共同住宅からホテル設計まで ムービング・アーキが語る建築士に必要な総合力
地球環境に配慮した持続可能な設計を目指す株式会社ムービング・アーキ一級建築士事務所。会社を率いるのは、代表取締役で管理建築士・一級建築士の李 孝哲(イ・ヒョチョル)さんです。韓国から来日後、日本の建設業界で共同住宅やホテル、戸建てなどのあらゆる建築物の設計を経験して独立。若手スタッフには「オールラウンドプレイヤーになってほしい」と伝える李さんに、独立前後のキャリアや仕事における哲学などを聞きました。
韓国から来日して大学院で建築を研究

建築に興味を持ったきっかけから教えていただけますか?
小学生のころから、絵を描くのが好きだったことが、そもそものきっかけだと思います。それから、高校の授業で図面やパースを描く機会があり、間取りや平面図の読み方、それがどのように建築になるのかを勉強しました。絵を描くことともつながっているように感じられて、楽しかったですね。
高校卒業後は美術大学へ進学したかったんですが、姉が美大に進んだので「家から2人も美大に行くのは難しいだろう」と考えたんです。自分で考えたものが実際に建つことに魅力を感じたので、大学の建築学科へ進みました。
その後、日本の大学院に進学された経緯もお聞かせください。
大学卒業後は、韓国で建築関係の会社に就職しました。ただ、長続きはせず「建築についてもう少し勉強したい」と思い、環境を変えるためになじみのあった日本に留学したんです。
まずは1年間、語学を勉強しながら、ポートフォリオを持ってさまざまな大学を訪ねました。進学先の千葉工業大学では、紹介された研究室で大学時代の作品を見せ、「韓国で建築を学んできたけれど、日本でも勉強したい」と話したんです。先生が「じゃあ、やってみるか」と受け入れてくださり、1年間は大学の研究生として学んだあと、大学院に進学しました。
大学院修了後は、三井住友建設やプランテック総合計画事務所に就職されたそうですね。
三井住友建設では、設計部で規模の大きなマンションを担当しました。当時はタワーマンションが登場しはじめたころで、先端的で難しい設計にも携わり、マンション設計をかなり勉強しました。ただ、マンションのような共同住宅の設計ばかりしていると、共同住宅しか設計できなくなってしまうと思って。別の経験を積むためにプランテックに転職し、会社には「マンションの設計はしない」と伝え、ホテルやオフィスの設計を経験しました。
社名に込めた思い「固定観念にとらわれない」

転職しながら異なる分野を経験した当時から、すでに独立を考えていたのでしょうか?
建築の設計に関わる人間であれば、多くの人は「いつか自分の設計事務所を持ちたい」と考えると思います。確固たる信念と呼べるほどではありませんが、会社員として働いているあいだも「将来は独立するのが当たり前」という意識はありました。ですから、漠然としていましたが、会社に勤めながら経験と知識を身につけるのは、常に重要だと思っていましたね。そして、2010年ごろに個人の設計事務所として登録し、独立しました。
独立後は、どのように仕事を獲得していったのでしょう?
知人から紹介してもらったり、交流会で人と知り合ったり、不動産会社の人とつながったりしました。マンションのリフォームや木造住宅の設計など、それまで経験していなかった仕事もやらなければならず、新たに学びなおす苦労もありました。設計とひとくちに言っても幅広く、独学をしながら、リフォームや木造住宅の設計が得意な会社にいる知人に教えてもらったりしました。
当初は個人で独立されて、2013年には法人化されました。
法人を相手にする仕事が入るようになったのを機に法人化しました。過去に勤めていた三井住友建設の人たちがお客さんを紹介してくれて、大手デベロッパーのマンションを手がけるようになったのは、大きなターニングポイントでした。
社名の「ムービング・アーキ」には、どのような意味があるのでしょうか?
近代建築の時代に提案された「ムービング・シティ」、すなわち「動く都市」という構想に由来しています。都市自体が動くという発想が、素直におもしろいと思ったんです。私たちもおもしろいことを発想していきたいし、実現していきたい。さらに、柔軟さをもって変化し続け、固定観念にとらわれない姿勢を忘れないようにと考え、「アーキテクト」を短くした「アーキ」と組み合わせました。
労力を惜しまず建築の工程すべてに関わる

