映像2022.08.03

山口龍大朗監督が、吉村界人主演で生きるとは何かを問う39分間「相手の引き出しも開けながら、共につくっていくのが自分のスタイル」

Vol.42
『人』監督
Ryutarou Yamaguchi
山口 龍大朗
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家族とは何か、生きるとは何かを問いかける、山口龍大朗(やまぐちりゅうたろう)監督の短編映画『人』。不慮の事故で命を落とし幽霊になってしまった青年・健一(吉村界人)と幽霊が見える母・彩子(田中美里)との3日間を描く。
有名監督の下で現場を経験してきた、山口監督の考える映画のつくり方や、監督がクリエイターとして大事だと思うことなどを語ってもらいました。

ファンタジーではなくヒューマンドラマにしたかった

死を通じて人と人のつながりが描かれる本作をつくろうと思ったきっかけは何だったのですか?

友人との死別がきっかけでした。地元の小学校からの知り合いでひとつ上のお兄ちゃんのような存在でした、お互い仕事が忙しくなり会えない時期に亡くなってしまって……。なかなか気持ちの整理がつかなかったのですが、お葬式で知り合いから、私のことを周りの人に話したり、映画のエンドロールを見ては喜んだりしてくれていたことを教えてもらい、相手のことを知っていたつもりだったけど、意外と知らないことが多いと気づかされました。
そしてお葬式でその亡くなった友人のお姉さんが、「姿形はないけれど、どこかで私たちの話をしてくれていると思う」と言っているのを聞いて、この映画をつくろうと思いました。幽霊でもいいから近くにいてほしいという気持ちを形にしたいと思ったというか。悲しい出来事ではあるのですが、それを前向きに捉え、夢や希望が持てるお話しにしました。

コロナ禍により死を考える機会も増え、より多くの人に刺さるテーマになったと思いました。

死は身近なもので誰にでも関わりがあるものです。だから共感性は高いと思いました。私も、コロナ禍で大切な人の存在や死について改めて考えさせられましたから。そして死を悲しむのではなく、死と向き合う話を作ろうと思いました。大切な人を亡くした経験がある人にはぜひ見てもらいたいです。そして、きっかけをつくってくれた亡くなってしまった友達にも届けられたらと思いました。

幽霊と過ごす3日間の物語を、ファンタジーぽくするのではなくリアリティある映像になっていましたね。

どうしても幽霊=ファンタジーになりがちですが、それはやめようと。話が進むにつれて、これは幽霊の話か、いや人間ドラマだと感じていただければうれしいです。映像も浮遊感のようなものを意識しつつも、基本、鮮明に撮影(カメラマンの神戸千木さんが)してくれています。導入がファンタジーなだけで、本質的にはヒューマンドラマのような感覚でつくっています。

人とのつながりやあたたかさがユーモラスに描かれていたのも面白かったです。

コメディの部分に関しては脚本の敦賀零さんの力も大きいです。もし自分が幽霊になったらどうするかをお互いに出し合って考えたのですが、面白いアイデアをいくつもいただいて。最終的にはボツになりましたが、いつもは見られないところを覗きに行くとか、捕まらないから悪いことをしてみるとか色んな案が出たんです。そうやっていろいろ考えているときは本当に楽しくて、こういうことは映画でしかできないことだと思いました。

2カ月間、スタッフ&キャストと話し合いながらつくった脚本

脚本もかなり時間をかけたとのことですが、どのようにしてつくられたのですか?

脚本を考えていた期間はちょうどコロナ禍で。私自身が別の映画の製作に入っていましたが、2カ月くらいストップしてしまい、この映画の脚本に打ち込む時間をたっぷりつくれました。脚本は50回くらい書き直したんじゃないかな。
俳優さんたちにもつくっている段階の脚本を見せて意見をもらったりして。時間がないとなかなかできないことですから、すごくありがたかったです。約39分という短い物語ですが、2時間の映画に負けないくらいみんなが納得いくまでやったという感じ。そしてみんなでつくりあげていくということは撮影が始まってからも変わらず。編集を含めて完成まで2年近くかかってしまいましたが、かなり納得度の高い作品になりました。

撮影中もキャストのみなさんとも話し合いながらつくられたのですか?

今回は作品に入る前からいろいろお話しさせていただきました。普段は事前にじっくり話す機会ってないですが、今回はしっかり時間を取って。映画のこと以外にこれまでどうやって生きてきたのかとか、どのようなことを考えているのか、プライベートの様子などを含めていろいろ教えてもらいました。そしてそこを脚本に落とし込んで役にリアリティを持たせて……。だから現場では、あまりこうして欲しいとかの注文をつけることは特にせず。イメージを伝えたらもう自由に動いていただき、基本、役者さんたちに委ねる形で撮影をしていきました。役者のみなさんが持っているものを引き出せるキャラクターと、存分に発揮できる空間をつくることを意識した映画製作でした。

キャストのみなさんとキャッチボールをしながらつくっていったんですね。これまでの作品もそのような形を取っていたのですか?

