職種その他2019.07.17

沖縄の自然を木工を通して伝えたい。大工、エコツアーガイドを経てプロダクトデザイナー

Vol.30 沖縄
木工デザイナー
Shota Nakadaira
中平 翔太

雑誌の編集者、大工、エコツーリズムのガイドなどの職業を経て、現在は沖縄の「やんばる」と呼ばれる自然豊かなエリアで、沖縄の木を使ったインテリアや雑貨、店舗デザインなどを手がけている木工デザイナーの中平翔太さん。様々な仕事に携わりながらも、全てに一貫して流れているのは「大好きな自然を大事にしたい」という強い思いです。沖縄が好きで移住したわけではないものの、沖縄の自然や人と出会うことで「来世は絶対沖縄に生まれたい!」と考えるまでに至ったその真意を伺います。

大工やエコツアーガイドを通し、自然に関わる日々

2011年に地元の静岡から沖縄へ移住されたと伺いました。それまでどのようなお仕事をされていたのか教えていただけますか?

まだ20代と若かったこともあって、大工や出版社で編集など、いろいろな仕事を経験して将来を模索していました。将来どうやって生きていけばよいか、いつも考えていましたね。そして何かを作る仕事に携わる中で、手を動かしてものを作るということが自分の性に合っていると実感していました。

沖縄へ移住を決めたのはなぜですか?

直接のきっかけは東日本大震災ですが、もともと自然が豊かな場所で暮らしたいと思っていました。

私の地元の静岡県富士市は、富士山の近くでありながら工業地域なので、あまり自然が豊かではありません。しかしアウトドアや自然が元来好きでしたので、もっと自然に囲まれて暮らしたいと常々思っていました。たまたま知人が沖縄の名護市にあるゲストハウスに滞在していて、そこなら敷金礼金なしで住めると聞き、20代という若い勢いも手伝って思い切って引っ越しました。

沖縄移住後、お仕事はどうされていたのですか?

本来ならどこかの会社へ就職するのがいいのでしょうが、せっかく知らない土地に来たのだから自活したいと思って、しばらくフリーで大工をしていました。しかし、私は木造の建物を作るのが好きなのですが、沖縄の建築はほとんどコンクリートで、木造建築はありません。それにすごく抵抗を感じ、別の仕事を探し始めました。そして見つけたのが、自然体験ツアーのガイドです。もともと自然が好きだということも功を奏したのか、7年ほど環境教育を含めたエコツアーのインストラクターを務めました

エコツアーガイドから現在のデザイナーのお仕事に、なぜシフトされたのですか?

ガイドの仕事に限界を感じてしまったのです。沖縄は今、自然環境をしっかり守れるインフラが整う間もなく、観光産業が急速に発展しています。そのせいで、沖縄の自然はオーバーユースになってしまっていると、ガイドをしながら感じていました。

オーバーユースとは具体的にはどんなことですか?

自然が自身で回復できるスピードに比べて、自然の中に入ってくる人が多すぎるため、自然破壊が進んでしまうということです。エコツアーガイドは、沖縄の自然の豊かさを人に伝えるための仕事なのに、ガイドがたくさんの人を案内したせいで、その自然が壊れるきっかけを作ってしまっている。その矛盾を、自分自身で消化しきれなくなってしまったんです。もちろん、多くの心あるガイドの方々は、自然を守るためのルール作りを推進されていますが、追いついていないのが現状です。

沖縄の自然を守るために。沖縄の木を使ったプロダクトをデザイン

現在のデザイナーとしてのお仕事は、ガイドを辞めてからスタートされたのですか?

ガイドと並行して、少しですがグラフィックデザインの仕事もしていました。子供の頃から絵を描くのが好きたったこともあり、知人の洋服ブランドのロゴを作ったり、グラフィックとシルクスクリーンを用いて店のTシャツ作りや内装を手伝ったりして、頼まれればできる範囲で続けていました。

グラフィックやシルクスクリーンの技術は独学で習得されたのですか?

