映像2023.01.25

岩本ナオ「金の国 水の国」の映画化で監督が大切にしたのは「多幸感」と「充実感」

Vol.47
『金の国 水の国』監督
Kotono Watanabe
渡邉 こと乃
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ⓒ岩本ナオ/小学館 ⓒ2023「金の国 水の国」製作委員会

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ⓒ岩本ナオ/小学館 ⓒ2023「金の国 水の国」製作委員会

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ⓒ岩本ナオ/小学館 ⓒ2023「金の国 水の国」製作委員会

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ⓒ岩本ナオ/小学館 ⓒ2023「金の国 水の国」製作委員会

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ⓒ岩本ナオ/小学館 ⓒ2023「金の国 水の国」製作委員会

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ⓒ岩本ナオ/小学館 ⓒ2023「金の国 水の国」製作委員会

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ⓒ岩本ナオ/小学館 ⓒ2023「金の国 水の国」製作委員会

2017年に「このマンガがすごい!」(オンナ編)1位を受賞した岩本ナオさんの異世界ファンタジー漫画「金の国 水の国」を原作とするアニメ映画が、2023年1月27日(金)に全国公開をむかえます。
隣接しながらも国交が100年間断絶されている二国。戦争を回避すべく、金の国・アルハミトの第93王女サーラと、水の国・バイカリの建築士ナランバヤルがお互いを思いやりながら奔走する物語を渡邉こと乃監督とアニメ制作スタジオ・株式会社マッドハウスが描きます。監督は原作とどのように向き合い、何を思い映像化に臨んだのか?その胸中をうかがいました。

会社のフォローで子育てとアニメ映画監督を両立

初めて原作を読んだきっかけを教えてください。

岩本ナオ先生の「金の国 水の国」は、2017年の「このマンガがすごい!」(オンナ編)で1位に輝いた作品です。
元々漫画が好きでランキングは毎年チェックしていましたし、岩本先生の前作にあたる「町でうわさの天狗の子」も読んでいましたので、この作品もチェックしなければと手に取ったのが出会いでした。

監督のオファーが来る前から、プライベートで原作ファンだったのですね。

一冊で物語が綺麗にまとまっているだけでなく、読み直すほどに細かい伏線が貼られていることに気が付き、その丁寧な構成が心に響きました。さらに主人公のサーラとナランバヤルのしてきたことのすべてが結実する充実感と、それによって得られる多幸感も特筆すべき本作の魅力で、本当に素晴らしい作品だと感じました。

監督のオファーが来たときのお気持ちを教えてください。

異国情緒が感じられるファンタジーであることから、そうした世界観を映像で見せられるアニメとの相性はよい作品だと思っていましたので、マッドハウスでの映画化を知った時は本当に嬉しかったです。
「演出(監督や脚本家が意図するキャラクターの表情や感情、物事の表現などを把握し、アニメーターたちの絵作りをサポートする役職)として関われたらいいな」と思っていたのですが、演出ではなく監督をというお話をいただいて、嬉しく思うと同時に少し困ってしまいました。

困ったのは、なぜだったのでしょうか。

まだ子どもが小さいので、長編アニメ映画の監督を担当するのは時間的に厳しいだろうと感じていました。しかし、会社(マッドハウス)に相談したところ、これまで私が演出として関わってきた作品で監督を務めてきた先輩方に参加していただけることになり、監督を務める決心がつきました。
特に、私が駆け出しのころ演出で参加したTVアニメ「こばと。」(09年)で監督を務めた増原光幸さんにはスーパーバイザーとして参加していただき、よく相談に乗っていただきました。

漫画と映画、メディアの違いを考慮した作品の再構築

映像化に際して、原作のどのようなところを一番に表現したいと考えましたか?

映画を観にきてくれた人たちに、本作が持つ”得も言われぬ多幸感”を抱いてもらうにはどのように制作すればよいだろうか、という思いが一番初めにありました。
一方で、脚本を仕上げて絵コンテを切っている時に、原作をそのまま映像化したのでは約120分の尺に収まらないことも分かりました。そこで、物語のテーマや主軸を損なわないようにしつつ、省略する要素、変更する要素、新たに加える要素などをまとめ上げ、アニメ映画として作品を組み立て直していくようアプローチしました。

作中に登場する「金の国」と「水の国」は原作では「A国」、「B国」という名前でした。アニメ映画ではそれぞれ「アルハミト」、「バイカリ」という名称が付けられていますね。

活字で読むには問題ありませんが、映像作品としてセリフを聞くと「A国」は「英国」と勘違いされてしまう可能性があるうえ、A、Bというアルファベットを何度も聞くと英語のイメージが付いてまわってしまいます。
岩本先生にご相談したところ、国名を付けていただけることになりました。「できればアルファベットで表記した際に頭文字がAとBになるようにお願いします」というリクエストも快諾してくださり、「アルハミト」と「バイカリ」という名前になりました。

国名は先ほどの「新たに加える要素」の一例ですね。「変更する要素」はどのようなものがありましたか?