私はこれまでにたくさんの有名な監督の現場に入ってきましたが、監督たちを間近で見ていると本当に天才だと感じることが多かったです。どうすれば一番いい映像が撮れるのかを分かっていて、指示の全てが的確なんです。
錚々たる監督たちのような経験値もないので、そのようなやり方はできない。だからこそ相談しながら現場をつくっていこうと考えて今のようなスタイルでやっています。みなさんに協力してもらうスタイルなので時間もかかってしまうのですが、自分にはそのやり方が合っていて……。相手の引き出しも開けながら、共につくっていくのが自分のスタイルだと思います。

映画を取り巻く環境やつくり方は年々進化してきている

この作品はクラウドファンディングでつくられているのも特徴ですね。

従来の特典のみのクラウドファンディングとは違い、映画のプロセスを見ながら持続的に作品を応援できるブロックチェーン技術を活用したFiNANCiE(フィナンシェ)という「トークン」発行型のファンディングを使わせていただいています。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000070.000042665.html)

「トークン」というのは株式みたいなもので、これを利用することで継続して作品に携われるようになります。これまでの映画製作では、自分の目が届く範囲の人としかつながれませんでしたが、「トークン」を使えば顔を見たことのない人たちと一緒に映画をつくっていけるんです。私も尊敬している監督の作品に参加しているときに感じた、一緒につくっている喜びみたいなことに近いというか。そのつながりで感じる喜びみたいなことを気軽に感じられるシステムがあるのはいい事だと思います。みんなで一緒に素敵な作品をつくれる機会が増えるわけですから。最新技術を利用して映画が少しでも身近なものになっていくというのは、映画の未来としてもいいのではないかと思います。

技術の進歩や考え方も変わってきて映画を取り囲む環境はどんどん変わってきています。変化についてどのように感じていますか?

数年間でかなり変わったと思います。今では当たり前になっているクラウドファンディングも10年前は主流でなかったですし、ブロックチェーンを使ったNFTなど、デジタルコンテンツの権利を守ることについての話が出てきたのもここ2年くらいじゃないかな。デジタルコンテンツを使って制作者の権利を守りながら映画の新しい価値を見出していくのは、これからのつくり方だと思います。新しいことを取り入れることが、映画の文化や裾野を広げるために大切なことで。
今、日本の映画館だと1本見るのに1800円近くかかり、子どもを含めて誰もが簡単に行ける場所ではなくなっているんですよ。個人的には映画館がものすごく好きなので、多くの人に行ってもらいたいですが、現実はなかなか難しく……。でも、最近は配信が増えてきたことにより、映画そのものは気軽に誰にでも見られるものになってきました。これは本当に素晴らしい。観る人が増えることでつくり手も増えていく。相乗効果が生まれていく気がします。

作品だけではなく、映画業界全体のことを考えられているんですね。

映画は希望や夢がある仕事だと思うんですよ。だからこそ映画業界がもっとよくなっていけばと思っています。私がつくるのは小さな作品ですが、少しでも自分なりの考えでチャレンジしていくことが、次世代の映画の道を切り拓いていくことになる気がして。作品づくりとプラスして、面白いプロジェクトには参加していきたいと思います。
今は、地元熊本の魅力を映画を通して伝える“火の国シネマproject”で新作を製作しているのですが、これも新しい映画との関わり方だと思います。これまで映画と関わることができなかった地方の人たちも映画を身近に感じられるわけですから。多くの人が映画に興味を持つきっかけになればいいですね。

明確な“面白い”が見つかると作品の大きな柱になる

お話しを聞いていると監督でありながらプロデューサー的な目線を持っている気がしました。

考え方はそうかもしれないですね。まぁ、3歳のころから映画監督になりたいと言っていたみたいですけど(笑)。でも最近は何が何でも映画監督をやりたいというより、面白い企画をつくりたいと考えるようになってきています。色んな人と一緒に物づくりをしていく中で、何か発見や楽しさが見つかれば、それはそれでありだという気がしています。

監督に固執しなくなった理由はあるのですか?

映画製作に携わって間もないころ『東京喰種 トーキョーグール』(17年)や『来る』(18年)に関わらせていただき、萩原健太郎監督や中島哲也監督のゼロからものを生んでいくすごさを感じたのが大きかったです。こうしたら面白くなるという具体性を自分の中できちんと持って現場に立たれていてそれを形にする。そんなすごい監督たちを見てきた分、自分にはそこまでの才能がないと感じてしまったのはあると思います。もちろん今回のように絶対に自分が撮りたいものが見つかれば撮りますが、作品によっては自分より向いている人がいるのかも?と考えるようになったという感じですかね。映画は多くの人が関わってつくられるので、自分はどのポジションでも面白いことができれば、それは幸せだと思います。

クリエイターとして大事なことは何だと思いますか?

