映画版も公開! 創作者を刺激する『映像研』作者大童澄瞳に聞く、受け手を考え抜くクリエイトとプロデュース力

Vol.181
漫画家
Sumito Oowara
大童 澄瞳
拡大

©2020 「映像研」実写映画化作戦会議 ©2016 大童澄瞳/小学館

拡大

©2020 「映像研」実写映画化作戦会議 ©2016 大童澄瞳/小学館

拡大

©2020 「映像研」実写映画化作戦会議 ©2016 大童澄瞳/小学館

拡大

©2020 「映像研」実写映画化作戦会議 ©2016 大童澄瞳/小学館

拡大

©2020 「映像研」実写映画化作戦会議 ©2016 大童澄瞳/小学館

いまクリエイターたちに人気の漫画『映像研には手を出すな!』(小学館)。アニメ制作で“最強の世界”を生み出そうと奮闘する女子高生3人――世界観の設定・監督を担当する浅草みどり(以下、浅草氏)、作画(原画や動画)を担当する水崎ツバメ(以下、水崎氏)、部としての調整や進行管理やプロデュースを担当する金森さやか(以下、金森氏)――を主人公としたストーリーだ。2020年NHKでアニメ化されると、原作と共にSNSで大きな盛り上がりを見せた。反応したのは、多くのプロ・アマを問わないクリエイターたちだった。

4月にはアイドルグループ「乃木坂46」の3人、齋藤飛鳥、山下美月、梅澤美波を主役にして実写化。前日譚ともいえるTVドラマ版が放映された。そして9月25日に満を持して映画版が公開。

本作がなぜクリエイターを刺激したのか、アニメや映画の話も絡めながら、原作者の大童さんの創作術やその背景などを伺った。

映像を作るようなイメージで漫画を描いている

「映像研には手を出すな!」(以下、映像研)が内包するスケールは、映像化にふさわしかったと感じています。ひょっとして映像化を念頭に描いてこられたのでしょうか?

僕はこの作品を描くまで、ほとんど漫画を描いた経験がなかったんです。その一方で、高校時代に所属した映画部で実写映画を撮ったり、アニメーションを自分で作ったりしていました。だから僕が持つ絵の表現手法は、映像ベースだったんです。漫画の描き方のイロハはわからないけれども映像の演出なら覚えがあったので、映像を作るようなイメージで描いていました。映像化されたときも、そういう点では違和感がなかったかなと思っています

作品に対して、SNSではクリエイターからの反響が大きいようですが、描くときに「作り手を刺激しよう」という意識はありますか?

僕としては、読者に何かを訴えかけるという意識はあまりないです。自分の気持ちや、実体験などを漫画として昇華することを重視しているので、作り手の心をくすぐろうという意識は強くないですね。ただ「おそらく共感してもらえるだろう」というところまでは考えています。

創作について語る大童さんのTwitter投稿を見て興味をひかれたのですが、大童さんの金森氏そのもののようなプロデューサー視点は、どのように培ってこられたのでしょうか?

高校時代の映画部は、必ずしも映画が撮りたいと思って来る人ばかりではありませんでした。僕は映画を撮りたいと思っていたので、一人で編集・撮影・役者、なんでもやるつもりでした。しかし、自分が好きでもないことをやらされる部員たちは大変なんですよ。役者をやりたくもないのにカメラの前で演じるのは恥ずかしいし、学校に通うのもイヤになりかねない。仕事と違って、学生は逃げ出すことが容易なので、いつ消えるかわからない。そういう部員の気持ちをくみ取って、どうサポートしたらストレスなく映画に参加してもらえるかを常に考えていました。

なかには顧問の教師とケンカして「映画部を辞める」と言い出す部員もいて、「部活を辞めてもいいけど、オレが個人的に雇うから参加しろ」なんて交渉したこともあります。とにかく部活を回すことに必死で、その経験が金森氏に反映されていると思います。