漫画はいつでも少し前のページに戻って気軽に読み直せますが、劇場で見る映画は同じようにさかのぼることはできません。そうしたメディアの違いを考慮して、後々の展開につながる伏線をひと目見ただけで理解できるような工夫を施しました。

原作では突然婚約が決まったサーラが、勝手に話をまとめられたことを受けて「お父様はクズだから…」と口にするシーンから始まります。映画ではそれが彼女に仕えるばあやのセリフに変わっていました。

サーラのようにおっとりした女性でも、時には毒づいたりもする描写が岩本先生の作品の魅力の一つだと思っていますが、映画を観てくださる方が全員読者であるとはかぎりません。初めて先生の作品に触れる方はそのままだとびっくりしてしまうかも…と思い、ばあやのセリフに変更しました。

確かに、漫画のセリフを読むのと、言葉として口に出されているのを聞くのとでは受ける衝撃やイメージが異なると感じます。上映前ですので具体的な描写は伏せますが、映画ではサーラの見せ場が原作より増えているとも感じました。

サーラの見せ場を増やした一番の理由は、漫画と映像作品ではリアリティライン(作品の世界におけるリアルさの度合いや基準)が異なる点にあります。
漫画では成立している描写でも、そのまま映像化すると視聴者が唐突さを感じてしまうこともあります。そういった媒体の違いで起こる違和感は作品への没入を阻害してしまいますので、計算の下、サーラの見せ場が増えている場面もあります。

作中世界を印象付ける背景美術はこだわりの手描きに


金の国・アルハミト

水の国・バイカリ

本作は背景美術の美しさも目を引きます。今日のアニメーション作品で3DCGを併用することはめずらしくありませんが、本作は70枚にもおよぶという美術ボードがすべて手描きで制作されています。そこに込めたこだわりを教えてください。

本作のような異国ファンタジーは背景が作品を強く印象付けるという一面を持ちます。それを踏まえたうえで、岩本先生の作風の魅力を一番引き出せるのは3DCGではなく手描きによる水彩画調だと判断し、いつもお願いしている(株式会社)スタジオワイエスさんに発注しました。
手間がかかるモザイクタイルなどがある建築物がたくさん出てくる今回の背景美術を手描き風にと発注するというのは、無茶なことを言っている自覚はありましたが、それでもこの作品には「手描きの雰囲気のある背景美術こそが必要なんです」とお願いしました。

「金の国・アルハミト」と「水の国・バイカリ」、文化や様式が大きく異なる2つの国を描き分ける苦労もあったかと思います。

岩本先生から、原作を執筆された時の参考資料をお借りできたことに助けられました。「金の国・アルハミト」は西アジア、「水の国・バイカリ」は中央アジアから南アジアをモチーフにしているとのことでしたので、その前提で映像作品として映える場所をピックアップしてイメージを固めています。

劇中で特に気に入っているシーンや、これから本作を劇場で見る人に注目してほしいシーンを教えてください。

背景美術を見てほしいというのはもちろん、魅力的で、かつ個性が強いキャラクターたちにも注目してください。悪人が1人もいないのもポイントで、あくまでボタンの掛け違いのようなものでドラマが形成されているのも魅力のひとつです。

明確な悪人がいない物語は、勧善懲悪の物語と比べると読者や視聴者にカタルシスを抱かせるのが難しい印象があります。

そうですね。本作は勧善懲悪ではない代わりに、伏線回収の鮮やかさ、サーラとナランバヤルの行動が実を結んで(パズルの)ピースが、はまっていく気持ちよさが充足感や多幸感をもたらしてくれます。
今にも戦争を始めそうな2つの国で、平穏な日々を守りたい人たちが小さなウソをきっかけによりよい未来をつかむべく頑張っていくお話です。そういうスペクタクル感も魅力の一つですので、恋愛モノは苦手という方も、ぜひ劇場に観にきていただければと思います。

よりよいクリエイティブは誠実さから生まれる

監督がアニメ業界を志した理由はどのようなものだったのでしょうか。

高校生の時は漠然と「美術系の大学に行きたい」と考えており、将来の就職しやすさなども加味して愛知県立芸術大学の美術学部 デザイン・工芸科に進学しました。
ちょうど、デジスタ(「デジタル・スタジアム」00年~10年放送。テーマに沿った応募作品を審査し、ベストセレクションを選出するNHKの番組)の放送が始まったり、新海誠さんが自主制作アニメ『ほしのこえ』を発表したりというタイミングで、アニメは1人でも作れるものなのだと驚きました。元々アニメを好きだったこともあり、そうした流れに触発されてデザイン・工芸科であるにも関わらず自主制作アニメを作っていました(笑)。
その頃はまだ、アニメ業界への就職を考えていなかったのですが、ポートフォリオを手に就職活動すると応募した企業のうちのある一社から「あなたはクリエイターが向いているのではないか」とアドバイスをいただきました。そこで初めてアニメ制作スタジオへの就職という選択肢が浮上しました。そうして社員募集を見つけたのが、今所属しているマッドハウスです。

