観客を議論に引き込むせりふの力、硬質テーマに息づくエンターテインメント性

東京
エンタメ批評家・インタビュアー・ライター
これだから演劇鑑賞はやめられない
阪 清和

 社会的な問題をテーマに演劇を創ろうとすると、せりふが説明的になりすぎたり、教条的なストーリーになりすぎたりしてなかなか難しい。しかし骨太の物語を発信し続ける劇団「TRASHMASTERS(トラッシュマスターズ)」は、激しいせりふのやり取りの中に必ず「議論」があり、観客もまたその中に引き込んで、みんなで考えを戦い合わせているようなところがある。しかも登場人物の苦悩の中でその議論が展開する様はサスペンスフルで、極めて面白い。硬質なテーマを扱っているのにTRASHMASTERSの作品に含まれるエンターテインメント性が実に豊かなのはそのためだ。

 下北沢駅前劇場で上演中の最新舞台「対岸の絢爛」はそのことが最もよく表れた作品。日本に今まさに導入されようとしているカジノを含むIR(統合型リゾート)を最大のテーマに、ある一族が3つの時代で遭遇した国家と個人の関係を問うた演劇である。作・演出は主宰の中津留章仁。(写真は舞台「対岸の絢爛」の一場面=写真提供・TRASHMASTERS))

 194X年代に漁船を軍事用に差し出せと迫る海軍兵と漁師とのやり取りや、198X年の海辺の町の架橋計画に反対するグループ内の赤裸々な人間模様を見せた後、現代の反対運動とも言えるIRの推進派と反対派の全面的対決の場をクライマックスに持ってくるあたりも心憎い演出で、これまでの骨太の作品で鍛えられてきた俳優たちの演技が舞台上でスパークする様は感動的でさえある。

 社会的な作品は、そのテーマが観客の心にまで降りて来てこそ本当に「社会的な」作品になる、そのことを実感した舞台だった。舞台「対岸の絢爛」は、2020年3月6~15日に東京・下北沢の下北沢駅前劇場で上演される。

プロフィール
エンタメ批評家・インタビュアー・ライター
阪 清和
共同通信社で記者だった30年のうち20年は文化部でエンタメ分野を幅広く担当。2014年にフリーランスのエンタメ批評家として独立し、ウェブ・雑誌・パンフレット・ガイドブック・広告媒体などで映画・演劇・ドラマ・音楽・漫画・アートに関する批評・インタビュー・ニュース・コラムなどを幅広く執筆中です。パンフレット編集やイベント司会も。今春以降は全国の新聞で最新流行を追う記事を展開。活動拠点は渋谷。

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