グラフィック2020.10.21

CGを作り続けてつながった縁がある。これからもずっと大切にしていきたい

Vol.44 広島
CGLABO 3DCGデザイナー
Nobuhiko Kitani
記谷 伸彦

今や映画やゲーム業界では欠かせないほど、身近になってきた3DCG。そのデザイナーとして地元広島だけではなく全国的にも知られるテレビCMや映画の制作に携わってきた記谷伸彦さん。CGの世界に興味を持ったきっかけや、デザイナーになるまでの道のりを伺った。

IT会社のサラリーマンが、一念発起でCGクリエーターの道へ!

CGクリエイターになるきっかけや、広島にUターンするまでの経緯を教えてください。

新卒でプログラミングの会社に入りました。未経験だったのですが、東京のIT企業に入社し上京することになりました。学生時代にみた『ターミネーター2』『ジュラシックパーク』などのSF映画が好きでCGの世界に憧れていました。

絵を描くこと、特に模写が好きだったのですが、グラフィックやCGを仕事にすることは、相当な技術とセンスがないと難しいなと思って、趣味として楽しむことにしていました。ただ雑誌を読んだり、映画を観るとワクワク感は募るばかりでついにお茶の水のデジタルハリウッド東京校の体験入学に足を運んでいる自分がいました。

3年ほどIT企業に勤めていましたが、思い切って入学手続きをしました(笑)。なかなか退職の話を会社に切り出せなくて…。上司に相談をしたときに「決めたからには必ずCGを仕事にしなさいよ」と言ってもらいホッとしました。

専門学校時代は、どのようなスクールライフを過ごしたのですか?

当時はいろいろなコースがあって、僕は約1年のコースを選びました。授業は週に2回でしたが、ほぼ毎日通っていましたね。世界的に有名なアニメーションの先生によるドローイングといった、アナログ技術の講義もありとても刺激的でした。学校は24時間ずっと開いていてよく寝泊りもしました(笑)。放課後や夜間は自習利用になりますが、卒業生のスタッフがずっと居てくれて丁寧に教えてくれましたよ。学生の年齢層は幅広く、確か上は40歳くらいまで。仲間で一緒に飲みに行って、また学校に戻って勉強する…。とにかく楽しかったですね。

そのまま東京で就職しようと考えていましたが、さまざまな事情で広島にUターンすることになりました。

広島にはCGの仕事がない!家族のひとことがチャンスを掴むきっかけに。

広島に戻られてからは、最初にどんな活動をされたのですか?

すぐに仕事はありませんでした。というのも2000年当時の広島にCGの仕事自体がなかったんです。書店に行ってビックリしたんですけど、CG関係の書籍がありませんでした。上京していなかったらCGに触れる機会はなかったかもしれません。広島ではまだそのような時期でした。

このままではまずいなと焦っていた頃に家族が「コンテスト的なものに出してみたら?」と言ってくれたのでRCC中国放送の「オープニングタイトルコンテスト」に出品すると、なんとグランプリに。地元テレビ局のコンテストだったのですが広島にもエンターテイメント系のCGの波が来たんだなと嬉しく感じました。

その頃、学生時代の友人に「今、何しよるん?」と電話をしてみたんです。「デザイナーしよるよ」ということでデザイン事務所に遊びに行かせてもらいました。彼やその会社の社長に僕の作品を見せると、面白がってくれました。「これから店舗系もCGの時代が来る」ということで籍を置かせてくださいました。

その頃は建築CGといったらマンションでした。手描きのパース屋さんもまだいた時代ですね。美容室のパースCGが最初の仕事になりました。ここで使っていただいたことで「CGを仕事にしていけるんだ」という自信につながりました。そしていろんな方々に紹介してくださいました。現在の仕事の礎になっています。社長・友人にはとても感謝しています。

ようやくCGのお仕事を本格的にスタートさせたのですね!

デザイン事務所には、様々な業種の方が来られます。専門学校と付き合いのある方から「CGの先生を募集しとるらしいよ。やってみる?」と声をかけられたんです。その学校で使用しているCGソフトは1回も使ったことがなかったのですが即答で「お願いします」と。そこからは猛勉強でした(笑)。専門学校の講師をはじめてから、ほどなくして同僚の先生から「NTT西日本ブロードバンドコンテスト」への応募をすすめられました。

地方の活性化を新しいデジタルコンテンツで表現するというテーマでした。CGキャラクターを使った岩国の観光紹介の映像を制作しました。その作品でグランプリをいただくことができました。これまたビックリでした。

嬉しいことに、この作品が広島県の観光HP担当者の目に留まり「HPの映像制作・監修をしてほしい」と依頼されたんです。ほんとに嬉しかったですね。CGキャラクターのサルを使った観光紹介動画を制作させていただきました。市内電車を貸し切りで撮影させてもらったときは感動しましたね。

またデザイン事務所に出入りされていたテレビ制作会社の友人に「局内にデジタル部門を立ち上げるので手伝ってほしい」と頼まれました。ちょうどテレビ局もアナログからデジタルへの過渡期だったんです。CMや番組制作に携わる貴重な経験をさせてもらいました。