演出としてキャリアをスタートされ、2012年のTVアニメ「BTOOOM!」が初監督作品となりました。

いつか監督になれたら、いつかオリジナル作品を手がけられたら…という思いはずっと抱き続けていましたが、自分が望む道に進んでいくのには機会やタイミングに恵まれることも大切だと思っています。そういう意味では、私は恵まれていますね。

そして初の映画監督作品となる『金の国 水の国』を手がけた今、かつてアニメ業界を志した頃のご自身が思い描いた存在になれていると感じますか?

若手の頃はとにかくがむしゃらで、その頃に自分の未来をどう思い描いていたかを思い出すのは難しいのですが……。大学生の頃の自分に「今、好きなことを仕事にして生きていけているよ」と言ってあげたい気持ちはあります。

最後に、クリエイターにとって大切だと思うことを教えてください。

高校生の頃、親から「義理は通して生きろ」と教わりました。その時は、義理と言われても具体的にどうすればよいのかピンと来きませんでしたが、社会に出て働くうちに「義理を大切にすること」とは「誠実であり続けること」なのかなと思い至りました。

一緒に仕事をする方たちに、作品に、物語に……自分が関わるさまざまなものに誠実さをもって接し続けることが、よりよいクリエイティブにつながる。クリエイターにかぎった話ではないのかもしれませんが、今はそれが仕事の本質なのではないかと感じています。

取材日:2022年12月23日 ライター:蚩尤 ムービー: 指田 泰地

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『金の国 水の国』

ⓒ岩本ナオ/小学館 ⓒ2023「金の国 水の国」製作委員会

2023年1月27日(金)全国公開

キャスト:賀来賢人、浜辺美波、
戸田恵子、神谷浩史、茶風林、てらそままさき、銀河万丈、
木村昴、丸山壮史、沢城みゆき
原作:岩本ナオ「金の国 水の国」(小学館フラワーコミックスαスペシャル刊)
監督:渡邉こと乃 脚本:坪田 文 音楽:Evan Call
テーマ曲(劇中歌):「優しい予感」「Brand New World」「Love Birds」
Vocal:琴音(ビクターエンタテインメント)
アニメーションプロデューサー:服部優太 
キャラクターデザイン:高橋瑞香 
美術設定:矢内京子
美術監督:清水友幸 
色彩設計:田中花奈実 
撮影監督:尾形拓哉 
3DCG監督:田中康隆 板井義隆 
特殊効果ディレクター:谷口久美子
編集:木村佳史子 
音楽プロデューサー:千陽崇之 鈴木優花 
音響監督:清水洋史
アニメーションスーパーバイザー:増原光幸
プロデューサー:谷生俊美 
アソシエイトプロデューサー:小布施顕介
アニメーション制作:マッドハウス
配給:ワーナー・ブラザース映画
(C)岩本ナオ/小学館 (C)2023「金の国 水の国」製作委員会

 

ストーリー

敵国同士の2人が偽りの夫婦に!?2人だけの“小さな嘘”は、国の未来を変えるのか――。
100年断絶している2つの国。“金の国”の誰からも相手にされないおっとり王女サーラと “水の国”の家族思いの貧しい建築士ナランバヤル。 敵国同士の身でありながら、 国の思惑に巻き込まれ“偽りの夫婦”を演じることに。深刻な水不足によるサーラの未来を案じたナランバヤルは、戦争寸前の2つの国に国交を開かせようと決意する。お互いの想いを胸に秘めながら、真実を言い出せない不器用な2人の<やさしい嘘>は、国の未来を変えるのか――。

 

映画公式サイト:kinnokuni-mizunokuni-movie.jp
Twitter:@kinmizu_movie #金の国水の国 #最高純度のやさしさ
プロフィール
『金の国 水の国』監督
渡邉 こと乃
愛知県立芸術大学卒業後マッドハウスに入社し、演出として「こばと。」(09年)や「魔法少女まどか☆マギカ」(11年)に携わる。「ちはやふる」(11年)では監督補佐を務め、「BTOOOM!」(12年)で初監督に抜擢される。その後も「ちはやふる2」(13年)、「ハナヤマタ」(14年)、「俺物語!!」(15年)、「ダイヤのA act II」(19年)など多数の作品で絵コンテや演出を手がけ続けている。2023年公開の『金の国 水の国』は初の映画監督作品となる。

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