30歳を超えて、大事だと思ったのが“自由な発想”。大人になるとどうしても気を使ったり遠慮がちになったりするのですが、正直それはクリエイターにとって妨げになる気がしています。私が見てきた監督たちは、みんな自由なんですよ。そして自由だからこそ他の人が想像しないものをつくれる。あと自分が面白いと感じたことを信じてつくることも大事だと思います。

面白いという基準を主観的で判断するのは難しくないですか?

私は“面白い”をロジカルに考えるのが好きで。趣味のB級映画を観るときも、なぜB級なのか、なぜ面白くないのかを具体的に考えると、逆に面白いとはこういうことだというのが見えてきます。もちろん人気の作品を見て、どこが面白いかを考えることも大事ですが、それはなかなか見つけにくいんですよ。
ちなみに“面白い”の判断基準を持っていると、映画を製作する上で大きな武器になります。クリエイター同士、意見がぶつかることもあると思いますが、打開策や和解の仕方が明確になってくるというか……。スタッフや役者さんにもきちんと作品について伝えることができるので、みんなで同じ方向を見ることができるのも大きいです。

“面白い”と思うものを明確にできたら、多くの人が関わる映画製作でブレることなく理想の完成形を目指すことができるのですね。

映画は一人では作れないですから。自分がやりたいことを具現化してくれるのは、カメラマンや照明、スタイリスト……といったその道のプロたち。とはいっても関わる人たちが多いと自分が思い描いていたものからはどんどんブレていきます。ただ、作品が目指すところの形を具体性を持って臨んでいたら、思い描いたことを共有しやすく、最初に描いていた形になっていくと思います。だからこそ集まったスタッフたちとコミュニケーションを取っていくことは大事。思いは伝えないと形にはならないですから。ときにはディスカッションをしながら、理想を目指していけばいいと思います。今回みたいに予算がない映画もたくさんありますが、みんなで考えてクリエイトで補填していけば、やり方次第では素晴らしい作品をつくれるはず。やり方を考えるのもクリエイターにとって重要なことです。今回の作品は優秀なスタッフが集まってできたこういった考えの集大成です。是非劇場でそれを体感してみてください。

取材日:2022年6月28日 ライター:玉置 晴子 ムービー:村上 光廣

『人』

©映画「人」制作チーム

出演
吉村界人 田中美里 冨手麻妙 木ノ本嶺浩 五歩一豊
津田寛治

監督:山口龍大朗
脚本:敦賀零
撮影:神戸千木
照明:平林健太郎
録音・整音:大関奈緒
助監督:高橋こたつ
スタイリスト:小笠原吉恵
ヘアメイク:七絵
制作進行:徳永理仁
キャスティング:鈴木康愛
カラリスト:TOSHIKI
音楽:菅原一樹、鎌野愛 
編集:曽根俊一
VFX:五十嵐章、桑原雅志
タイトル:カトオヨオイチ
スチール:Ryoma Kawakami
予告編制作:榎園乃梨恵
制作プロダクション:エクション
配給:SAIGATE
2022/カラー/シネスコ/DCP/39分
公式サイト:https://eigahito.com/
公式SNS:Twitter @hito_2022_eiga Instagram @hito_2022_eiga
©映画「人」制作チーム

ストーリー

千葉・九十九里浜。実家のサーフショップで働く青年・健一は、不慮の事故で命を落とし、幽霊になってしまう。幽霊になった健一が実家に帰ると、そこには数年前に他界し、健一と同じく幽霊になった父・拓郎の姿が。さらに、母・彩子が幽霊が見えるということも発覚し……!?幽霊になった父と息子、そして幽霊が見える母。家族三人と彼らを取り巻く人々が過ごす三日間のファンタジー。

プロフィール
『人』監督
山口 龍大朗
1988年生まれ、熊本県出身。福岡の映像制作会社にて番組やCMなどの制作に携わった後に上京。2013年に独立行政法人国際協力機構(JICA)と共に、アジアの支援状況報告の映像を製作するため、クリエイターとして活動。助監督として、『TOKYO デジベル』(17年)、『東京喰種トーキョーグール』(17年)、『クソ野郎と美しき世界』(18年)に参加。また『来る』(18年)では、仕上げプロデューサー、ドラマ「今日の猫村さん」(20年)、『たぶん』(20年)では、協力プロデューサーとして携わる。熊本県を世界に発信する“火の国シネマproject”第一弾作品『シキ』の公開が2023年に予定されている。

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