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映像2022.09.07

大森立嗣監督が西島秀俊、三浦友和らとクライム・エンターテインメントに初挑戦!「俳優であるその人自身の存在感をキャラクターに活かしたい」

Vol.43
『グッバイ・クルエル・ワールド』監督
Tatsushi Omori
大森 立嗣
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『日々是好日』(18年)や『MOTHER マザー』(20年)などで人間の本質を描き続けてきた大森立嗣(おおもり・たつし)監督が手がけた『グッバイ・クルエル・ワールド』。『ドライブ・マイ・カー』(21年)での好演が記憶に新しい西島秀俊を筆頭に三浦友和、斎藤工、玉城ティナ、宮川大輔、宮沢氷魚、大森南朋ら錚々たる俳優陣がド派手なアクションたっぷりにだまし合いを繰り広げる。
年齢もファッションもバラバラで互いの素性も知らない、一夜限りで結成された5人組の強盗団がヤクザ組織の資金洗浄現場に乱入。金の強奪に成功し、それぞれの日常に戻っていくが……。
大森監督にキャストとの向き合い方やクリエイターとして大事だと思うことなどを語ってもらいました。

西島秀俊さんや三浦友和さんがキャラクターの哀愁を体現

これまでの作風とはまた違ったタイプのエンターテインメント作だと感じたのですが、本作はどのようにして誕生したのですか?

プロデューサーの甲斐真樹さんと「男っぽい、カッコいい映画を撮ろう」という話で盛り上がったのが初めです。年齢差のある色っぽい男たちが出てきて、カッコいい音楽が流れて……みたいな、今回できあがった映画の骨格みたいな話をして。その時に、これまで僕が手がけてきたような人間の深いところに向かっていく映画とは、少し違う作風だと気配で感じました。どちらかといえばエンターテインメント性が強いというか。
ただ、やはり映画監督としては、どうしても人間の心の奥深い部分を撮りたいという思いがあって……。とくに僕は人間の心の奥深い部分を描きすぎて、作品が重くなりがちなんですよ。やはり映画をつくるなら人間の心を扱う作品を撮りたいという思いが根本にあるんです。それで今回は、エンターテインメントと人間の心の奥深さの両面を撮ることを意識しました。

西島秀俊さん演じる安西幹也は家族との平穏な暮らしを望む元ヤクザ。人間の哀愁や残酷さなどを感じさせるキャラクターでした。

西島さんだからこの役を演じられたと思います。安西にはある種、色気と悲哀があるんですよ。実は色気と悲哀は裏返しみたいなところがあって、どちらもないと魅力的ではない。色気と悲哀、その2つを背負いながら今回は主演として立ってもらいました。今回の登場人物は割とみんな居場所がない人物ばかりで。その中で安西だけは“家族”という場所に帰ろうとする。安西が背負っているものを芝居で語るのは非常に難しいのですが、それを西島さんはきちんと具現化してくれて……。改めて西島さんは俳優としてすごいなと感じました。安西はこの作品の中で唯一と言ってもいいくらいの大人ですが、西島さん自身もそれを伝えられる大人だと感じました。

監督と西島さんは初タッグでしたね。

きちんと話をしたのは今回が初めてですが、昔からたくさんの映画に出ていたのでどこか自分の近くにいたような感じがして、勝手に仲間意識を持っていました(笑)。大作にも出るし、『ドライブ・マイ・カー』のような挑戦的な作品にも出る。そしてテレビドラマにも主演するなど、名実ともにトップ俳優だと思います。なにより映画を愛しているんですよね。今回ご一緒して改めてその思いを感じました。

すべての登場人物の運命を翻弄するボス・浜田を演じた三浦友和さんの印象はいかがでしたか?

友和さんとも初めてでしたが、友和さんが持っている背中で、ある種キャラクターをつくってもらった感じがします。浜田というキャラクターは説明があまりなく、限られた情報しか描かれないのですが、その中でも丁寧に人物を造形されていて。友和さんだから生まれたキャラクターだと思いました。さすがでしたね。友和さんは独特な間合いでお芝居をされる方で。僕が想像していたプランとは全然違うことをやってくださって、非常に面白かったです。

俳優自身の存在感を活かしたキャラクターづくりを心がける

監督はキャストと話し合って作品をつくられるタイプですか?

