職種その他2020.12.09

湧き出るのは言葉?!Luke McCreadie @Taco!

Vol.102
London Art Trail
Miyuki Kasahara
笠原 みゆき

Taco!は公共団地の一角にある

Born of Lexical Bort, 2020 © Luke McCreadie

ブラックシートの張り巡らされた空間が、ドローイングで再構成された原稿用紙のような柵で仕切られ、柵の向こうには足の代わりに車輪のついた植物のようなものがニョキニョキ。そして壁にはREAD(読め!)と書かれた、仏陀の表紙の本を片手にポーズをとるニコラスケイジのポスター。聞こえてくるのは湧き水の音?

今回は南東ロンドン、テームズミードにある現代美術ギャラリーTaco!よりLuke McCreadieの個展「Born of Lexical Bort」をお伝えします。サウスイースタン鉄道、アビィウッド駅から徒歩20分。

Born of Lexical Bort, 2020 © Luke McCreadie

Born of Lexical Bort, 2020 © Luke McCreadie

左手にどっしりと座っているのは石膏で型取られたソファ。ソファには粘土、ゴム、石膏や樹脂などで出来た型が瓦礫のように佇んでいる中に、イソギンチャクのようなものや人の手や足、指などのかけらなどのオブジェがそこを棲家とする生き物のように潜んでいます。

Born of Lexical Bort, 2020 © Luke McCreadie

水音の源はこちら。何と実際に水が湧き出ていました!ストーンヘンジやホワイトホースなどで知られる、イングランド南西部ののどかなWiltshire(ウィルトシャー)で育ったMcCreadie。家の近くにはHoly Well(聖なる泉)として知られる泉がありました。その水の湧き出てくる岩には化石が含まれていて、星のような模様を描いていることからStarwell(星の泉)と呼ばれています。地元の言い伝えでは魔術に使われた薬草のエルダーフラワーが降り積もって化石になったとのことですが、星の化石の正体は実は植物のような動物、ウミユリ。ウミユリは植物の茎のような一本の長い支持体の先端に花弁のように腕を広げた形状をもつ、ヒトデなどと同様の棘皮動物。あざやかな体色を持つのが特徴。

Born of Lexical Bort, 2020 © Luke McCreadie

そう言われると柵の向こう側の樹脂や粘土でできたピンクや黄、青のカラフルな植物のようなモノがウミユリに見えてくる? 生きている化石のウミユリが現在棲むのは海底。今度は黒のビニールシートが深海に見えてきた!

Born of Lexical Bort, 2020 © Luke McCreadie

星の泉をのぞいてみるとそこには「星」がありました!散りばめられた化石の星はまるで朝食のシリアルそっくり。えっ本物?ケロッグのシリアル「Start」は1980年代から2018年まで英国で販売され(一部のスーパーでは現在も販売中)McCreadie自身も少年時代これを食べていたとか。毎日食べていた何の変哲も無いシリアルが、実は聖なる泉から生まれた星の化石だった!なんて考えるとSFのような物語が一気に広がります。

さて、ニコラスケイジのポスターに戻ります。ケイジが持っている本はヘルマンヘッセのシッダールダ。McCreadieによるとアメリカ人に読書を促すためにアメリカの図書館にキャンペーンとしてこのポスターが貼られたのだとか…。そういえばヘッセのシッダールダも水、川から悟りを開くんじゃなかったっけ??展示を見た後、McCreadieの意図通り?もう一度シッダールダを読んでみようという気分になりました。

プロフィール
London Art Trail
笠原 みゆき
2007年からフリーランスのアーチストとしてショーディッチ・トラスト、ハックニー・カウンシル、ワンズワース・カウンシルなどロンドンの自治体からの委託を受け地元住民参加型のアートを制作しつつ、個人のプロジェクトをヨーロッパ各地で展開中。 Royal College of Art 卒。東ロンドン・ハックニー区在住。
ウェブサイト:www.miyukikasahara.com

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