3日間で結果を出すデザインとは? ビジネス視点で空間をつくる、「展示会デザイナー」に迫る

Vol.213
展示会デザイナー/SUPER PENGUIN株式会社 代表取締役
Naohisa Takemura
竹村 尚久

新たな顧客を獲得するために、巨大なイベント会場に多くの企業がブースを構え、商品やサービスをPRする展示会。この展示会ブースデザインの領域において、抜きん出ている企業があります。年間100件もの展示会ブースで結果を出し続けている、SUPER PENGUIN株式会社です。
クリエイターとして、展示会ブースデザインに特化しているのはなぜなのか。成果を上げる展示会ブースづくりの裏側には、何があるのか。過去と現在、今後目指す世界観も含めて、同社の代表取締役・竹村尚久さんに話をうかがいました。

一つのことに特化して深める、独自の立ち位置を模索

立ち上げたインテリアデザイン事務所の事業を、展示会ブースのデザインに特化させた背景には、どのような理由があったのでしょうか?

僕が独立したのは、自分の思いどおりのデザインをしたいと思ったから。でも、「他とどう差別化するか」、「ビジネス的にどう独自性を出すか」という視点が欠けていたんですよね。「竹村さんは何が得意なんですか?」と聞かれても、答えられない。独立して5年は、大きな仕事のない状況が続いていました。そのうち2年間は、給料がゼロだったくらい。
とても苦しんでいたとき、あるクライアントの言葉を思い出しました。「竹村さん、小さな展示会ブースをデザインできるデザイナーって、今の日本にはいないのですよ」という言葉です。そうして、これまでこだわっていた建築やインテリアデザインではなく、展示会ブースのデザインに特化してみようと決断しました。何か一つのことに特化して、それを深めていく立ち位置があってもいいのではないかと思ったのです。
そう決めてから、すぐにホームページを書き換えて、出展者へ1カ月に1万通くらいDMを送って、会社の独自性をアピールしました。そこから、少しずつ依頼が舞い込んでくるようになりました。

竹村さんが手掛ける展示会ブースは、「ペンギンメソッド」と呼ばれる独自のメソッドが詰め込まれていて、それによってブースに多くの人が訪れ、クライアントに喜ばれていますよね。そのメソッドはどのように生まれたものなのでしょうか?

もちろん、はじめた当初はまったく知識がありませんでした。それで、デザインしたブースの前に何時間も立ち続けて、ひたすら観察をするのです。図面を持ちながら、人の流れのパターンを見て、展示台の高さや位置、キャッチコピーの言葉や文字組、位置はどうかなどをチェックする。そこで得た気づきを次の機会に修正すると、次は別の課題が見えてくるのです。出展者の立ち方が影響しているとか、商品の陳列の仕方はこうした方がいいとか。
そんなことを何年も繰り返していくうちに、ノウハウが溜まって、メソッドとして体系化できるまでになりました。それが集客につながり、出展者さんの満足度が100%になって、とても喜んでもらえるようになりました。

展示会ブースのデザインに特化することを決めて、がむしゃらに努力をした成果が出たのですね。

はい。クライアントから「本当にありがとう」と笑顔で言ってもらい、その時に「これが天職なんだ」と気づきました。それまで、デザイナーとしてさまざまなものづくりに携わってきましたが、何か足りない感覚がずっとあったのです。それが、お客様の笑顔を見て、「僕はデザインがしたかったのではなく、人に喜んでもらいたかったのだ」とわかりました。
もしかしたら、かつての僕と同じように、作ることは好きだけれど、何かもの足りなさを感じているクリエイターがいるかもしれません。それはきっと、「人」を見ているからなのではないでしょうか。そういう人は、展示会ブースデザイナーに向いていると思いますよ。

ビジネス視点をもった、結果を出せるデザイナーを増やしたい

竹村さんは、これまでになかった「展示会デザイナー」という肩書きを名乗っていらっしゃいます。これは、先ほどおっしゃっていたように、独自性を出してセルフブランディングをするためなのでしょうか。