ときにはお金も発生するようなモチベーションの管理って、高校生がなかなか思いつくことではないですよ。

そこに僕の「浅草氏的な視点」もあって、例えば学校に来なくなりそうな人、誰かと接点を持ちたくない小心者の気持ちが分かる。それでもポケットマネーをいくらつぎ込んででも映画を撮りたいっていう、確固とした想いも僕にはあるので、制作に必要ならば躊躇(ちゅうちょ)はしなかったですね。

映像研メンバー3人の能力である世界の創造、プロデュース※、制作・作画などを、大童さんはすべて1人でこなしてこられたと思います。一番好きなことはどれでしょうか。

好きなのは、プロデュースかな。作画をしていると「まだこんなに描かなきゃいけないのか、大変だな」と思うこともあるんですけど、どうやったら売れるように仕立てられるか考えているときは、ストレスがなくて楽しいです。

※ここでのプロデュースとは、制作活動の予算調達や管理、スタッフの人事などをつかさどり、制作全体を統括する職務。

「漫画のお約束」を可能な限りやりたくない

今まさになさっている「セルフプロデュースのためのSNS活用法」ってコツはありますか?

僕が思うに、SNSも自分のフォロワーや量によって、スタイルを変えていかなきゃいけないんですよね。自分をフォローしている客層の変化に敏感でないと、どうしても勢いが鈍ります。それから、自分で線引きをして最重要の客層を認識することも、重要かもしれないです。意外なところに読者がいる可能性もあるので“フォロワーに目を配ること”が大切だと思いますね。

フォロワーが何万人といる人にフォローされたことを敏感に感じ取ると、そういう強い人づてに自分の作品を発信していける可能性があります。でも僕は最近、自分のフォロワー数が10万人近くなってしまったので、今度は自分の発言に注意するほうになってしまいました。

では映像研をプロデュースするうえで、最初に持ったコンセプトは何でしたか?

コンセプトというか演出的なところで、「漫画のお約束」を可能な限りやりたくないなっていう気持ちがありました。第1話で理由なく物事を説明しすぎるようなことをやりたくなかったんです。それでもキャラクターの名前を読者に覚えてもらうために、お互いの名前をフルネームで呼ぶことなどの演出は最低限必要。どうしたら作り話臭くならないか、よく考えました。その積み重ねで、図解ページが満載の作品に仕上がったんです。

漫画では舞台となる芝浜高校、とくに生徒会については少しずつ語られていっています。実写とちょっと違っている。この数多くある部活を統括する「生徒会」の構造は最初からあったのでしょうか?

あまりないですね。「大生徒会」のような設定はやりたいと思っていたんですが、最初の頃は具体的な活動内容は出来上がっていませんでした。ストーリーを今後どう進めていけばいいのか考えたときに、しばらく悩んで、思い浮かんだのが今の路線です。今後の映像研は、生徒会が重要になってくるかもしれません。

実写版では生徒会の世界が広がっていましたが、今後原作がアニメ版や実写版からは影響を受ける可能性はあるのでしょうか?

影響はあまり受けないと思いますね。僕はそれぞれの独立した作品を、それぞれのものとして楽しめる今が一番面白い状態だと思っているので、そのギャップをあえて埋めずに、自分の描きたいものを今後も描き進めていくのが一番良いやり方だと考えています。

漫画的な嘘から、実写映画の文脈での嘘に上手く変化している

では映画版についてお聞きします。実写版の齋藤飛鳥さん演じる浅草氏は、漫画やアニメと比べて、ビジュアルだけではなく「一番かわいい」キャラクターだと思ってしまったのですが、原作者としてはこの“新しい浅草氏”はいかがでしたか?

僕にとっては違和感がなくて、最初の「うーうー」とうなっているシーンから「これは浅草氏だ」と受け入れていました。浅草氏の気弱な部分が一番抽出されているのが実写版なのだと思います。それが、僕にとってはまったく違和感がなかったですね。

原作者から見て映画版は、キャラクターの本質を捉えた仕上がりでしたか?

