうための活動から始めます。

1つ目は、今だと講座とかコミュニティがたくさんあるので、そこで講師の方や同期の方と関係を作る。2つ目は賞レースにトライする。優勝しなくていいんですよ。存在を見つけてもらうための賞レースなので、少しでも存在感を残せたらそれでいいんです。

3つ目は自主企画でもいいので何かをつくり、メディアに取り上げてもらえるようにする。何かをわざわざ自らやるなら、心の底から面白いと信じられることがいいですよね。この3つだと思います。

参考になります。阿部さんが憧れるコピーライター像はどんな人でしょうか?

駆け出しのコピーライターの頃は『広告コピー年鑑』をずっと読んでいたので、いつかここに載る人になりたいと思ってました。

今は広告の仕事はもちろん、コンテンツの仕事をやっていたり、自分で講座を主宰していたり。今の自分の「好き」を追求して、かつての自分自身が「面白いことやってるな」と思える人になっていきたいです。

最後にコピーライター志望の人にメッセージをお願いします。

あなたが誰かに必要とされてほしいです。その「誰かに見つかりにいく努力」をするべきだと思います。「ここにこんなに強い気持ちでやってる人がいる。見つけてほしい!」という気持ちで、僕は宣伝会議賞をはじめとする賞レースに出続けていました。何でもいいんです、何かではみ出してほしいと思います。

「こういう人がいるんだ」って知られていくことで新しい仕事が生まれるし、自ずと仕事の幅も広がっていきます。SNSだけの話じゃなくて、一人一人との縁を大事にしたり、期待に応えていって、誰かにとっての「特別な存在」を目指してほしいです。

取材日:10月12日 ライター:坂本 彩

 

『コピーライターじゃなくても知っておきたい 心をつかむ超言葉術 』(ダイヤモンド社)

夏目漱石は「I love you」を「月が綺麗ですね」と訳しました。今のあなたなら何と訳しますか?「愛」と書かずに「愛」を伝える言葉とは? 人気コピーライター阿部広太郎が教える、心のつかみ方。言葉が意識の引き出しを開けること、SNSの発信について、いい企画書をつくる5つのステップなどを収録。 

 
プロフィール
(株)電通 コンテンツビジネス・デザイン・センター コピーライター/プロデューサー
阿部 広太郎
1986年3月7日生まれ。埼玉県出身。2008年、慶應義塾大学経済学部卒業後に電通入社。人事局に配属されるも、転局試験を突破し、2年目からコピーライターに。「今でしょ!」が話題になった東進ハイスクールのCM「生徒への檄文」編の制作に携わる。松居大悟監督による映画『アイスと雨音』『君が君で君だ』のプロデュース。作詞家として「向井太一」や「さくらしめじ」に詞を提供。2015年より、BUKATSUDO講座「企画でメシを食っていく」を主宰。その他の著書に『待っていても、はじまらない。潔く前に進め』(弘文堂)。
■Twitter: @KotaroA
■note: https://note.com/kotaroa

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