幻の生きものたちに出会う? @Well Hall Pleasaunce
夏休み最後の日曜日、訪れたのは南東ロンドン、グリニッジ区にあるWell Hall Pleasaunce。現在は区営の公園ですが、チューダー朝の『ユートピア』(1516年出版)の著者として歴史の教科書でもお馴染みのトマス・モアの娘で、作家で翻訳家であったマーガレット・ローパーとその夫のウィリアム・ローパーの屋敷と庭園跡地。また、現代児童文学作家のパイオニアとして知られるイーディス・ネズビット(1858 – 1924)も最後の住人として知られています。現在その屋敷は残っていませんが、ローパー夫妻の建てた納屋と水を讃える堀は今も16世紀当時の姿を映し出しています。
堀のほとりで、置物のように静止していたアオサギがテクテクと歩き出しました。後をついていくと。
向かったのはこちらの野外パフォーマンス「Crap at Animals」の会場。ぼちぼち人が集まってきています。公演は今年で29年目を迎えるグリニッジ+ダックランド インターナショナル フェスティバルの一環で、道路や公園、建物の壁、橋、ガード下にいたるまであらゆる野外の公共の場を使って行われる夏のパフォーマンスアートの祭典。
席について待っていると、ピンクのTシャツを着たスチュワードの一人が観客にカードを配っていきます。それぞれに生き物の名前が書かれている様子。隣の人のカードをみせてもらうと、Bonin Pipistrelleとあります。Boninって無人のこと?調べてみると、Bonin Islands=無人諸島とは小笠原諸島のこと。Pipistrelleはコウモリの学名で、Bonin Pipistrelleはすでに絶滅しているとされる固有種のオガサワラアブラコウモリ。
正面のスクリーンに「画面に映し出される名前は全て実在する生きものです」というテロップが現れ、音声とともに生きものの名が映し出されていきます。「Spiny Dwarf Mantis」という名が画面に現れると。
出ました、Mantis=カマキリ!背後からやってきて、観客にちょっかいをだして回ります。
デリケートスキン サラマンダー?
サラマンダーはサンショウウオですね。
フィンチはスズメ大の小鳥の一種。Inaccessible=近接不能。近接不能な鳥?
スクリーン上の名は分刻み、時には秒刻みで次々と変化していき、パフォーマンス・アーチィストのTom Baileyはそれぞれの生き物を表現をしていきます。
皮のスーツを発見したベイリーは音声の指示に従って装着します。Leatherjacketは蚊に似たクレーンフライの幼虫名でもあります。
マスクも装着してバーチャルレアリティの世界へ。ジャングルの中にいるようです。 「Bali Tiger」の文字が画面に現れています。
次の瞬間、私の隣人がタイガーにガブリ!あまりの唐突さにカメラが間に合いませんでした。そしてタイガーは更に大きな獲物を捉え、貪っています。
たらふく食べて目が覚めたタイガーは今度は Penitent Musselに。Mussel=ムール貝、イガイなどの貝類。Penitent とは、懺悔、悔い改めるという意味。懺悔貝?出てくるのはなんだか奇妙な名前の生きものばかりと思われますが。
そして貝のベイリーは自分が種の最後のPenitent Musselになったことを明かします。実はPenitent Musselをはじめ、今まで彼が演じてきたのは全てすでに絶滅しているか、絶滅の危機にある生きものたち。観客に最初に渡されたカードに書かれた生きものもやはり同じ境遇にあるものたち。ベイリーは観客に帰ってきてくれてありがとうと呼びかけ、そしてそれぞれの(カードの)生きもののモノマネを促します。みなさん結構上手です。
「このパフォーマンスを始めた5年前は絶滅種、絶滅危惧種の数は、2万6千種ほどだったけど、今では4万8千種になってしまった。」そう言ってその生きものたちの名が刷られた布をスクリーンの下から観客と一緒に引っ張り出します。
引き出されたリストはまるで川の流れのよう。
この先、この川はどんどん長くなる一方でしょうか。この流れを食い止めることはできないのでしょうか。