「つくれる」だけでは終わらない。大型広告幕からアートプリントまで、一貫生産で選ばれる会社へ
建設現場などで使われる大型の屋外広告幕をはじめ、パネル、イベント装飾、キャンバスプリントなどを手掛ける福岡のフジアート株式会社。大型の印刷・加工設備を数多く備え、印刷から仕上げまでを自社で一貫して行う体制を強みに、一つひとつ異なるオーダーメイドのものづくりに向き合っています。父が創業した同社に30歳で入社し、お客さまからの相談に応えながら事業を広げてきた代表取締役・狩野 健(かの たけし)さんに、これまでの歩みや新たな分野への挑戦、今後のビジョンについて伺いました。
最新設備に「伸びしろ」を感じ、異業種から父の会社へ
フジアート株式会社へ入社する前のご経歴を教えてください。

大学卒業後は、現在とはまったく異なる業界の会社に就職しました。理系出身で、配属先は東北にある化学プラント工場です。工場スタッフとして働いていたので、営業や社外の方と接する経験はほとんどありませんでした。
お父さまが創業された会社へ、30歳で入社されたきっかけは何だったのでしょうか?
もともと会社を継ぐ予定はなく、父から戻ってくるよう言われたこともありませんでした。ただ、秋田で勤務するうちに九州へ帰りたいという気持ちが強くなり、帰省した際に一度会社を見てみようと思ったんです。
中学・高校時代にはアルバイトで会社を手伝っていたので、昔ながらの印刷会社という印象を持っていました。ところが、久しぶりに訪ねると、父が最新の大型設備を何台も導入していたんです。「この会社はまだ伸びる。面白いことができそうだ」と将来性を感じ、入社を決めました。
入社後はどのような仕事を担当されたのですか?
入社と同時に専務に就任し、営業窓口を一人で担うことになりました。お客さまへの対応から、受注後の社内への指示まで、必要なことはすべて自分で行う状況でした。
営業経験はありませんでしたが、既存のお客さまから「これもできる?」と相談を受けるたびに方法を調べ、何とか形にしていきました。そうして一つひとつのご要望に応えるうちに、お客さまがお客さまを紹介してくださるようになり、自然と新しい仕事が増えていったんです。
幕から板物まで。設備と技術が支えるオーダーメイド
現在の事業内容について教えてください。
現在も売上の約6割を占めるのは、建設現場の足場に掲げる社名入りのシートや、マンションの分譲告知幕など、建設現場や商業施設で使われる屋外広告幕です。
その一方で、以前はビニール系の柔らかな素材が中心でしたが、近年はアクリルや段ボールなどの硬質素材を使った等身大パネルをはじめ、多様な板物へと仕事の幅が広がっています。ライブや祭り、スポーツイベントなどで使われる大型バックパネルや装飾物など、イベント・グッズ関連の依頼も増えてきました。
他社にはない強みは、どのようなところにありますか?
一番の強みは、大型の印刷・加工設備を複数保有し、それらを使いこなせるスタッフがいることです。10メートル四方を超える印刷物など、他社では製作が難しいサイズのご相談をいただくこともあります。
大型印刷ができても、その後の加工や仕上げまで行える会社は多くありません。当社では、幕でも板物でも、印刷から製品として仕上げるまでの工程を自社で完結できます。扱える素材や商品の幅も広く、幕と板物の両方に対応できる点が、当社ならではの強みです。
製品の多くがオーダーメイドとのことですが、どのような難しさがありますか?
同じ製品を繰り返しつくる仕事ではないので、一つひとつ異なるご要望に応えることでしょうか。一度任せていただいた仕事をきちんと仕上げると、次も安心してご依頼いただけるようです。特に難易度の高い製品ほど、技術や実績への信頼がリピートにつながる業界だと感じています。
印刷から加工・仕上げまでの一貫生産体制は、どのように築かれたのでしょうか?
当社はもともと、幕を加工し、製品として仕上げるところからスタートしました。印刷会社として始まったのではなく、幕を裁断・縫製し、実際に使える状態へ仕上げる技術が先にあったんです。
その後、印刷設備を導入したことで、出力から加工、仕上げまでを一つの流れで担えるようになりました。さらに設備を増やし、対応できる加工の幅を広げながら、現在は幕だけでなく板物も社内で製品化できます。外部へ委託するなどして工程を分けるのではなく、必要な設備と技術を自社の中に一つずつ積み重ねてきました。その歩みが、現在の一貫生産体制につながっています。
コロナ禍では、イベント関連の需要が大きく減少したのではないでしょうか?
イベント関連の受注は大きく減りましたが、板物を加工する機械でアクリルも切ることができたため、飛沫防止用のアクリルパーテーションを数多く製作しました。既存の設備を別の用途に生かし、その時に必要とされるものを形にできたんです。設備の用途を限定せず、状況に応じて使い方を工夫したことで、時代やニーズの変化にも臨機応変に対応できた事例の一つですね。
新社屋を成長の土台に、アートと屋内装飾へ領域を広げる

