グラフィック2007.12.07

欠点はすぐに飽きちゃうこと(笑) でもアートはいくらやっても飽きない

Vol.34
アーティスト ヒロキ(Hiroki)氏(ミレイヒロキ/MireyHIROKI)

ミレイヒロキ(MireyHIROKI)さんは、ミレイさんとヒロキさんの2人がひとりの芸術家として活動するアーティスト。花をモチーフとした独特の画風のクレヨン画を描き、作品はTONNEINS(仏)の近代美術館、スペイン王室などに永久保存されている。そのペインティングをベースに、最近ではインスタレーションプロジェクト[100 UMBRELLAS]で渋谷ハチ公前交差点をキャンバスや表参道ヒルズを花模様の傘で一杯にしたり、メーカーとのコラボレーションで水溶性クレヨン「L&P カラリックス」を開発したり、多岐にわたる活動を繰り広げている。2人でひとりというユニークなスタイル、かなり露出度の低いその素顔――謎めいた、気鋭のアーティストにインタビューを申し込むと、ミレイヒロキの広報担当を自認するヒロキさんが「喜んで」と引き受けてくれたのでした。

 
あああ

インスタレーションプロジェクト「100 UMBRELLAS」の様子
©MireyHIROKI 撮影小野寺 宏友

映像/http://www.dreampromotion.net/movie/fd/shibuya.html

アートが何かとわかっちゃった人は、 アートなんてやってないですね。

2人の活動は、どんなきっかけで始まったのですか?

僕が住んでいたL.A.に、ミレイが後から来た。彼女は自分探しの旅だったみたいだけど、出会って、意気投合して、2人で描き始めた。1991年前後のことです。

ヒロキさんは、何をしていた?

1988年にカリフォルニア州立大学に入学したのですが、2年でドロップアウト。L.A.からハリウッドに出て、いろんなアーティストと知り合って、時には仕事を手伝うようになった。そのころに、世の中にはアーティストという生き方、職業があるのを知ったんですね。

©2008MireyHIROKI

©2008MireyHIROKI

それで、自分もめざそうと?

徐々にですが、自分にも何かできるのではないか、やりたいという気持ちは育っていきました。友人の映画作りを手伝って、これは自分にできる仕事ではないと痛感しつつ(笑)、絵コンテの相談には乗れるし、監督と感性を共有してアドバイスができることもわかってきた。それで、独学で絵を描き始めました。そんな時に、ミレイと出会ったわけです。

最初から、クレヨン画?

最初は油絵からアクリル、ミックスメディアなどいろいろと試しました。そのうちにお金がなくなった。でも描きたい欲求はおさまらない。そこで最後に残ったのが、ミレイが日本から持ってきた12色のクレヨンだったんです(笑)。画材屋さんで1番安いわら半紙を買ってきて創作を始めました。

他のアーティストに比べて、創作開始はかなり遅いですね。

そうですね。明らかに遅いです。そういう世界があることさえ、知らなかったから。

今は、大学でいろんな勉強をしてから仕事としてアーティストになる人も多いけど。

少なくとも僕は、学校で勉強してたら全部0点だったでしょうね。学校でアートを学ぶ方法を否定する気持ちはまったくないけど、僕の選ぶ道ではなかった。僕は、アートは魂の叫びだと思っていて、それは人に教わるものではありませんから。

教わらなくても、できる人はできるわけですからね。

僕は昔から、集中さえすればすぐに結果を出せる自信があった。アルバイトでプロの営業マンに混じって、初日で10件の契約をとったこともある。だけど、欠点はすぐに飽きちゃうこと(笑)。おばあちゃんには見抜かれていて、「器用貧乏になるな」とよく諭されました(笑)。そんな僕にとって、大きな驚きは、アートだけはいくらやっても飽きないこと。びっくりしています。

で、そんなヒロキさんにとって、アートとは?

それがわかっちゃった人は、アートなんてやってない(笑)。言葉にするなら、ブラックホールみたいなものですかね。殴っても殴っても、当たりゃしない。底が見えない。僕は、ライバルを作って発奮するタイプで、「こいつにだけは負けたくない」というがんばり方が得意だったのですが、アートを始めたらそういう感覚は霧散しました。この活動は、精神的なタフさがないと、やっていけません。

©2008MireyHIROKI

©2008MireyHIROKI

創作のポリシーというのかな、日常生活の中で心がけているようなことってあるんですか?

