職種その他2016.06.08

移民問題から国民投票まで、オープンに語ろう! Open Source

London Art Trail Vol.48
London Art Trail 笠原みゆき
ジレット・スクエア。舞台に立つのはLeo Chadburn。右奥のガラス張りの建物がVortex Jazz Club。

ジレット・スクエア。舞台に立つのはLeo Chadburn。右奥のガラス張りの建物がVortex Jazz Club。

東ロンドン、ダルストン・キングスランド駅のすぐ裏にあるジレット・スクエア。世界中から前衛音楽家が集まり質の高い演奏で知られるジャズカフェ、Vortex Jazz Clubもこの一角にあります。普段はスケートボーダーで賑わうスクエア、今日は何だかちょっと違う?中央の舞台ではマイクを握った男性が音楽に合わせて詩を朗読中。今回は私の地元、ハックニー区のダルストンから週末2日間のフェスティバル、Open Sourceの紹介です。

スクエアの脇のダルストン・スタジオへ。通常は音楽のリハーサル、レコーディングのスタジオですが、ここでは映像作品を展示中。

“There's a Hole in the Sky, 2016" © Helen Cammock

“There's a Hole in the Sky, 2016" © Helen Cammock

3.Cammock2.jpg ¬ “There's a Hole in the Sky, 2016" © Helen Cammock

“There's a Hole in the Sky, 2016" © Helen Cammock

美しいカリブ海に浮かぶリゾート地としられる島、バラバドスに残る製糖工場。東ロンドン生まれのカリビアンのルーツを持つHelen Cammockはアーティスト・イン・レジデンスとしてこの島を訪れます。そこで植民地主義、奴隷制度の遺産である製糖工場で働く作業員と、高価なカメラを携えアーティストとして島を撮影する自身の姿を鮮明な画像と力強い言葉で重ねていきます。作品はCammockの“There's a Hole in the Sky, 2016"。

“A Portait of True Red, 2016" © Danielle Dean

“A Portait of True Red, 2016" © Danielle Dean

ナイキの靴のファッションショー?と思われるような映像はDanielle Deanの“A Portait of True Red, 2016"。ファッションモデルのようにナイキのスニーカー、Dunk Low Rro SB(True Rd, Vampire2003年発売)を履いた架空の人物サム・ジョーンズが18世紀の奴隷の反乱への国家暴力、70年代のアフリカ系米国人活動家Assata Shakurへの警察の残虐行為、2011年、2014年の中国ナイキ靴工場労働者のストライキとその非人道的な鎮圧等の史実を、ナイキのコマーシャルのようにスタイリッシュな映像で語っていきます。以前から生産工場の人権問題が明るみに出ていたナイキですが、こういうのを観ると何処も同じ穴のムジナかと購買意欲を削がれます。そんな中、数日前、ドイツのアディダス社が24年ぶりに自国でロボットによる靴の大量生産を開始するという朗報が!アディダスの挑戦は途上国の低人件費に頼っているファション業界に革命を起こすかも?

“Europa, Mon Amour(2016 Brexit Edition)" © Lawrence Lek

“Europa, Mon Amour(2016 Brexit Edition)" © Lawrence Lek

映像は三方の壁に映し出されていた。 バルサで作られたヤシの木に囲まれた島の中で、ゲームに夢中になる大人達。コントローラーを操作し3D建築モデルのような映像の中を進んでいくと!そこは無人化したダルストンの街で見慣れたアールデコ建築のリオ映画館もあります。 建物の一部が崩壊していたり、 時々火の手が上がったりしますが人の気配はなし。突き進んでいくと何と海に出てしまい、気分はまるで無人島に一人残されたロビンソン・クルーソー!現在、英国民の最も大きな関心事であり、今月23日に実施される、欧州連合(EU)離脱の是非を問う国民投票をテーマにした作品で、作者のLawrence LekはEU離脱後のダルストンと英国(無人島はグレートブリテン島の形をしている)を描いているそう。タイトルの“Europa, Mon Amour(2016 Brexit Edition)”はアラン・レネ監督の“ヒロシマ、わが愛(1959)”の捩り。

スクエアにあるコンテナ

スクエアにあるコンテナ

“Fly Thru, 2016" © Richard Muller

“Fly Thru, 2016" © Richard Muller

今度はスクエアにあるコンテナの中へ。荒廃したこの町は一体何処だろう?と見ていると、あれ!道向かいのリドリーロードマーケットじゃないの?と、映像が空から見たダルストンであることが次第に明らかになっていきます。実際にドローンを飛ばして撮影した映像と3Dデジタルレンダリングを組み合わせたこの作品はRichard Mullerの“Fly Thru, 2016”。ゴゥオーという疾風音の中、建物一部やごみが宙を舞っていたりと、映画ブレードランナーを彷彿させるその映像は先程のクリーンなLekの頽廃バージョンともいえ、双方を組み合わせたら素晴らしい作品になるなあなんて考えてしまいました。

“The Next Invasive is Native, 2016" © Cooking Section

“The Next Invasive is Native, 2016" © Cooking Section


さて、外でちょっと一休み。見れば、三輪トラックで女性がアイスクリームを売っているのが目に入ります。早速頂いてみるとルーハーブに似た酸味のある爽やかなテイスト。実はこれもアートプロジェクトでCooking Sectionの“The Next Invasive is Native, 2016” 。日本では山菜としても食される東アジア原産種のイタドリ(英名: Japanese Knotweed)を使ったアイスクリーム。イタドリはルーハーブと同じタデ科で19世紀に観賞用として英国に入ると、竹に似ていて育てやすいことからガーデニングに使われるようになるものの、その旺盛な繁殖力から在来種の植生を脅かすことになり、英国ではイタドリが生えていた形跡のあった不動産を売却出来ないオーナーもいる程、侵略的外来種として恐れられている野草。現在深刻な移民問題で悩む欧州や英国も元々は彼らの祖先を奴隷としてはるばる連れてきた事から始まっている訳で、植物であれ、人や動物であれ本来その土地のものでないものを身勝手に操作するとどうなるのか、イタドリ・アイスクリームのBittersweetな味は実に奥が深かった!です。

移民の町ハックニー区ダルストンにて、地域と結びついた社会性の強い作品が展開されていたOpen Source。ほんの一部の紹介でしたが来年もまた楽しみにしたいと思います。

Profile of 笠原みゆき(アーチスト)

笠原みゆき

©Jenny Matthews

2007年からフリーランスのアーチストとしてショーディッチ・トラスト、ハックニー・カウンシル、ワンズワース・カウンシルなどロンドンの自治体からの委託を受け地元住民参加型のアートを制作しつつ、個人のプロジェクトをヨーロッパ各地で展開中。
Royal College of Art 卒。東ロンドン・ハックニー区在住。

ウェブサイト:www.miyukikasahara.com

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