すくっとこの世界に立つ凛とした美しさ、草彅剛の天才的な演技の育て方

東京
エンタメ批評家・インタビュアー・ライター・MC
これだから映画鑑賞はやめられない
阪 清和

 草彅剛が主演した映画『ミッドナイトスワン』が第44回日本アカデミー賞の最優秀作品賞に選ばれた。出演した草彅の最優秀主演男優賞と服部樹咲の新人俳優賞と合わせ、大きな話題を呼んでいる。エンターテインメントのすべてのジャンルにおいて取材・インタビュー・執筆を行っている私も公開前からイチ推しで来た作品であり、内田英治監督にも単独インタビューを敢行した作品なので、正直、嬉しい。そして、この受賞で昨年の『新聞記者』の藤井道人監督に続き、2年連続で日本アカデミー賞の最優秀作品賞受賞作品の監督インタビューを果たしたことになる。そんなにたくさんのインタビューができるわけではないし、何カ月も前に受賞作品が分かるわけでもないので、普段映画に惜しみなく注いでいる愛を映画の神様が少しだけ認めてくれた上での幸運なのだと思って、個人的に慎ましくガッツポーズをしておくことにする。(写真は映画『ミッドナイトスワン』とは関係がありません。イメージです)

 

 それにしても、草彅のトランスジェンダーの演技は自然だ。並の役者ならすべてのトランスジェンダーの思いを背負って、と固くなりがちだし、どこかで拝借してきたような演技を当てはめるような無難な表現にもなりがちだ。しかし草彅の演技はそうした不自然なこわばりや嘘はなく、あくまでも自然な生きざまを身にまとっている。残酷すぎる現実への怖れや怒りを内包しつつも、「凪沙(なぎさ)」というひとりの女として、すくっとこの世界に立っている。それがあるからこそ、悲しみが根底に流れているにもかかわらず、この映画が凛とした雰囲気を保っているのだ。

 

 酒浸りの母親から育児放棄(ネグレクト)に遭い、家族の本当の愛情を知らないまま育った親戚の娘、一果(いちか)を短期間の約束で預かることから動き出す物語は、2人の孤独な魂が共鳴し合うことで、一種の希望の光を帯び始める。

 草彅はそこに至るまでの凪沙の過去、一果との出会いで生まれる慈愛、一果の「居場所」としてのクラシックバレエと自身の存在、それら物語の重要な要素となることどもを独自の感性で感じ取ったようだ。「感性の役者」と言われて久しい草彅だが、それらを凪沙の部屋の様子や服部との交流によって心の中に紡ぎ出し、感じたことにさらに肉付けしていく草彅の天才的な演技の育て方がそこにはある。

 撮影現場で「希望を描きたくなった」と予定になかったシーンまで撮影した内田監督は、自らが生み出した物語に大きな影響を受けて、何度も何度もこの作品が成長する瞬間に立ち会ってきたのだろう。演技は初挑戦ながら世界レベルのクラシックバレエのスキルに裏打ちされた服部のたたずまいの確かさや草彅の魂の演技もまたこうした成長の力になったに違いない。

 

 DVDやBlu-rayの発売も決まったが、映画『ミッドナイトスワン』は現在も一部の映画館で上映中。新たに凱旋上映も決まっており、ぜひとも一度は、この映画の美しさを映画館の大きなスクリーンで感じてほしい。

★上映館は以下のリンクをご参照

https://eigakan.org/theaterpage/schedule.php?t=midswantitle

プロフィール
エンタメ批評家・インタビュアー・ライター・MC
阪 清和
共同通信社で記者だった30年のうち20年は文化部でエンタメ各分野を幅広く担当。円満退社後の2014年にエンタメ批評家として独立し、ウェブ・雑誌・パンフレット・ガイドブック・広告媒体・新聞などで映画・演劇・ドラマ・音楽・漫画・アート・旅に関する批評・インタビュー・ニュース・コラム・解説などを執筆中です。パンフ編集やイベント司会、作品審査も手掛け、一般企業のリリース執筆や顧客インタビュー、広報・文章コンサルティングも。今春以降は全国の新聞で最新流行を追う記事を展開。音声YouTubeにも進出します。活動拠点は渋谷・道玄坂。Facebookページはフォロワー1万人。ほぼ毎日更新のブログはこちら(http://blog.livedoor.jp/andyhouse777/ )。noteの専用ページ「阪 清和 note」は(https://note.com/sevenhearts)

日本中のクリエイターを応援するメディアクリエイターズステーションをフォロー!

おすすめ記事

TOP