職種その他2016.05.11

さあ、海まで歩こう!Inspiral London

London Art Trail Vol.47
London Art Trail 笠原みゆき
Inspiral Londonのサイト上のウォーキングルート。画面をクリックするとルートが見られます。© Counterproductions

Inspiral Londonのサイト上のウォーキングルート。画面をクリックするとルートが見られます。© Counterproductions

くるくる回る螺旋の地図。これは一体何の地図?実はアーティストのCharlie Fox(Counterproductions)に率いられるプロジェクトInspiral Londonのウォーキングルート。全長250マイルの渦はロンドン中央のキングスクロスを起点にテムズ川を10回交差して、河口のグレイブスエンドまで向かいます。ポカホンタスが故郷米国へ戻る直前の1617年に最後を遂げた地であり、コンラッドの小説、闇の奥(1902出版)でナイルから戻る船乗りマーロウの語りの舞台になるなど、まさにロンドンの海への出入り口として知られるグレイブスエンド。約402km(!)のルートを一気に歩く訳でなく、34回に分け、一回平均9マイル(約15km)歩きます。Inspiralはインスピレーションとスパイラルを掛けた造語で、Counterproductionsが回ごとにホストとしてリードするアーティスト、建築家、歴史家、作家などを招き、ウォークを通してロンドンを再発見しようという試み。

ブロックウェルパーク。右端がRachel Gomme。

ブロックウェルパーク。右端がRachel Gomme。

11回目のテーマは 'Undergrowth' foraging。この日も10度以下とまだ冬の開けないロンドンで、春の訪れを告げる野草を観察し、採集、採食してみようということで、リードアーティストはRachel Gomme。ルートは南ロンドンのブロックウェルパークからグリニッチパークまでの約10マイル(約16km)。

ハーンヒル駅に集合、ルートの始点のブロックウェルパークへ。今回は途中合流も含め8人が参加。Foxがまず、フランスの哲学者ルソーの書、“孤独な散歩者の夢想”(1778出版) を紹介。植物学にも造詣の深かったルソーがウォーク、植物採集を通して彼の哲学を綴っている書。ルソーによるとforagingは6月~9月がベストだそうで、まだちょっと時期が早め……。

Chickweed

Chickweed

住宅街で早速見つけたのは英国では庭草として知られるChickweed(学名:Stellaria media 和名:コハコベ)。ヨーロッパを原産とし、おひたし、サラダで食べられ、日本では七草の一つとして古くから親しまれてきた野草。

Green alkanet

Green alkanet

目の覚めるようなロイヤルブルーの花はGreen alkanet(学名:Pentaglottis sempervirens)。西ヨーロッパ原産。Alkanetという言葉には古代から使われてきた身体や髪を染める染料のhennaという意味があって実際にその根から美しい赤紫色がとれます。

緑の鉄道橋 © Calum F Kerr

緑の鉄道橋 © Calum F Kerr

ダリッジ区に入ります。緑の鉄道橋(!)から思い出したのは箱根にある英国製の日本最古の鉄道橋である早川橋梁。小振りながらも箱根のものより26年古い1863年製でこちらも現役。

Herb-Robert

Herb-Robert

住宅の塀とアスファルトの間から顔を出すのはHerb-Robert(学名: Geranium robertianum 和名:ヒメフウロ)。英国では一般的な野草ですが、日本では山地帯のみに分布し、レッドリストの指定を受けています。伝統的に歯痛や鼻血に効果のある薬草として用いられてきたとか。

旧ダリッジ・カレッジ、現在では救貧院としてのみ使われています。 ©Calum F Kerr

旧ダリッジ・カレッジ、現在では救貧院としてのみ使われています。
©Calum F Kerr

何とも風格のある校舎に完璧に行き届いた芝生(!)この学校は一体?中央の塔の下の部分に1619の数字が見えます。校舎はおよそ400年前に俳優エドワード・アレンが貧しい子供達の学びの場として建てた私立学校ダリッジ・カレッジの最初の校舎でした。1869年にカレッジは移転、現在では当初の意図と裏腹に富裕層のための英国最大のパブリックスクールとなっています。