マンションのような共同住宅、ホテル、戸建ての注文住宅など、現在はあらゆる建築物に関わっていらっしゃいます。なかでも、注力されているものは何でしょうか?
多いのは共同住宅です。一つの案件が終わると、「次もやってほしい」と声をかけてもらえます。以前一緒に仕事をした人が別の会社に転職し、「あの人にやってもらってよかったから、こちらでも頼もう」と紹介してくれることもあります。
継続的にご依頼をいただける理由を、どのように考えていらっしゃいますか?
建築に関わる工程のすべてを、自社で担当できるからだと考えています。
例えば、マンションが建つまでには、大きく分けると3つの工程があるんです。1つめは建物の規模を考慮した土地の購入、2つめは間取りの設計、3つめはデザインです。特に、完成前に販売がはじまるマンションでは、購入者がパース(完成予想図)や実物大のモデルハウスで購入を決めるため、デザインの付加価値がより大きくなる。本来、すべてを一つの設計事務所で担うのは難しくもあるのですが、弊所ではあえて、労力を惜しまずに請け負っています。
そうした工程を担う、スタッフの方々の体制も教えてください。
基本的に、1人が1つの物件を担当します。ただ、経験が浅ければ、先輩のスタッフがサポートのためにつくこともありますね。20代〜50代が在籍していますが、年齢や経験年数にかかわらず、裁量を与えています。
みなさん、建築士の資格を持っていらっしゃるんでしょうか?
いえ、そうではありません。経験者であれば資格よりも、携わったことのあるプロジェクトの内容を重視していますね。例えば、木造の建物しか手がけてこなかった人が、鉄骨造の建物を設計するのは大変なんです。新たな分野では技術だけではなく、関連する法律を学ぶ必要もあるので、弊所で扱う物件に適した経験がある人を中心に採用しています。
若手に伝える言葉「オールラウンドプレイヤーに」

この先、どのような展望を描いていらっしゃいますか?
インバウンド需要の高まりもあり、ホテルの設計はより強化していきたいと思っています。さらに、地方での地域活性にも関わりはじめているんです。私自身、コロナ禍で東京と山梨県道志村での二拠点生活をはじめた際、山梨の畑が雑草だらけになったり、人口が減ったりしている光景を目の当たりにしました。建築士として、地方の過疎化や高齢化といった問題をわずかでも改善したいです。
建築士をめざす方に、プロとして意識してほしいことも教えてください。
若手のスタッフには「オールラウンドプレイヤーになってほしい」と伝えています。建築士は法律の専門家であり、デザイナーでもあります。建物の構法や設備の知識を持つ技術者であり、人と向き合って話す立場でもある。最近では、AIやCGを扱う技術、文章を書く力なども必要ですし、得意か不得意かを決めつけず、あらゆるものを取りこぼさないように仕事をしてほしいと思います。
建築士として、クリエイティビティを発揮できる楽しさもありますか?
こちらの考えを強く主張するのではなく、お客さんの話を聞き、誰のために、どこに建てるものかを考えるのは、楽しいですね。頼んでくださった方がデザインを気に入ってくれたときは、すごくうれしくなります。「この土地にあるべき建物とは何か」を考えられるのが、建築業界としてのクリエイティビティだと思います。
取材日:2026年8月17日 ライター:カネコ シュウヘイ
株式会社ムービング・アーキ一級建築士事務所
- 代表者名:李 孝哲(イ・ヒョチョル)
- 設立年月:2013年3月
- 資本金:100万円
- 事業内容:共同住宅やホテル、戸建ての注文住宅などの設計
- 所在地:〒151-0051 東京都渋谷区千駄ヶ谷1丁目28-8 ニュー千駄ヶ谷204
- URL:https://moving-archi.com/
- お問い合わせ先:公式サイト「お問い合わせ」ページより