そう思います。僕も当初キャラクターの描き分けに苦労したんですが、実写にあたり更新しながらキレイにまとめられていて「漫画的な嘘から、実写映画の文脈での嘘に上手く変化している」のが良かったですね。

映画では、ロボット研究会メンバーが「ロボットアニメ」に対するこだわりを語るシーンや、浅草氏がロボットアニメへの批判を恐れるシーンが印象的でした。この知識や、彼女の気持ちの動きは、どのような過程で生まれたのでしょうか?

僕はこの漫画を描くときには、オタクのことをよく考えます。この作品にはたくさんのオタクみたいな人たちが出てくるので、何かがとても好きな人が、どういう反応をするのか、どんなこだわりを持つのか、そのパターンを漫画のストーリーに採用しているんです。

それで、ロボットが好きな人のこだわりが何かを考えるわけです。ロボットが好きな人の中でも、ロボットアニメが好きな人もいれば、リアルなロボット技術が好きな人もいます。そういった“ロボットに向けられるいろんな視点、要素”を詰め込んで描いていく。しかしロボットの世界と真摯(しんし)に向き合った末に、自分1人では「誰にでも納得してもらえるロボット」を描くことは出来ないと思ってしまった。それをそのまま浅草氏に言わせたのです。

あれは大童さん自身の感情だったんですね。では、そのロボットアニメの知識は、どこで得たのでしょうか。

そもそも僕自身がオタク的な視点を持っているので、自分と好むジャンルが違っても、方向性や考えを何となく推測出来るっていうのがあります。それに、そういう「面倒くさいオタク」議論ってインターネット上にあふれているんですよ。例えばガンダムは強化外骨格であり、エヴァンゲリオンは人造人間だからロボットではない。でもどちらもスーパーロボット大戦に登場しているから、あれはロボットでいいんだ、というようなね。

芝浜高校は、現代日本とは異なる独特な世界感の造形ですよね。実写映像化にあたって美術的にも洋風に変化していましたが、そのあたりはいかがでしょうか?

もっと普通の高校になるのかなって思っていたんですよ。でも予想以上に工夫がされていましたね。ロケ地にしても、昭和初期か大正まで遡ったかのような古い建物を使っていて、僕もそういう古いモダン洋式を取り入れて描くことがわずかにあったんですよ。しかも1カ所で撮影せずに、いろんなところを飛びまわって撮っているのもすごい。冒頭の芝浜高校の外観が映るカットでは合成やCGを使っていて「相当気合入っているな」と感じました。

大童さんは、アニメ化・実写化、両方を経験した数少ない原作者の一人です。その立場から、作品を実写化するうえで大切だと思ったことを教えてください。

媒体が変わるということは、表現手法が変わるということ。それに伴って脚本の表現が変わって、キャラクターも変わることは、当然あることなんですよ。それが当たり前だということと、原作漫画のまま実写化やアニメ化しても、決して成立するものではないということを、制作サイドに求めるというよりは、視聴者側に知ってほしいです。

そうしたら、「原作と違う」拒絶反応を起こさずに、より楽しむことが出来るようになるんじゃないかなと思います。

世間のはやりと好きなものがかぶる部分を、より強く意識する

大童さんのように、たくさんの視点を持った漫画家は珍しいのではないでしょうか。最終的な目標は、決まっていますか?

僕個人としては、隠居して山を買って公園を作りたいっていう夢はありますが、それ以外の野望はないんですよね。漫画に限らずいろいろな表現をしたいと思っています。絵画や実写、アニメーション、演劇でもいいんですが、自分がそのときにやりたい表現で何かを作ってみたいなと思っています。

そうなんですね。他のフィールドで作る作品も、ぜひ見てみたいです。ではクリエイターを目指す人に、メッセージをいただけますか?

クリエイターっていうのは、僕としては目指すものではなくて、ついうっかりやってしまうものだと思っています。どんなに小さくて些細(ささい)なものでも何かを生み出せばいいだけの話なんですよね。

いまは「コミックマーケット」や「コミティア」をはじめ、漫画も文章も出せる同人誌即売会はたくさんあるし、ネット通販も出来る。SNSで自分の創作物を無料公開しているクリエイターもいます。動画投稿・視聴サイトでは、アニメや演劇や映画も公開出来ます。プラットフォームが増え、発達したために、人類総クリエイター時代がきているんですよ。

強いてメッセージを伝えるなら、つらいことはやらなくていいと思います。自分のやりたいことだけに集中していれば、頑張らなくていい。頑張るために力が必要で、そのために特訓が必要ならば、苦しくても突破していく必要はあると思いますが。

最後に、そんな人類総クリエイター時代に、創作で収入を得るには何が必要だと思いますか?