そうですね。それも大きな理由ですが、もう一つ別の目的もあるのです。それは、展示会業界におけるデザイナーの地位を向上させること。展示会のブースデザインを請け負う、いわゆる「ブースデザイナー」は、施工会社のもとで発注どおりにデザインをするケースが多く、立場が弱いのです。クライアントと直接向き合うこともなく、ほぼ作業者のような状況があります。展示会に限らず、そういうデザイナーは世の中に多いですよね。
クライアントのニーズを忠実に叶えるのが「ブースデザイナー」だとしたら、クライアントの立場に立ち、代弁者となって集客を成功させられるのが「展示会デザイナー」。成功に導くためには、時にはクライアントの言うとおりにしないこともある。プロフェッショナルとして助言し、デザインし、集客へとつなげる存在であるべきだと思うからです。上下関係ではなく、対等な関係でクライアントと向き合える立ち位置へ、デザイナーは精進しないといけないと考えています。

果たす役割が大きくなりますし、その分、責任もつきまといます。一方で対等に仕事をするには大切な心構えですね。

僕は展示会デザイナーって、半分、経営コンサルタントだと認識しているのですよ。デザイナーやクリエイターは、自分のことをアーティストだと思っている人が非常に多い。ビジネス視点が欠けているのですよね。最近、プロダクトデザインの分野では、「ビジネスデザイン」という言葉が出てきて、きれいなだけ、かっこいいだけのデザインではダメという風潮が生まれています。しかし、空間デザインの分野にはそうした概念がまだ浸透していません。
これからの空間デザインは、2種類に分けて考えるべきなのではないかと思います。一つはこれまでのように、アーティスティックにデザイン性を追求する「アート系空間デザイン」。もう一つは、ビジネス視点を加えた「ビジネス系空間デザイン」。実際、店舗デザインの仕事は、集客を考えたデザインにする必要があります。ただ、現状はその点があいまいで、デザイナーはほとんど責任を負いません。
展示会はほとんどの開催期間が3日間なので、結果が明確に出ます。「アート系空間デザイン」は、展示会ブースには向きません。シビアに現実を見て、「売り上げを3倍伸ばしたい」「集客を昨対200%にしたい」などといったクライアントの要望に応えるために存在します。そのためには、圧倒的な来場者目線が必要です。また、一方で経営者的な視点も重要です。「ビジネス系空間デザイン」という言葉がもっと広まって、ビジネス視点で空間をつくれるデザイナーが大勢出てくるといいなと思います。

自分がもつノウハウで経済を盛り上げ、社会貢献につなげたい

ご自身にとって、展示会デザイナーとしてターニングポイントとなった仕事は何でしたか?

2017年に手掛けた、中小企業基盤整備機構という独立行政法人の案件です。大きなブース内に、32社の中小企業が出展するものでした。4方向が通路に向いている細長いブースで、展示台は通路側に向けるのがこれまでのセオリーでした。けれど、僕は展示台を内側に向ける提案をしたのです。なぜなら、展示台が通路に向いていると、その横で出展者が来場者を待ち構える格好になって、来場者が近づきにくいから。展示台を内側に向けて、真ん中にカウンターを置き、出展者がそこで待機すれば、来場者が気軽に立ち寄れるだろうと考えたのです。
この提案に対して、不安をこぼしたり反対したりする人たちもいたのですが、これまでの経験から結果が出る確信があったので、「やりましょう」と言って進めました。すると、初日からどのブースよりも人が集まって、昨年比で売り上げは10倍になり、1700万円目標の成約金額は1億円超え。出展者アンケートでも満足度100%を達成しました。それがきっかけで、自治体などいろいろなところから注目をされ、次の仕事を生んでいったのです。
前例がないことに対して、反発が起こるのは当然です。クライアントにアイデアを否定されたら、引っ込めてしまうデザイナーもいるかもしれません。でも、それをやることがクライアントのためになる、結果が出せると思うのであれば、相手と喧嘩をしてでも貫き通すべきだと思います。大切なのは、最終的に相手に喜んでもらうこと。自信があるのなら、「信頼してください」と言って、やった方がいいし、次へのステップにつながるはずです。もちろん、根底には、「信頼して」と言えるほどのノウハウの蓄積がなくてはいけません。

竹村さんの著書『集客できる展示会ブースづくり PENGUIN METHODと店舗への活用(PHPエディターズ・グループ)』には、積み上げてきた竹村さんのノウハウが惜しげもなく書かれています。ここまで手のうちを見せるのかと驚いたのですが、この本を執筆した背景には、どのような想いがありますか?