その後、テレビ制作会社のスタッフのつながりで戦前の街並みをCGで復元するプロジェクトを主宰されている方から「ぜひ手伝ってほしい」と声をかけていただきました。作品は爆心地周辺を復元した映画制作でした。制作では被爆者の方々と一緒に作っていきました。CGで再現することへの抵抗感のある方、若い人たちのためにリアルに伝えるべきだという方。「何のために作るのか」「どういった表現するのか」今まで考えてこなかったことを「戦前の広島」を通じて経験する機会になりました。

映画制作にあたって、CG監修をされた広島市立大学の教授を訪ねたのですが、その方とは初対面ではなかったんです。実はRCC中国放送の「オープニングタイトルコンテスト」の審査委員長をされていたそうで、僕を覚えてくださっていました。

そのご縁で、その後広島市立大学に約8年ほど在籍することになったんです。そこでは映像・CGインストラクターやスタジオ管理をしていました。学生さん、様々なクリエイティブな方々との出会いがありました。

今では映像業界に就職された卒業生から、お仕事をいただくこともあります。こういうつながりもあるんだなあと感慨深いですね。そしてとてもありがたいです。

出会いが出会いを生んでいて、素晴らしいご縁に恵まれていますね!

ほんとに! いろんな人に助けられてます。振り返ってみると、どんなきっかけでも、何とか形にしたいと思っているだけです。

どうしてつながっていくのかは正直分かりません。ひとつ感じることは、「作品」を作ることで、新しい縁が生まれるような気がしますね…。

日々の楽しい体験から生まれてくるものを大切に。

 

CGを制作するうえで、参考にしていることや気を付けていることはありますか?

漠然としたイメージだけで制作をすると、いいものができないんです。モノの質感であったり動きであったり。観察を怠り固定観念やネットだけの知識で推し進めるとそれなりのクオリティのものができます。

クオリティをあげるためには実際に体を動かしてじっくり観察しないといけない。絵にリアリティが出てくるんですよね。

映画祭を手伝ったときに、広島出身の美術監督と同行する機会がありました。彼女は常に、メモ帳を持ってスケッチ・観察しておられました。「モノの質感、空気感、時代感」世界を作る仕事の方は、普段からこういった細かい部分を意識してみているんだなと感じました。

CGの技術的な話をすると、終わらなくなっちゃうんですが(笑)。リアル表現を作るためには、リアルな現実の世界を知らないといけません。「なぜどんな車の屋根にも空が鏡のように映るのか」「なぜ遠くの山は青いのか」当たり前のことでも知らないことばかり。フレネル効果・レイリー散乱…そういった現実世界の物理現象や自然現象などを、日々勉強しながらいろんな発見をしています。モノに萌えるのは楽しいですよ!

ご自身の今後の目標や夢があれば、お聞かせください。

子供が喜ぶようなオリジナルな映像作品が作ってみたいですね。CGを使った動物や鳥たちのアニメーションです。インコを2羽飼っていたことがあって、それぞれ個性的な表情を見せるんですね。そういった表情や動きを作ってみたいですね。非現実を楽しめる空間づくりも楽しそうです。宇宙空間の中でブラックホールを探索したり…。サイエンスとエンターテイメントが融合したようなものが作れないかなあ。

あと少しかっこいいことを言ってしまうんですが(笑)。人の善意を信じるような、デザインや企画を考えていきたいですね。

うまく表現できませんが「ごみを捨ててはいけません」ではなく「ごみがあると熊が食べに来るよ」みたいな。「してはいけません」と言われるとあまりいい気はしないですが「熊が食べに来るよ」と言われるとリアルに想像しますよね。熊が来たら怖いから、ごみは捨てず持って帰ろうという気になるような。

広島でクリエイターとして働いてみたい人に、アドバイスをお願いします。

広島は山と海が近いので、アウトドアが好きな方はおすすめです。時間をうまく使うことができたらバランスよく仕事と遊びを楽しめるのではないかなと思います。最近ある街づくりのCG制作を企画から手伝ったのですが、「ある空間」を使って「どんなふうにして過ごしたら楽しいのか」を考えることがあったんです。これは、日頃から楽しい遊びをしていないと、ウソを提案してしまうなと思ったんですね。「誰かの」楽しみではなく、自分だったら「何が楽しいんだろう?」実際に自分がその場所にいる想像ができれば、「誰と来て」「何をして」といったストーリーができるんです。

人の影響を受けてはじめた趣味だとしても、ただなぞるだけでなく自分なりに工夫して、オリジナルな楽しさを見つけるといいかもしれません。みんながかっこいいといっているけど、別にかっこ悪くてもいいから、自分が面白いと思うことを信じてやればいいと思います。アドバイスとして言っていますけど、実は自分に言い聞かせています(笑)。今はネットがつながればどこでも仕事ができます。広島はまだまだ発展途上なのでもっともっと盛り上げてほしいですね。

取材日:2020年9月29日

プロフィール
CGLABO 3DCGデザイナー
記谷 伸彦
広島市生まれ。広島工業大学卒業後、東京のプログラミング会社に入社。3年ほど在籍したあと、デジタルハリウッド東京本校にて約1年学ぶ。2000年にUターン。以後、デザイン事務所・テレビ局勤務を経て、企業PVやCMやPV、VRなどの映像制作などにも携わる。専門学校や大学の非常勤講師、セミナー講師としても活躍中。

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