映像2022.10.28

映画ソムリエ/東 紗友美の”もう試写った!” 第16回『ラーゲリより愛を込めて』

Vol.16
映画ソムリエ
Sayumi Higashi
東 紗友美

『ラーゲリより愛を込めて』

▶12月にピッタリ、この1年のモヤモヤをすべて払い落とす!心を浄化できる度:100

呼吸困難になるくらい泣く!泣ける映画を見たい人にオススメ!

 

ラーゲリとは何を意味するでしょうか?
ロシア語で”収容所”を意味します。
シベリアの強制収容所ラーゲリ。

第二次世界大戦後も、極寒の地シベリアで労働を強いられていた日本人が存在していたこと。
その数、なんと60万人を越えたと言われています。

その事実を知っていたとしても、日本から遥か離れたその場所で労働を強いられていた人たちがいたこと。数字はただの数字ではなく、そこにいた”1(ひとり)”の重みがあり、日本で待つ家族たちがいたこと。とても近い心の距離で感じることができました。

今年の映画で、涙の量で測定するとしたら、いちばん落涙したのは本作かもしれないです。

零下40度を超える厳冬のシベリアで、死と隣り合わせの日々を過ごしながらも、妻を想い、仲間を想い、絶望に立ち向かい希望を信じ続けた男・山本幡男の半生を描いた、
愛の実話です。

主人公の人生のテーマが一貫して「希望を持ちつづけ、人間らしく生きること」なんです。
どんな状況でも予想を上回る明るさで、私たちの心にも明るさを灯しつづけてくれます。
なので、戦争映画ではなく体感的には、人間讃歌のような物語になっているのが、新鮮でした。

見せ場は、ドンパチではないんです。

「希望を捨てない」というメッセージを声高く掲げるこの作品は134分の間、一瞬たりともブレることがありません。

一見、説教臭く感じるこのテーマから目を逸らさずに、極限状態の中でさえ前向きに生き続けようとする主人公の姿はとにかく胸を打ち続けます。ここまで人格者ですと、説教くささ的なものは軽々と飛び越えて、見る者は背筋が伸びてしまうはずです。

極寒のシベリアの大地を背景にし、寒空の絵も多いものの、相反するようにとてもアツい映画でした。

後輩に文字を教えたり、上司の愚行を許して­­絆を紡いだり、争いの多かった日本人捕虜同士をまとめたり。

むかし図書室でマザーテレサの本を読んだ時と同じように、山本幡男の行動に心が洗われ、背筋が伸びる時間で、鑑賞後の数日間は善い行いができそうな予感さえします。(大袈裟ではありません…)

夫婦であっても、親子であっても、兄弟であっても、仲間や友人であっても。たくさんの命がある中で、お互いがお互いを必要としていることの尊さ。
自分を取り巻くすべての関係が鑑賞後には輝いて見えますよ。

「人生なんて」とやさぐれ気味の人はこの映画の世界に飛び込んでみて欲しいです。
生活様式や価値観が大きく変化したからこそ、より、今の幸せを再確認することができ、悲観的になんていられなくなるはずです。

2006年にクリント・イーストウッド作品に出演して、米ニュースチャンネルCNNが選ぶ「まだ世界的に名前は売れていないが、演技力のある日本の俳優7人」にも選出され、役者として安定した芝居を見せてくれる二宮和也は、表情のひとつひとつ、セリフを発する際の声色の変化までもが繊細で素晴らしいです。

また『空白』では古田新太、『孤狼の血LEVEL2』では鈴木亮平、と受けの演技にますます磨きがかかる松坂桃李は、今回も他の役者の芝居を引き立てています。安定した存在感です。

そして、王子様のようなルックスが印象的な中島健人は今回美しい顔立ちの印象を最低限に抑え、坊主頭にし、もさっとした野性味のある印象をしっかりと残す。良い意味で最初誰なのか気づきませんでした。
彼の芝居もまた作品により印象がガラリと異なるので、改めて面白い役者だと感じました。今後が楽しみです。

強制労働の歴史は知っていたとしても、細かい部分を恥ずかしながらこの映画で初めて知りました。
毎日の食事の黒パン、日本からの葉書を受け取れる機会があったこと、労働下のわずかな楽しみ、彼らがどう支え合って生きてきたか。

是非、この目で歴史と向き合ってみてください。


 

『ラーゲリより愛を込めて』

2022年12月9日(金)全国東宝系にてロードショー

ⓒ2022映画「ラーゲリより愛を込めて」製作委員会 ⓒ1989 清水香子

 

原作:辺見じゅん 『収容所(ラーゲリ)から来た遺書』(文春文庫刊)

監督:瀬々敬久 脚本:林民夫 企画プロデュース:平野隆

 

出演

二宮和也 北川景子

松坂桃李 中島健人  寺尾聰 桐谷健太 安田顕 ほか

 

プロフィール
映画ソムリエ
東 紗友美
映画ソムリエ。女性誌(『CLASSY.』、『sweet』、『旅色』他)他、連載多数。TV・ラジオ(文化放送)等での映画紹介や、不定期でTSUTAYAの棚展開も実施。 映画イベントに登壇する他、舞台挨拶のMCなどもつとめる。 映画ロケ地にまつわるトピックも得意分野で2021年GOTOトラベル主催の映画旅達人に選出される。 音声アプリVoicyで映画解説の配信中。

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