まず、自分のやりたいことを理解する。それが、世間のはやりとずれている可能性があるので、「やりたいことの円」と、「世間が求めているものの円」の、ちょうど重なっている部分を作ろうとすることが重要だと思いますね。

僕の場合はニッチで、世間で流行っている表現があまり好きではなくて、「こういう表現はしたくない」っていうこだわりがある…。世間に交じれないタイプの人間なんです。

だから自分の強みを生かしてお金に変えていくためには、最近流行っている何かと好きなものがちょうど被っているところを、より強く意識して、そこだけ丁寧に描く。あとは、自分の好きなようにする。僕はそういうバランスでやっています。それが出来れば、自分がやりたい気持ちを殺さず、世間に迎合せず、創作が出来ると思います。

繰り返しになりますけど、昔と違って、今はセルフプロデュースで創作をお金に変えていくことが出来る時代です。世間を見ながら、自分のやりたいことを見ながら、発信していくことが重要だと思います。

取材日:2020年8月14日 ライター:渡辺りえ

ドラマ「映像研には手を出すな!」Blu-ray BOX(3枚組)を抽選でプレゼントいたします。ご応募はコチラから→ https://www.creators-station.jp/member

 

『映像研には手を出すな!』

9月25日(金)より全国公開

©2020 「映像研」実写映画化作戦会議
©2016 大童澄瞳/小学館

STORY
芝浜高校映像研究同好会、通称、映像研。想像力豊かだが極度の人見知り、浅草みどり(齋藤飛鳥)。カリスマ読者モデル、アニメーター志望だが、両親にアニメを禁止されている水崎ツバメ(山下美月)。金儲けに執着し対外的な交渉や資金集めに力を発揮し、プロデューサーを担う金森さやか(梅澤美波)。アニメ制作に奮闘するこの電撃3人娘に最大の危機が訪れる。それが、部活動統廃合令だ。大・生徒会は増え続ける部活動を減らすべく、あらゆる部活動を統廃合しようと動きだした。この動きをいち早く察知した金森の計画で、映像研はロボット研究会と手を組み、ロボットアニメを作ることになった。音響部の百目鬼(桜田ひより)も加わり、パワーアップした映像研は巨大ロボ・タロースと巨大怪獣・テッポウガニが激突する、「ロボ対カニ」の制作に突き進む!そして、迎えた文化祭当日。なんと、ツバメのパパ(山中聡)、ママ(松本若菜)が文化祭に来ること…。このまま映像研がアニメを上映したら、ツバメがアニメ制作をしていることがバレてしまう。果たして、映像研は文化祭でロボットアニメを上映することができるのか!

CAST
齋藤飛鳥/山下美月/梅澤美波(ともに乃木坂46)/浜辺美波/髙嶋政宏 他

STAFF
監督:英勉
原作:大童澄瞳「映像研には手を出すな!」(小学館 「月刊!スピリッツ」連載中)
脚本:英勉 高野水登
配給:東宝映像事業部

プロフィール
漫画家
大童 澄瞳
プロフィール:1993年生まれ、神川県出身。創作系(オリジナル)同人誌即売会「コミティア」にてビッグコミックスピリッツ編集員に声を掛けられ、2016年『映像研には手を出すな!』が「月刊!スピリッツ」(小学館)にて連載開始。同作は、2020年1月にNHKでアニメ放送され、乃木坂46のメンバーによる実写化を果たした。同年4月にTVドラマ版が放送。9月25日には映画が公開される。

日本中のクリエイターを応援するメディアクリエイターズステーションをフォロー!

クリエイティブ好奇心をもっと見る

TOP