WEB・モバイル2010.03.09

クリエイティブの進化に必要なのは…

Dig It! NYC Vol.17
Dig It! NYC 藤井さゆり

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─やり方は人それぞれ、 何でもアートだから何でもいいと思う。 大事なのはセキュリティを考えずに、 自分の体の中から出てくるものを正直にやっていくこと─

アーティストとして、ギャラリーのオーナー・ディレクターとして、NYを拠点に40年以上にわたりアートの世界で活躍し続けている日本人アーティスト、宮本和子さんにお会いしました。冒頭の言葉は「アーティストとして、クリエイターとして大切なこと」。

宮本さんは、とてもカッコイイ生き方をされているアーティストです。

1964年にアートの勉強のため渡米。NYのアートスクールにてペインティング、スカルプチャー、プリントの勉強をした後、1970年代前半に女性アーティストグループ“AIR”(Artists in Residence)に参加。当時女性運動が盛んだった流れもあり、フランス人、イスラエル人、ドイツ人、イタリア人など、多国籍の女性アーティストとともに女流作家展を企画・開催。

 
宮本さんのプリント作品

宮本さんのプリント作品

このAIRでの経験が自身のギャラリーを持つ大きなきっかけとなり、1986年、ロウワーイーストサイドのリビングトンストリートにギャラリーをオープン。長きにわたり、アートを創るだけではなくギャラリーのディレクションという立場からも、様々なアートを見つめ、その世界に生きています。

宮本さんが渡米した当時おそらくNYにいる日本人は少なかったでしょうし、外国人がNYでギャラリーをオープンすること自体も珍しかったはず。

若い頃の話を伺うと、「サンドイッチを売る仕事をしていたとき、おなかを空かせている子供がサンドイッチを盗んでいるのをだまって見過ごしてあげたり、タダでサンドイッチを作ってあげていた」、「Max’s Kansas Cityというレストランでウェイトレスの仕事をしているときに、ジミ・ヘンドリックスやマイルス・デイビスなど、いろんなセレブリティに会った」など、苦労話ではなく、キラキラした思い出話を聞かせてくれました。

「コマーシャルアートをやりたくない」という宮本さん。ギャラリーをオープンしたのも「みんなで発表できたらおもしろい」という思いから。ビジネスにしようと思ったことがないそう。

 
宮本さんのギャラリー「Gallery Onetwentyeight」

宮本さんのギャラリー「Gallery Onetwentyeight」

もともとワイン会社が税金滞納で市に買い取られた空きスペースを借りてスタートしたギャラリー。その当時家賃は安かったそうですが、80年代当時のNYは治安が良いとは言えない場所でした。その後NYが安全になり、ロウワーイーストサイドがオシャレなエリアになるとともに家賃が高騰。しかしそれに負けず、20年以上となる今でも同じ場所に存在しています。

また一方で画商の仕事や、アメリカ人アーティスト、故ソル・ルウイットの彫刻の修理の仕事も行うかたわら、ヨーロッパで自身の個展を実施するなど現在も多忙な毎日を過ごす宮本さん。

「やり方は人それぞれ、何でもアートだから何でもいいと思う」という言葉には「アートとはこうあるべき」という偏った考え、押し付けが一切なく、自身のクリエイティブを正直に表現し、大事にしている宮本さんのスタイル、アートの創り方がよくわかります。偏った考えや押し付けがないのは、表現者という側面でアートを見ていると同時に、ギャラリーのディレクター、キュレーターという側面からもアートを見ていること、多国籍のアーティストと一緒に仕事をしてきたことが影響としてあるのかもしれません。

また、長い間NYやヨーロッパで活動をしていても、自分が日本人であるということを忘れてはいません。日本舞踊や着物などを自身のアートに取り入れたり、父親が日本画の画商であったことは宮本さんのアートのルーツとなっています。

ちょうど宮本さんのギャラリー「Gallery Onetwentyeight」では、日本人若手アーティストの個展が行われていました。キュートでちょっと毒気のあるアート作品。日本人の若いアーティストの感性にも目を向ける宮本さん。このギャラリーでは、まだ知られていないアーティスト、とくに日本人の作品を発表していきたいのだそうです。

 

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▲開催されていたアートショーより「AIKA and Negois Edit Show」

NYのアートは、アブストラクト、ポップアート、ミニマリズム、コンセプチュアルアートと移り行く中で、90年代以降は日本のアニメなどの影響が大きいのだとか。そこでNYの今のアートについてどう思うかという質問をしたところ“冒険していない”とのこと。

毎日アートばかり見ているという宮本さんは、これまでに様々なアートを見、多くのアーティストとともに仕事をし、そして、自分の中から湧き出るものに対して正直にアートを創ってきたからこそ、そのアートが本物かどうかを見分ける目があるのでしょう。

「みんなで発表できたらおもしろい」から始まった宮本さんのギャラリー。そこから20年以上たった今でも、たくさんのアーティストからショー開催についての問い合わせがあるそう。そして「セキュリティを考えず、自分の中から出てきたアイディアを正直に表現する」と、それはもしかしたら“冒険すること”になるのではないでしょうか。

─「こんなことをしたらおもしろい」という気持ちを持ち続けること、そして、「冒険する」ことで、より進化したクリエイティブを創ることができる─ 宮本さんのインタビューからそんな気付きを得ることができました。

秋にはローマでアートショーを開催。宮本さんのエッジィなスタイルに刺激を受けつつ、NYでのアートショー開催のお知らせを楽しみにしている私です。

宮本和子さん。ギャラリーでの展示作品の前で

宮本和子さん。ギャラリーでの展示作品の前で

■Gallery Onetwentyeight ウェブサイト http://www.galleryonetwentyeight.org/

 

Profile of 藤井さゆり

藤井さゆり

東京生まれ、アメリカ在住。日本とアメリカでの職務経験あり。
東京丸の内にある公益法人にて8年間勤務の傍ら、友人が企画したクラブイベントのフライヤーや、CDジャケットのデザインを行う。
公益法人では「地方の街づくり・街おこし」支援事業の一環で、ウェブサイト業務に携わる。 公益法人退職後、2004年より4年間、都内商業施設のサイト更新・管理、販促サイトのキャンペーンページ企画と取材・撮影を含めたライティングワーク、ウェブデザインを経験。
2008年ニューヨークに移住。ニューヨークではウェブマーケティング、サイト管理を企業にて経験、それと共にウェブデザインとライティングワークをフリーランスとして行う。現在は日本の着物をインスパイアしたオリジナルTシャツブランド「Foxy Lilly」を立ち上げ、オーナー兼デザイナーを務める。
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