キャラクターをつくる上で必要な衣装やメイクについては、そこまで長い時間は掛けないですがキャストと相談しながらつくります。今回も(斎藤)工くんとは萩原のタトゥーをどこまで入れるのか細かく話したり、(宮沢)氷魚や(玉城)ティナさんとは髪色をどうするかを話したり。もちろんセリフに関しても話をしますが、映画は俳優さんの存在をどうやって見せてくかが大事だと思っています。もちろん映画には役があって、それぞれのキャラクターが立っていなければいけないのですが、同時に俳優自身が持っている存在感そのものも活かしたいんですよ。今回は特に群像劇なので、キャラクターと本人の狭間みたいなものが映るように意識しています。

俳優の存在感を活かす理由はあるんですか?

脚本に描かれたキャラクターだけだと、あくまでも想像の人物なので安っぽくなるというか。人としての存在感を出すために俳優さん本人の力を借りているという感じです。ただそのバランスを俳優さん自身で調整してもらうのはなかなか難しいみたいで。
今回、撮影初日に「キャラクターとしてではなくただ風景を見てください」という感じで車中のワンカットを撮影しました。そこには、脚本に描かれたキャラクターでもなく、俳優さんそのものでもない、どちらも入り混ざった顔がありました。それがタイトル前に流れる車の中でそれぞれがアップになるシーンです。

監督は演出はあまりされないのでしょうか。

基本はあまりしないかな。みなさんの潜在能力に任せるタイプというか(笑)。浜田の手下役を演じた、前田旺志郎くんや若林時英くん、青木柚くんには面白い役だったので、先輩たちの中で負けないようにハッパをかけたりしたけど、それくらいのはず。
まぁでも自分ではあまり言っていない気もするけど、メイキングとか見ていると意外と口を出していたりして(笑)。でも基本あまり細かいことは言わないです。
映画の現場に入ると、「よーいスタート」「OK」と言っているだけで1日が終わってしまうこともあるんですよ。そんなときは何しているんだろうと思うのですが、出来上がりを観るときちんと自分の映画になっている。ロケハンに行って、脚本も自分で書くし、人が書いてくれても口を出すし、キャスティングもやっているので、自分のにおいしかしないのは当たり前といえば当たり前。だから現場では基本、任せておいて大丈夫だと思っています。

派手な銃撃戦や爆破シーンなどもあり、監督にとって本作でチャレンジした感覚は強かったですか?

群像劇自体もそうですが、多くの人を撃ったり、大爆発があったり、アクションシーンがかなり多く、これまであまりやったことのないことをたくさんできた作品だったと思います。氷魚やティナさんが銃をぶっ放していくシーンは、撮っていて楽しかった。あと爆破シーンなんて基本、一発撮りしないとできないので現場の緊張感はかなりありました。こんな緊張を味わえたのは本作だからこそ。楽しい映画でした。

映画はその人が持っているものがすべて出るから面白い

監督は大学生で映画サークルに入ってはじめて映画に興味を持ったとのことですが、それまでは映画を避けていたのですか?

父親(麿赤兒)がやっている前衛舞踏に対して反抗期特有の嫌悪感がひどく、「表現なんてしたくない!」と常に思っていたので、映画もあえて避けていました(笑)。それが大学に入るころになってやっと世の中と自分のバランスが保て、映画にも触れてみようと思うようになりました。
ただ大抵、初めて観る映画は意味が分からなかったです。これまで映画を観てこなかったため、映画の観方が分からないんですよ。漢字を読めない子どもが本を読んでいる感覚に近いというか。他の人は映画を観て感動しているのに、僕は自分の感情さえ分からない。感動できない自分とは何だろうと絶望的な気持ちになりました。そして作品を感じたいという気持ちが強く沸いてきました。
それからは、映画館で映画を観て、評論を読んで、友達の意見を聞いて、さらにまた映画館へ観に行き、VHSでさらに見直して……みたいなことをずっとやっていました。そうしたことで、それまでなかった感情が沸いてきて、世界が広がっていきました。

いつ頃から監督を意識し始めたのですか?

監督を意識したのはかなり後です。大学生のころは自主映画を撮って時々俳優やスタッフをやったりしていました。大学卒業後は俳優のようなこともやっていたのですが、1日だけ現場に行くだけのちょい役ばかりで。映画の最初から最後までに関わりたいと思い、助監督になろうと考えるようにました。
助監督時代は、準備から仕上げの編集まで立ちあわせてもらい、技術的な部分はたくさん学びました。とはいっても助監督になったからといって何ができるわけでもなく、そこで自分が何を感じて、それをどう表現したいかというのは自分の中に勝手に湧き出てくるものだと知りました。僕は助監督として決して真面目な方ではなかったです。7年くらいやっていましたが、好きな監督ばかりを選んで仕事をしていたので本数もかなり少なかったです。次第に映画を撮りたいという気持ちが強くなりましたが、そんな機会はなかなか来なかったです。
きっかけとなったのは、荒戸源次郎監督が『赤目四十八瀧心中未遂』(03年)をつくるので助監督をやって欲しいと言われたことでした。もう気持ちが自分の監督作に向かっているので断ったら、2週間後にまた、「子役の演出をやらせてやる」と電話があって(笑)。そこまで言われたら断れなくて。そこから4年間、荒戸さんの下で助監督をしながら、『タロウのバカ』(19年)の脚本を読んでもらったりしましたね。そしてある時、「原作本でやりたい作品はある?」と聞かれたので、「花村萬月さんの『ゲルマニウムの夜』(05年)をやりたい」と伝え、それがデビュー作になりました。

