映像2021.03.03

新田真剣佑主演の群像劇『ブレイブ -群青戦記-』。本広克行監督の思い「携わった人にとって名刺代わりになる作品にしたい」

Vol.024
映画『ブレイブ -群青戦記-』監督
Katsuyuki Motohiro
本広 克行
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現代の高校生たちが戦国時代で生き抜く姿を描いたマンガ「群青戦記 グンジョーセンキ」を『踊る大捜査線』シリーズの本広 克行(もとひろ かつゆき)監督が映画化した『ブレイブ -群青戦記-』。

現代から戦国時代へタイムスリップしてしまった高校生アスリートたちが仲間を守るために織田信長と生死を賭けた戦いを挑む物語。弓道のみならず運動能力において驚異的なポテンシャルを秘めながら、引っ込み思案な性格で実力を発揮できない西野 蒼(にしの あおい)。この主人公を演じた新田 真剣佑(あらた まっけんゆう)ら若手俳優たちの出演も話題です。

今回は本広監督に、群像劇の作り方、映画作りで大切にしていること、新田真剣佑をはじめとした出演者についてたっぷり語ってもらいました。

 

作品を作るときは家族がバロメーターになっています

今回、監督をするきっかけは何だったのですか?

私は自分きっかけで作品を撮るということはほとんどないんですよ。大体、「こういう作品を撮りませんか?」と発注がきて撮るという形で。今回もそうです。とはいえ、きたものを全て受けるのではなく、苦手なものは断るし、一緒に映画を作る仲間がいるので、そのメンバーに相談して「やりたい」という声があればお受けするという感じです。

でもこのやり方はすごくいい。自分で企画を立てて撮っていくとどうしても俯瞰(ふかん)でものを見られなくなって、愛着から余計な部分にお金や時間をかけてしまうんですよ。

のめり込んで作った作品は、時間が経ってから見るとよく「あれ?こんなんだったけ?」と(笑)。作っているときは熱がありすぎて全体を見えていないんです。あとシーンを切れなくなって上映時間が長くなったりする。お客さんにとってのベストな時間である2時間を超えてしまうのは本末転倒ですよ。

今回はマンガが原作ですが、原作があるととくに俯瞰した目が必要になりますね。

そうなんですよ。時間とお金を気にしなければマンガ通りにカット割りまで全部一緒にもできるんですけど、それはわざわざ映画でする必要はないですから(笑)。

とくに今回は、かなり割り切って脚本作りをしました。それで今さらながら気づいたのは、脚本を作るときはめちゃくちゃ引いて作品全体を見た方がうまくいくということ。

あと今回は脚本家、プロデューサー、それぞれに意見もあるから、皆の話を聞きつつ、美術さんとも予算について相談しつつ物語を作りました。時間はかかりますけど、これが全員が満足する、誰も不幸にならないやり方なんです。

映画を作るときに大事にしている点はどこですか?

お客さんに向けて何を伝えたいのかが一番です。エンタメ作品は、笑って泣けて、そしてキャラクターがカッコいいかがすごく大事なので。今回の原作は、結構グロいシーンも多いんですよ。切実でリアルというか……。

最初はそういうシーンがあるから主人公たちは怖くなって元の世界に戻りたいと強く思うようになると考えていましたが、映画にする上で、そこよりも戦国時代の人たちがゾンビのように襲ってくるほうがエンタメとして面白いのでは? と考えました。その方が若いゲーム世代も楽しめるし、子供のいるような主婦が見てもOKな感じがして。

実は、自分の作品を作る上でひとつのバロメーターにしているのが“我が家のウケ”なんです。かみさんと子供たちの反応を見るというか。子供たちなんて、作品を見ているときの姿勢だけで、このシーンは退屈なのか面白いと思っているのかがすぐ分かるんですよ。なので、家族から「この作品は面白いね」と言われると絶対にいいものにしたい! という気持ちになりますね。僕の一番のファンでいてくれます。

 

やりがいのある群像劇。キャラ付けをするだけで皆が生きてくる

登場人物がすごく多い作品ですが、どのようにして演出されたのですか?

