知らない事ばかりで

番長プロデューサーの世直しコラムVol.107
番長プロデューサーの世直しコラム 櫻木光

今年47歳になったのだけど、 なんかいろんな事をちゃんと知らないし、ちゃんと考えないで生きてきたなあ というような感覚が増幅してきました。感覚というか事実。 スニーカーの歴史とか無駄な雑学とか馬鹿話はいっぱい知ってるんだけど、 大事な事の根本的なところをほとんどわかっていない。

特に生活がインターネットに征服されてからは、ググればわかるだろうと思うようになっていたし、 「これからは検索ワードのセンスですよ!」とか言ってみたりしていたのです。

なんとなく日々の生活に追われて知的好奇心も少なくなっていたような気もします。 本を買う量も読む量も格段に減りました。

学校の授業で習った事は沢山あるんだろうけど、 何も知らない若い頃はいろんな話を聞いても意味不明で理解できなかった事の方が多いだろうし、 そもそも先生たちもちゃんと解ってなかったんじゃないか?と。 内容や意味を伴わない言葉だけを暗記させて、クイズをやっているだけですからね。

何のために生きるか?的な事は、考えてはヤメ、考えてはヤメ、してきてるし、 真剣に自分と向き合うと暗くなっちゃうのが怖いので、 目をそらしてきたのかもしれません。 それでいいのだ、という考え方もあるし、多分答えは無い。

なんでこんな事言い出したのかというと、 最近、世界に起きている気分の悪い事柄は、近代史の歴史を顧みると、 実は過去に何回も同じ失敗が繰り返されていて、 またやってんのか?というような、あほな繰り返しのような気がしたから。 もう一回、ちゃんといろんな事のルーツと生い立ちを洗い直して(発言するかしないかは別として)、 自分なりに解釈して知っておくべきではないか? と思ったのです。世界の歴史は何が悪かったのか?を。

そんなこんなで、本を読む事にしました。 宗教、哲学、啓蒙思想、経済学、人が考えついた英知みたいなもんを できるだけ簡単に解説した本を探して、時間があれば読みふけっているのです。

これがまた、びっくりしますよ。知らない事が多くて。 名前だけ知ってて、何を言わんとしているかなんてほとんど知らない。 そしてそれが理解できる事はめちゃくちゃ面白い。

パリでテロが起きました。 みんなでパリを憂い、テロリストに腹を立て、ひでえひでえと騒いでいるけど、 何でそうなったのかはあまり話題にならないし、 裏で何が起きているかは伝わってこない。 例え、理由を聞いても違和感があるだけで感覚的にわからない事が多いのだと思う。 宗教からくる物の考え方の違いからなんじゃないか。

ものすごく平たい言い方をすると、世界三大宗教の成り立ちは根本的に違うところがあります。 僕の読んだ本では、森林の宗教と砂漠の宗教という分け方をしていました。

仏教は釈迦が菩提樹の下に座り、21日間、人間の苦悩について瞑想して悟りを開いたとされています。 湿潤な気候の中で、生きるか、死ぬかを突きつけられている訳ではない宗教。

それと比べて、キリスト教の元になったユダヤ教とイスラム教は砂漠の宗教です。 砂漠で生きていく事はめちゃくちゃ大変で、ちょっとした迷いが死に直結するんでしょう。 生か死か、二者択一。その判断ができる強力なリーダーが必要な宗教ですね。

つまり、砂漠で人間の苦悩について飲まず食わずで瞑想なんかしてたらすぐにひからびちゃう。

いろんな事に思いを馳せる余裕のある場所で生まれた、多神教でありえる宗教と、 砂漠故に、絶対的な一神教で二分法的な考え方をしないと生きていけない人たちの宗教は 根本的に違うんじゃないか?という事です。 この違いが、いま起こっている国際問題や民族問題の奥の奥にあるんじゃないか。と。

事態はもっと複雑で時間がかかっていますが、大もとにはこんなことがあるんじゃないか? 平たく言えば、日本人の僕としては、「テロには屈しない」的な、 仕返しの空爆の論法がいまいち腑に落ちなくて気持ち悪いんじゃないかと思う訳です。

まあ、本を読みながらそんなことを考えている訳です。中学2年生くらいのレベルで。

またある本を読んでたらこんな話も出てきました。

ブッタが修行に出て、行き先もわからず、飲まず食わずの苦行による衰弱で、道ばたに倒れてしまいます。 そこに、ある少女が通りかかって、持っていた一杯のミルクをブッタに飲ませちゃう。 するとブッタはそのミルクで、たちまち生気を取り戻し、 修行は苦行だけでなくその後の解放も必要なんだという事を知るらしいのです。 いい話だなあ。

で、その、ミルクを差し出した少女の名前が「スジャータ」という名前だそうです。 スジャータのミルクで蘇生したブッタはその後、菩提樹を見つけて悟りを開く。という話。

スジャータ。いいネーミングだな、と。 やられたぜ。

ほら、知らない事が多いでしょ?

すぐ雑談の方へ行っちゃうんですが、そう、もっと根本的な事、知るべきです。 今悩んでるような事は紀元前の人たちも悩んでいる。 すでに答えが出してあったりする。 読んでいるとけっこう気が楽になったりする。 そういう知識もいいんじゃないか?当たり前か?と思うのです。 この歳になってからだからこそ得られる知識は、物事の本質や根本を理解しようとできるからおもしろいとつくづく思う。

Profile of 櫻木光 (CMプロデューサー)

プロデューサーと言ってもいろんなタイプがいると思いますが、矢面に立つのは当たり前と仕事をしていたら、ついたあだ名が「番長」でした。


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