フォークミュージック? フォークアート? LCMF Witchy Methodologies

vol.91
London Art Trail
Miyuki Kasahara
笠原 みゆき

地下鉄ベーカーストリート駅を降りてすぐ大通りを渡るとそこはウエストミンスター大学。中に入り受付でチケットを見せると手の甲に怪しげな一つ目の描かれたスタンプが押されます。今回はこの大学の地下にあるAmbika P3から。Ambika P3はこのコラムの第6回のアートエンジェルのプロジェクトでも紹介したかつての試験工場跡を利用した広大なイベント、ギャラリースペース。そこで開かれていたのは、ロンドンコンテンポラリーミュージックフェスティバル (LCMF) 2019。7日間に渡って行われるこのフェスタはミュージックフェスティバルといっても前衛芸術の祭典で、今年のテーマはWitchy Methodologies、魔術の技法。訪れたのはその第4日目です。


Bulgarian folk ritual, Kukeri Group from the village of Mogila in Bulgaria

Bulgarian folk ritual, Kukeri Group from the village of Mogila in Bulgaria

Bulgarian folk ritual, Kukeri Group from the village of Mogila in Bulgaria

甲高い鈴の音と共に踊りながら現れたのは赤、白、黒を基調とした民族衣装をまとい、腰に無数のカウベルを提げた一群。多くは来訪神のような動物の面を被って登場します。五穀豊穣を祈り、悪霊を追い払うブルガリアのKukeriと呼ばれる伝統的な魔除けの舞で、荷車で土を耕すもの、種まきをするもの、赤ん坊をあやすものなどとそれぞれのパートに分かれています。踊っていたのはブルガリアのMogila村の人々で、地域によって仮面、踊りや衣装はことなるそうです。正月の魔除けの行事とのことで秋田のナマハゲを彷彿させますが集団の舞であることからより演劇的です。


ounded Furniture (1965) ©Alison Knowles

Wounded Furniture (1965) ©Alison Knowles

Poem for Chairs, Tables, Benches, Etc. (1960) ©La Monte Young

真ん中に積み重ねてあった家具、気になりますね。ジーンズにTシャツ、セーターなど、先ほどとは対照的な普段着で現れた人々。各々が、道具を持っていて、一斉に各々の家具を破壊していきます。のこぎりで机や椅子を削る人、金槌で梯子を叩き割る人。それぞれの音が家具の悲鳴のように会場に響き渡ります。やがて一通り破壊が終わると、各自が道具を片付け、包帯と赤い絵の具を手に取り、今まさに破壊した家具をまるで手当てをするかのように包帯で巻いていき、更にそこに血痕のように赤い絵の具を垂らしていきます。作業を終えると各自がそれぞれの傷ついた家具を床に引きずりまわし、重い家具の移動する音は戦車などの重機を彷彿させます。そして最後には元のように家具を真ん中に積み重ねます。実はパフォーマンスは二部に分かれていて1965年にAlison Knowlesによって書かれたWounded Furnitureと1960年に La Monte Young によって書かれたPoem for Chairs, Tables, Benches, Etc. の二つの作品を組み合わせて再現したもの。二人は1960年代の前衛芸術運動として知られるフルクサス(Fluxus)を代表する作家です。


Superbia – The Pride (1986) ©Uirike Ottinger

Superbia – The Pride (1986) ©Ulrike Ottinger

映像はベルリンの壁かと思われる落書きの描かれた壁の前で魔女のような格好をした赤毛の女性が、キリスト教の七つの大罪の話をすることで幕が開けます。その後は山のような津波をバックグラウンドに皇帝に皇后、死神、道化、将軍、キャプテンそして動物の格好をした人々の奇妙なパレードが永遠と繰り広げられます。映像の所々にはケネディ大統領のパレード、ナチの行進などの実際のパレードや軍隊行進などのドキュメンタリー映像を挟んだこの15分間の映像作品はUirike Ottinger の Superbia – The Pride (1986) 。タイトルのSuperbiaは七つの大罪の一つで日本語でいう「高慢」のラテン語訳。


Heart of Glass (2019) ©Alwynne Pritchard with Zubin Kanga

Heart of Glass (2019) ©Alwynne Pritchard with Zubin Kanga

中央にグランドピアノが一台、その四方に四つのモニターが並びます。ピアニストが音を奏で始めるとモニターの中でもまたパラレルワールド (同時並行して存在する別の時空)でピアニストが演奏しているような映像が映し出されます。ハイヒールを履いたピアニストは、鍵盤だけでなく、ピアノ本体を叩いたり、ピアノ線を弾いたりと、夢遊病者のようにピアノを這うように動きながら演奏をします。18世紀ドイツの村社会を舞台にほぼ全ての役者、出演者が睡眠術をかけたれた状態で演じたというヴェルナー・ヘルツォーク監督の映画、Heart of Glass (ガラスの心)(1976)、そして日本の暗黒舞踏に影響を受けたというこの作品はAlwynne Pritchard の Heart of Glass (2019)。ピアニストはZubin Kanga。今回のフェステバルのための特別委託作品です。 魔術というと何だか少しいかがわしい気がしますが、ヨーロッパにおいて資本主義やグローバル化によって失われてしまった自然と人の関係を見つめる民間信仰、地域社会の繋がりや文化をテーマにしたものでした。7日間のフェステバルの一夜の一部分のみの紹介になってしまいましたが、私自身ほんの一部分かじっただけだったので全部しっかり見てみたかったなあと思いました。2013年に始まったLCMF、また来年も期待します。

プロフィール
London Art Trail
笠原 みゆき
2007年からフリーランスのアーチストとしてショーディッチ・トラスト、ハックニー・カウンシル、ワンズワース・カウンシルなどロンドンの自治体からの委託を受け地元住民参加型のアートを制作しつつ、個人のプロジェクトをヨーロッパ各地で展開中。 Royal College of Art 卒。東ロンドン・ハックニー区在住。 ウェブサイト:www.miyukikasahara.com

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