気をつけているのは、どんなに出番が少なくても絶対に皆に「これに出てよかった」と言ってもらえる若い役者の名刺代わりになるような作品を作ること。

具体的に言うと、“全員を立てる”ということです。正直、全員に数分ずつの見せ場を作るのは難しいですが、ちょっと面白い行動をさせたりキャラをつけるだけで引き立つんですよ。

今回だと科学部の子の役なんてまさしくそうで。本人が「チュッパチャプス食べてもいいですか?」と提案してくれて彼のキャラは決まりました。事前に「自分たちでキャラを作ってきて」と伝えているんですが、今回も皆自分から発信してくれた印象です。これはすごくうれしいし、作品作りをする上ですごく重要。

フェンシング部の成瀬を演じた飯島 寛騎(いいじま ひろき)くんと空手部の相良を演じた福山 翔大(ふくやま しょうだい)くんも会ったときからずっと話し合っていて、二人で役を作っていました

僕はシーンが終わってもあえてカットをかけないことがあるんですが、そういうときにも常に役としてブレずに演じられるとめちゃくちゃいいシーンになる。

今回は誰ひとり、「どうしますか、監督?」と聞いてくる人はいなかったです。皆が本当に自分たちで考えていて。すごく頼もしかったし、ここから今後の映画界を担う役者がたくさん生まれると思っています。

主人公を演じた新田さんのアクションはもちろんですが、心の機微を捉えた演技も素晴らしかったですね。

マッケン(新田 真剣佑)はどんなことでもできるんじゃないかってくらいアクションが上手ですが、今回はそれ以上に心の変化に重点を置いて演じてもらいました

引っ込み思案だったけど戦国時代でのさまざまな経験によりどんどん成長していって、別のキャラクターになってしまうような役だったので。その心情の変化は自分で計算してもらっています。

僕が元いた株式会社ロボットの後輩に、小泉 徳宏(こいずみ のりひろ)と羽住 英一郎(はすみ えいいちろう)という監督がいて。二人がマッケンと仕事をしていたんです。

それで「小泉が撮った『ちはやふる』シリーズの繊細な綿谷 新(わたや あらた)と、羽住が撮った『OVER DRIVE』のパワフルでアツい檜山 直純(ひやま なおずみ)という両極端の二人をいい感じでつないだ感じにしてほしい」とお願いをしました(笑)。

そんな無茶ぶりもマッケンは快諾していい感じにしてくれて。迷っているときは何度もリハーサルをして、役を見つけるお手伝いをしたりもしましたが、彼は本当に素晴らしかったです。

信長を演じた松山ケンイチさん、後の家康である元康を演じた三浦春馬さんの演技も光っていました。

春馬くんも松山さんも現場ではいろんな話をしました。松山さんには通り一辺倒な信長でなく、松山さんが感じたままの信長でいいとお願いして。で、できたのがあの信長。松山さんらしかったです。

春馬くんは殺陣の稽古をしないでもあの完璧な動きで。当日、現場で殺陣師さんと真剣に打ち合わせをしてすぐにカッコよくできる。さすがですよ。

信長と家康という誰もが知っているキャラクターを二人らしく演じてくれたことは本当にありがたかったです。あと、若手にとって彼らと一緒に芝居をした経験はすごく大きな財産になったんじゃないかな。心構えから学びも多かったと思いますよ。

監督が一番気に入っているシーンを教えてください。

30年くらい映画監督をやってきて初めて撮ったキスシーンです。これを言うと皆さん驚かれるのですが、エンタメ作品はあまり直接的なキスシーンやベッドシーンはないんですよ。そういう雰囲気になったらカメラがパーンアップして次のシーンに切り替わったりとか。見せなくても想像させる演出をしたりね。

で、今回カメラマンから、どう撮りたい? と聞かれて、「岩井俊二さんの映画みたいな逆光で柔らかい感じがいい」と伝えました(笑)。ちょっと夢があるというか。まぁできたものは全然違う感じになっていましたが。

でも、このシーンも僕がいない別日に演出部でリハーサルをして稽古をつけてくれていました。現場でこういう風にします、と見せてもらった演技は本当に切なくて、すごく印象深いシーンになっています。あと、その後のシーンを演じた子の演技も素晴らしかった。仲間が亡くなっていく中、生きるために行動して……。

詳しくは言えないのですがあのあたりの行動はすべてアドリブです。彼女が役になりきっていたからこそ生まれた名シーン。本当に素晴らしかったですね。

 

作品に関わった人に“自分が作った作品”と言ってほしい

俳優さんに「キャラは自分で考えるよう」宿題を出したとのことでしたが、スタッフさんにも同じように?