デビュー作前から、『タロウのバカ』の原案があったんですね。当時から書きたいことは変わっていないですか?

あの時何を考えていたのかはもう分からないです。ただ衝動的な気持ちが湧き上がって書き上げたことは覚えています。その思いは今も同じかも。衝動的にやりたいことが浮かんできてつくるというのは変わっていないです。

映画をつくる上で大事にしていることを教えてください。

映画製作は規模が大きいので、お金もかかるし、人も大勢関わって、時間もかかるんですよ。その中で、人と一緒につくっていることを忘れないことです。そして一緒につくるみんなの意見をきちんと聞く耳をもつことが大事です。つい自分のやりたいことが浮かび、声に出してしまいがちですが、それだと独りよがりの作品になってしまう。それでなくても先ほども言いましたが、現場で何も言わなくても自分の映画になってしまうんですから。
そして自分の存在そのものを肯定してくれたり、否定してくれたりするのも映画。成功したらうれしいし、失敗したら傷つきます。本当に映画って怖いですよ。

クリエイターにとって大事にした方がいいことを教えてください。

難しいけど、やはり持っておきたいのは“根拠のない自信”。デビュー前なんてどんなスターでも誰にも認められていない存在なんですよ。それでも、10年、15年、映画監督になるまで映画を撮りたいとずっと思い続けなければなれない。“根拠のない自信”がないと気持ちが保てないです。
あとこれは若い俳優さんにもよく言いますが、「ひねくれるのはダメ」です。人は長い時間、苦労を続けていると物の見方がひねくれていくんですよ、考え方が曲がってしまうというか。そうすると真っ直ぐに物を見られなくなるため、自分の感情を素直に表現することができなくなります。もちろん一生懸命頑張ることはいいことですが、映画は努力したからといっていいものがつくられるわけではありません。
映画の面白いところは存在そのものが問われるところ。自分の経験やクセみたいなもの、物事をどのように見ているかまですべて出てしまう。だからこそ恐ろしくって面白いのだと思います。

取材日:2022年7月22日 ライター:玉置 晴子 ムービー:村上 光廣

『グッバイ・クルエル・ワールド』

ⓒ2022「グッバイ・クルエル・ワールド」製作委員会

9月9日(金)ロードショー

出演:⻄島秀俊 斎藤工 宮沢氷魚 玉城ティナ 宮川大輔 大森南朋
/ 三浦友和
奥野瑛太 片岡礼子 螢 雪次朗 モロ師岡 前田旺志郎 若林時英 青木柚
/ 奥田瑛二 鶴見辰吾
監督:大森立嗣
脚本:高田亮
製作:小西啓介 森田圭 甲斐真樹 小川悦司 田中祐介 石田勇
前信介 山本正典 檜原麻希 水戸部晃
企画・プロデューサー:甲斐真樹
製作幹事:ハピネットファントム・スタジオ スタイルジャム
制作プロダクション:スタイルジャム ハピネットファントム・スタジオ
配給:ハピネットファントム・スタジオ
レーティング:R-15

公式サイト:https://happinet-phantom.com/gcw/ 

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プロフィール
『グッバイ・クルエル・ワールド』監督
大森 立嗣
1970年、東京都出身。2001年、プロデュースと主演を務めた『波』が、第31回ロッテルダム映画祭最優秀アジア映画賞“NETPAC AWARD”を受賞。2005年、監督デビュー作『ゲルマニウムの夜』が、第59回ロカルノ国際映画祭、第18回東京国際映画祭など多くの映画祭に正式出品され、国内外で高く評価された。『さよなら渓谷』(13年)はモスクワ国際映画祭に出品され、日本映画としては48年ぶりに審査員特別賞を受賞した。『日日是好日』(18)、デビュー前から脚本をあたためていた『タロウのバカ』(19)、『MOTHER マザー』(20)、『星の子』(20)など数多くの話題作を手がけている。

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