僕が掲げているペンギンメソッドは、一つ一つはシンプルで簡単なことなのです。だから、いずれまねされてしまうはず。そうであれば全公開して、展示会デザインの領域において僕自身が第一人者になってしまおうと考えました。実際、ノウハウ自体はまねするのが簡単でありつつも、本当に成功するためには、経営者視点、来場者視点、人間力など、展示会デザイナーとしての素養が必要です。形だけまねても同じような結果は生まれない。そういう揺るぎない自信がありますね。
一方で、ノウハウをまねることで多くのブースが盛り上がれば、展示会を利用する企業が増えて、結果的に当社に依頼する人も増えるでしょう。それに、展示会の成功によって多くの企業が利益を上げれば、ひいては日本の経済が活性化していく。そんな風に社会貢献へつながるといいなと思ってもいます。

なぜ、ビジネスと両軸で、社会貢献の意識をお持ちなのでしょうか。

2011年の東日本大震災のとき、ボランティアや寄付活動をする人がいる中で、会社の経営が傾いていた僕は、自分のことで精いっぱいで何もできませんでした。そのことがずっと心の片隅にあったのです。今なら何か役に立てるかもしれないと、2014年からセミナーをはじめ、より多くの人に情報を届けるには本がいいだろうと思い、執筆することにしました。noteやYouTubeチャンネルなどでも発信をしていますが、本と同じく、自分が積み重ねたノウハウによって、社会貢献したいという想いがあるのです。

がむしゃらに動いてはじめて、天職に出会える

展示会デザイナーとして、今後目指す世界観は、どのようなものでしょうか?

日本の中小企業が成功する社会をつくりたいと思っています。1社でも多くの出展者を成功に導きたい。そのために、自治体とタイアップしたり、展示会主催者へアドバイスしたり、同業他社へのセミナーをしたりと、精力的に事業の幅を広げています。
当社の立ち位置を生かしながら、展示会業界を革新させたいのです。業界を変えたいと思っている人は多くいますが、ブースという角度からそれができるのは、当社しかないでしょう。展示会の力で、低迷している日本の社会を盛り上げていきたいと思っています。展示会が成功するかしないかで、その会社の成長は大きく左右され、運命が変わることもあるのですよ。日本の中小企業が世界に打って出るのであれば、ブースを通して支援をしたいですね。

最後に、現場で汗を流しているクリエイターたちに、メッセージをお願いします。

型にはまらず、自分らしいクリエイター像を作り上げてほしいですね。慣習にとらわれたり、周囲にいるクリエイターに同調したりするのではなく、自分と向き合って自分にしかない個性を発揮する。もし、独自の表現を表す言葉がないのなら、僕のように肩書きを自分で作ってしまえばいいのです。
今悩んでいる人も、心配する必要はありません。天職って、やる前にはわからないもの。必死にやってみて、振り返ったときにはじめて、「天職だったのだ」と気付くのです。とにかく自分を信じて全力で動いてみてください。その先にきっと見えてくるものがあるはずです。

取材日:2023年7月5日 ライター:佐藤 葉月 スチール:幸田 森 ムービー 撮影:村上 光廣 編集:遠藤 究

プロフィール
展示会デザイナー/SUPER PENGUIN株式会社 代表取締役
竹村 尚久
展示会ブースに特化する空間デザイン会社、スーパーペンギン代表。展示会を通して日本全国の中小企業の販路開拓・地域産業支援を行う。集客・出展の成功を念頭においた展示会ブースのデザイン手法についてセミナーを全国で開催。 
著書「集客できる展示会ブースづくり」
https://www.amazon.co.jp/dp/4910739238?tag=note0e2a-22
SUPER PENGUIN株式会社
https://www.superpenguin.jp/index.html

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