職種その他2015.11.11

線を引いて、刻んで、写して Jerwood Space

London Art Trail Vol.41
London Art Trail 笠原みゆき
ジャーウッドスペースのギャラリー

ジャーウッドスペースのギャラリー

テートモダンの裏手へ南に、新築住宅の緑豊かな中庭を横切り、トンネルを抜けるとユニオンストリートに出ます。左に曲がると右手にビクトリア朝時代の学校を改装したレンガ造りの建物、Jerwood Spaceが見えてきます。アートギャラリーのみならず、シアター芸術やダンスのスタジオを備えるジャーウッド•スペースは1998年にオープン。そのアートギャラリーで第21回ジャーウッド•ドローイング•プライズ展が開催されていました。

“Impending: storm clouds, 2015"(部分) ©Sarah Seymour

“Impending: storm clouds, 2015"(部分) ©Sarah Seymour

嵐を迎える暗く重苦しい空。ざらりとした質感の画面に玉虫色の黒が光沢を放ち、角度によって表情を変えます。 黒ダイヤみたい!と思ったのも端(はな)から間違いではなかったようで、玉虫色の黒の正体はカーボランダム(炭化ケイ素)で、ダイヤモンドとシリコンとの中間的な性質を持つ物質。自然の鉱石としては、隕石から産出するモアッサン石。木炭とパステルにカーボランダムを駆使し、作家の地元イギリス南東部のダンジェネスの空を描いた作品はSarah Seymour の“Impending: storm clouds, 2015"。

“Moonshine, 2014" ©Daniel Crawshaw

“Moonshine, 2014" ©Daniel Crawshaw

元々キャンプ用に使っていたものでいつか何かの役に立つはずとスタジオに何年も置き去りにされていたフライパン鍋。そのフライパン鍋の裏がある夜突然、満月に見えてきて?!釘で鍋底を引っ掻いて仕上げた作品はDaniel Crawshawの“Moonshine, 2014"。

“Murmuring Deep, 2015" ©Gerry Davies

“Murmuring Deep, 2015" ©Gerry Davies

今度は地下の世界へ。イギリスで最も深くて長い洞窟がある州はどこでしょう?実はヨークシャーでその数も最大。青系から赤系まで異なる黒のインクペンで機を織るかように線を引いて、ヨークシャーの洞窟体系を描いたGerry Daviesの“Murmuring Deep, 2015"。

“The Shed Project: Volume1, 2014 – 2015"©Lee John Phillips

“The Shed Project: Volume1, 2014 – 2015"©Lee John Phillips

ボルトにナット、釘、ハンマー、レンチによくわからない部品?スケッチブックのページをめくると次から次へ出てくる工具部品。一昔前の一般作業工具カタログを模して描いたLee John Phillipsの“The Shed Project: Volume1, 2014 – 2015"。描かれているのはフィリップスのおじいさんの物置小屋から出てきた工具類でその数、なんと四千点!とはいえタイトルにボリューム1とあるようにこのプロジェクト、まだまだ続いていて、なんと工具の総数は八万点にのぼるとか。二十分の一をやっと描き終えたところというとちょっと気が遠くなる?

“Back of Agness's head, 2015"©William Mackrell

“Back of Agness's head, 2015"©William Mackrell

白金のふわりとたなびく髪。アリの目から見た人の髪を意識して描いたというWilliam Mackrellの“Back of Agness's head, 2015"。写真イメージを土台に髪の柔らかさ、繊細さを表すため毛一本一本をクローズアップして針で引っ掻いて描いています。

“Unconditional Line, 2015(7mins)" ©Elisa Alaluusua

“Unconditional Line, 2015(7mins)" ©Elisa Alaluusua

静かなチェロの演奏に乗って、現れては消える色の線。直線であったり、カーブであったり、または手書き線のようであったり。映像は、Elisa Alaluusuaの“Unconditional Line, 2015(7mins)"で、映し出されていたのはロンドンと北フィンランドの空港のランウェイ。 白、黒、黄、赤、青の線が時には交差しながら表情を変え二つの国の旅を繋いで走ります。



展示されていたのは3,072点のエントリーの中から選ばれた60点の作品。審査員によると今年のトレンドとしては、とにかく巨大なもの、小さな点や丸で埋め尽くされた素描、木や森、これでもかという程の沢山の鳥の描写(動物の中で一番人気!)、写真のような写実画、詳細メモの付いた個人的なドローイングプロジェクトなど。一方で、これらの作品の多くは最終選考から外れていました。(入選作品は、小振りな作品が多く、動物の絵をはじめ、鳥の絵は全くなし!) 確かに24時間で3,000点の作品を見て、同じモチーフが重なるとうんざりするのは分かるのですが、なぜ今、作家の多くがそういったモチーフや描写法を選ぶのかを考えるためにも、審査員(審査員は毎年変わる)に選ばれた、わずかな作品だけでなく、全ての作品を一度、同時に見てみたいものだと思いました。

ジャーウッドスペースの外観

ジャーウッドスペースの外観

ジャーウッドスペースはジャーウッド慈善財団によって運営されていて、このドローイング•プライズのほか絵画、彫刻、映像、デザインなどの賞展を行なっており、様々な分野のアーティストを支援しています。

Profile of 笠原みゆき(アーチスト)

笠原みゆき

©Jenny Matthews

2007年からフリーランスのアーチストとしてショーディッチ・トラスト、ハックニー・カウンシル、ワンズワース・カウンシルなどロンドンの自治体からの委託を受け地元住民参加型のアートを制作しつつ、個人のプロジェクトをヨーロッパ各地で展開中。
Royal College of Art 卒。東ロンドン・ハックニー区在住。

ウェブサイト:www.miyukikasahara.com

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