僕は基本、皆に任せて映画を作っています。「こうしろ!」と言うこともないし、さっき言った役者たちと同じように、皆自分たちで考えてもらっているというか。

カメラマンさん、照明さんたちはもちろんですが、助監督も同じですね。ここの芝居は演出部で作ってくれない?と。任せると皆よく考えてくれるんですよ。

僕はそれをまとめて、いかに流れよく見せるかを考えたり、後処理隊である音響チームや編集マンと現場をつないだりしています。自立したメンバーの集合体でひとつの作品を作るという感覚に近いです。

今回はCGで作られた映像美と音楽の迫力も魅力的でした。

時代劇っぽい作品を作るときは、大体、遮るものがない石切場のような場所で撮影するんですよ。でも今回はそれをCGでできないかな? と思い、撮影上の敷地内にセットを組み、映り込みなどはVFXで処理をお願いしています。これはこだわりですね。

あと音響に対しても僕はうるさかった(笑)。これも今さらなんですけど、なんで映画館で映画を見るんだろう?と思い始めて……。その理由のひとつに音響があるんじゃないかな? と考えたんですよ。

大音量はもちろんですが、今回は低音にこだわっています。テレビでは感じる事ができない低音の魅力というか。劇場で空気が震えるくらいの低音をずっと流していたら、それだけで怖くなると思うんですよ。

コロナ禍のタイミングで編集作業に時間をさけたのですが、徹底的にこの二つにはこだわりました。

本広組は、それぞれが自分の持ち場でプロの仕事をしている現場なんですね。

プロですから当たり前なんですが任せられるんですよ。ハリウッド映画とかだと分業が普通ですが、その方がより力を出せるのでは? と思っています。

その分、コミュニケーションを取るのが大事になっていきますが……。全員が“自分が作った作品”と言えるといいなと考えています。

 

経験に無駄はないので、何事も全力でやることが大事

本広監督ご自身についても聞かせてください。子供の頃から映画監督を目指していたのですか?

高校を卒業したときに映画に携わりたいなとは思っていました。ちょうど受験するタイミングにバイクで事故って。映画とは全く違う学校を受けようと思っていたのがそれでダメになり、どうせ死ぬなら好きな事をしようと映画学校に入りました。

最初はもちろん監督を目指しましたがあまりにも優秀な人がいっぱいで3日くらいですぐに挫折して、編集マンになりたいなと考えるようになりました。それなのにゼミの先生からは演出部向きと言われて嫌な気持ちになったのは覚えています(笑)。

卒業しても当時、日本映画は低迷期だったので就職先はなかったんですよ。なのでテレビの制作会社に入り、バラエティ番組を作っていました。22、23歳くらいで取材ディレクターをやっていたら、ある日、フジテレビのドラマ班に人がいないから手伝ってと言われて、ドラマの世界に入りました。

当時のフジテレビは深夜でかなり尖ったドラマをたくさん作っていて、皆やりたい放題で無茶苦茶だけどすごく面白かったです。色んな先輩がたくさんいて刺激も多くて。

今思えば、当時はステップアップがすごく早く、25歳くらいでドラマを撮るようになっていましたね。今では考えられませんが。

そのうちにある先輩が「お前、映画撮りたかったんだよな」と言ってくれて初監督作品『7月7日、晴れ』(96年)を撮りました。それ以降ずっと同じことをやっています。フィルムがデジタルになっただけですよ(笑)。

バラエティからドラマ、映画と数珠つなぎのように進んでいったのですね。

僕の中で、演出ができれば何でもいいやという気持ちがどこかにあって。だから今でもアイドルのコンサートも舞台も映画もやる。演出と名のつくものなら、なんでもいいんですよ。

ちなみに今はアニメーション制作会社に所属していますから(笑)。映画制作会社で実写映画をやっていたときに今の会社のプロデューサーが「現代版の『機動警察パトレイバー』を作りませんか?」と誘ってくれたのがきっかけです。アニメがすごく好きだったし、アニメを作るのもいいなって。