人間的に誠実でありたい。それは大切にしています。実は僕は体育会系(野球部出身)の人間で、だから、遅刻なんて大嫌い。一般的にアーティストって酒やドラッグやルーズな私生活のイメージをもたれがちですけど、少なくとも僕はそういうところからは遠いです。僕に言わせれば、そういう態度で乗り切れるほど甘い職業じゃない。精神的にも体力的にも、かなりきついですから。実際、日本にもアメリカにも、アーティストとわかる風体の人なんて、今はあまりいませんよ(笑)。

実生活は、地味だったりする(笑)。

そのとおり、地味ですよ。作品を爆発させても、生活まで爆発させる必要はないですから(笑)。地味に、コツコツとやっています。

10人いれば10通りのミレイヒロキ。 ミレイヒロキがいい意味でひとり歩きを始めている。

野暮な質問かもしれないけど、1枚の絵を仕上げるのに、2人はどんな役割分担をしているのだろう?と、やはり思ってしまうのですが。

必ず、聞かれますね(笑)。そんな時は、こうご説明しています――私たちのことは、「ミレイヒロキ」という看板のかかったレストランだと思ってほしい。お客様がいらっしゃったら、僕たちは、注文の一皿を誠意を持って精一杯に作っている。奥の厨房では、ミレイとヒロキが精一杯、できる作業をしていると。

なるほど。

実際には、役割の分担はありますよ。たとえば、作品の仕上がりにOKを出すのは、ミレイ。僕は、その判断を100%信じている。後は、みなさんのご想像のとおり、共同作業ですからコミュニケーションが大事ですね。その日にいいトマトが入ったらそれを前にして、2人で、ミレイヒロキが何を作りたいかが決まるまで、考えて、話し合って、それが膨らんできたら一気に作る!そんな作業を続けています。

そして、ミレイヒロキという概念というか、ブランドというか、アーティストとしての人格が形成されていく。

そうですね、最近では、チームのクルーからも「私が考えるミレイヒロキは……」という発言が増えていて、10人いれば10通りのミレイヒロキが生まれつつあると感じます。おっしゃるとおり、ミレイヒロキがいい意味でひとり歩きを始めている。

©2008MireyHIROKI

©2008MireyHIROKI

クレヨン「L&P カラリックス」では、企業とのコラボレーションも成功させている。

企業とコラボレーションする機会は増えています。一昔前までは、アーティストが企業と組むと、「魂を売った」なんて批判されたようですが、今はそんな時代ではありません。もっとも変わったのは、企業側の意識でしょうね。ちゃんと話し合って共感が生まれなければ創作や制作はできないというこちらの意思を、受け止めてくれる。今回の案件も、コンセプトからすべてこちらの意見を入れてもらっています。最終的には、販促用のパンフレットまで僕が作っています(笑)。

クレヨンを使うミレイヒロキがクレヨンの開発に携わるのには、特別な思いがあったでしょうね。

声をかけてもらって、嬉しかったです。これを機会に勉強して、さらにクレヨンへの思いが強まりました。

クレヨンという画材は、これからもミレイヒロキにとって大切なものである?

もちろん、そうです。クレヨンを使った作品では、世界中の誰にも負けない。そう思っています。

日常の延長線上にある命がけのアートが、 人の心を惹きつけないはずはありません。

アートの活動は、日本よりアメリカでした方が有利なのでは?

たしかに、そういう側面はあります。ただ、僕たちの作品は、ヨーロッパでは絶賛されたけれどアメリカでは受け入れられませんでした。ならば、ニューヨークでより、東京で活動したいと思いました。

©2008MireyHIROKI

©2008MireyHIROKI

日本のアートマーケットは、小さいと言われますね。

たしかにそうですが、それを言い訳にはしたくないですね。ただ、実際、日本のアートは、スターバックスに負けています。美術館の常設展に行くより、ラテに400円払ってスタバで本を読む方を選ぶ。なぜそうなのかを、美樹館の関係者も含めて真剣に考える必要があるでしょう。僕が思うに、美術館にあるのが街が発信したアートじゃないからです。生きている日常の延長線上に命がけのアートが生まれていれば、人の心を惹きつけないはずはないんですから。

では、そういう活動をめざす?

そう考えています。日本人にとってのアート、日本人にしかできないアートというものがあると信じている。

若いクリエイターたちに、エールを贈っていただきたいのですが。

簡単に言います。自己PR、あなたは何ができる人なのかを2分で話せるようになってください。この人に伝わったら得をするかもということではなく、目の前を歩いている子供にでも、バス停に立っているおじいちゃんにでも、いつでも自分のことがちゃんとPRできるようにしておくべきです。

苦言が織り込まれているエールのように感じます。

若いクリエイターやアーティストの中には、その肩書きにエクスキューズを感じることが多いんですよね。モラトリアムと勘違いしている人もいると思う。僕の知る限り、本当に力のあるアーティストは、動きが速い、レスポンスが早い。今日意気投合して「一緒にやりたいね」となったら、1週間後には、「たとえば、こんなことはどうだろう?」とFAXが送られてくる。もちろん、僕もそうありたいと心がけています。

取材日:2007年12月7日

Profile of ミレイヒロキ

ヒロキ氏

1991年にロス・アンジェルスで出会ったミレイさんとヒロキさんが、一緒に作品を作り始める。作品は主にヨーロッパで注目され、TONNEINS(仏)の近代美術館、スペイン王室などに永久保存されることになった。1998年ころ、帰国。日米間を行き来しながら、拠点を東京に移動。現在は都内に居住し、東京をベースに日本中、世界中へミレイヒロキのアートを発信している。

公式HP/www.mireyhiroki.com [100 UMBRELLAS]HP/www.loveandpeaceproject.com 100 UMBRELLAS 渋谷インスタレーション映像/http://www.dreampromotion.net/movie/fd/shibuya.html

 
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