マザコン野郎の量産

番長プロデューサーの世直しコラムVol.44
番長プロデューサーの世直しコラム 櫻木光
頼まれて、大学生にテレビCMのつくり方を教えに行くことがあります。会社では、新入社員の面接をすることがあります。学生向けの広告制作者の講演会なんかにも行くので、若者と接触する機会が結構あるんですが、ちょっと心配なことがあります。 若者の、男の子の方が、女の子に比べ圧倒的に元気がないです。 見渡せば、会社で「がんばっているな」と目につく若手も女の子の方が多い。男がだめだと言い切るつもりはない。元気な男の子もいると思う。しかし、なんとなく、傾向として男の子の元気がないように感じるのだ。元気にしている男の子が、むしろアホに見えてしまう。そんなご時世に、なっている気がしてならない。 僕が中学生の頃は、世には校内暴力が横行していて、男の子たちは、もて余したエネルギーを消化できずに喧嘩ばっかりしていた。進学して東京に出てきた時、「俺はみんなと仲良ししにきたんじゃねえ。何かで名を上げるためにきたんだ」と戦国の武将みたいなメンタリティだった。バブル経済最盛期だったせいか、周りもみんなギラギラヒリヒリしていた。平気で列に割り込み、大声で脅し、堂々と自分勝手なことばかりする奴ばかり。当然、摩擦熱が発生するわけで、やったことはやって返される危険性が高いのだが、来るならこいと待っていた。僕は、男は若いときは暴れるもんだと思っていたし、痛い目にもかなりあったが、なんとも思わなかった。もちろん、自分がちょっと特殊だという自覚はありました(笑)。 ひるがえって、今は草食系男子花盛りです。彼らは人を殴ったりするリスクとコストをちゃんとわかっていて、無益な争いはしない。他人との距離のとりかたも、ものの言い方も、表面的にはとても上手い。思春期の反抗期なんてのも、なくなっているらしい。その上、むやみに格好つけてもかっこ悪いということもわかっている。なんと洗練されていることか。 比べると、僕の時代のあれは、何だったのだろう。野蛮人だ、未開の地の男たちだ、同じ民族とはとうてい思えない(笑)。 とうことで、あくまで相対的にではあるが、女の子は元気に見える。大声で笑うし、はっきりものを言う。好きなものは好き、嫌いなものは大嫌い。生きていくためにかかる現実的なお金のことにとても敏感だし、幸せのイメージが現実的である。その分、甘えたことは言わないのがすばらしい。 そういうことが気になって、調査をしてみたことがありました。若者に密かにインタビューして、ひとつ結論を導き出しました。 「マザコン野郎が多い」。 原因は親子関係にあると思うのです。子供、特に男の子を、自分の意のままにコントロールしようとする母親に、ずっと育てられた都合のいい男の子。 今、男の子を持った母親に、「どういう人に育ってもらいたいですか?」って質問をすると、だいたいの母親が「優しい子に育ってほしいです」と答えます。よかったですね、優しい子がたくさん育ちました。草食系男子。今、日本国はヤギさんとヒツジさんの群れでいっぱいです。 「優しい子になってほしい」を建前に、母親は息子にいろんな制約をかけて育てます。 子供が興味をもってやろうとしても、母親の考えに合わないと反対するし、やらせない。ちょっとでも危険があれば、すぐにやめさせる。つまり、年代に応じて経験すべきことを経験させない。相手にされなくなるのが寂しくて、子供の独立心を抑え込もうとする。子供がいくつになっても、親が子供の生活に干渉する。 そんな風にしていると、息子はどうなっちゃうか? やりたいことをやらせてもらえないから、最初から何もしない方がいいと、消極的な人間になる。何が危なくてなにが危なくないかの判断が、できなくなる。殴っても殴られても心も体も痛いということがわからないから、ちょっとしたことで切れるし、いじける。そういう男は、反面、極端な暴力沙汰を起こす奴でもある。 大事なことの決断が自分でできない。責任感のない人間になる。何事も他人の顔色をうかがって行動するようになる。結果、何もできないし何もわからないため、社会に出てダメ人間のレッテルを貼られて挫折する。まあ、こんな感じでしょうか。 だいたい、「優しい」の定義をまったく思い違っている。 「優しい子」は本来、体力的にも精神的にも強くて、いろんなことがわかっていながら人の弱さもわかり、他人のいろんなことを許せる心の広い、男らしい子を意味する。ところが、馬鹿な母親の解釈の中では、結局、母親の言うことをよく聞き、ギャーギャー文句を言わず攻撃的でなければOKなんです。優しく甘やかしているだけです。 で、僕らは、そうやって量産されてくる「優しい」駄目人間トゥルーパー(部隊)を従えて、仕事の荒波を乗り切って行かなければいけないのです。ちょっと厳しくすれば泣くし、やめるし、恨むし、訴えようとする甘えた連中をなだめすかして使う。 そいつらを最初から人間として鍛えなければ自分の仕事がなくなってしまうから、世の中の仕組みを最初から懇切丁寧に教えて鍛えるしかない。 本来、学校がその役目を果たすためにあるのでしょうが、金を払って来てもらっているお客さんである生徒に対して、もはや、学校は無力です。だから、人間は職場で鍛えるしかないのが現実です。 会社は人事にそういう部署を新しく設立して、自衛隊に体験入隊でもさせるしかないんじゃないかと思う今日この頃です。 お願いです、お母さんたち。 自分の都合のいいように、自分の都合を押し付けて子供を育てないでください。「いい男」を育ててください。自立心を持った、他人の気持ちがわかる、素直で勇気を持ったいい男。そんな男に育てるためには何をしなければいけないか、何をしてはいけないか考えてみませんか? ご希望あれば、一緒に考えましょうか? これ、地デジなんかより、はるかに大事な国策だと思うんですけど。

Profile of 櫻木光 (CMプロデューサー)
~株式会社リフト 第一制作部 チーフプロデューサー~

  • 1968年 佐賀県生まれ、44歳。
  • 1991年 ニッテンアルティ入社(旧 日本天然色映画株式会社)
  • 2000年にプロデューサーに昇格。
  • 2009年 社名がリフトに変更。

プロデューサーと言ってもいろんなタイプがいると思いますが(日本にはCMプロデューサーと名乗る人が2000人もいるそうです)、自分のケツを自分で拭こうとしているプロデューサーは何人いるでしょうか?矢面に立つのは当たり前だとつっぱって仕事をしていたら、ついたあだ名が「番長」でした。根性論を書いているかと思ったら、意外に現実論者でもあります。

<主なプロデュース作品>

  • AGF ブレンディボトルコーヒー(原田知世さんと子供)
  • 日清食品 焼きそばU.F.O
  • マルコメ 料亭の味
  • リーブ21 企業CM
  • コーセーサロンスタイル 『髪からはじまる物語」行定勲監督Webムービー
  • クレイジーケンバンドPV
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