2025年4月に新社屋が完成したそうですが、建設を決めた理由を教えてください。
売上の増加に伴って設備も増え、社内では年々、機械と製品が場所を取り合うような状態になっていました。このままでは生産能力が頭打ちになり、さらに成長するのは難しいと感じたことが、新社屋建設のきっかけです。
新社屋では、印刷から加工、製品化までの動線や作業スペースを全面的に見直し、仕事の流れが大きく改善しました。将来の成長に向けて、製造体制をさらに拡充するための先行投資と考えています。
2026年6月には、アートプリントに特化した「Fuji Art Works」の公式サイトを開設されました。アート分野へ進出したきっかけを教えてください。

福岡県などが関わる産学連携の取り組みで、デザイナーやプランナーの方々と新しい商品・サービスを考えたことがきっかけです。これまでに培った高精細なプリントと高度な加工技術を生かし、写真やデジタルアートをキャンバス地、アクリル板などに印刷するサービスを始めました。プリントから木枠張り、専用箱の製作まで自社で一貫して対応できるため、現在は美大生や国内外のアーティストからの注文が中心です。
現在は、Instagramなどを通じてご相談いただくこともあります。当社が得意とするのは、大型のオーダーメイドキャンバス。作家それぞれの色や表現へのこだわりを伺い、機械で再現できる範囲を共有しながら、仕上がりの確認と調整を重ねています。
例えば、キャンバス地に印刷するキャンバスプリントは、どのような用途で使われていますか?
作家の個展や作品販売のほか、コーヒーショップ、ホテル、企業の空間装飾、ブライダルのウェルカムボードや記念品など、用途はさまざまです。今後は、壁紙やキャンバスをはじめとする屋内装飾にも力を入れたいと考えています。当社の設備と技術を生かし、空間装飾に関するさまざまなご要望を形にしていきたいですね。
受け身から一歩先へ。「強く、楽しく」ものづくりの未来を切り拓く
印刷や広告を取り巻く環境は、どのように変化していると感じますか?
以前のように「予算があるから、とりあえず何かをつくりたい」という注文は減り、お客さまは本当に必要なものを見極めて発注されるようになりました。単に「できます」「つくれます」ではなく、“何を大切にされているのか”をくみ取り、最適な形で応えることが求められていると感じます。
今後、フジアートをどのような会社にしていきたいですか?また、一緒に働きたい人はどのような人ですか?
これまでは、お客さまからのご相談に応える姿勢で成長してきました。今後は技術力や提案力、製品のクオリティを高め、「対応のいい会社」から「選ばれる会社」へ進むことが目標です。メルマガや「Fuji Art Works」のサイトによる発信も強化し、BtoCの需要や新しい仕事の可能性を広げたいと考えています。
また、一緒に働きたいのはものづくりが好きで、「この会社で、これをやりたい」という思いを強く持っている人です。一つひとつ仕様が異なるオーダーメイドには、決まった答えがありません。自分なりに工夫しながら答えを探せる人と、仕事が街やイベントに形として残る喜びを共有し、新たなものづくりに挑戦していきたいですね。
企業理念として掲げる「強く!楽しく!」には、どのような思いを込めていますか?
父から受け継いだ言葉ではなく、私自身が「どのような会社でありたいか」を考えて言葉にしたものです。会社が生き残り、競争に勝つためには、さまざまな意味で強くなければなりません。ただ、強いだけではつまらない。ものづくりを心から楽しみ、働く人にも「楽しい会社だ」と思ってもらいたい。「強く、楽しく」は、私たちが目指す会社の姿です。
取材日:2026年8月24日 ライター:上野 典子
フジアート株式会社
- 代表者名:狩野 健
- 設立年月:1979年7月
- 資本金:1,000万円
- 事業内容: 屋内・屋外広告物(懸垂幕、横断幕、各種看板などの大型広告物)の制作、イベント・ノベルティー関連(イベント用アイテムや各種ノベルティの制作)、工事関連アイテムや防犯・防災・交通安全アイテムなどの製造
- 所在地:〒811-0123 福岡県糟屋郡新宮町上府北3-3-25
- URL:https://www.fuji-art.biz/
- お問い合わせ先:092-963-2307