Cow parsley

Cow parsley

ダリッジパークを抜けます。柵の脇の白い可憐な花は Cow parsley(学名:Anthriscus sylvestris 和名: シャク)。ヨーロッパ、西アジア、北東アフリカ原産で、 英国ではアン王女のレースという別名も。 日本では山菜として食用にされるそうですが、英国ではよく似た猛毒を持つHemlockと並んで生えていることも多いのでご注意を。

スティンクパイプの横に立つ女性が170cm位なので結構高いことが分かります。© Calum F. Kerr

スティンクパイプの横に立つ女性が170cm位なので結構高いことが分かります。© Calum F. Kerr

高台の住宅地Dawson's Heightsで、高ーく聳えるこのビクトリア時代の塔の目的は?よく見るとギリシャ神殿風のレリーフまで施してある……。実はこれ、 スティンクパイプと呼ばれる下水の臭気抜き管。人の汚物と工業廃水によるテムズ川の汚染がピークに達した1858年の猛暑の夏、尋常でない大悪臭(Great Stink)がロンドンを覆いました。これに対し、政府が立てた対策の一つが、スティンクパイプの設置で、当時の面影がロンドンのあちこちで見られます。

自然保護地区。植物図鑑を抱えたGommeがリードします。© Calum F. Kerr

自然保護地区。植物図鑑を抱えたGommeがリードします。© Calum F. Kerr

住宅街の裏に自然保護地区が広がっていました!

Common Comfrey。ちなみに野草を根から引き抜いたり、大量に採集することは英国では禁じられているのでご注意ください。© Calum F. Kerr

Common Comfrey。ちなみに野草を根から引き抜いたり、大量に採集することは英国では禁じられているのでご注意ください。© Calum F. Kerr

Foxのリュックから顔を覗かせているのは路上で摘んだCommon Comfrey(学名:Symphytum officinale、和名:ヒレハリソウ)。ヨーロッパ原産で、古くから骨に効くと伝えたれ、接骨剤として使われてきたとか。

Aquarius Golf Club

Aquarius Golf Club

Green Chain Walkのルートに入ります。左に見えるのは小さなゴルフ場? 1912年設立のAquarius Golf Clubで、なんとNunhead貯水池の上にあります。貯水池は建てられた1909年当時はヨーロッパ最大の地下貯水場でした。

Brockley & Ladywell Cemetery

Brockley & Ladywell Cemetery

咲き乱れる野生のイングリッシュブルーベル、Bluebell(学名:Hyacinthoides non-scripta)!?と思いきや、実はスパニッシュブルーベル(H.hispania)との交雑種のHyacinthoides × massartiana。この学名は1997年に新しくつけられたもので、外来種との交雑が進んだ英国では、在来種はもう古森に行かないと見られないかも?この日4件目の墓地 Brockley & Ladywell Cemeteryにて。

グリニッチ、カティサーク

グリニッチ、カティサーク

ルイシャム区でGommeを含むメンバー数人に別れを告げ、残った5人が急ぎ足で進みます。Blackheathを抜け、最後の最速紅茶輸送船として知られるカティサーク(1869年製)が現れて、最終目的地のグリニッチに到着!

ウォークは月1回のペースで行なわれ、最終回はグレイブスエンドからフェリーでテムズ川を一気に北上し中央ロンドンまで戻るという計画ですが、先の長いこのプロジェクト、是非また参加してみたいと思います。

Profile of 笠原みゆき(アーチスト)

笠原みゆき

©Jenny Matthews

2007年からフリーランスのアーチストとしてショーディッチ・トラスト、ハックニー・カウンシル、ワンズワース・カウンシルなどロンドンの自治体からの委託を受け地元住民参加型のアートを制作しつつ、個人のプロジェクトをヨーロッパ各地で展開中。
Royal College of Art 卒。東ロンドン・ハックニー区在住。

ウェブサイト:www.miyukikasahara.com

続きを読む
TOP