そうしたら「PSYCHO-PASS サイコパス」シリーズ(12年~)が当たりました。その後、劇場版をやったり2.5次元の舞台もやりましたね。この舞台がまた面白い。観客の熱が本当にすごくて、こういう世界があるんだと勉強になりました。そして舞台では映像で培ったテクニックを入れたマッピングを駆使したりして……。

こうやってみると、今までの経験、何ひとつ無駄になっていないんですよ。それって面白い。演出は基本、どんなジャンルでも同じだと思います。そういう意味で、これからも演出家としてスケールアップしていきたいです。

最後にクリエイターに向けてメッセージをお願いします。

どこに行っても意見を言える人になってください。僕は昔から色んなところで意見を言っているんですよ。例えば先輩たちにカット割りの相談を受けたら、「僕ならヒッチコックの『ロープ』のようにワンカットにして……」とか返していました。もちろん「生意気!」と思われるんですが、それが逆にいいみたいで(笑)。

ただこれには知識も必要です。僕は昔、レンタルビデオでバイトをしていて、1日5本くらい映画を見て勉強していました。お酒飲みにいくくらいなら、家に帰って映画を見たり、自分のための勉強をしたほうがいいですよ。いずれそれが財産になりますから。

それから僕は、映画を見るときはいつも「このカットはどうしてこうするの?」「どうしてこのエンディングなの?」など、必ず質問ができるように見ています

何かのきっかけでその作品の話になったときにこういう話ができると、きっと皆が自分を認めてくれますから。それがまた自分の自信になっていくと思います。

取材日:2月11日 ライター玉置 晴子 ムービー撮影・編集:加門 貫太

『ブレイブ -群青戦記-』

©2021「ブレイブ -群青戦記-」製作委員会 ©笠原真樹/集英社

2021年3月12日(金)全国東宝系にてロードショー

監督:本広克行 原作:笠原真樹「群青戦記 グンジョーセンキ」(集英社ヤングジャンプ コミックス刊)脚本:山浦雅大 山本 透 音楽:菅野祐悟
出演:新田真剣佑 山崎紘菜 鈴木伸之 ・
   渡邊圭祐 濱田龍臣 鈴木仁 飯島寛騎 福山翔大 水谷果穂
   宮下かな子 市川知宏 ・
   高橋光臣 / 三浦春馬 ・ 松山ケンイチ
©2021「ブレイブ -群青戦記-」製作委員会 ©笠原真樹/集英社

 

ストーリー

自分に自信が持てない弓道部の西野蒼(新田真剣佑)は、部活にも力が入らないでいて、 幼なじみの瀬野遥(山崎紘菜)と松本孝太(鈴木伸之)も、そんな蒼のことを気にかけていた。いつもと変わらない日々の中だったが、一本の雷が校庭に落ちて、彼らの日常が一変する。学校の外の見慣れた風景は、見渡す限りの野原となり、校内には刀を持った野武士が襲来して、学校生徒はパニックに! 次々と生徒が倒れていく中、歴史オタクの蒼は、学校がまるごと戦国時代、かの有名な「桶狭間の戦い」の直前までタイムスリップしてしまったことに気付く。果たして彼らは戦国時代を生き抜いて、平和な現代に戻ることができるのか?!前代未聞の高校生アスリートVS戦国武将による戦いが始まる!

プロフィール
映画『ブレイブ -群青戦記-』監督
本広 克行
1965年生まれ、香川県出身。映画学校卒業後、制作会社でバラエティ番組の制作に携わる。深夜ドラマ「悪いこと」(92年)で監督デビュー。「世にも奇妙な物語」「お金がない!」などヒットドラマを制作。映画の監督デビューは『7月7日、晴れ』(96年)。そして「踊る大捜査線」シリーズ(97年~)を手がけ、第22回、第27回日本アカデミー賞優秀監督賞を受賞。アニメ「PSYCHO-PASS サイコパス」(12年、14年)、『亜人』(17年)『曇天に笑う』(18年)など話題作を手掛けるほか、舞台演出にも力を入れる。ドラマ、演劇、アニメ、ゲーム、MV、ショートムービー、CMと多方面で活躍。

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