そうです。小さな出版社で編集の仕事をしていたので、Adobe IllustratorやPhotoshopを一通り使えるようになりました。また、絵はもともと描ける方でしたので、描くツールをPCに変えても無理なく続けられました。

ガイドの仕事を辞めてからは、ずっとフリーランスデザイナーをされているのですか?

いいえ。実は今、フリーランスではなく友人の会社で、主に木の雑貨のデザインをして、実際に手を動かして、製作もしています。

デザインから作るまで担っているとは、大工としてのご経験が活かされていますね。その会社は、木の雑貨を作ることが主な事業なのですか?

雑貨だけではなく、沖縄の木を使って家具や商業スペースのデザインと製作をしています。トータルで沖縄の木を使うことをコンセプトにしていて、私はそこで、主に雑貨のデザインと製作を担っています。

沖縄の木を使うことがコンセプトということですが、それはなぜですか?

私たちが作る製品で、沖縄の森林や自然を知るきっかけを作りたいと思っているからです。

自分たちが住んでいる沖縄で育った木を使って木工品を作り、販売することで、沖縄の人も、他の場所に住んでいる人も、沖縄の豊かな自然を知ることができるはずです。私たちが作る製品を通して、沖縄の自然を感じてもらえれば嬉しいですね。

中平さんは大工やエコツアーガイドなど様々なお仕事をされてきましたが、自然を大事にするという思いが、全てに貫かれているように感じます。

そうかもしれませんね。若い頃から具体的に思い描いていたわけではありませんが、結果的にそういう仕事に就いていますね。

沖縄の深い懐に抱かれて、その豊かさを伝え、守る

これからの夢や目標があれば教えてください。

短期的な目標では、木工品とシルクスクリーンを掛け合わせたプロダクトを作っていきたいです。「沖縄の木を使ったプロダクト」というコンセプトにプラスアルファすることで、さらに自分たちらしいものを作ってみたいです。

長期的な目標では、ずっと沖縄で暮らしていきたいですね。移住以来、地域の方や仲間に本当に恵まれていると感じます。2011年のタイミングで私と同じように移住した仲間も多く、みんなで協力し合いながら仕事も生活も何とか成立させてこれました。これからも人と繋がりながら、仕事を通じて、沖縄の自然の豊かさを守り伝えていけたらいいと考えています。

ずっと暮らしていきたいと思うほど心惹かれる「沖縄の良さ」って何ですか?

人だと思います。こちらが心を開けば、すんなりと沖縄の方は受け入れてくれるので、懐が深いと常々感じます。この暖かい気候や豊かな自然が影響しているせいか、陽気で暖かく、心が広い方が多いですね。生まれ変わっても沖縄に住みたいと思うぐらいです(笑)。

最後に、中平さんのようにIターンしてみたいと考えている方へ、メッセージをお願いします。

都会に比べて田舎は、知らない人と接する機会が少ないせいか、人に慣れていない方が多いように感じます。ですので、まずは仲良くなることから始めるのがいいと思います。その土地でどうやって仕事をしてビジネスを成功させるかを考えるよりも、まずはその土地や人、文化に敬意を払い、仲良くなる。そうすれば、次第に協力し合える信頼関係を築けて仕事もうまくいき、地域に貢献できるようになるはずです。手始めに、地域の行事に参加するのもおすすめですよ。焦らず、気長に仲良くなってはいかがでしょうか?

プロフィール
木工デザイナー
中平 翔太
静岡県富士市出身。大工、編集者などの仕事を経て、2011年に沖縄へ移住。自然体験のエコツアーガイドをしながらグラフィックデザイン、イラストレーション、シルクスクリーン製販・プリント、イラスト等を手がける。2017年から木工デザイナーとして木工雑貨のデザイン、製作などに携わる。

日本中のクリエイターを応援するメディアクリエイターズステーションをフォロー!

TOP