あなたの自転車が5秒でeバイクに!着脱式電動アシスト「CLIP」
「アメリカは車社会」とよく言われます。でも、ニューヨークの都市部では通勤の主役は必ずしも車ではありません。自転車です。
通勤時には、日本と同じように家から最寄り駅まで自転車を使う人も多く見られます。一方で、家からオフィスまでをそのまま自転車で移動する人も少なくありません。また、混雑時を避ければ地下鉄に自転車を持ち込み、降車後に再び自転車で目的地へ向かう人もいます。
ニューヨーク、特にブルックリンでは、自転車専用レーンが整備された道路も多くあります。都市のインフラそのものが、自転車という移動手段を前提に設計され始めています。
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またニューヨークでは、レンタルバイク「Citi Bike」の電動アシスト付きの自転車(以下、eバイク)が2018年に登場、コロナ禍により利用が急増し、eバイクは一気に身近な存在になりました。街なかでeバイクを見ることも珍しくありません。
しかし、eバイクを自分で所有するとなると事情は変わります。高価なうえに盗難リスクも高く、路上に長時間置くのは不安が残ります。しかも重量があるため、毎日持ち運ぶのは現実的ではありません。エレベーターのない古いアパートも多いニューヨークでは、室内に収納することさえ簡単ではないのです。
つまり、eバイクは便利である一方で、ニューヨークの都市部では所有するにはまだいくつかのハードルがあるのです。
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その隙間に目を向けたスタートアップがあります。ブルックリン発のスタートアップ、CLIP(クリップ)です。
CLIPは、新しいeバイクを作ったのではありませんでした。今ある自転車の前輪に「クリップ型の電動アシスト」という機能を足すだけで、普通の自転車がeバイクになるデバイスを作ったのです。
取り付けはわずか5秒。簡単に装着でき、工具は不要。その上、必要なときだけ装着し、不要なときは外して持ち運ぶことができます。重くて高価なeバイクを丸ごと所有するのではなく、自転車という既存の移動手段を拡張するという発想です。
完成品を売るのではなく、機能をレイヤーとして加える。ブルックリンらしい、都市型のアイデアと言えるかもしれません。
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CLIPには現在2つの価格帯があります。499ドル(約78,000円)の「Commuter」と599ドル(約93,000円)の「Explorer」。それぞれ都市での使い方に合わせて選べる設計になっています。
Commuterは短距離の都市通勤や駅からの移動など日常使い向けのモデルで、重さは3.9kg、サイズは約45.7cm x 14.0cm x 14.6cm、走行距離はおよそ9.6〜12.8km、チャージ時間は40分、最高時速は約24km。
Explorerはより長距離・多用途のルート向けで、バッテリー容量・走行距離を重視したモデルで、重さは4.4kg、サイズは約45.7cm x 14cm x 14.6cm、走行距離は約19km〜28.9km、チャージ時間は50分、最高時速は約24km。
決して安価ではないものの、一般的なeバイクが1,500ドルから3,000ドルほどすることを考えると、買い替えよりは現実的な選択肢です。今持っている自転車をそのまま活かせるという前提があるからこそ、この価格帯は意味を持ちます。
重さはどちらも約4キロ前後なので、大きめの新生児ひとり分ぐらいです。長時間持ち続けるのはそれなりに負担がありますが「走行時のみ装着し、外して持ち運べる大きさ・重さ」は利点です。
20キロを超えるeバイク本体を階段で運ぶのは現実的ではありません。しかし4キロであれば、アパートの自室やオフィスまで無理なく持ち運ぶことができます。盗難リスクの高い「高価な部分だけ」を持ち帰れるという点も、都市生活では大きな意味を持ちます。
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CLIPは2018年3月、現CEOのソムナス・レイ(Somnath Ray)とCOOのクレマン・デ・アルカラ(Clement de Alcala)によってブルックリンで設立されました。
出身地であるインド・デリーで深刻な大気汚染と交通渋滞を体験し、MITメディアラボで都市モビリティを研究していたレイは、気候変動や都市渋滞に向き合う、より現実的で誰もが取り入れられる方法を模索していました。レイはブルックリンへ移り住んだ後、自転車通勤を始めたことをきっかけに、eバイクの重さや価格、盗難リスクといった現実的な壁に直面します。
