新入社員の自分に教えたいこと
- とりとめないわ 第32話
- とりとめないわ 門田陽
「高校生の自分に教えたいこと選手権」というのがSNSで流行っているようです。実話に勝るものはなし。面白いです。「いま隣の席のさえない男子が5年後あなたの旦那さんです。気を付けて!」とか「あなたは二度離婚して三人の子持ちになります」とか恋愛や男女間の話が多いです。「修学旅行ではしゃぎすぎるなよ。駅のホームで君は盛大に骨折する」や「今のうちに色んな髪型を楽しみなさい。25才であなたは禿げます」や「英語を勉強しろ。30才で会社の公用語が突然英語になるよ」など叶わぬナイスアドバイスがどれも楽しくて読み飽きません。
僕は高校時代にそれほど未練はないですが、この春入ってきた初々しい新人達を見ていると、あの頃を思い出します。いや~、失敗ばかりの新入社員でした。
入社(西鉄エージェンシー)して最初の仕事は行政なのになぜかコンペじゃなかったような気がします。福岡市の川をきれいにしようというポスターの制作です。クライアントの名前は長くて漢字ばかりで今でも妙に覚えています。福岡都市圏生活雑排水対策連絡会議。ネットで調べてみましたが、出て来ないのできっと今風な名前に変わっているのでしょう。クリエイティブの先輩たちがみな忙しくて野放し状態で新入社員の僕が作って提出(当時、行政の仕事はプレゼンではなくカンプを出すだけのものが多かった)したところその中の一案が採用となりました。コピー(企画)はことば遊び、早い話ダジャレでした。ビジュアルはイラスト。川の中のゴミを魚(メダカ)が掃除をしているかわいい絵です。その絵の上に童謡「めだかの学校」の歌詞が乗っかります。ただし歌詞の一か所「みんなでおゆうぎ(遊戯)しているよ♪」のお遊戯がお掃除になっています。「みんなでおそうじ(掃除)しているよ♪」。ダジャレというか替え歌ですね。
案が決まったことに営業の先輩がとても喜びクリエイティブの部長に報告。部長から呼ばれ、半分誉められながらも不安げな顔で「もちろん許可は取っているよな?」と聞かれ何のことかわかりません。「だよなー、誰も教えてないもんな、著作権大丈夫か?」とうなだれる部長。正直著作権のことなどまるで頭になく学生時代に通ったコピーライター教室の延長のようなノリでいた僕は青ざめました。ヤバいという直感と古い曲なので版権切れているかもという願いが半々。当時はインターネットもケータイも何もなく図書館で作詞者を調べたところ明治生まれだけど、ご健在だとわかりました。茶木滋先生。それからJASRACに連絡先を教えてもらいました。まだメールもない時代。手紙と電話で何度もやり取りをしました。「そもそも案を出す前に相談するのが当たり前なのでは」という先生からのご指摘、その通りです。その上で「内容はまじめだし世の中のためになるので、使うことは許可します。ただひとつだけ条件があります。詞は一言足りと変えてはいけません。替え歌は認めません。」
困りました。お遊戯のままではこのポスターは成立しません。それでは単に「めだかの学校」のポスターです。営業の先輩から焼き鳥屋さんに呼び出されきつい説教。でも「最後はオレが頭こすりつけるからお前は何か知恵を出せ!」と言われほろ酔いで会社に戻り徹夜しました。コンプライアンスやハラスメントという言葉すらなかった時代。でもどんなに先輩から「バカヤロー」と怒鳴られても訴えるなんて考えもしなかったし、ありがたいと感じたものです。
修正と工夫を施したカンプを持って、営業の先輩ことO隈課長代理(イニシャルの意味がないかな 笑)とクライアントをたずねました。先輩が事の経緯を話し、「提案したものと見た目はほぼ同じですし、新入社員のやったことなので許してもらえませんか。頭下げますんで…」と説得を開始。「ったく、新入社員だからってオレたちには関係なか。」と言ったあとに修正案を手に取ってじっくり見てから「うーむ、うーむ、似て非なるものだけど今回だけは大目に見るから二度とやるな!」と何とか許してもらえました。あのときの市役所の担当の方の男気は一生忘れません。
修正した案は、茶木先生の歌詞はそのまま「おゆうぎしているよ」です。ただその横のめだかのイラストの口元から吹き出しで「お掃除もね!」と言わせました。怪我の功名、「お掃除」と言う言葉は最初の案よりも目立つことになりました(コピーとしてはダメダメですけど)。そのポスターを見つけたくて押入れをひっくり返したのですが出てきません。 その代わりにゾッとするポスターがありました。新入社員の頃の二作目。これはさらにタイヘンでした。地元福岡にあるホテルのプール(当時はバブル期。今はプールはなくなっています)のポスターですが、元々のコピーは「四つ星プール」。これが差別用語になると指導を受けて印刷後に回収、残念感漂うコピーになりました(※写真)。今の時代だと、どうだったかなぁ。あの頃の自分には、「不勉強は恥ずかしいぞ!」と言ってやりたいです。
ところで冒頭の高校生の自分に言うとすれば、「ノストラダムスもはずれるので21世紀も生きることになっちゃうよ」という話はまたの機会に。
Profile of 門田 陽(かどた あきら)
電通第5CRプランニング局
クリエーティヴ・ディレクター/コピーライター
1963年福岡市生まれ。
福岡大学人文学部卒業後、(株)西鉄エージェンシー、(株)仲畑広告制作所、(株)電通九州を経て現在に至る。
TCC新人賞、TCC審査委委員長賞、FCC最高賞、ACC金賞、広告電通賞他多数受賞。2015年より福岡大学広報戦略アドバイザーも務める。
趣味は、落語鑑賞と相撲観戦。チャームポイントは、くっきりとしたほうれい線。