彼がたどり着いたのは、新しいeバイクをつくることではありませんでした。既存の自転車に後付けできる「持ち運べるエンジン」という発想です。
必要なときだけ電動化し、不要なときは元の自転車に戻す。そのシンプルなアイデアから、CLIPは誕生しました。レイはクレマンと手を組み、この構想を実際のプロダクトへと具体化していきます。
そしてそのプロダクトは、投資家たちの関心も集めました。2022年から2023年にかけて、CLIPはシードラウンドで累計約475万ドル規模の資金を調達したと報じられています。
そこから試作開発を経て量産体制へと移行し、初期ロットは全米複数州へ出荷されました。
現在のところ、CLIPはまだ巨大メーカーという規模ではありません。しかし、既存の自転車市場という巨大な土台に乗るビジネスモデルは、都市を横断して拡張していく可能性を秘めています。
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CEOのソムナス・レイ(中央)、COOのクレマン・デ・アルカラ(左)
その象徴的な動きがインドです。国内最大のバッテリー交換ネットワーク企業Battery Smartと提携し、月額5ドルのサブスクリプションモデル「BOLT」を試験導入。すでに2億台以上の自転車が使われている市場に対し、「電動化を所有ではなく月額で提供する」というアプローチを始めています。
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ラテンアメリカやアフリカでは、途上国の人々に移動手段としての自転車を提供する非営利団体World Bicycle Reliefと協働し、同じくBOLTの導入を進めています。
フランスでは、公共自転車シェアサービスの運営を行うJCDecauxとサブスクリプションモデルを提供する予定とされています。
すでにCLIPは「単なるニューヨーク発のスタートアップ」ではなく、複数国で実装を始めている都市モビリティ企業になっている、ということです。
2025年には、アメリカ商工会議所の成長企業100社を対象としたプログラムで、国際展開や都市課題への貢献を評価される部門「2025 CO – 100 Global Stars Honoree」に選ばれています。
その他にもCLIPは、複数のデザイン・イノベーション賞を受賞しています。TIME「100 Best Inventions of the Year」、Fast Company「Best Product Design」、New York Product Design Awards、 Keeling Curve Prize、Core77 Design Award、Micromobility Best Startup of 2023などです。
これらの評価が示しているのは、CLIPが単なる電動アシスト装置ではないということです。都市の移動という構造そのものを見直す発想が、デザイン、環境、ビジネスの領域を横断して支持されている、ということでしょう。
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20キロを超えるeバイクを作るのではなく、4キロのエンジンを持ち帰る。新しいものを大量に生産するのではなく、すでに存在する自転車を活かす。その発想は、UberやAirbnbのように、巨大な資本やインフラに頼らずに都市をアップデートする、いかにもアメリカ的なスタートアップのスタイルですよね。
ブルックリンから生まれたCLIPは、都市という共通課題を前提に世界へ広がろうとしています。「都市を変える」とは、必ずしも街を作り直すことではなく、たったひとつのアタッチメントで十分なのかもしれません。
足りない部分を挙げるならば、雨天時の使用には制限があるので、防水性能やさらなる軽量化、小型化といった改良が進めば、もっと使いやすくなるのではと個人的には思います。
(参考)
Co-Founders of CLIP Answer Four Questions for Founders – Newlab
World’s 1st Plug & Play e-bike upgrade device – Wefunder
How CLIP Is Working to Turn the World’s 2 Billion Bicycles Electric – U.S. Chamber of Commerce

foxylilly.com
Instagram: @foxylilly






